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2016年10月31日 (月)

「絆クーポン」を始めませんか?(4)

7.感謝給付のルールと手続きについて

 企業給与について説明したついでに、社会保障分野で働く人への「絆クーポン」の給付についても、もう少し具体的に説明しておきましょう。この給付のことを「感謝給付」と呼ぶのですが、これを営利企業のクーポンによる給与支給と区別して理解しておく必要があります。というのは、どちらもクーポンを受け取る側の人から見れば、役所の窓口に行って受給者証を提示し、クーポン券を受け取るという手続きに変わりはないからです。企業の給与はその企業のクーポン口座から支払われるのに対し、感謝給付の方は行政が直接給付金として支払うという点が違います。

 保育園や高齢者施設などを運営する企業にも、感謝給付の対象法人として登録してもらう必要があります。対象となるのは、保育や介護の分野で事業を行なっている事業者だけではありません、障害者福祉、教育、医療などの分野の事業者も登録することができます。さらには環境保護や清掃・美化活動などを行なっているボランティア団体なども(審査は必要ですが)感謝給付の対象となり得ます。簡単に言えば、現代の資本主義経済のなかで、営利を求めるよりも社会の持続性を陰で支えるような活動をしている法人や団体などが対象になるということです。

 こう言えば、介護や医療などの分野でも営利を追求している企業はたくさんあるし、また実際大きな利益を出している事業者も多いのではないかという反論が来るかも知れません。そのことは別に構わないのです。というのも、感謝給付対象企業として登録しても、その企業にとって何も経済的なメリットが無いからです。「感謝給付対象企業」は、すでに説明した「感謝通貨取り扱い企業」とは違って、従業員給与の一部をクーポンで支払うこともできませんし、顧客(利用者)からクーポンを受け取ることもできないからです。

 何もメリットが無いなら、感謝給付対象企業として登録しようという事業者も現れないのではないか? 当然そういう疑問が湧くと思いますが、そうではありません。メリットは別のところにあります。感謝給付対象企業として登録されると、直接の恩恵はそこで働く人たちに行きます。もともと「絆クーポン」導入の主旨は、社会保障分野で働く人たちの安過ぎる給与を行政が補償しようというものでした。そのために事業者ではなく、自治体がクーポンを発行するのです。では事業者にとってのメリットはどこにあるのか? 感謝給付対象の事業者であることをアピールすれば、職員の募集がしやすくなりますし、職員のひんぱんな離職を予防する効果もあるという点です。同じように最低賃金に近い待遇で働くなら、コンビニのレジ打ちよりも感謝給付のある介護職の方が条件がいい訳ですから、これは当然のことです。

 具体的な感謝給付の方法はこうです。まず感謝給付によって補償すべき時給の水準を決めます。ここでは仮に時給1,500円としましょう。これは1か月フルタイムで働いて、約25万円くらいの支給総額になる給与レベルです(8時間×21日×1,500円=252,000円)。社会保障の現場で働いている人の実際の月の支給総額を、残業まで含めた総労働時間で割れば、その人の実質的な時給が計算できます。もしもその額が基準の1,500円を下回っていたとすれば、その差額を行政が「絆クーポン」で補うというのが感謝給付の考え方です。例を挙げます。月間の総労働時間が200時間で、残業代まで含めた給与総額が275,000円の人がいたとしましょう。するとこの人の時給は、275,000円÷200時間=1,375円となります。基準の1,500円に足りませんから感謝給付の対象になります。感謝給付の額は(1,500円-1,375円)×200時間=25,000円となります。公式で表せばこうです。

感謝給付額=(1,500円-実際の時給)×総労働時間

 感謝給付対象法人として登録された企業は、従業員の毎月の給与総額と総労働時間を自治体に報告する義務を負います。対象となる従業員は、介護士さんや保育士さんに限りません、事務職員なども含めてその事業所で働くすべての人が対象になります。営利企業が従業員にクーポン建てで給与を支給する場合には、「絆クーポン」のホームページから個人ごとの支給額を入力しました。感謝給付の場合は、それとは少し違って、従業員の月間労働時間と給与総支給額を報告するのです。この時、感謝給付の対象とはならないと思われる時給の高い従業員についても報告してもらうこととしましょう。感謝給付の支給額を決定するのは、あくまで行政側だからです。全従業員の給与データを報告してもらうことで、不当なサービス残業などが行なわれていないかチェックすることもできます。

 また社会保障分野で職業として働いている人以外でも、家庭内で育児や介護をしている人も感謝給付の対象としましょう。最近、待機児童や介護離職というコトバがマスコミを賑わすことが多いですが、家庭内で育児や介護をしている人たちこそ、日本円の経済から最も見返りを得ることなく、社会の持続可能性に貢献している人たちであるとも言えますから。これら家庭内の労働に対する感謝給付の査定方法は、労働時間に応じたものではなく、個別の基準に沿ったものとなります。例えば、小学生以下の子供ひとりにつき月に2万円、18歳以下の子供ひとりにつき1万円といった具合です。介護の場合なら、要介護度に応じて感謝給付の額をスライドさせればいいでしょう。

8.公務員給与と自治体の支出

 ここまで「絆クーポン」の流通ルートについて説明して来ましたが、最後に行政自身がどのようにこの新通貨の流通に関わるかということを説明しなければなりません。具体的に言うと、公務員給与と自治体予算の話です。市内の民間企業の多くで、従業員給与の一部が行政クーポンに置き換わっているのに、公務員給与だけが従来どおり満額日本円で支給されていたのでは、市民から不満の声が湧き起こるに違いありません。行政クーポンを導入するなら、まず魁より始めなければならない。そこで公務員給与の一部もクーポンに置き換えます。その割合は、行政が定めた最高比率(本稿では1割と仮定しています)に合わせます。市の職員や市議会議員、もちろん市長さんの給与も一律1割がクーポンになります。ここでも最低賃金に合わせた基礎控除がありますから、実質的な比率は1割より低くなるでしょう。給与水準の低い人ほどクーポン比率は小さくなります。それでも市全体として見れば、かなりの人件費削減になるはずです。

 それと同時に、人件費以外の市の支出にもクーポンを使うことにします。例えば公共事業や市による物品の購入といった調達費の一部も「絆クーポン」に置き換えるということです。ここでもクーポン比率は1割で固定としましょう。例えば、市の発注に対して1億円で応札して受注した業者に対しては、日本円で9千万円とクーポンで1千万円が支払われるということです。これは無謀な政策だと思われるかも知れませんが、決してそんなことはありません。調達の条件はあらかじめ公開される訳ですし、もしも日本円で1億円の売上が必要なら1億1千111万円で入札すればいいだけだからです。競合が1億円で入札して来たら負けますが、これは競争入札なのだから仕方ありません。それでは地元のクーポン取り扱い業者ばかりが有利になってしまう? いや、そうとも限りません。受注した企業は、たとえ市外の企業だったとしても、クーポン取り扱い業者として認定され、クーポン口座を与えられます。振り込まれたクーポンを有効に活用する手段は、市外の業者であってもいろいろ考えられるだろうと思います。

 繰り返しますが、市が公務員給与や調達費の一部として支払うクーポンには、まったく財源が要りません。「絆クーポン」は政府通貨(行政通貨)の一種であり、行政の判断で自由に発行できるものなのです。こう言うと、財政規律を無視した非常識な政策のように思われるかも知れませんが、そうではないというのが本稿の主張です。行政クーポンを導入することによって、得をするのは誰でしょう? 公務員の皆さん、市会議員さん、市長さんといった人たちはまったく何も得をしません。給料の一部がクーポンに置き換わってしまうのですから、むしろ損をします。この点は民間企業(営利企業)の社員と同じです。「絆クーポン」政策で得をするのは、感謝給付を受けている人たちだけです。つまり社会保障分野で働く人やボランティア活動をしている人、子育て中の人などです。これが「絆クーポン」を感謝通貨と呼ぶゆえんであり、行政通貨の財政規律もこれによって担保されているというのが本稿の考え方です。

 自治体の支出に関連して、いくつか細かいルール決めをしておく必要があります。例えば生活保護費を支給する際にも、一部をクーポン建てにするのか? 国民年金や児童手当のようなものはどうするのか? 筆者が書いた本のなかでは、これらの社会保障費も一律1割を感謝通貨に置き換える構想でした。感謝通貨の発行元が国であるならばそれも可能なのですが、自治体クーポンの場合はそうは行きません。社会保障費の支給基準は、たいていは国が決めているものだからです。しかし、予算の内訳を見れば自治体の負担になっているものもあります。例えば生活保護費は、国の負担が75パーセント、自治体の負担が25パーセントとなっているようです。その25パーセントのさらに1割をクーポン建てにすることは可能なのではないか。ここは国との調整が必要ですが、「絆クーポン」を実施する自治体としては、なるべく多くの市民にクーポンが行き渡る方向で考えるべきです。「絆クーポン」は、社会の持続可能性を陰で支えている人たちを私たちみんなで支えようという理念に基づいたものであり、そのためには(生活保護受給者も含めて)なるべく多くの人に利用者になってもらうことが望ましいのです。

 行政支出の一部が元手の要らないクーポンに置き換わることで、自治体予算は当然削減できることになります。10パーセントとは言いませんが、数パーセントの削減効果は見込めるでしょう。公務員給与や政府調達費の一部を行政クーポンで支払おうというのですから、これは当然のことです。慢性的な赤字体質に悩んでいる自治体にとっては魅力的な政策かも知れません。しかし、話はそううまく行くとは限りません。というのも、市内の取引の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ消費税が減ることを意味しますし、市内で働く人の給与の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ所得税や住民税が減ることを意味するからです。(「絆クーポン」は非課税のお金だということを思い出してください。) つまり市の財政にとってマイナスの面もあるということです。市内経済が活性化することで、税収が増えるというプラスの効果も期待できる一方、行政通貨の発行益がそのまま市の財政赤字削減に充てられる訳ではない点は注意してください。

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2016年10月23日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(3)

5.減価するお金というアイデア

 この項では財政面から見た「絆クーポン」について考察します。ここが行政クーポンというものの最大のセールスポイントになるのですが、クーポン発行には財源が必要ないということをまず理解していただく必要があります。もともと「絆クーポン」は日本円とは交換できないものですから、払い戻しのための引当金も要らないのです。もちろんクーポン券の印刷代やシステム費用、窓口業務の人件費などはかかる訳ですが、クーポン券自体は財源の裏付けなしに、あたかも打出の小槌を振ったように何もないところから産み出すことができます。そんなものを市中に供給し続ければ、すぐにインフレが起こって、クーポン券の価値も暴落してしまうのではないか、当然そういう疑問が湧いて来ると思います。

 そのためにクーポン券には使用期限を設けています。クーポン券が発行月の翌月いっぱいで使えなくなってしまうとすれば、毎月同じ額のクーポンを発行したとしても、市中で流通するクーポン総額は増えも減りもしません。つまりインフレともデフレとも無縁になるのです。ただし、ある日を境に突然クーポン券が紙くずになってしまうのでは、利用者に無用な心理的圧力をかけることになりますし、期限日の直前には手持ちのクーポンを使ってしまおうとする人でお店が混乱するかも知れません。そこでクーポン券の期限を2段階で設定します。それが使用期限と交換期限というふたつの期限になります。

 「絆クーポン」は毎月20日頃に新札が発行されます。発行された月内には、まだそのクーポン券はお店では使えません。使えるのは発行月の翌月の1日から末日までの1か月間で、これはクーポン券の表面に「使用期限」として明記されています。使用期限を過ぎたクーポン券は、お店では使えなくなりますが、市の窓口に持って行けばその時点で一番新しい新札と替えてもらえます。これができるのが交換期限で、使用期限の翌月1日から末日までの1か月間になります。これも「交換期限」としてクーポン券に明記されています。つまり使用期限切れが近づいているクーポンを持っていても、それほどあせる必要はないのです。交換期限も過ぎてしまったクーポン券は、ただの紙くずになってしまいます。

 交換にデメリットがないかというと、そうではありません。新札との交換は等価交換ではないのです。交換手数料として2割が引かれます。500円分のクーポン券を交換に出しても、400円分の新札しか受け取れないのです(端数は切り捨てとします)。これはどういうことかと言うと、「絆クーポン」は月をまたぐ時点で必ず20パーセント分だけ目減りしてしまうということです。先ほど業者が口座にクーポン券を入金する時のルールを説明しました。この場合も預け入れは交換期限内に限定されて、しかも入金額は額面の2割引きになってしまうのでした。つまり、「絆クーポン」は、紙幣であっても銀行預金であっても、必ず月に20パーセントずつ減価するということなのです。

 地域通貨を論じる書物をひもどくと、よく「減価通貨」というアイデアが出て来ます。時の経過とともに額面額が減って行ってしまうお金のことで、「マイナス利子のお金」などと呼ばれることもあります。「絆クーポン」はこの「減価通貨」の一種なのです。マイナス利子のお金は、私たちがふだん使っているプラス利子のお金(つまり銀行通貨)とは正反対の性質を持つものになります。銀行通貨は銀行に預けておけば(多少は)プラスの利子が付きますが、減価通貨は口座に預けていても紙幣で持っていても、時の経過とともに目減りして行ってしまいます。当然、貯蓄のためには向かないお金なので、これを導入すると経済の流れがよくなります。経済格差を是正するという効果も期待できます。

 さらに減価通貨が持つ最大のメリットは、これを政府通貨として発行した場合、市中に流通する通貨量を行政が完全にコントロールできるという点にあります。簡単なグラフを描いてみましょう。ある自治体が毎月2割ずつ減価する行政クーポンを、毎月1億円分発行したとします。すると市中に流通するクーポン残高はどうなるか? それを示したのが次のグラフです。

Genka_sim1

 これを見れば分かるとおり、減価通貨は毎月一定額ずつを発行したとしても、その流通量はある上限額で頭打ちになります。この例で言えば、市中の流通総額は5億円で一定になっていますね。これは当たり前の話で、流通している5億円の2割に当たる1億円がひと月ごとに目減りしてしまうのだから、毎月1億円の新札を発行しても流通総額は増えも減りもしないのです。計算式に表せば次のようになります。

[減価通貨の流通額]=[一定期間に発行する通貨額]÷[同じ期間の減価率]

 通貨の発行額や減価率は、行政が政策として決定できるものですから、減価通貨は行政によってコントロール可能なお金であることがお分かりいただけたと思います。しかも財源が全く要らないのですから、これは完全に持続可能性な政策だとも言えます。単に持続可能なだけではありません、減価通貨政策にはちょっとやそっとではインフレやデフレに振れないという柔軟性もあります。例えば毎月1億円ずつの行政クーポンを発行して、流通残高を5億円にコントロールしていた自治体が、地震などの震災対策としてある月だけ臨時に10億円分のクーポンを発行したとしましょう。この場合でも市中の流通額は、ほどなく5億円に戻ることがグラフを見れば分かります。つまり、減価通貨は災害支援のためのお金としても優れているのです。

Genka_sim2

6.「絆クーポン」による給与支払

 ここまでの説明では、「絆クーポン」を利用する個人は、社会保障分野で働く人たちに限定されていました。それではこの新しい行政通貨が流通する範囲も限られてしまいます。そこでもうひとつ、個人にクーポンを配る別のルートを追加します。「絆クーポン」を取り扱う事業者は、そこで働く従業員の給与の一部をクーポンで支払えるようにするのです。クーポンの発行元である自治体が、そのようにルール決めをするということです。これで「絆クーポン」を使う人の層が一挙に拡大します。民間企業で働くサラリーマンもクーポンとは無縁でいられなくなるのです。

 どのように給与の一部をクーポンに置き換えるかは、「絆クーポン」の基本ルールに従います。つまり売り手側が販売額のいくらまでクーポンで受け取ってもいいかを宣言し、買い手側がその範囲でクーポンを混ぜて支払をするということです。企業で働く人は、労働を売った代金として給与を受け取っているのですから、この場合、売り手は従業員になります。例えば、30万円の月額給与を受け取っている人が、1割までクーポンで受け取ってもいいと宣言すれば、企業は日本円で27万円とクーポンで3万円を支払うことができるということです。

 とは言っても企業と個人の雇用関係では、雇い主の方が立場が強いのが一般的ですから、いくらクーポン受容率を決めるのは従業員の方だと言っても、それを企業に守らせるのは難しそうです。会社からの圧力で給与の2分の1をクーポンにされてしまうといった事態があちこちで起こるかも知れません。これを防ぐために、給与に対するクーポンの比率には行政が上限を設けることにします。例えば、給与総額の10パーセントを限度額としてクーポンでの給与支払を認めるといった具合にです。しかも、そこに基礎控除のルールも設けます。都道府県が定める最低賃金まではクーポン支払の対象外とするのです。このルールが無いと、実質的に最低賃金に満たない給与で働かされる人が出て来てしまいますから。例えば最低賃金が800円の地域で、時給1200円で働いている人は、差額400円の10パーセント、つまり時給当たり40円分までがクーポンになる可能性があるということです。

 企業は自らが持つクーポン口座から、従業員に対するクーポン給与の支払をします。と言っても、個人は「絆クーポン」の口座を持っていませんから、口座振込で支払うことはできません。(将来的には個人にもクーポン口座を持たせ、紙のクーポン券は廃止して電子マネーに統一したいと思いますが、今回の提案ではまだそこまでは行きません。) では、どうするか。業者間支払の場合と同様に、企業は「絆クーポン」のポータルサイトから従業員別の支払依頼を入力するのです。(もちろんcsvファイルによる一括処理もできます。) 従業員の方は、市の窓口に行って受給証を見せれば、その時点で最新のクーポン券を受け取れるという仕組みです。(クーポン券は給与支給月の20日以降、翌月いっぱいまで受け取れます。) クーポン扱い業者として登録した企業に対しては、行政が従業員の個人番号を記載した受給証を発行します。

 当然のことながら、企業が従業員給与の一部を「絆クーポン」で支払うようになれば、市場でのクーポン流通が活発になります。より多くの人がクーポンを使うようになるからだけではありません、給与支払にクーポンを使えるようになった企業は、より戦略的にクーポンを取り込んだ販売戦略を立てられるようになるからです。ふつうに考えればクーポンを扱いにくい輸入企業でさえ、従業員に支払う金額分までは顧客からの支払をクーポンで受け取れるようになります。クーポンを扱っている企業の従業員のなかには、その自治体の外から通勤している人もいるでしょう。そういう人は家にクーポン券を持ち帰っても使い途がありません。会社の近くで買い物をして帰るか、飲食をして帰るしかない。すなわちここでも市内経済が活性化するのです。

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2016年10月16日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(2)

3.お店がクーポンを扱う理由

 ここまでの議論にもいろいろ反論や疑問はあるかも知れませんが、とりあえず話を先に進めます。感謝通貨のコンセプトはとても新しいものなので、まずは全体像をおおまかにつかんでもらう必要があるのです。想定される質問には後ほどお答えしますのでご了解ください。――さて、紙のクーポン券を行政が刷って、社会保障分野で働く人たちに対して無料で配るところまで説明しました。しかし、そんなものをもらっても全然うれしくありませんよね、もしもこれを使えるお店が1軒も無かったとすれば。そこで今度はあなたがお店の店主になったつもりで想像してください。市が発行する行政クーポンという制度が始まって、一部のお客さんはそれを使いたがっている。もしもライバル店に先んじてそれを扱うようにすれば、これは客寄せのチャンスになるのではないか?

 「絆クーポン」の取り扱い業者になるためには、市役所に申請書を出すだけです。審査もそれほど厳しくありませんし、登録料もかかりません。申請が通れば、「絆クーポン取り扱い店」と書かれたノボリやポスターがもらえます。あとは店のどの商品にどれだけクーポンが使えるかを決めて、それを値札などで表示すればいいのです。(ここは民間のクーポンと同じで、使用条件はきちんと明示しておかなくてはなりません。) 行政クーポンはどの店でも扱えるのだから差別化要因にならない、むしろ自店だけのオリジナルクーポンの方が客寄せのためにはいいのではないか、そういう意見があるかも知れません。でも、たぶんそうではないと思います。そのことは例えばグルーポンに代表される外資系のクーポン専門企業が業績を伸ばしているのを見れば分かります。

 何故国内の小さなお店が、グルーポンのような外国企業に高い手数料を支払って、クーポンの発行を委託するのでしょう? それはもともとの知名度が違うからです。いま街には(またはインターネット上には)無料のクーポン券が大量にばら撒かれています。そのなかから自店のクーポン券を手にしてもらうだけでも大変なことです。お店のホームページを作って、そこにクーポンを掲載したとしても、誰もそんなものには見向きもしません。(それで評判になるくらいのお店なら、そもそもクーポンなんて必要ないはずです。) クーポンを発行したいお店や企業は、最初から知名度があり、人が多く集まるポータルを持っている企業に頼るしかないのです。

 そこで「絆クーポン」の出番です。「絆クーポン」は市が新しい政策として発行するものですから、最初から知名度は抜群です。それどころか市が自ら一部の市民に配ってくれるのですから、配布コストもかかりません。インターネット上には「絆クーポンの使えるお店」というページも用意されていて、そこに広告を出すのも無料です。これだけの条件が揃えば、市内の店舗や企業からの引き合いは少なくないだろうと思います。最初は乗り気でなかったお店も、ライバル店に追随するためにクーポンを扱わざるを得なくなる、そんなシーンも現れて来そうです。こうして「絆クーポン」を扱うお店はどんどん増えて行く(はずです)。

 お店のレジでの対応についても簡単に説明しておきます。レジでは商品の値段を日本円部分とクーポン部分に分けて集計しなければなりません。もしも個々の商品にそれぞれクーポンを使える割合を設定するとすると、店の負担はかなり大変なものになると想像されます。商品ひとつひとつにクーポンの受容率を表示した値札表示をしたり、それをレジシステムに登録しなければならないからです。(レジシステムの改修も必要になるかも知れません。) それが難しいようなら、商品を限定せずにクーポン受け取り条件を設定することもできます。例えば「お買い上げ千円ごとに百円のクーポン券が使えます」とアナウンスしておけば、レジでの集計も必要ありません。(しかもこの方法なら客単価が上がることも期待できます。) 個人商店などはこの方法がいいかも知れません。

4.仕入にも使える行政クーポン

 さらに注目していただきたいのは、「絆クーポン」はお店のレジで1回使われて、そのまま捨てられてしまうものではないということです。市役所に持って行けば日本円に交換できる…というのではありません。そうではなくて、これを使って次の商品の仕入を行なうことができるということです。ここが企業や店舗が発行するふつうのクーポンと最も異なる点になります。どういうことかというと、簡単な話です。「絆クーポン」は自治体が発行するクーポンですから、その流通ルールは自治体が決めます。自治体が「このクーポンは小売店だけでなく、業者間でも使えます」と宣言すれば、流通業者や生産業者もこれを扱うようになるということです。

 そんなにうまくいくだろうかと疑問に思う方もいるかと思いますが、うまくいくんです。うまくいく理由があるからです。その理由というのは小売店の場合と同じです 。流通業者や生産業者も市場で競争している訳ですから、クーポンを受け取ることのできる業者は有利な立場に立ちます。クーポンを取り扱っている小売店には、使い途のないクーポンがたまっているはずですから、仕入の一部にそれを使えるとなれば、その業者から仕入れようというインセンティブが働きます。つまり、「市場原理」によって、クーポンがサプライチェーン全体で流通し始めるだろうと期待されるのです。

 もちろん全ての業者が「絆クーポン」を取り扱える訳ではありません。これは地域限定のクーポンですから、遠くの地域から仕入れている商品には使えません。例えば、地元の農家が作った野菜には、2割までクーポンが使えるけれども、遠くの県から仕入れて来た野菜にはクーポンは使えない、そういったことが起こるはずです。これが何を意味するかと言えば、自治体の発行するクーポンには「地産地消」を促進する効果があるということです。農産物だけではありません、地域内で生産された商品、または地域内で人件費をかけて付加価値を付けられた商品は、自治体クーポンと相性がいいので、地域外から来る商品に対して優位性を持つことができるのです。(クーポンと人件費の関係は、後ほどまた説明します。)

 実務面での効率性を考えると、業者間のクーポン割引に紙のクーポン券を使うのは現実的ではありません。そこで市は、インターネット上に業者間でクーポンの支払を行なえる仕組みを作って、登録業者にクーポン口座をひとつずつ提供することとします。クーポンでの支払をしたい業者は、ちょうど銀行振込をするように、クーポン口座間で振込手続きをします。銀行振込と同じようにパソコンからの一括振込もできますし、銀行振込と違って振込手数料は一切かからないという点がアピールポイントです。(ちなみに業者間で紙のクーポン券をやり取りすることは禁止とします。) 取引にクーポンを使った業者は、請求書や支払書に日本円の金額とは別にクーポンの金額も表示するようにします。その部分はコンピュータシステムを一部修正しなければなりませんが、そのこと以外に現在の財務会計システムをいじる必要はありません。クーポンというのは単なる値引きのツールですから、課税の対象にもなりませんし、企業の財務諸表にも載せる必要のないものだからです。

 顧客から紙のクーポン券を受け取った小売店は、それを市の窓口に持ち込んで、自社・自店のクーポン口座に入金してもらいます。前回掲載したクーポン券のイメージをごらんいただくと分かるとおり、クーポン券には「使用期限」と「交換期限」という2つの期限が設定されています。使用期限が終わると、次の1か月は交換期限になるのですが、クーポンは交換期間中なら(つまり使用期間が過ぎた翌月1か月の間なら)いつでも口座に預け入れられます。ただ、預け入れにはひとつ条件があります。クーポン券を口座に入金する場合は、入金額は額面の2割引きになってしまうのです。これは「絆クーポン」の基本思想にかかわる重要なポイントなので、後ほど詳しく説明します。

 もうひとつ業者間のクーポン支払で重要なことは、口座間の振込処理がすべての業者で一斉に行なわれるということです。銀行振込のように振込日を指定することはできません。月末と月初は企業の経理部門の繁忙期に当たることが多いと思いますので、月の半ば、毎月15日を振込処理日としましょう(土休日に当たった場合は翌日)。「絆クーポン」を扱う業者の内、顧客から紙のクーポン券を受け取る小売業者は、預かったクーポン券を翌月の14日までに市の窓口に持ち込み、15日の支払に備えます。直接個人の顧客と接点がない流通業者や生産業者にとって、基本的に口座に入金されるのは他の業者からの振込だけですから、前月分までに口座に入金された分で今月の支払をすることになります。

 クーポン口座を管理するシステムが企業間の支払をする時のルールについても説明しておかなければなりません。システムはすべての「絆クーポン」取り扱い業者から送られて来た振込依頼データを集計し、まず業者の口座から出金額の合計を引き落とします。続いて振込先ごとの入金額を集計し、口座に入金するのです。重要なのは、システムの処理が必ずこの順序で行なわれるということで、そのために15日の支払日には、入金額を当てにせずに、前月の段階で口座残高を準備しておく必要があるのです。もしも口座残高が振込額に足りなかった場合には、市がクーポンを立て替えてくれるので、支払の不履行は発生しません。その代わり、立て替えた分の金額は、その月内に「日本円で」市に返済しなければならないルールとします。厳しいルールですが、企業が「絆クーポン」に真剣に向き合うようにするために、こういったルールを設けています。

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2016年10月 8日 (土)

「絆クーポン」を始めませんか?(1)

 昨年本を出してから、ずっとブログ更新をサボっていました。ただ、この間何もしていなかった訳ではないんです。本のなかで提唱した「感謝通貨」のアイデアをあちこちに売り込んでいました。市民講座のようなところで話をしてみたり、自治体向けの企画提案書を作って自分の住む市の政策担当課に持って行ってみたり、知り合いのツテを通して紹介された市会議員さんに相談したり。本に書いた「日本国政府による第二通貨の発行政策」というのは、あまりに気宇壮大な構想で、どこに話を持って行けばいいのか分からない。そこで市町村レベルで始められる規模にプランを縮小して、自治体に持って行くことを思い付いた訳です。

 今回の記事では、私が自治体に提案している新しい政策について説明してみようと思います。この記事に目を留めてくださった方のなかには、私の本を読んでくださった方もいるかも知れません。でも、そういう方は少数でしょうから、初めての方にも分かりやすく説明してみるつもりです。政策のタイトルは「絆クーポン」構想と言います。自治体が独自の行政クーポンを発行して、これによって社会保障制度の拡充を行なったり、財政負担の軽減を行なったりする政策です。社会保障費の増大による財政の悪化は、どこの自治体にとっても切実な問題でしょうから、多くの人に興味を持ってもらえるタイムリーな話題ではないかと期待しているのです。

1.「行政クーポン」というアイデア

 まずは話を具体的にするために、「絆クーポン」というものがどういうものか見ていただきましょう。「絆クーポン」は、例えば次に示すようなデザインのものになります。(これは武蔵野市の市民講座で話した時のサンプルです。挿絵の部分には、それぞれの地域のマスコットキャラクターが入ります。) 100円のクーポン券が5枚綴りになっていて、切り取り線で1枚ずつ切り離せるようになっています。それが10枚束になって、5千円で1冊の冊子になるというイメージです。(クリックで拡大します。)

Kizuna_coupon

 ごらんのとおり、これは市が発行するクーポン券になります。いや、市には限定されません、町村でも都道府県でも構わない。要するに自治体が発行する行政クーポンということです。「行政クーポン」というコトバはおそらく初耳だと思いますが(インターネットで検索しても用例はありません)、自治体が発行する一種の地域通貨のようなものだと考えてください。ふつうの地域通貨と違うのは、これが単独では使えないお金だという点です。クーポン券ですから、それだけでは何も買えません。割引券として日本円と一緒に使います。実はここが重要なところで、行政クーポンというものには私たちの財布から日本円を連れ出す機能があるのです。

 これまでの地域振興券やプレミアム付き商品券のようなものは、単独で日本円の代わりとして使えるものでした。ですからいくら行政が消費拡大を狙ってこれを発行しても、その効果には限界がありました。使用期限のある地域振興券を優先的に使えば、その分財布に入っていたお金(日本円)を温存できます。行政の目論見どおりに国民は消費を増やしてはくれません。むしろ付加されたプレミアム分だけ国民の貯蓄が増える可能性の方が高い。ところが、これが行政クーポンとなると話は違います。クーポンにも使用期限がありますから、期限間近のクーポン券を持っている人は早くそれを使ってしまおうとします。この時クーポンと一緒に日本銀行券も財布から出て行きますから、日本円の流通も促進されると期待できるのです。

2.「感謝通貨」とは何か?

 次にこの行政クーポンをどのように流通させるかという点について説明します。もともとクーポン券というものは、日本円とは交換ができないものです。100円のクーポン券は100円硬貨と同じ価値を持っていると言えますが、それはそのクーポンが使えるお店で、そのクーポンが使える条件の買い物をした場合に限定されます。クーポン券を100円玉に両替してくださいと言っても、応じてくれるお店はありません。当たり前ですね。クーポンというのはそういうものなのだから。行政が発行したクーポンを世の中に流通させるために、たとえプレミアムを付けたとしても、これを買おうという人はそうはいないでしょう。ではどうするか? ただで配るのです。では誰に配るのか?

 ここからは一般名詞としての行政クーポンではなく、「絆クーポン」の説明になります。絆クーポンは、自治体が発行して、社会保障分野で働いている人たちに無料で配ります。例えば高齢者施設で働く介護士さん、保育施設で働く保育士さん、障害者施設で働く福祉士さんといった人たちです。いま介護や保育などの分野では深刻な人手不足が起こっています。そしてその理由のひとつが賃金の安さにあることは、広く認識されているところです。誰が考えても重要な仕事であるにもかかわらず、そこで働く人たちの多くがワーキングプアと言われるような状況に陥っています。これは何か手を打たなければならない。

 政府は待機児童の問題がマスコミを賑わせている状況のなか、保育士の給与を上乗せする案を出しています。場当たり的な対策だと思います。そんなことをしても保育士を目指す人が増える訳はない。何故って、そんな政策が長続きするはずがないことは誰もが知っているからです。保育士に補助金を出すなら、これからもっと人手不足が懸念される介護士はどうするんですか? それでなくても政府は1千兆円を超す債務を抱えているというのに、どこからそんな財源を持って来るんです? この問題にはもっと抜本的な対策が必要なんです。で、私の提案する対策は、社会保障分野の就労者を支援するために、財源不要な政府通貨を発行するというものです。それが「絆クーポン」構想の骨子です。

 「政府通貨」と言えば、それだけでどこか胡散臭いトンデモな主張に聞こえるかも知れませんが、胡散臭さという点では、現在私たちが使っている銀行通貨だって同じようなものです。日本円のような銀行通貨は、中央銀行が発行した現金通貨をタネ銭にして、民間銀行が信用創造機能によって創り出したものです。「信用創造」などと言えば聞こえはいいですが、要するに預かったお金の10倍ものお金を貸し出して利息を取るというほとんど詐欺まがいのやり方のことです。(これはつまり預金者のうち1割の人たちが預金を引き出そうとしただけで、銀行は払い戻すお金が不足して取り付け騒ぎになることを意味します。) その胡散臭い銀行通貨が、どうして国家通貨として通用しているのか? それは私たち自身が、この国の市場経済というものを信用しているからでしょう。日本円に通貨としての大義名分を与えているのは、市場経済に対する私たちの信用です。このことを称して銀行通貨のことを「信用通貨」と呼ぶ訳です。

 これに対して、私が提唱しているのは「感謝通貨」という新しい概念です。こちらも胡散臭い政府通貨の一種に過ぎないけれども、私たちの「感謝」の念によって、これに通貨としての大義名分を与えられるのではないかというのが今回の発想の原点です。誰に対する感謝かというと、安い給与にもかかわらず、介護や保育や福祉の現場で一生懸命働いている人たちに対する感謝です。私自身、高齢者施設に認知症の母親を預けている身の上なのですが、いつもそこで働く職員さんたちには心からの感謝を抱かずにはいられない。別に古い道徳を持ち出すつもりはありませんが、本来なら親の面倒は子供が看るべきもの、子供の世話は親がするべきものじゃないですか。低賃金にもかかわらず、私たちに代わって介護や保育の分野で身を粉にして働いている人たちに、社会全体で感謝の気持ちを表しましょうという主張は、多くの人に受け入れてもらえるのではないかと思うのです。

(次回に続きます。)

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