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2016年10月 8日 (土)

「絆クーポン」を始めませんか?(1)

 昨年本を出してから、ずっとブログ更新をサボっていました。ただ、この間何もしていなかった訳ではないんです。本のなかで提唱した「感謝通貨」のアイデアをあちこちに売り込んでいました。市民講座のようなところで話をしてみたり、自治体向けの企画提案書を作って自分の住む市の政策担当課に持って行ってみたり、知り合いのツテを通して紹介された市会議員さんに相談したり。本に書いた「日本国政府による第二通貨の発行政策」というのは、あまりに気宇壮大な構想で、どこに話を持って行けばいいのか分からない。そこで市町村レベルで始められる規模にプランを縮小して、自治体に持って行くことを思い付いた訳です。

 今回の記事では、私が自治体に提案している新しい政策について説明してみようと思います。この記事に目を留めてくださった方のなかには、私の本を読んでくださった方もいるかも知れません。でも、そういう方は少数でしょうから、初めての方にも分かりやすく説明してみるつもりです。政策のタイトルは「絆クーポン」構想と言います。自治体が独自の行政クーポンを発行して、これによって社会保障制度の拡充を行なったり、財政負担の軽減を行なったりする政策です。社会保障費の増大による財政の悪化は、どこの自治体にとっても切実な問題でしょうから、多くの人に興味を持ってもらえるタイムリーな話題ではないかと期待しているのです。

1.「行政クーポン」というアイデア

 まずは話を具体的にするために、「絆クーポン」というものがどういうものか見ていただきましょう。「絆クーポン」は、例えば次に示すようなデザインのものになります。(これは武蔵野市の市民講座で話した時のサンプルです。挿絵の部分には、それぞれの地域のマスコットキャラクターが入ります。) 100円のクーポン券が5枚綴りになっていて、切り取り線で1枚ずつ切り離せるようになっています。それが10枚束になって、5千円で1冊の冊子になるというイメージです。(クリックで拡大します。)

Kizuna_coupon

 ごらんのとおり、これは市が発行するクーポン券になります。いや、市には限定されません、町村でも都道府県でも構わない。要するに自治体が発行する行政クーポンということです。「行政クーポン」というコトバはおそらく初耳だと思いますが(インターネットで検索しても用例はありません)、自治体が発行する一種の地域通貨のようなものだと考えてください。ふつうの地域通貨と違うのは、これが単独では使えないお金だという点です。クーポン券ですから、それだけでは何も買えません。割引券として日本円と一緒に使います。実はここが重要なところで、行政クーポンというものには私たちの財布から日本円を連れ出す機能があるのです。

 これまでの地域振興券やプレミアム付き商品券のようなものは、単独で日本円の代わりとして使えるものでした。ですからいくら行政が消費拡大を狙ってこれを発行しても、その効果には限界がありました。使用期限のある地域振興券を優先的に使えば、その分財布に入っていたお金(日本円)を温存できます。行政の目論見どおりに国民は消費を増やしてはくれません。むしろ付加されたプレミアム分だけ国民の貯蓄が増える可能性の方が高い。ところが、これが行政クーポンとなると話は違います。クーポンにも使用期限がありますから、期限間近のクーポン券を持っている人は早くそれを使ってしまおうとします。この時クーポンと一緒に日本銀行券も財布から出て行きますから、日本円の流通も促進されると期待できるのです。

2.「感謝通貨」とは何か?

 次にこの行政クーポンをどのように流通させるかという点について説明します。もともとクーポン券というものは、日本円とは交換ができないものです。100円のクーポン券は100円硬貨と同じ価値を持っていると言えますが、それはそのクーポンが使えるお店で、そのクーポンが使える条件の買い物をした場合に限定されます。クーポン券を100円玉に両替してくださいと言っても、応じてくれるお店はありません。当たり前ですね。クーポンというのはそういうものなのだから。行政が発行したクーポンを世の中に流通させるために、たとえプレミアムを付けたとしても、これを買おうという人はそうはいないでしょう。ではどうするか? ただで配るのです。では誰に配るのか?

 ここからは一般名詞としての行政クーポンではなく、「絆クーポン」の説明になります。絆クーポンは、自治体が発行して、社会保障分野で働いている人たちに無料で配ります。例えば高齢者施設で働く介護士さん、保育施設で働く保育士さん、障害者施設で働く福祉士さんといった人たちです。いま介護や保育などの分野では深刻な人手不足が起こっています。そしてその理由のひとつが賃金の安さにあることは、広く認識されているところです。誰が考えても重要な仕事であるにもかかわらず、そこで働く人たちの多くがワーキングプアと言われるような状況に陥っています。これは何か手を打たなければならない。

 政府は待機児童の問題がマスコミを賑わせている状況のなか、保育士の給与を上乗せする案を出しています。場当たり的な対策だと思います。そんなことをしても保育士を目指す人が増える訳はない。何故って、そんな政策が長続きするはずがないことは誰もが知っているからです。保育士に補助金を出すなら、これからもっと人手不足が懸念される介護士はどうするんですか? それでなくても政府は1千兆円を超す債務を抱えているというのに、どこからそんな財源を持って来るんです? この問題にはもっと抜本的な対策が必要なんです。で、私の提案する対策は、社会保障分野の就労者を支援するために、財源不要な政府通貨を発行するというものです。それが「絆クーポン」構想の骨子です。

 「政府通貨」と言えば、それだけでどこか胡散臭いトンデモな主張に聞こえるかも知れませんが、胡散臭さという点では、現在私たちが使っている銀行通貨だって同じようなものです。日本円のような銀行通貨は、中央銀行が発行した現金通貨をタネ銭にして、民間銀行が信用創造機能によって創り出したものです。「信用創造」などと言えば聞こえはいいですが、要するに預かったお金の10倍ものお金を貸し出して利息を取るというほとんど詐欺まがいのやり方のことです。(これはつまり預金者のうち1割の人たちが預金を引き出そうとしただけで、銀行は払い戻すお金が不足して取り付け騒ぎになることを意味します。) その胡散臭い銀行通貨が、どうして国家通貨として通用しているのか? それは私たち自身が、この国の市場経済というものを信用しているからでしょう。日本円に通貨としての大義名分を与えているのは、市場経済に対する私たちの信用です。このことを称して銀行通貨のことを「信用通貨」と呼ぶ訳です。

 これに対して、私が提唱しているのは「感謝通貨」という新しい概念です。こちらも胡散臭い政府通貨の一種に過ぎないけれども、私たちの「感謝」の念によって、これに通貨としての大義名分を与えられるのではないかというのが今回の発想の原点です。誰に対する感謝かというと、安い給与にもかかわらず、介護や保育や福祉の現場で一生懸命働いている人たちに対する感謝です。私自身、高齢者施設に認知症の母親を預けている身の上なのですが、いつもそこで働く職員さんたちには心からの感謝を抱かずにはいられない。別に古い道徳を持ち出すつもりはありませんが、本来なら親の面倒は子供が看るべきもの、子供の世話は親がするべきものじゃないですか。低賃金にもかかわらず、私たちに代わって介護や保育の分野で身を粉にして働いている人たちに、社会全体で感謝の気持ちを表しましょうという主張は、多くの人に受け入れてもらえるのではないかと思うのです。

(次回に続きます。)

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