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2015年8月16日 (日)

本を作る(5)

■表紙のデザイン案が送られて来た

 原稿を書き上げて、出版社に売り込みを始めたのが、今年の3月でしたから、もう半年近く経ってしまいました。自費出版を決意してからもトントン拍子という訳にはいきませんでした。なるべく費用を抑えたかったので、原稿は自分で編集して、ページ設定や目次の作成もすべて自分でやりました。(おかげでMSワードの使い方には、だいぶ習熟しました。) 本文に挿入する図やグラフも、以前このブログに掲載したものをそのまま流用することにしました。ただ、表紙のデザインだけは、プロのデザイナーにお願いすることにしました。そういうオプションも出版社の方で用意してくれているのです。自費出版では、どこにお金をかけて、どこを節約するかも自分で考えて決めなくてはなりません。

 表紙をデザイナーさんに依頼したいと言うと、どんなイメージの表紙にしたいですかと編集者の方から聞かれました。何も考えていませんでした。せっかくお金を出してデザインを頼むのですから、インパクトがあってしかもセンスのいいものにしたい。いろいろ考えた挙げ句、本文のなかに挿入した図をそのまま表紙のデザインに使う案を思い付きました。――そう言えば、まだ本の内容については何も説明していませんでしたね。今回の本は、このブログでも過去にたくさんの記事を書いて来た、新しい地域通貨のアイデアに関するものです。ブログ記事は、その都度新しい思い付きで書いているので、互いに矛盾があったり、また重複した内容があったりしますが、今回はそれをもう一度整理して、全体として整合性を持たせたのです。これまでの地域通貨論の集大成と言ってもいい。で、私が出版社に送った表紙デザインの素案は次のようなものでした。
Hyoushi_0

 タイトルは「約束するお金と感謝するお金」というものです。約束するお金というのは、日本円のような銀行通貨のこと、感謝するお金というのは、私が提案する新しい地域通貨(「感謝通貨」と命名しました)のことを指しています。表紙に配したのは、現在のお金(銀行通貨)の流れを表した図です。そして裏表紙の図は、感謝通貨を導入したあとのお金の流れです。もしも表紙の図がうまくリライト出来たら、本文の挿し絵もそれに差し替えようと思っていました。(私が描いた絵はいかにも素人っぽいものですから。) また本を出すに当たって、ペンネームも新しく考えました。「矢野洋二」…なんの変哲もないありふれた名前ですが、これはブログのハンドル名「Like_an_Arrow」を読み替えたものです(矢のように。自分で考えた訳ではなく、名付けてくれた人がいたのです)。――さて、待つこと1か月、出版社からはこんなデザイン案が送られて来ました(クリックで拡大します)。

Hyoushi_1

 なるほど、やっぱりプロのデザイナーはセンスが違う! これを見た瞬間、自分で表紙のデザインをしなくて良かったとしみじみ思いました。餅は餅屋ですね。ただ、描いてもらったマネーフローの図で、本文の挿し絵も差し替えようと思っていた目論見は断念せざるを得ませんでした。デザインとしてはすぐれていますが、本文の説明とは不釣合いだったからです。これはあくまでイラストとしてのみ使わせてもらおう。そうすると、表紙のデザインも私の考えた案にこだわる必要はなくなります。出版社からはこれ1案だけでなく、他にもいくつかの案が送られて来ていました。

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 安いデザイン料でここまでやってもらえるとは思ってもいなかったので、正直恐縮してしまいました。(オプションのデザイン料金は3万円でした。) しかもデザインは表紙だけでなく、表紙に付ける帯(業界用語で「腰巻」っていうんでしたっけ?)も含まれているんです。帯に付けるキャッチコピーは自分で書きましたが、デザインはお任せしました。デザイン案をやり取りしているあいだにお盆休みに入ってしまいましたから、確定案をここでお見せすることは出来ません。それは本の発売日が決まった時点でお披露目します。

 著者が検討しなければならないオプションは、表紙のデザインだけではありません。それよりもっと重要な決定があります。本の売り方をどうするかということです。ISBNコードを取得して書店流通に乗せることは当然として、その他にも書店への委託配本をするかどうか、出版社の営業担当者に書店への営業をお願いするかどうか、書店への注文チラシのFAXはどうするか、プレスリリース(マスコミへのチラシ配布)をどうするか、電子書籍としても流通させるか、そういったことがそれぞれオプションで選択出来るようになっているのです。(著名人への献本を代行してくれるオプションまであります。) それらのオプションを使わなければ、せいぜいこのブログで宣伝して、あとは読者からの注文を待つだけになる訳です。

 すでにインターネット上でたくさんの読者を持っている人なら、そんなオプションなんて付けなくても、一定数の販売は見込めるでしょう。いや、ネット著名人なら、費用をかけて紙の書籍を作らなくても、電子書籍だけにした方が営業効率はいいかも知れない。が、名もない書き手にとって、紙の書籍はそれ自体が商品である以上に販売ツールにもなるのです。形ある本でなければ、委託配本も出来なければ、プレスリリースや著名人への献本も出来ませんから。もちろん自費出版専門の出版社から委託配本の依頼が来ても、書店は中身も見ずに返本してしまうだけかも知れません(きっとほとんどがそうでしょう)。それでも出版社の倉庫に寝かせて客注が入るのを待つだけよりは、多少は人目にふれるチャンスがあるはずです。

 とりあえず出版社との最初の契約では、委託配本と営業のオプションだけをお願いすることにしました、電子書籍化のオプションについては迷いましたが、とりあえず費用もかかるし、やめておきました。紙の本が売れないのに、電子書籍だけが売れるなんてことは考えにくいですから。プレスリリースや献本については、本が出来てから考えましょう。これらの営業戦略が効を奏するかどうか、あるいはすべてが空振りに終わるかどうか、それは現時点では分かりません。ここからは何か状況が進展した時点で、リアルタイムでお伝えしたいと思います。ですからこの連載も不定期になります。ここまで読んでいただいた皆さん、ぜひ「約束するお金と感謝するお金」を応援してくださいね。

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2015年8月 9日 (日)

本を作る(4)

■自費出版の収支シミュレーション

 企画出版には採用されず、共同出版の誘いにも乗ることが出来ず、残された選択肢は自費出版だけということになりました。しかし、ここまでたどり着くまでに、出版業界の実態も少し分かって来ましたから、下手なところと契約を結んで後悔するようなことはあるまいという程度の自信を持てるようにはなっていました。まあ、そんな自信を持ったところで、何も将来の展望が開けるようなものではありませんが。結局、インターネットでいろいろ調べて、この分野で最も実績があるらしい「お手軽出版ドットコム」というところに依頼することにしました。

 決め手は、インターネット上で見積りのシミュレーションが簡単に出来ること、見積価格がリーズナブルである上に費用の内訳が明細ベースで表示されて、いかにも明朗会計であるように見えること(ちなみに以前受け取った共同出版の見積りには内訳の記載もありませんでした)、そして利用者の声がおおむね好評でリピーターも多そうだというようなことでした。いや、正直に言うと、大手の自費出版専門の会社から自分の本を出すことには抵抗もあったのです。この業界には自費出版や共同出版で名の通った(?)出版社が何社かあって、背表紙を見ただけで、業界通の人には自費出版本だと分かる仕組みになっています。知り合いに自著を配る時にも、それを見透かされるのは恥ずかしいことだという気がしたのです。だったらむしろ名も無い小さな出版社に依頼した方がいいんじゃないか?

 しかし、そんな自分の小さな見栄はくだらないものだとすぐに思い直しました。自費出版で出されるどんな本にだって、著者の切実な思いが籠められており、たくさんの工夫が凝らされているものでしょう。最初から売らんかなで企画される話題の本よりも、出版というものの原点に近いのはそちらの方かも知れない。それが市場価値を持つかどうかは市場が決めればいいことです。重要なのは、自分の本に潜在的な読者がいるとして、その人たちの手に何とかしてこの本を届けることです。つまり、少なくともISBNコードを付けて、書店で注文出来るようにしなければならない訳ですが、その点はどこの出版社でも保証してくれています。あとは作品自体が持っている起爆力と、あるかどうか分からない運に任せるしかない。もちろん自分でも営業することが必要ですし、そのためにやるべきことはたくさんあります。(その経過も本連載で実況中継する予定です。)

 ここで少し話題を変えて、自費出版(および共同出版)というものの経済的側面について書いてみたいと思います。というのも、最初に共同出版の会社から見積りを受け取った時から、本を出版した後の収支がどうなるかということに興味が湧いたからです。断っておきますが、私は自分の本が売れて利益が出るなんてこれっぽっちも思ってはいないし(いや、そうなればいいとは思っていますが)、お金を儲けるために本を書いた訳でもありません(そのことは本の中身を見ていただければすぐ分かります)。最近はプロの作家でもなかなか本が売れなくて大変だという話をよく聞きます。昔は著者に支払われる印税は、本の売価の10%程度だったのが、近頃では一部の人気作家を除いて7%くらいが相場になっているとも言います。出版というのは、著者にとっても、書店にとっても、出版社にとっても儲からない商売になっているのです(ごく一部の人気作家やアマゾンのような企業を除いて)。

 印税率が7%だとすると、800円の新書本が1冊売れて著者に入る印税は56円です。1万部売れても著者の受け取る印税は56万円。1万部と言えばベストセラーではないものの、そこそこのヒット作に分類されるのではないでしょうか。その程度のヒット作を年に2、3冊出しても、とても食べては行けない。ところが、ここで前回も触れた自費出版の見積りのことを思い出してみましょう。印刷・製本にかかる費用というのは案外安くて、新書本を2000部刷るのに最低50万円くらいで済むという話をしました。ということは、1万部なら250万円というのが「モノ」としての本の原価になります。売価800円の本が1万部売れれば、売上は800万円ですから、この時点で粗利は550万円ということになります。

 もちろんそのすべてが著者の収入になる訳ではなく、出版社や流通での経費も差し引かなくてはなりません。自費出版の出版社が設定している収益の分配比率は、著者が50%で、出版社と流通が残りの50%です(少なくとも私が依頼した出版社はそうでした)。口コミ情報のなかに、ふつうは印税率は6、7%くらいしかないのに対して、自費出版では50%も貰えると書いていた人がいましたが、もちろんこれは誤解です。企画出版では制作費や流通費や広告費はすべて出版社持ちで、著者にリスクはありません。自費出版では文字通りそれらをすべて著者が負担しているのですから、その上さらに50%もピンハネされるのは割が合わないとも考えられます。さらにひどいのが共同出版で、法外に高い費用を著者に負担させて、たとえ本が売れても数パーセントの印税(と称するもの)しか払わないというのですから、これはもう悪徳商売と言ってもいいでしょう。

 これから自費出版を考えている人のために、エクセルで簡単なシミュレーションツールを作ってみました。実を言えば自分もこのツールでいろいろシミュレーションをしてみて、最終的に自費出版に決めたという経緯があるのです。結論から言うと、自費出版には企画出版にはないビジネス上のメリットがあります。それは何かと言うと、初期投資のリスクは大きいけれども、もしも本が売れた場合のリターンも大きいということです。ハイリスク・ハイリターン。これは理に叶っていますね。これに対して企画出版はローリスク・ローリターン、共同出版はハイリスク・ローリターンということになります。そういうことがシミュレーションをしてみると、一目瞭然で分かります。次のグラフは、私が最初に受け取った共同出版の見積りをもとにシミュレーションをしてみたものです。(見積りの数字そのままではありませんが。)

□グラフ1 共同出版

Kyoudoushuppan

 横軸は本の販売部数、縦軸が収支金額を表しています。折れ線グラフの線は、赤が著者の出資、青が収入を表しています。黒はそのトータルです。1万部を売っても、著者の収支はマイナス190万円程度であるのが分かります。エクセルではもっと販売部数が増えた場合のグラフも描けますが、5万部を売り切ってようやく収支トントン。そこからも印税率6%なので、著者の収入は大したことがないのが分かります。これを見たらもう誰も共同出版に申し込もうなんて人はいなくなってしまうと思います。やはりどう考えても共同出版専門の出版社は、ビジネスモデルの転換が必要ですね。(共同出版というコンセプト自体は悪くないのですから。)

□グラフ2 企画出版

Kikakushuppan

 こちらのグラフは、同じ売価の本を企画出版で出した場合のシミュレーションです。印税率は7%に設定してあります。著者の初期費用はありませんから、赤の線はゼロに張り付いたままです。収入を表す青とトータルを表す黒の線が重なって、黒1色にしか見えませんね。著者の収入は売り上げた部数に比例しています。1万部売れれば56万円、10万部なら560万円、100万部のベストセラーなら5600万円になります。たいへんな印税額にも見えますが、トータルの売上高は8億円ですから、一番おいしい思いをしているのは出版社でしょう。著者はむしろ不当に低い印税率で搾取されていると言ってもいい。おそらく出版業という業態は、ほんのひと握りのベストセラーで、その他のたくさんの企画出版の赤字補填をする構造になっているのだと思います。ベストセラー作家は、多額の印税でひとり勝ちをしているというより、むしろ相対的に安い印税収入に甘んじることで、日本の出版文化を下支えしているとも言えるのではないでしょうか。

□グラフ3 自費出版

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 最後のグラフは、同じ条件(新書版で初版2000部、販売単価800円)で自費出版をした場合のシミュレーションです。自費出版が企画出版や共同出版と異なるのは、増刷時の印刷・製本費用も含め、発生する費用がすべて著者負担となる点です。当たり前ですね、「自費」出版なんだから。増刷のたびに支出が発生するので、グラフの形もギザギザになっています。初版を売り切れば損益はゼロに近付きますが、そこで増刷すれば収支はまた大きくマイナスに転落します。増刷をしてもコンスタントに売れ続ける訳ではありませんから、増刷の判断を間違えばそのまま不良在庫を抱えることになります。その在庫費用も著者負担です。その代わり、本が順調に売れ続ければ儲けも大きくなります。グラフを見ると、1万部売り切った場合の収支は、企画出版がプラス56万円なのに対して、自費出版ではプラス80万円以上になっています。ハイリスク・ハイリターンであることがグラフからも確認できます。

 参考までに、今回シミュレーションを行なったエクセルシートをアップしておきます。ダウンロードしていただければ、使い方はすぐに分かると思います。自費出版や共同出版では、初版時と増刷時で印税率や制作費が異なる場合がありますので、それも変数として設定出来るようにしてあります。また印刷部数も自由に設定出来ますし、もちろん売価を変えてシミュレーションすることも出来ます。自費出版を考えている人には必携のツールです。ぜひ使ってみてください。

出版シミュレーションツールのダウンロードはこちら → 「shuppan_sim.xlsx」

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