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2014年6月 1日 (日)

歴史的使命の人

 いま日本にとって最も重要な政治的課題と言えば何でしょう? 経済格差やワーキングプアの問題を挙げる人もいるでしょう、少子化問題だと言う人もいれば、TPP問題こそ喫緊の政治的課題だと考えている人もいるに違いない。しかし、集団的自衛権に関する問題が、何を措いても最優先に議論すべき課題であると感じている人はほとんどいないのではないかと思います。安倍内閣はこの優先順位の評価ということについて、一般の国民とはまったく異なる裁定を下しているようです。連日この話題がトップニュースとして報じられているのを見るにつけ、この国の政治はいまどこに向かおうとしているのかと不安を感じずにはいられません。

 安倍総理大臣を支持する人もそうでない人も、安倍さんという人がふつうの総理大臣ではないという点は、肝に銘じておくべきだろうと思います。以前、この人の著書についての感想をこのブログに書いたことがありましたが、その時に感じたのは、安倍晋三という人は、生まれついての「歴史的使命の人」なのだということでした。岸信介という戦後の名宰相の孫であり、父親も大物代議士だったという超一流の政治家ファミリーのなかで、子供の頃から自分は特別なのだという強烈なエリート意識を持って生育したのがこの人です。そのことがどのページからも感じ取れる、そんな印象の本でした。私はここで、安倍さんがエリート意識むき出しの鼻持ちならない政治家だと言いたいのではありません。この人は愚直なまでに一途に自分の使命というものを信じており、おそらくはそれに殉じる覚悟さえ持っている、何というか一種の宗教家のような人物という印象を私は持っています。ただ、そうした人物はいまこの時代の総理大臣として、一番ふさわしくないタイプではないかとも思うのです。

 現在、東アジア情勢が緊迫しているなかで、日本が集団的自衛権の行使を世界にアピールすることに対しては、一定の支持も得られるのだろうと思います。でも、考えてみれば、その緊張関係というのは安倍さん自身が演出したものでもある訳ですよね。現役の総理大臣としては7年ぶりに靖国神社を参拝したり、慰安婦問題に関する政府見解を覆したりしている訳ですから。自分で危機を煽っておいて、その危機に対応するために集団的自衛権が必要だというのは、まさにマッチポンプです。別に安倍さんご自身は、意図して中国や韓国を挑発しているつもりはないのだろうと思います。むしろこの人のなかには、アメリカとの同盟を対等なものにして、日本を属国のような状態から解放したいという強い思いがあるだけなのだと思う。そのための自主憲法であり、集団的自衛権なのです。現在の世界情勢にかんがみて、それが必要だと判断している訳ではない。それは自民党結党以来の悲願であり、それこそが彼の使命であり、彼は歴史的使命の人なのだから。

 ヒットラーの例を持ち出すまでもなく、歴史的使命の人を国のリーダーに据えておくことは、非常に危険なことではないかと思います。実を言えば今回の記事を、私は最初「安倍総理はサイコパスか?」というタイトルで書き始めたのです。さすがにそれはあんまりだと思って、穏健なタイトルに差し替えたのでした。しかし、私自身の印象はそれなのです。とにかくこの人物の仮面のような表情からは、ふつうの意味での人間性のようなものが感じられない。たぶんそれは彼と会見した各国の首脳も感じ取っていることではないかという気がします。集団的自衛権に対する強い執着は、その病的な一面の現れでしょう。ひとりの人間の心理的アイデンティティと結び付いた問題である以上、これを政治的なコレクトネスの問題と捉えること自体が虚しい。政治家に限らず、さまざまな分野で、歴史的な使命を担わされているとしか思えないような人物が現れることがあります。しかし、それは本人がそう自覚していたかどうかではなく、後世の人々によってそのように判定されるのであって、むしろ本人には自分が歴史的な偉業を成し遂げつつあるなどという意識は無いのがふつうでしょう。歴史上の偉人に多く見られる「無私」というものが、この人には決定的に欠けています。

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コメント

>この人は愚直なまでに一途に自分の使命というものを信じており、
おそらくはそれに殉じる覚悟さえ持っている、
何というか一種の宗教家のような人物という印象を私は持っています。<

>むしろこの人のなかには、
アメリカとの同盟を対等なものにして、日本を属国のような状態から
解放したいという強い思いがあるだけなのだと思う。<

>それは自民党結党以来の悲願であり、それこそが彼の使命であり、
彼は歴史的使命の人なのだから。<

>ひとりの人間の心理的アイデンティティと結び付いた問題である以上、
これを政治的なコレクトネスの問題と捉えること自体が虚しい。<

>歴史上の偉人に多く見られる「無私」というものが、
この人には決定的に欠けています。<

危ない人を担いでしまったなあ。。。
愚直と言う割にはけっこう狡猾ですけどね。
憲法改正の正攻法ではダメと分かったなら解釈論に向きを変える。
拉致問題を政治カードに使うタイミングを心得てる。

狡猾で一途で強い思い、を持って政治のトップに立たれたら、
手段が目的を凌駕する愚がまた始まりそうです。

投稿: ロシナンテ | 2014年6月 5日 (木) 22時21分

なんだかほんとに危ない人物を総理大臣に担いでしまった気がします。昭和の亡霊が永田町によみがえった感じ。政権担当能力は無かったけど、私は民主党政権時代の方が百万倍も良かったなあ。

投稿: Like_an_Arrow | 2014年6月 7日 (土) 11時29分

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