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2016年10月16日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(2)

3.お店がクーポンを扱う理由

 ここまでの議論にもいろいろ反論や疑問はあるかも知れませんが、とりあえず話を先に進めます。感謝通貨のコンセプトはとても新しいものなので、まずは全体像をおおまかにつかんでもらう必要があるのです。想定される質問には後ほどお答えしますのでご了解ください。――さて、紙のクーポン券を行政が刷って、社会保障分野で働く人たちに対して無料で配るところまで説明しました。しかし、そんなものをもらっても全然うれしくありませんよね、もしもこれを使えるお店が1軒も無かったとすれば。そこで今度はあなたがお店の店主になったつもりで想像してください。市が発行する行政クーポンという制度が始まって、一部のお客さんはそれを使いたがっている。もしもライバル店に先んじてそれを扱うようにすれば、これは客寄せのチャンスになるのではないか?

 「絆クーポン」の取り扱い業者になるためには、市役所に申請書を出すだけです。審査もそれほど厳しくありませんし、登録料もかかりません。申請が通れば、「絆クーポン取り扱い店」と書かれたノボリやポスターがもらえます。あとは店のどの商品にどれだけクーポンが使えるかを決めて、それを値札などで表示すればいいのです。(ここは民間のクーポンと同じで、使用条件はきちんと明示しておかなくてはなりません。) 行政クーポンはどの店でも扱えるのだから差別化要因にならない、むしろ自店だけのオリジナルクーポンの方が客寄せのためにはいいのではないか、そういう意見があるかも知れません。でも、たぶんそうではないと思います。そのことは例えばグルーポンに代表される外資系のクーポン専門企業が業績を伸ばしているのを見れば分かります。

 何故国内の小さなお店が、グルーポンのような外国企業に高い手数料を支払って、クーポンの発行を委託するのでしょう? それはもともとの知名度が違うからです。いま街には(またはインターネット上には)無料のクーポン券が大量にばら撒かれています。そのなかから自店のクーポン券を手にしてもらうだけでも大変なことです。お店のホームページを作って、そこにクーポンを掲載したとしても、誰もそんなものには見向きもしません。(それで評判になるくらいのお店なら、そもそもクーポンなんて必要ないはずです。) クーポンを発行したいお店や企業は、最初から知名度があり、人が多く集まるポータルを持っている企業に頼るしかないのです。

 そこで「絆クーポン」の出番です。「絆クーポン」は市が新しい政策として発行するものですから、最初から知名度は抜群です。それどころか市が自ら一部の市民に配ってくれるのですから、配布コストもかかりません。インターネット上には「絆クーポンの使えるお店」というページも用意されていて、そこに広告を出すのも無料です。これだけの条件が揃えば、市内の店舗や企業からの引き合いは少なくないだろうと思います。最初は乗り気でなかったお店も、ライバル店に追随するためにクーポンを扱わざるを得なくなる、そんなシーンも現れて来そうです。こうして「絆クーポン」を扱うお店はどんどん増えて行く(はずです)。

 お店のレジでの対応についても簡単に説明しておきます。レジでは商品の値段を日本円部分とクーポン部分に分けて集計しなければなりません。もしも個々の商品にそれぞれクーポンを使える割合を設定するとすると、店の負担はかなり大変なものになると想像されます。商品ひとつひとつにクーポンの受容率を表示した値札表示をしたり、それをレジシステムに登録しなければならないからです。(レジシステムの改修も必要になるかも知れません。) それが難しいようなら、商品を限定せずにクーポン受け取り条件を設定することもできます。例えば「お買い上げ千円ごとに百円のクーポン券が使えます」とアナウンスしておけば、レジでの集計も必要ありません。(しかもこの方法なら客単価が上がることも期待できます。) 個人商店などはこの方法がいいかも知れません。

4.仕入にも使える行政クーポン

 さらに注目していただきたいのは、「絆クーポン」はお店のレジで1回使われて、そのまま捨てられてしまうものではないということです。市役所に持って行けば日本円に交換できる…というのではありません。そうではなくて、これを使って次の商品の仕入を行なうことができるということです。ここが企業や店舗が発行するふつうのクーポンと最も異なる点になります。どういうことかというと、簡単な話です。「絆クーポン」は自治体が発行するクーポンですから、その流通ルールは自治体が決めます。自治体が「このクーポンは小売店だけでなく、業者間でも使えます」と宣言すれば、流通業者や生産業者もこれを扱うようになるということです。

 そんなにうまくいくだろうかと疑問に思う方もいるかと思いますが、うまくいくんです。うまくいく理由があるからです。その理由というのは小売店の場合と同じです 。流通業者や生産業者も市場で競争している訳ですから、クーポンを受け取ることのできる業者は有利な立場に立ちます。クーポンを取り扱っている小売店には、使い途のないクーポンがたまっているはずですから、仕入の一部にそれを使えるとなれば、その業者から仕入れようというインセンティブが働きます。つまり、「市場原理」によって、クーポンがサプライチェーン全体で流通し始めるだろうと期待されるのです。

 もちろん全ての業者が「絆クーポン」を取り扱える訳ではありません。これは地域限定のクーポンですから、遠くの地域から仕入れている商品には使えません。例えば、地元の農家が作った野菜には、2割までクーポンが使えるけれども、遠くの県から仕入れて来た野菜にはクーポンは使えない、そういったことが起こるはずです。これが何を意味するかと言えば、自治体の発行するクーポンには「地産地消」を促進する効果があるということです。農産物だけではありません、地域内で生産された商品、または地域内で人件費をかけて付加価値を付けられた商品は、自治体クーポンと相性がいいので、地域外から来る商品に対して優位性を持つことができるのです。(クーポンと人件費の関係は、後ほどまた説明します。)

 実務面での効率性を考えると、業者間のクーポン割引に紙のクーポン券を使うのは現実的ではありません。そこで市は、インターネット上に業者間でクーポンの支払を行なえる仕組みを作って、登録業者にクーポン口座をひとつずつ提供することとします。クーポンでの支払をしたい業者は、ちょうど銀行振込をするように、クーポン口座間で振込手続きをします。銀行振込と同じようにパソコンからの一括振込もできますし、銀行振込と違って振込手数料は一切かからないという点がアピールポイントです。(ちなみに業者間で紙のクーポン券をやり取りすることは禁止とします。) 取引にクーポンを使った業者は、請求書や支払書に日本円の金額とは別にクーポンの金額も表示するようにします。その部分はコンピュータシステムを一部修正しなければなりませんが、そのこと以外に現在の財務会計システムをいじる必要はありません。クーポンというのは単なる値引きのツールですから、課税の対象にもなりませんし、企業の財務諸表にも載せる必要のないものだからです。

 顧客から紙のクーポン券を受け取った小売店は、それを市の窓口に持ち込んで、自社・自店のクーポン口座に入金してもらいます。前回掲載したクーポン券のイメージをごらんいただくと分かるとおり、クーポン券には「使用期限」と「交換期限」という2つの期限が設定されています。使用期限が終わると、次の1か月は交換期限になるのですが、クーポンは交換期間中なら(つまり使用期間が過ぎた翌月1か月の間なら)いつでも口座に預け入れられます。ただ、預け入れにはひとつ条件があります。クーポン券を口座に入金する場合は、入金額は額面の2割引きになってしまうのです。これは「絆クーポン」の基本思想にかかわる重要なポイントなので、後ほど詳しく説明します。

 もうひとつ業者間のクーポン支払で重要なことは、口座間の振込処理がすべての業者で一斉に行なわれるということです。銀行振込のように振込日を指定することはできません。月末と月初は企業の経理部門の繁忙期に当たることが多いと思いますので、月の半ば、毎月15日を振込処理日としましょう(土休日に当たった場合は翌日)。「絆クーポン」を扱う業者の内、顧客から紙のクーポン券を受け取る小売業者は、預かったクーポン券を翌月の14日までに市の窓口に持ち込み、15日の支払に備えます。直接個人の顧客と接点がない流通業者や生産業者にとって、基本的に口座に入金されるのは他の業者からの振込だけですから、前月分までに口座に入金された分で今月の支払をすることになります。

 クーポン口座を管理するシステムが企業間の支払をする時のルールについても説明しておかなければなりません。システムはすべての「絆クーポン」取り扱い業者から送られて来た振込依頼データを集計し、まず業者の口座から出金額の合計を引き落とします。続いて振込先ごとの入金額を集計し、口座に入金するのです。重要なのは、システムの処理が必ずこの順序で行なわれるということで、そのために15日の支払日には、入金額を当てにせずに、前月の段階で口座残高を準備しておく必要があるのです。もしも口座残高が振込額に足りなかった場合には、市がクーポンを立て替えてくれるので、支払の不履行は発生しません。その代わり、立て替えた分の金額は、その月内に「日本円で」市に返済しなければならないルールとします。厳しいルールですが、企業が「絆クーポン」に真剣に向き合うようにするために、こういったルールを設けています。

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