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2016年2月 7日 (日)

書評「ベーシック・インカムのある暮らし」(1)

 昨年、本を一冊出したら、すっかり脱け殻のようになってしまいました。本を出したと言っても、自費出版ですから、あまり自慢出来る話ではありません。出版社のオプションサービスを利用して、書店向けにチラシをFAXで送ってみたり、マスコミや著名人に献本してみたりもしましたが、まったく反応は無し。本の「あとがき」ではこのブログの宣伝もしているのですが、アクセス数が増える兆候も一向にありません。まあ、当たり前ですね。本が売れていないのだから、本を読んでこのブログにたどり着いてくれる人もいなければ、もともとアクセス数の少ないブログなので、記事を読んで本に興味を持ってくれる人もほとんどいない。早い話が「リンク切れ」している訳です。そんなわけで、このブログに自著の宣伝を書く気持ちも失せてしまっていたのです。

 と、まあ今年最初の記事なのに愚痴で始まりましたが、ふとインターネットで自分の本を検索してみたら、私の本にレビューがふたつ付いていました。しかも☆が4つと5つという高評価で、レビュー内容もきちんと作者の意図を汲んでくれているものでした。嬉しいものですね。少なくとも2冊は本が売れて、ふたりの読者の方が読んでくださった訳です。このことに元気をもらって、なんとかブログに復帰しようと思い立ちました。とりあえず自著の宣伝をページの右側に入れてみました。(アマゾンの紹介ページにリンクを張ろうとしたのですが、うまくいきませんでした。とりあえずリンクはこちらから。) そして今回は、もう1冊おすすめの本を紹介します。昨年12月に出たばかりの古山明男著『ベーシック・インカムのある暮らし “生活本位制マネー”がもたらす新しい社会』という本です。

 著者の古山さんと私とは過去に接点があります。話は6年前にさかのぼります。「ベーシックインカム・実現を探る会」に掲載された古山さんの講演録について、このブログで記事を書いたところ、当の古山さんからお礼のコメントをいただいたのです。古山さんの講演のテーマは、「減価通貨」で「ベーシックインカム」をやるということで、そのころ私も同じアイデアについてこのブログに試論を書いていました。当時からベーシックインカムという考え方は、ちょっとしたブームになっていましたが、それをシルビオ・ゲゼルの減価通貨とカップリングするアイデアは、自分のオリジナルだと思っていたのです。その冗談のようなアイデアについて考えている人が他にもいると知って、驚くと同時に興味を持ったのでした。その時の私の記事には、「いまの日本で、このようなニッチなテーマについて大真面目に考えて論じているのは、たぶん古山さんと私のふたりだけしかいない」だろうと書いています。

 あれから6年。古山さんとの交流がその後も続いた訳ではありませんが、お互いに自らの思想を深化させていたことが判明したのが去年の暮れでした。「減価通貨によるベーシックインカム」の思想がひとつの完成に到達したと感じた私は、それを1冊の本にまとめることを思い付きました。書き上げて出版社に持ち込んだけれども、取り上げてもらえなかったことについてはすでに書きました。老後の蓄えを切り崩して(?)自費出版で出すことになったのですが、その本の感想を初めてこのブログに寄せてくださったのが古山さんだったのです。古山さんご自身、ちょうど同じテーマで本を書いていたところだということがコメントには書かれていました。それが今回取り上げる「ベーシック・インカムのある暮らし」(ライフサポート社)です。

 前置きが長くなってしまいました。本書の美点はたくさんあります。まず、これは経済学者の視点ではなく、生活者の視点でベーシックインカム(BI)導入の必要性と必然性を説いた入門書として読めること。最近はもう一時のBIブームは下火になってしまったかの感がありますが、それにともなってBIの良い入門書というのも見当たらなくなっている。いまでもゲッツ・ウェルナーさんの本や山森亮さんの本なら手に入りますが、前者は実業家の視点、後者は経済学者の視点で書かれているので、BIの理解のためにはとてもいい本なのですが、「BIを実感」するためには少し食い足りないところがあります。そういう不足感が現今のBI論壇にはあったように思うのですが、その間隙を埋める役目を本書は担っていると言えます。

 すぐれた入門書というのは、ウィキペディアのようにその分野の知識を簡潔にまとめただけのものではありません。その思想なりアイデアなりが生まれて来た地点にまで読者を連れて行って、その誕生の必然性を生き生きと追体験させてくれるような書物のことです。この本には自分で考え抜いた人に特有の心に響く言葉がたくさん散りばめられている。例えばいくつか引用してみます。

「どれだけの人が働いたらみんなが生活できるだけの生産が可能か、これは科学技術の問題です。倫理・道徳の問題ではありません。」(p.18)

「ここに重大な問題があります。科学技術の進歩によって人間が労働から解放されたら、その解放された人たちはどうやって食っていくんですか?」(p.39)

「(就職活動の)場では、学生たちはリクルートスーツを着ないわけにはいきません。なぜ着るかというと、私はよく訓練されております、規格品でございます、そうアピールする必要があるのです。」(p.47)

「人間を商品にしてはいけません。商品として作られたものだけを商品とすべきです。」(p.51)

「目指したい国は、企業が世界一活動しやすい国ではなく、働く人が安心して働き、生活する人が不安なく生活できる国です。」(p.111)

 私の趣味でいくつか格言ふうに並べてみました。これだけでも著者の肉声が聞こえて来そうでしょ。私もBIの持つ意義や将来性については書いて来ましたが、この本からはそれが倫理的・歴史的な必然性として感じられるようになっている。そんな本は他には無いと思います。BIと言えば、「アイデアとしては面白いけれども実現性は無いよね」というのが平均的な捉え方だと思いますが、本書を読めば、むしろBIのある社会の方がこれからの社会のあり方として自然なのではないかと思えて来ます。BIの入門書として、本書が優れた一冊である所以です。

 しかし、もちろん本書は単なるBIの入門書ではありません。この本の前半部分はBIの意義と理念を説いた教科書ですが、後半はとても教科書と呼べるお行儀のいい内容ではありません。極めて過激な思想を盛り込んだ「革命の書」に変貌するのです。『ベーシック・インカムのある暮らし』という穏健なタイトルに釣られて読み始めると、裏切られることになります。何がそんなに過激な内容なのかと言えば、著者が考えているBIは日本円ではなく、日本銀行とは別の中央銀行(それを本書ではBI銀行と呼んでいます)が発行する新しいお金(それを本書ではE円と呼んでいます)によって支払うというのです。このE円は(もちろん)減価する電子マネーです。つまり、本書の最大のテーマは、BIの実現といったことではなく、現代の通貨制度に革命を起こすことなのです。

 私のこのブログの過去記事を読んだことがある方なら、あるいは私の著書『約束するお金と感謝するお金』を読んでくださった方なら、この減価通貨によるBIという思想が両者に共通するものであることにすぐに気付かれるだろうと思います。これまで誰も書かなかった同じテーマを扱った2冊の本が、しかも同時期に刊行されたという奇遇に対して、著者としては感慨を感じない訳にはいきません。ところが、この2冊は同じテーマを扱った単なる同工異曲の書物という訳にはいかないのです。私の本では、新通貨(感謝通貨と命名しました)はあくまで日本円を補完する第二通貨という位置付けであるのに対し、古山さんのE円は従来の日本円と対等か、あるいはそれに取って代わろうとする野心を秘めたものであるように見えます。古山さんの思想がここまで過激に進化しているとは思わなかった。その内容については次回あらためて見て行くことにします。

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コメント

矢野様

はじめまして。Amazonにてレビューを投稿させていただきました、加藤宏和と申します。

投稿を評価していただき、感謝いたします。
本を出版されるまではご苦労も多かったのでしょうね。

『里山資本主義』が注目されたように、マネー資本主義に懐疑的な意見が増えてきているようです。
その点、矢野様の著書は、それに対する一つの考え方として体系的に整理されていると感じました。

『里山~』は様々な試みを集めてはいるものの、それを体系的に整理されていない部分があったものですから。

私も、読書会などを通じて情報の共有を試みる機会がありますが、矢野様が述べられている、

『その思想なりアイデアなりが生まれて来た地点にまで読者を連れて行って、その誕生の必然性を生き生きと追体験させてくれるような書物』

この点について、他の方の関心を集めるための最も基礎的な内容だと痛感している次第です。
『わかりやすく説明をする練習をしよう。~伝え方を鍛える コミュニケーションを深める』(講談社)という本が参考になりますよ。

ご参考まで。

長文失礼いたしました。

投稿: 加藤宏和 | 2016年2月10日 (水) 03時29分

加藤宏和様

ご親切なコメントをありがとうございます。
またAmazonのレビューも的確な内容で、著者としてもとても励みになりました。

『里山資本主義』は読んだことがなかったのですが、やはり現在の金融資本主義に行き詰まりを感じている人たちが多いのだろうと思います。地域通貨やベーシックインカムというのは、その対抗軸として出て来た思想です。これからもっと注目を浴びてもいいキーワードだろうと思います。

このブログには、市井のいち思索人の立場から、現代社会の歪みやそれを乗り越える方法について、いろいろな考察を書いています。最近はあまり更新ができていないのですが、また時々は覗きに来ていただけると嬉しいです。

投稿: Like_an_Arrow | 2016年2月11日 (木) 10時16分

矢野様

加藤宏和です。お返事をいただき、感謝申し上げます。

矢野様の本を知ったきっかけは、以前ブログに掲載されていた、「ローレンス・トーブ」の人類の道徳的進化に関する記述をブックマークさせていただいたことでした。

最近、たまたま矢野様のブログのURLにアクセスした際、この本を出版されたことを知りました。

最近、私が考えていたテーマそのものでしたので、ビックリした次第です(笑)。

これからも、たびたびおじゃまさせていただきますね。

加藤宏和

投稿: 加藤宏和 | 2016年2月11日 (木) 12時48分

加藤宏和様。コメントありがとうございます。

そうですか、ローレンス・トーブさんの名前は懐かしいですね。この人の本も私は未読ですが、内田樹さんが紹介していたその「進歩史観」に私は感銘を受けたのでした。

今の時代、とにかく巷には否定的・批判的なコトバが多過ぎると思っています。そんな風潮のなかでは、むしろ楽天主義を採用することが重要ではないかと思っています。私のコトバで言うと「方法的楽天主義」というものですね。

投稿: Like_an_Arrow | 2016年2月12日 (金) 00時47分

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