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2015年7月12日 (日)

本を作る(2)

■共同出版を検討する

 ほんとにインターネットというのは便利ですね。「共同出版」で検索すれば、いくらでも情報が出て来ます。共同出版というのは、簡単に言うと商業出版と自費出版の中間に位置する出版形態なのだそうです。ビジネスとして捉えた場合、新刊書が売れるかどうかは博打のようなものですから、出版社としてはなるべく確実に売れるものだけを選んで出版したい。ベストセラーを狙わなくても、固定ファンがいる作者のものだとか、時宜に叶ったテーマのものだとかが優先される訳です。

 まったく無名の作者の持ち込み原稿を気前よく採用していたら、そんな出版社はすぐに倒産してしまうでしょう。また一方で、自分の原稿を本にするためなら自費を投じてもいいと考える著者はいくらでもいる訳で、もしもその両者の思惑が一致すれば、リスクを双方で分担し合うという発想が出て来るのは自然です。それがすなわち共同出版の基本的な考え方であるようです。ビジネスモデルとしては何もおかしな点はないと感じます。

 要するにこういうことです。出版社に持ち込まれる原稿のたどる運命は、3通りに分かれます。ひとつめは出版社が自らのリスクで出版することを決定する場合で、これは企画出版と呼ばれます。原稿を書く人は誰もがこのルートに乗せることを夢見ている訳です。その対極にあるのが、出版社から商業出版に値せずと評価されてしまった場合で、それでも著者が出版を望むなら自費出版という選択肢が残されています。三つめがその中間に当たる共同出版で、これは出版社としてはある程度売れるという見込みを持ってはいるものの、リスクを一社で負うことは難しいという営業判断のもとに、著者に対して共同出資を逆提案して来るというものです。

 ところがネットで調べてみると、この共同出版というのがすこぶる怪しい。過去には詐欺まがいの商法で社会問題化したこともあったようです。出版社への持ち込み原稿や懸賞応募作品の著者に対して、「純然たる商業出版として採用するのは難しいけれども、このまま埋もれさせてしまうには惜しい作品です」などと甘言をもちかけ、法外の出資を募るというものです。著者の方は初めて自分の作品が誉められた嬉しさに、ついつい財布のひもを緩めてしまう。本は一応流通には乗りますが、もちろん売れるはずなどなく、わずかに配本された分もすぐに返本されてしまいます。ISBNコードが付いた本を出したという実績は残りますが、その小さな満足の代償として出版社をボロ儲けさせただけというオチです。

 つまり、共同出版というコンセプト自体は悪くないけれども、気を付けないとなかには悪質な業者もいる、ということのようです。で、私に共同出版を提案してくださった出版社さんがどうだったかと言うと……、実はよく分かりません。というのも、実際に見積もりをお願いする以前の段階で、先方から断られてしまったからです。こちらとしては新書判もしくはソフトカバーの廉価な本にすることを想定していたのですが(たくさんの人に読んでもらいたいですからね)、先方からの提案は箱入りの豪華本にするというものでした。おそらく特定の専門分野の書籍は、装丁を立派にして1冊当たりの単価を高く設定した方が儲かるという法則があるのかも知れません。または単に著者から高い出資金を出させるための計略だったのでしょうか。

 この一件から、がぜん共同出版というものに興味が湧いて来ました。ネット上には悪徳業者に騙されたというような体験談があふれているし、信用できる出版社を選ぶ際のアドバイスをしてくれているサイトもある。それらを読んで自分のなかにある程度、出版業界周辺の「土地勘」を養った上で、一番信頼できそうな共同出版専門の出版社に原稿を送って、見積りを依頼してみました。そういう出版社では、どんな原稿を持ち込んでも誉めちぎってくれるらしいから、どういった反応が返って来るか楽しみだぞ。そんな少し自嘲的な気分で返事を待ちました。

 1か月くらいで返事が来ました。正直な感想を言いますと、非常に的確で有益なコメントをいただいたという印象です。よく見かける歯の浮くような誉め言葉ではなく、きちんと原稿を読み込んで、作者の意図を汲み取った上で、改善のための小さなアドバイスまでしてくれている。もちろん基本のトーンは賞賛なのですが、決して空疎な美辞麗句を並べただけのものではありません。(実際にそこでの指摘を活かして若干の改稿をしたくらいです。) 何より嬉しかったのは、「全巻を通して弱者に対する作者の暖かいまなざしが感じられる」と評していただいたことで、自分としてはそのような意識は無かったので、この言葉には意表をつかれた感じでした。

 おっと、いけない、すでに相手の術中にはまっているぞ。こうして作者を気分よくさせて、出資を募るのが向こうのビジネスモデルだった。しかし、これは騙すとか騙されるといった次元の話ではありません。共同出版というのは、言ってみれば著者と出版社がイコールパートナーとして「ひと山」当てようというビジネスモデルなのですから、こちらもビジネスマインドを持って応じればいいだけの話です。私が見積りを依頼した出版社は、大手出版社系の共同出版専門の子会社で、営業力や配本力には定評のあるところでしたから、ここから先はふつうの商談として話を進めればいい。最初の誉めコトバなんて初対面の挨拶のようなものです。

 ということで、次に添付されていた見積書を見てみました。共同出版を生業とする出版社のなかには、持ち込まれた原稿の品質や可能性に応じて、著者に負担させる出資比率を変えて来るところもあるようです。それも理に叶った話です。ほんとうに売れそうな原稿なら、出版社は自分でリスクを負ってでも本にしたいと考えるはずです(他の出版社に持ち込まれても困るので)。その一方で、売れる見込みが小さい原稿はどうしても著者にリスクを負ってもらいたくなるでしょう(そのような原稿には編集や校正の費用も余分にかかるでしょうし)。つまり、共同出版にも、企画出版に近い共同出版と、自費出版に近い共同出版という2種類があるはずだということです。

 ということは、出版社が持ち込み原稿をどう評価しているかは、編集者のどんな誉めコトバよりも、見積金額を見ればはっきり分かるはずです。共同出版を選択するなら、著者をビジネスパートナーと見てくれるところと組まなければならない。著者を「カモ」としか見ないようなところとは、たとえどれほど実績や知名度があるところとでも組めない。そう心に決めて見積書を見てみました。――見た瞬間、目が点になりました。(次回に続きます。)

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