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2016年10月23日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(3)

5.減価するお金というアイデア

 この項では財政面から見た「絆クーポン」について考察します。ここが行政クーポンというものの最大のセールスポイントになるのですが、クーポン発行には財源が必要ないということをまず理解していただく必要があります。もともと「絆クーポン」は日本円とは交換できないものですから、払い戻しのための引当金も要らないのです。もちろんクーポン券の印刷代やシステム費用、窓口業務の人件費などはかかる訳ですが、クーポン券自体は財源の裏付けなしに、あたかも打出の小槌を振ったように何もないところから産み出すことができます。そんなものを市中に供給し続ければ、すぐにインフレが起こって、クーポン券の価値も暴落してしまうのではないか、当然そういう疑問が湧いて来ると思います。

 そのためにクーポン券には使用期限を設けています。クーポン券が発行月の翌月いっぱいで使えなくなってしまうとすれば、毎月同じ額のクーポンを発行したとしても、市中で流通するクーポン総額は増えも減りもしません。つまりインフレともデフレとも無縁になるのです。ただし、ある日を境に突然クーポン券が紙くずになってしまうのでは、利用者に無用な心理的圧力をかけることになりますし、期限日の直前には手持ちのクーポンを使ってしまおうとする人でお店が混乱するかも知れません。そこでクーポン券の期限を2段階で設定します。それが使用期限と交換期限というふたつの期限になります。

 「絆クーポン」は毎月20日頃に新札が発行されます。発行された月内には、まだそのクーポン券はお店では使えません。使えるのは発行月の翌月の1日から末日までの1か月間で、これはクーポン券の表面に「使用期限」として明記されています。使用期限を過ぎたクーポン券は、お店では使えなくなりますが、市の窓口に持って行けばその時点で一番新しい新札と替えてもらえます。これができるのが交換期限で、使用期限の翌月1日から末日までの1か月間になります。これも「交換期限」としてクーポン券に明記されています。つまり使用期限切れが近づいているクーポンを持っていても、それほどあせる必要はないのです。交換期限も過ぎてしまったクーポン券は、ただの紙くずになってしまいます。

 交換にデメリットがないかというと、そうではありません。新札との交換は等価交換ではないのです。交換手数料として2割が引かれます。500円分のクーポン券を交換に出しても、400円分の新札しか受け取れないのです(端数は切り捨てとします)。これはどういうことかと言うと、「絆クーポン」は月をまたぐ時点で必ず20パーセント分だけ目減りしてしまうということです。先ほど業者が口座にクーポン券を入金する時のルールを説明しました。この場合も預け入れは交換期限内に限定されて、しかも入金額は額面の2割引きになってしまうのでした。つまり、「絆クーポン」は、紙幣であっても銀行預金であっても、必ず月に20パーセントずつ減価するということなのです。

 地域通貨を論じる書物をひもどくと、よく「減価通貨」というアイデアが出て来ます。時の経過とともに額面額が減って行ってしまうお金のことで、「マイナス利子のお金」などと呼ばれることもあります。「絆クーポン」はこの「減価通貨」の一種なのです。マイナス利子のお金は、私たちがふだん使っているプラス利子のお金(つまり銀行通貨)とは正反対の性質を持つものになります。銀行通貨は銀行に預けておけば(多少は)プラスの利子が付きますが、減価通貨は口座に預けていても紙幣で持っていても、時の経過とともに目減りして行ってしまいます。当然、貯蓄のためには向かないお金なので、これを導入すると経済の流れがよくなります。経済格差を是正するという効果も期待できます。

 さらに減価通貨が持つ最大のメリットは、これを政府通貨として発行した場合、市中に流通する通貨量を行政が完全にコントロールできるという点にあります。簡単なグラフを描いてみましょう。ある自治体が毎月2割ずつ減価する行政クーポンを、毎月1億円分発行したとします。すると市中に流通するクーポン残高はどうなるか? それを示したのが次のグラフです。

Genka_sim1

 これを見れば分かるとおり、減価通貨は毎月一定額ずつを発行したとしても、その流通量はある上限額で頭打ちになります。この例で言えば、市中の流通総額は5億円で一定になっていますね。これは当たり前の話で、流通している5億円の2割に当たる1億円がひと月ごとに目減りしてしまうのだから、毎月1億円の新札を発行しても流通総額は増えも減りもしないのです。計算式に表せば次のようになります。

[減価通貨の流通額]=[一定期間に発行する通貨額]÷[同じ期間の減価率]

 通貨の発行額や減価率は、行政が政策として決定できるものですから、減価通貨は行政によってコントロール可能なお金であることがお分かりいただけたと思います。しかも財源が全く要らないのですから、これは完全に持続可能性な政策だとも言えます。単に持続可能なだけではありません、減価通貨政策にはちょっとやそっとではインフレやデフレに振れないという柔軟性もあります。例えば毎月1億円ずつの行政クーポンを発行して、流通残高を5億円にコントロールしていた自治体が、地震などの震災対策としてある月だけ臨時に10億円分のクーポンを発行したとしましょう。この場合でも市中の流通額は、ほどなく5億円に戻ることがグラフを見れば分かります。つまり、減価通貨は災害支援のためのお金としても優れているのです。

Genka_sim2

6.「絆クーポン」による給与支払

 ここまでの説明では、「絆クーポン」を利用する個人は、社会保障分野で働く人たちに限定されていました。それではこの新しい行政通貨が流通する範囲も限られてしまいます。そこでもうひとつ、個人にクーポンを配る別のルートを追加します。「絆クーポン」を取り扱う事業者は、そこで働く従業員の給与の一部をクーポンで支払えるようにするのです。クーポンの発行元である自治体が、そのようにルール決めをするということです。これで「絆クーポン」を使う人の層が一挙に拡大します。民間企業で働くサラリーマンもクーポンとは無縁でいられなくなるのです。

 どのように給与の一部をクーポンに置き換えるかは、「絆クーポン」の基本ルールに従います。つまり売り手側が販売額のいくらまでクーポンで受け取ってもいいかを宣言し、買い手側がその範囲でクーポンを混ぜて支払をするということです。企業で働く人は、労働を売った代金として給与を受け取っているのですから、この場合、売り手は従業員になります。例えば、30万円の月額給与を受け取っている人が、1割までクーポンで受け取ってもいいと宣言すれば、企業は日本円で27万円とクーポンで3万円を支払うことができるということです。

 とは言っても企業と個人の雇用関係では、雇い主の方が立場が強いのが一般的ですから、いくらクーポン受容率を決めるのは従業員の方だと言っても、それを企業に守らせるのは難しそうです。会社からの圧力で給与の2分の1をクーポンにされてしまうといった事態があちこちで起こるかも知れません。これを防ぐために、給与に対するクーポンの比率には行政が上限を設けることにします。例えば、給与総額の10パーセントを限度額としてクーポンでの給与支払を認めるといった具合にです。しかも、そこに基礎控除のルールも設けます。都道府県が定める最低賃金まではクーポン支払の対象外とするのです。このルールが無いと、実質的に最低賃金に満たない給与で働かされる人が出て来てしまいますから。例えば最低賃金が800円の地域で、時給1200円で働いている人は、差額400円の10パーセント、つまり時給当たり40円分までがクーポンになる可能性があるということです。

 企業は自らが持つクーポン口座から、従業員に対するクーポン給与の支払をします。と言っても、個人は「絆クーポン」の口座を持っていませんから、口座振込で支払うことはできません。(将来的には個人にもクーポン口座を持たせ、紙のクーポン券は廃止して電子マネーに統一したいと思いますが、今回の提案ではまだそこまでは行きません。) では、どうするか。業者間支払の場合と同様に、企業は「絆クーポン」のポータルサイトから従業員別の支払依頼を入力するのです。(もちろんcsvファイルによる一括処理もできます。) 従業員の方は、市の窓口に行って受給証を見せれば、その時点で最新のクーポン券を受け取れるという仕組みです。(クーポン券は給与支給月の20日以降、翌月いっぱいまで受け取れます。) クーポン扱い業者として登録した企業に対しては、行政が従業員の個人番号を記載した受給証を発行します。

 当然のことながら、企業が従業員給与の一部を「絆クーポン」で支払うようになれば、市場でのクーポン流通が活発になります。より多くの人がクーポンを使うようになるからだけではありません、給与支払にクーポンを使えるようになった企業は、より戦略的にクーポンを取り込んだ販売戦略を立てられるようになるからです。ふつうに考えればクーポンを扱いにくい輸入企業でさえ、従業員に支払う金額分までは顧客からの支払をクーポンで受け取れるようになります。クーポンを扱っている企業の従業員のなかには、その自治体の外から通勤している人もいるでしょう。そういう人は家にクーポン券を持ち帰っても使い途がありません。会社の近くで買い物をして帰るか、飲食をして帰るしかない。すなわちここでも市内経済が活性化するのです。

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