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2016年11月13日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(5)

9.「絆クーポン」政策のまとめ

 ここまでの説明で、「絆クーポン」の概要についてはご理解いただけたかと思います。本稿は自治体に向けた政策提案という目的で書いているものですから、これを実施するに当たって自治体が行なうべきことをもう一度まとめておきましょう。まず、市役所を始めとする市の行政窓口に「絆クーポン」の担当を置きます。ここで行なう月間の業務を時系列的に並べてみると、月の前半には小売店の担当者が使用期限切れになったクーポンの半券をたくさん窓口に持ち込んで来るでしょう。それを数えてその業者の口座に入金します。入金する金額は額面額の8掛けです。また月の前半には業者から振込依頼データが集まって来ます。その受付とチェックはコンピュータシステムが自動で行ないますが、エラーが起こった場合などの業者からの問い合わせに対応するのは窓口の仕事です。15日の深夜に業者間の振込処理が一斉に実行されます。これもシステムによって自動で行なわれます。残高不足が起こった場合に不足分の督促状を出すのもシステムですが、それを発送するのは人手の作業になるでしょう。

 月の後半になると、クーポン取り扱い業者や社会保障分野の業者などから、従業員の給与情報や感謝給付のもとになる勤務情報が集まって来ます。データチェックはシステムが行ないますが、トラブルや問い合わせへの対応は担当者が行ないます。その後、月末にかけては、窓口にクーポン券を取りに来る個人への対応で忙しくなります。利用者の利便性を考えると、平日だけでなく土休日にも開いている窓口を設けておく必要があるかも知れません。(従業員の多い企業などには、クーポンの新札を預けておいて、配布業務を委託してしまうのが現実的だろうと思います。) 窓口には時期を問わず期限切れのクーポン券を交換しに来る個人もいるはずです。その対応も窓口業務のひとつです。交換比率が8掛けであるのはすでに説明しました。クーポン券の新札は毎月20日頃に発行されます。クーポン券は月ごとに台紙の色を変えるなどして、ひと目で最新のクーポンが見分けられるようにしましょう。そうすることで行政窓口やお店での負担を減らせるはずです。

 もうひとつ市が行なうべき重要な仕事があります。「絆クーポン」に関する申請を受理し、審査をして認定を行なうという仕事です。お店や企業からは「絆クーポン」を取り扱いたいという申請が来ますし、社会保障関係の事業者からは感謝給付の対象事業者として認定して欲しいという申請が来ます。また子育てや介護をしている家庭からは、個人として感謝給付の受給申請が来るでしょう。これらの申請はインターネットで受け付けますが(紙での申請もできます)、審査と認定を行なうのは人間です。もっと正確に言うと、議会が作成した審査基準に従って、市の担当部門が認定を行なうということです。感謝給付というのは、市が私たち市民を代表して、社会の持続性を支える仕事をしている人たちを応援しようという主旨で実行されるものですから、審査は厳正である必要がありますし、審査基準は市民感情を反映したものである必要があります。

 さらに「絆クーポン」の担当部門が行なわなければならない業務として、クーポン流通の監視と分析ということがあります。市中に「絆クーポン」がどれだけ流通しているかということは、毎月の発行額と減価率で理論的に計算できる訳ですが、実際の市中残高は計算どおりにはなりません。発行されたクーポン券のなかには、交換期限が過ぎても交換されずに、消失してしまうものもあるからです。ただ、使用期限が過ぎたクーポン券の交換状況も市は把握している訳ですから、どれだけのクーポン券が交換されずに消失したかということも分かります。もうひとつ計画どおりに行かない要素として、業者間取引においてクーポン残高が不足した場合の市による補填ということもあります。こういった要素をすべて勘案して、クーポン流通の全体像を正確に把握するのです。これによって例えばどのような業種で「絆クーポン」があまり使われていないかといったことをチェックして、次に行なうべき対策につなげるのです。

 最後にコンピュータシステムが備えておくべき機能についても簡単にまとめておきましょう。行政クーポンシステムはふたつのサブシステムから構成されます。ひとつはメインとなる通貨流通システムで、そのなかには企業の口座管理や振込処理、個人の給与支給や感謝給付を行なう機能などが含まれます。もうひとつはインターネット上のポータルシステムで、そのなかには各種申請の受付やお知らせ機能、「絆クーポン」取り扱い業者の紹介ページなどが含まれます。コンピュータシステムとしては、それほど大規模なものではありませんし、技術的にも特に難易度の高いものではありませんから、構築費用もそれほど高額にはならないだろうと思います。(業者に見積を依頼すれば数千万円の見積書が送られて来るでしょうが、業務要件定義と基本設計までを発注者側でやってしまえば、もっとずっと安上がりにできるはずです。) 参考までに、このシステムの主要な機能の一覧を挙げておきます。

【通貨流通システム】

機能モジュール名 主要なシステム機能
口座管理 口座残高管理機能、入出金履歴管理機能、月次繰越時の減価機能
口座間振込管理 振込依頼受付機能、出金・入金データ集計機能、残高不足時の立替機能
感謝給付管理 感謝給付対象者管理機能、感謝給付データ受付機能、クーポン券配布機能
給与支払管理 給与対象者管理機能、給与データ受付機能、クーポン券配布機能
債権管理 残高不足時の立替機能、督促状出力機能、入金確認機能、未納金額管理機能
通貨流通分析 流通残高計算機能、産業別流通状況分析機能、税収との相関分析機能

【ポータルシステム】

機能モジュール名 主要なシステム機能
ポータルページ 「絆クーポン」の紹介、各種お知らせ・イベントの告知、よくある質問
企業・店舗向け機能 ログイン管理機能、クーポン取扱申請機能、通貨流通システムへのリンク
社会保障関連業者向け機能 ログイン管理機能、感謝給付認定申請機能(法人)、通貨流通システムへのリンク
個人利用者向け機能 ログイン管理機能、感謝給付認定申請機能(個人)、未発行クーポン残高参照機能
ショッピングモール 「絆クーポン」取扱店紹介、店舗サイトへのリンク、(ネット通販機能)

10.縦糸の経済と横糸の経済

 「絆クーポン」政策の主旨をひと言で言えば、企業と消費者のためのお金である日本円(銀行通貨)に対置させて、新たに生活人のためのお金(感謝通貨)を創り出そうという試みだと言えます。いま「対置させて」と書きましたが、このふたつのお金は、決して互いを排除するものでも互いに競合するものでもなくて、補完し合うものだという点を最後に強調しておこうと思います。現在の資本主義経済の最大の問題点は、経済的価値を創造する機会を営利企業が一手に独占してしまっているところにあります。行政クーポン政策(あるいはもっと広く政府通貨政策と言ってもいいのですが)を導入する目的は、企業に属さない個人の活動にも経済的価値の裏付けを与えて、特に営利企業が手を付けない分野での価値創造を促進しようというところにあります。

 ここでちょっとあなた自身のことを振り返ってみてください。あなたは最近誰かとのあいだで、個人的にお金のやり取りをしたことがありますか? 会社から給料を支払われたり、お店に代金を支払ったりすることは私たちの生活の一部ですが、個人間でお金の授受をする機会というのは思いのほか少ないのではないでしょうか? 例えばインターネットオークションやフリーマーケットのような場所では、個人間でのお金のやり取りも発生しますが、その割合は経済全体から見ればとても小さなものです。またそういうところで売り買いされているものの多くは、企業が製造した製品の中古品だったりする訳で、純粋に個人が産み出した価値が売り買いされている訳ではありません。少し乱暴に言えば、現在の通貨制度のなかでは、企業に属さない個人が独自の価値を産み出すことは、まったく評価されないし、また歓迎もされない仕組みになっていると言えるでしょう。

 別に個人間の金銭授受が法律で禁止されている訳ではないのですから、もっと気軽にお金を使えばいいのではないかとも思います。例えば、子供が熱を出したので保育園に預けられないといった時に、近所の家で預かってもらうといった状況を考えてみましょう。あるいは足腰が弱くなったお年寄りのために、クルマでショッピングセンターに行ったついでに買い物を頼まれるといった状況でもいい。そんな場合に、日本円でいくらくらいの謝礼を渡せば妥当だと思いますか? これは人によって感じ方が違うかも知れませんが、そういった近所付き合いのなかでの親切に対しては、金額の多寡にかかわらず、日本円をやり取りすることに心理的な抵抗を感じるのがふつうではないでしょうか。子供を1日預かるのに1000円、買い物1回につき100円、そんなふうに取り決めたとしても、近所付き合いのなかでのお金の授受はやはり気が引ける。お金を媒介させてしまうと、親切が親切ではなくなってしまうような気がする。

 これはどうしてかと言えば、現在のお金というものが私たちの感謝を表すために作られたものではないからです。私たちが毎日使っている銀行通貨は、銀行が事業を興す企業に貸し出すことで生まれるものです。(このことを銀行の信用創造機能と言います。) 企業は事業を成功させて、借りたお金に利子を付けて返さなければならない。銀行は銀行で、企業の事業計画を査定して、それがうまく行かなかった時の貸し倒れリスクを自ら背負わなければならない。そんな冷厳な通貨ルールのなかに、人の感謝なんて感情が入り込む余地はありません。私たちは、そのことを肌身で感じているからこそ、企業活動に関わらない部分に日本円が使われることに違和感を感じるのではないかと思います。日本円のような銀行通貨は、別名「信用通貨」とも言いますが、銀行通貨にふさわしいのはまさに「信用」であって「感謝」ではないのです。

 このことを裏返せば、私たちが個人間で価値を交換し合うためには、信用通貨ではない別のお金、つまり感謝を表すためのお金である「感謝通貨」が必要だということでもあります。「絆クーポン」はまさにこの目的のために創られたお金だと言えます。最初に行政が発行する時には、社会保障分野で働いている人たちや、無報酬で社会の持続性のために働いている人たちに対する感謝という名目で発行されるのですが、いったん世の中に出回ってしまえば、それをどう使うかは私たちの自由です。財布のなかに使い切れないクーポン券が余っていても、あわてる必要はありません。日本円はお店や企業に支払うお金と割り切って、近所付き合いや地域のちょっとしたボランティア活動などには「絆クーポン」を積極的に使えばいいのです。「絆クーポン」の使い手である私たちは、これまでのお金に対する考え方を大きく転換しなければならなくなるでしょう。

 日本円の経済が「縦糸」だとすれば、「絆クーポン」の経済は「横糸」に喩えられるかも知れません。縦糸だけでも、横糸だけでも、丈夫な布は織れません。価値の交換手段を銀行通貨だけに頼っている社会は、実は非常に破れやすく脆いものなのではないかと私は思っています。地球温暖化や環境問題がこれだけ深刻になっているのに、いまだに経済政策と言えば成長戦略しか打ち出すことのできない現政権のことを考えてみてください。驚くことに、銀行通貨の経済には「成長」という唯一の目標しかないのです。誰がどう考えても、有限な地球環境のなかで永遠の経済成長などあり得ないにもかかわらず、そこから持続可能な経済に移行するための道が私たちには見えていない。自治体による「絆クーポン」政策の試みは、ほんの小さな最初の一歩に過ぎませんが、持続可能な経済への転換に向けた壮大な社会実験でもあるのです。

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