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2012年7月22日 (日)

生活保護の廃止から始める社会改革(2)

【2】 施設内での労働と報酬について

 現在の生活保護制度の何が一番の問題かと言えば、支給されるお金で最低限の生活は保障されても、受給者の「生きがい」に関しては何ひとつ保証されないという点ではないでしょうか。生活保護の問題をそんなふうに捉える人は少ないと思いますが、私の捉え方はそれです。民主党政権になってから、生活保護受給者が急増した背景には、若い勤労世代の人たちが広く制度を利用することになったという事情があります。不景気でリストラされた派遣社員の人たち、なかなか定職に就くことの出来ない失業者の人たち、ひと昔前なら行政の窓口で門前払いされていたそうした「働ける人たち」が、派遣切りといった社会現象がマスコミに取り上げられるなかで生活保護の対象として認められることになった。いったん受給者になってしまえば、もう最低賃金で働く生活には戻れません。働いても生活保護で受け取っている以上の給料を稼ぐのは容易ではありませんし、働けば当然のことながら生活保護は打ち切られてしまうからです。こうして生活保護制度は、憲法が定める「勤労の権利と義務」を自ら否定するものとなってしまったのです。これは社会にとって損失になるだけではなく、勤労から疎外される受給者本人にとっても大きな損失となるものです。すなわち生きがいの喪失という損失です。

 共同住宅をベースにした生活保障制度では、この点が違います。ここに入居する人たちは、その能力に応じて働くことを義務付けられるからです。もちろん現在の生活保護受給者のなかには、高齢者や障害を持った人も多い訳ですから、重労働には耐えられないということも多いだろうと思います。が、ここでの仕事は、派遣労働者を使い捨てる企業の仕事とは違います。8時間のフルタイム労働である必要はないし、顧客からのクレームにさらされるような仕事でもない。生活を共にする仲間たちのためのいわば家事労働に近い仕事です。お年寄りから子供まで、200人からの入居者が生活して行くのですから、必要な仕事はいくらでもあります。現物支給された食材を調理して、200人分の食事を作るのは入居者の仕事です。過去に調理人として働いていた人がいれば、とても助かりますね。過去に経験が無くても、将来調理人になりたい人がここで研鑽を積むというのもいいと思います。この施設は職業訓練の機会も提供するのです。高齢者が多いことから、介護のニーズも大きいでしょう。将来介護ヘルパーとして自立したい人にとっては、ちょうどいい訓練の場になります。クルマが運転出来る人は、配給物資の運搬や通院が必要な人の送り迎えに活躍してもらいましょう。ここで生活する子供たちが、将来再び貧困に陥らないよう、教育の機会も提供してあげたい。教師や塾講師の経験がある人は、施設内で学習塾を開いてはどうでしょう。もちろんその他にも、館内の清掃、風呂の準備、設備の保全、庭の手入れなど、施設の運営に欠かせない仕事はいくらでもある。入居者がそれぞれの特技を活かして仕事を分担して行く、それが基本的なルールです。構造改革派は好んで「自助」というコトバを口にしますが、彼らはそのための具体的な施策を示さない。私は構造改革派ではありませんが、貧困世帯のための共同住宅は、「自助」というテーマに対するひとつの現実解になると思っています。

 施設内の仕事が入居者の自助によって賄われると言っても、もちろん施設の運営そのものを入居者の自治に任せる訳ではありません。この施設の運営を、中央政府(たぶん厚生労働省)が直接担当するか、地方自治体に委託するかといったことは今後検討が必要ですが、行政の厳格な監督下に置かれることには変わりありません。専任の管理者が常駐するか、管理チームがその地区の複数の施設を巡回するかなどして、行政の主導によって入居者への仕事の割り振りや管理が行なわれることになります。もしも入居者のなかに、働けるのに働きたくない人がいたらどうするか? そういう人は退去させるか、または最初から入居を断るべきでしょうか? いや、この施設は生活保護に代わる最後のセーフティネットなのですから、そうした選別はすべきではありません。もしも同居人のなかに、よく働く人とほとんど働かない人がいたら、働く人から不満が出るのは当然です。でも、そうした不公平を是正する仕組みも用意してあります。ここでの仕事には(少ないながらも)報酬が出るのです。もちろん企業で働く時のような金額は出せません。時給にして200円くらいが妥当なところでしょうか。これは1日8時間、月に25日間働いて、5万円になる程度の金額です。国が定めた最低賃金以下ですが、これは賃金として支払われるものではなく、「自立支度金」という名目で支払われるものなので、最低賃金法には抵触しません。実はこの部分のアイデアが私の政策提言のセールスポイントなので、少々細かいルールになりますが、もう少し説明しておきます。

 ポイントは、施設内の労働に対して支払われる報酬は、そのまま本人に現金で渡される訳ではないということです。それは行政が管理する本人名義の銀行口座にプールされるのです。働いた本人のお金であるには違いないのですが、本人が自由に使えるようなお金ではないということです。では一体いつそれを使えるのか? 施設を出て自活を始める時に使えるのです。共同住宅に入居するためには、生活保護と同様、資産を持っていないことが条件になります。しかし、ここで生活しながら働けば、自分の口座に少しずつお金が貯まって行く。それで部屋を借り、家財道具を揃えて、自立するという途が用意されているということです。口座に貯められる自立支度金の額には上限を設けます。最高50万円までとしましょう(以前の記事では100万円としていましたが、それでは多過ぎる気がします)。50万円あれば、部屋を借りて、最低限の生活用品を揃えて、引っ越しまで出来ると思います。もしも勤労者が二人いる世帯なら、最高100万円の自立支度金になる訳で、子供がいたとしても自立には十分な額です。もしも個人口座に50万円が貯まったら、すぐに施設を追い出される訳ではありません。自立するためには、支度金を貯めるだけではなく、定収入を得られる仕事を持つ必要があります。その条件が整わないうちに施設を追い出されても、50万円を使い果たした時点でまた施設に舞い戻って来てしまうだけでしょう。だから自立支度金が限度額まで貯まっても、施設に居続けることは出来るものとします。但し、これ以降いくら施設内で働いても、それはタダ働きになってしまいます。(そのことで勤労意欲を失ってしまうという問題については、また後で考えます。) 厳しいルールのようですが、これは仕方がありません。施設に10年間入居して、500万円貯めて出て行ったなんていう前例を作る訳にはいきません。ここで支払われる報酬は、もとは国民の税金なのですから。

 生活保障制度を設計するに当たって重要なことは、働く能力を持った人をいかにスムーズに社会復帰させられるか、その道筋を描くことだと思います(生活保護がダメなのもその点です)。以前の記事でも、共同住宅に入居しながら外部の民間企業に〈通勤〉することを奨励していましたが、これは自立のための第一歩として大事なことです。企業に就職出来た人は、(いくらこの施設の居心地が良くても)自立する方向で努力してもらわなければならない。そうでなければ、全国1万ヶ所の施設がすぐにパンクしてしまうでしょうから。ただそのためには、施設としても就労を支援する仕組みを作っておかなければなりません。とても有能で、入居者からも人気のある調理人だったとしても、外部の飲食店に就職が決まれば、気持ちよく送り出してあげましょう。また就職による自立に際して、本人が口座に自立支度金を十分貯めていない場合には、最長2ヶ月間は施設からの通勤を許可するといった特例も設ける必要があります。問題は、就職は決まったけれども、そこで得られる給料が自立するために十分な金額に達していないといった場合です。日本では最低賃金が法律で決められていますから、フルタイムの従事者であれば給料だけで生活して行ける筈ですが、現実にはそうでない場合も多いでしょう。高齢者や身体の弱い人など、短いパートタイムで働きたいという人も多いと思います。彼らは現金収入を持っているので、もしも施設からの通勤が許されるとすれば、施設内の労働を免除される上に自由に使える現金を持つという〈特権階級〉になってしまう。これは施設内で働いている入居者から見て面白くありません。

 この問題は、自立するためには少な過ぎる金額しか貰っていない年金受給者についても当てはまります。現在の生活保護制度には、賃金収入や年金収入があっても、それが一定の基準に満たない場合は、不足分を生活保護費として補うという仕組みがあります。共同住宅という制度のなかで、これと同等の仕組みをどのように実現するかという問題があるのです。これはしかし解決が難しい問題ではありません。現金収入のうちの一定の割合を施設が入居費として徴収すればいいのです。地域によって生活保障の対象となる最低収入は異なると思いますが、徴収する比率は全国一律で構いません。例えばそれを70%としましょう。夫婦ふたりで国民年金を月に8万円受け取っている世帯が、生活保護費として月に7万円支給されていたとします。生活保護が廃止された後、この夫婦が共同住宅に入居した場合、7万円の生活保護費の支給が無くなる上に、8万円の年金の7割(5万6千円)を施設に徴収されてしまいます。その代わり、冷暖房付きの2部屋ある居室と3度の食事、その他生活に必要な一切のものが保障されるのです。しかも徴収された残り(2万4千円)は毎月の小遣いとしてキープ出来るとなれば、他の収入を持たない入居者から見れば、羨ましいような境遇です。でも、だからと言って彼らが妬まれる筋合いはありません、彼らが毎月納める5万6千円の〈上納金〉は、施設の運営費に加算され、そこでの生活の質を高めるために使われるのですから。これはすべての入居者にとって歓迎すべきことです。パートタイムで近所のスーパーに働きに出る人も、貰った給料の7割を施設に納めなければなりません。この人には施設内の仕事を手伝えないという負い目があるかも知れませんが、自分の稼ぎで施設運用を助けているということで、その負い目は相殺されるでしょう。もちろん働くのが好きな人は、施設の仕事と外の仕事を掛け持ちでこなしてもいいのです。

 最近、国民年金への加入率が下がっているそうです。将来の生活保護受給を当てにして、若い人が年金を払わないという事態が発生しているのです。これこそ明らかに生活保護制度の欠陥だと思うのですが、共同住宅による生活保障が実現すれば、こういう事態も解消されるのではないかと思います。若い時から年金に加入しておけば、老後、不幸にして共同住宅に入居することになったとしても、そのなかで(多少は)リッチな生活が送れるという目算が働くからです。もちろん国民年金の最低額より生活保護費の方が高いという、理不尽な逆転現象も無くなります。施設の運営に関わる内部の仕事と、入居者の自立につながる施設外の仕事の割合をどうバランスを取るかということは、この制度を持続可能な社会保障制度にしていくために重要なテーマです。そのバランスを調整するためのファクターとして、いま説明した現金収入に対する上納金の割合と、もうひとつ入居者が毎月受け取る「小遣い」の額を変動させるというアイデアがあります。いくら最低生活保障のための共同住宅とは言え、日常で使える小遣いがまったく無いのでは生きている楽しみが無い。当然、一定の範囲で入居者には小遣いが支給されるのですが、施設内の労働報酬の一部をその小遣いに上乗せすることが出来るというルールを追加してはどうだろう? それがあれば、下ろす当てのない自立支度金が満額まで貯まっている人でも、施設内の労働に対してモチベーションを持ち続けることが出来るのではないか? 次回はこのアイデアも含め、施設運営にまつわるお金の問題をもう少し考えて行くことにしましょう。

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コメント

>施設に10年間入居して、500万円貯めて出て行ったなんていう前例を作る訳にはいきません。<
これが何故NOなのかの根拠を教えて欲しいです。

ちなみに、住宅手当制度&総合支援資金貸付制度ってなものが存在してます。 私もお世話になりました。

投稿: turusankamesan | 2012年7月23日 (月) 01時29分

これを許すと、入居資格の制限との間に矛盾が出来てしまうからです。現在の生活保護制度も、1ヶ月の生活費を超える現預金を持っている人は受給出来ない筈です。後ほどまた考察しますが、今回の共同住宅も多少のまとまった資産を持っている人は入居出来ないルールなのです。

投稿: Like_an_Arrow | 2012年7月24日 (火) 00時13分

受給申請時の預貯金と、受給中に倹約して作った預貯金とを混同されてませんか。

施設に入居中は保護生活者でしょう。
当人が施設を利用して作った預貯金と、
現在の制度で当人が保護費を倹約して作った預貯金とで、
どんな違いがあるんでしょうか。

投稿: turusankamesan | 2012年7月24日 (火) 00時31分

生活保護受給前の資産審査が制度上正当なことであるなら、受給後の資産形成に規制をかけることだって正当なことではないでしょうか。生活保護を受けている人が、たまたま3億円の宝くじを当てたとしたら、支給を打ち切られるのは当然でしょう? 3億円はダメだけど、500万円なら許されるという理屈は無いと思います。それとも倹約の努力によって貯めたお金と、宝くじで当てたお金は違うと言いますか? 心情的には倹約と貯蓄の努力を認めてあげたい気もしますが、そもそも「貯蓄」ということが、生活保護制度の主旨に反するものだというのが私の意見です。(もちろん月によって多少の倹約をして、貯めたお金でたまの贅沢をすることまでは否定しませんが…) 今回の共同住宅の入居資格については、このあとまた検討する予定なので、そこでまたご意見をいただけたらと思います。

投稿: Like_an_Arrow | 2012年7月25日 (水) 00時27分

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