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2016年10月31日 (月)

「絆クーポン」を始めませんか?(4)

7.感謝給付のルールと手続きについて

 企業給与について説明したついでに、社会保障分野で働く人への「絆クーポン」の給付についても、もう少し具体的に説明しておきましょう。この給付のことを「感謝給付」と呼ぶのですが、これを営利企業のクーポンによる給与支給と区別して理解しておく必要があります。というのは、どちらもクーポンを受け取る側の人から見れば、役所の窓口に行って受給者証を提示し、クーポン券を受け取るという手続きに変わりはないからです。企業の給与はその企業のクーポン口座から支払われるのに対し、感謝給付の方は行政が直接給付金として支払うという点が違います。

 保育園や高齢者施設などを運営する企業にも、感謝給付の対象法人として登録してもらう必要があります。対象となるのは、保育や介護の分野で事業を行なっている事業者だけではありません、障害者福祉、教育、医療などの分野の事業者も登録することができます。さらには環境保護や清掃・美化活動などを行なっているボランティア団体なども(審査は必要ですが)感謝給付の対象となり得ます。簡単に言えば、現代の資本主義経済のなかで、営利を求めるよりも社会の持続性を陰で支えるような活動をしている法人や団体などが対象になるということです。

 こう言えば、介護や医療などの分野でも営利を追求している企業はたくさんあるし、また実際大きな利益を出している事業者も多いのではないかという反論が来るかも知れません。そのことは別に構わないのです。というのも、感謝給付対象企業として登録しても、その企業にとって何も経済的なメリットが無いからです。「感謝給付対象企業」は、すでに説明した「感謝通貨取り扱い企業」とは違って、従業員給与の一部をクーポンで支払うこともできませんし、顧客(利用者)からクーポンを受け取ることもできないからです。

 何もメリットが無いなら、感謝給付対象企業として登録しようという事業者も現れないのではないか? 当然そういう疑問が湧くと思いますが、そうではありません。メリットは別のところにあります。感謝給付対象企業として登録されると、直接の恩恵はそこで働く人たちに行きます。もともと「絆クーポン」導入の主旨は、社会保障分野で働く人たちの安過ぎる給与を行政が補償しようというものでした。そのために事業者ではなく、自治体がクーポンを発行するのです。では事業者にとってのメリットはどこにあるのか? 感謝給付対象の事業者であることをアピールすれば、職員の募集がしやすくなりますし、職員のひんぱんな離職を予防する効果もあるという点です。同じように最低賃金に近い待遇で働くなら、コンビニのレジ打ちよりも感謝給付のある介護職の方が条件がいい訳ですから、これは当然のことです。

 具体的な感謝給付の方法はこうです。まず感謝給付によって補償すべき時給の水準を決めます。ここでは仮に時給1,500円としましょう。これは1か月フルタイムで働いて、約25万円くらいの支給総額になる給与レベルです(8時間×21日×1,500円=252,000円)。社会保障の現場で働いている人の実際の月の支給総額を、残業まで含めた総労働時間で割れば、その人の実質的な時給が計算できます。もしもその額が基準の1,500円を下回っていたとすれば、その差額を行政が「絆クーポン」で補うというのが感謝給付の考え方です。例を挙げます。月間の総労働時間が200時間で、残業代まで含めた給与総額が275,000円の人がいたとしましょう。するとこの人の時給は、275,000円÷200時間=1,375円となります。基準の1,500円に足りませんから感謝給付の対象になります。感謝給付の額は(1,500円-1,375円)×200時間=25,000円となります。公式で表せばこうです。

感謝給付額=(1,500円-実際の時給)×総労働時間

 感謝給付対象法人として登録された企業は、従業員の毎月の給与総額と総労働時間を自治体に報告する義務を負います。対象となる従業員は、介護士さんや保育士さんに限りません、事務職員なども含めてその事業所で働くすべての人が対象になります。営利企業が従業員にクーポン建てで給与を支給する場合には、「絆クーポン」のホームページから個人ごとの支給額を入力しました。感謝給付の場合は、それとは少し違って、従業員の月間労働時間と給与総支給額を報告するのです。この時、感謝給付の対象とはならないと思われる時給の高い従業員についても報告してもらうこととしましょう。感謝給付の支給額を決定するのは、あくまで行政側だからです。全従業員の給与データを報告してもらうことで、不当なサービス残業などが行なわれていないかチェックすることもできます。

 また社会保障分野で職業として働いている人以外でも、家庭内で育児や介護をしている人も感謝給付の対象としましょう。最近、待機児童や介護離職というコトバがマスコミを賑わすことが多いですが、家庭内で育児や介護をしている人たちこそ、日本円の経済から最も見返りを得ることなく、社会の持続可能性に貢献している人たちであるとも言えますから。これら家庭内の労働に対する感謝給付の査定方法は、労働時間に応じたものではなく、個別の基準に沿ったものとなります。例えば、小学生以下の子供ひとりにつき月に2万円、18歳以下の子供ひとりにつき1万円といった具合です。介護の場合なら、要介護度に応じて感謝給付の額をスライドさせればいいでしょう。

8.公務員給与と自治体の支出

 ここまで「絆クーポン」の流通ルートについて説明して来ましたが、最後に行政自身がどのようにこの新通貨の流通に関わるかということを説明しなければなりません。具体的に言うと、公務員給与と自治体予算の話です。市内の民間企業の多くで、従業員給与の一部が行政クーポンに置き換わっているのに、公務員給与だけが従来どおり満額日本円で支給されていたのでは、市民から不満の声が湧き起こるに違いありません。行政クーポンを導入するなら、まず魁より始めなければならない。そこで公務員給与の一部もクーポンに置き換えます。その割合は、行政が定めた最高比率(本稿では1割と仮定しています)に合わせます。市の職員や市議会議員、もちろん市長さんの給与も一律1割がクーポンになります。ここでも最低賃金に合わせた基礎控除がありますから、実質的な比率は1割より低くなるでしょう。給与水準の低い人ほどクーポン比率は小さくなります。それでも市全体として見れば、かなりの人件費削減になるはずです。

 それと同時に、人件費以外の市の支出にもクーポンを使うことにします。例えば公共事業や市による物品の購入といった調達費の一部も「絆クーポン」に置き換えるということです。ここでもクーポン比率は1割で固定としましょう。例えば、市の発注に対して1億円で応札して受注した業者に対しては、日本円で9千万円とクーポンで1千万円が支払われるということです。これは無謀な政策だと思われるかも知れませんが、決してそんなことはありません。調達の条件はあらかじめ公開される訳ですし、もしも日本円で1億円の売上が必要なら1億1千111万円で入札すればいいだけだからです。競合が1億円で入札して来たら負けますが、これは競争入札なのだから仕方ありません。それでは地元のクーポン取り扱い業者ばかりが有利になってしまう? いや、そうとも限りません。受注した企業は、たとえ市外の企業だったとしても、クーポン取り扱い業者として認定され、クーポン口座を与えられます。振り込まれたクーポンを有効に活用する手段は、市外の業者であってもいろいろ考えられるだろうと思います。

 繰り返しますが、市が公務員給与や調達費の一部として支払うクーポンには、まったく財源が要りません。「絆クーポン」は政府通貨(行政通貨)の一種であり、行政の判断で自由に発行できるものなのです。こう言うと、財政規律を無視した非常識な政策のように思われるかも知れませんが、そうではないというのが本稿の主張です。行政クーポンを導入することによって、得をするのは誰でしょう? 公務員の皆さん、市会議員さん、市長さんといった人たちはまったく何も得をしません。給料の一部がクーポンに置き換わってしまうのですから、むしろ損をします。この点は民間企業(営利企業)の社員と同じです。「絆クーポン」政策で得をするのは、感謝給付を受けている人たちだけです。つまり社会保障分野で働く人やボランティア活動をしている人、子育て中の人などです。これが「絆クーポン」を感謝通貨と呼ぶゆえんであり、行政通貨の財政規律もこれによって担保されているというのが本稿の考え方です。

 自治体の支出に関連して、いくつか細かいルール決めをしておく必要があります。例えば生活保護費を支給する際にも、一部をクーポン建てにするのか? 国民年金や児童手当のようなものはどうするのか? 筆者が書いた本のなかでは、これらの社会保障費も一律1割を感謝通貨に置き換える構想でした。感謝通貨の発行元が国であるならばそれも可能なのですが、自治体クーポンの場合はそうは行きません。社会保障費の支給基準は、たいていは国が決めているものだからです。しかし、予算の内訳を見れば自治体の負担になっているものもあります。例えば生活保護費は、国の負担が75パーセント、自治体の負担が25パーセントとなっているようです。その25パーセントのさらに1割をクーポン建てにすることは可能なのではないか。ここは国との調整が必要ですが、「絆クーポン」を実施する自治体としては、なるべく多くの市民にクーポンが行き渡る方向で考えるべきです。「絆クーポン」は、社会の持続可能性を陰で支えている人たちを私たちみんなで支えようという理念に基づいたものであり、そのためには(生活保護受給者も含めて)なるべく多くの人に利用者になってもらうことが望ましいのです。

 行政支出の一部が元手の要らないクーポンに置き換わることで、自治体予算は当然削減できることになります。10パーセントとは言いませんが、数パーセントの削減効果は見込めるでしょう。公務員給与や政府調達費の一部を行政クーポンで支払おうというのですから、これは当然のことです。慢性的な赤字体質に悩んでいる自治体にとっては魅力的な政策かも知れません。しかし、話はそううまく行くとは限りません。というのも、市内の取引の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ消費税が減ることを意味しますし、市内で働く人の給与の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ所得税や住民税が減ることを意味するからです。(「絆クーポン」は非課税のお金だということを思い出してください。) つまり市の財政にとってマイナスの面もあるということです。市内経済が活性化することで、税収が増えるというプラスの効果も期待できる一方、行政通貨の発行益がそのまま市の財政赤字削減に充てられる訳ではない点は注意してください。

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