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2012年6月24日 (日)

ドラクマとユーロを併用したらどうだろう?

 世界中が注目するギリシャの再選挙は、緊縮財政路線の継続を表明する中道左派の新民主主義党が第一党の座に着きました。とりあえずこれでギリシャのユーロ離脱は避けられたというのが市場の見方です。とは言っても、これでギリシャの経済破綻が避けられた訳ではありません。政権が代わっても、ギリシャ政府が抱えている莫大な借金が無くなる訳ではないし、緊縮財政だけでは国内経済が上向く可能性も小さいからです。むしろ破局を先延ばししただけという印象を拭えない。ギリシャに関しては、早々にユーロから離脱して元のドラクマに戻る方が、経済を回復させる近道だという意見もあります(ドラクマというのは、紀元前から続くギリシャの伝統ある通貨です)。それをさせないのは、ユーロ圏に留まりたいというギリシャ国民の強い想いというよりも、ユーロの信用を守りたいドイツやフランスの思惑ではないかという気がします。

 私は以前から、デフレ経済からの脱却や円高への対応のために、日本の国内通貨を二重化してはどうかという提案を繰り返して来ました。国際的な信用を確立している日本円とは別に、もっと身近なところで国民生活を支える「国内限定通貨」を政府が発行するというアイデアです。全国統一の地域通貨を導入する試みと言ってもいい。詳しいことは別のところで書いたのでここでは省きますが、これはいまのギリシャにも応用出来るものではないかと思い付きました。演習問題としても面白いテーマなので、今回はギリシャ経済を二重通貨制によって復興させるアイデアについて少し考えてみたいと思います。いまギリシャは、ユーロ圏に留まるかドラクマに回帰するかで国論が二分されている訳ですが、そんな二者択一で考える必要はない、ユーロ圏に留まったままでドラクマも復活してしまえばいいではないか、そういう提案です。

 「そんな提案は非現実的だ、財政規律上も許される筈がない」――たぶんそんな反論がすぐに出て来るでしょう。しかし、ギリシャにもあるかどうか分かりませんが、ユーロ諸国のなかには町単位でユーロとは別に地域通貨を発行して、地域経済の活性化を図っているところがいくらでもある訳です。ユーロの規約のなかにそれを禁じる条項は無いのだと思います。であるならば、人口1100万人のギリシャが、国として「地域通貨ドラクマ」を復活させるという発想だってあっていいと思う。但し、この新ドラクマは、従来の地域通貨とは少し異なった方式で流通させる必要があります。それは主に次の2点です。①ドラクマ紙幣とユーロ紙幣は互いに交換不可とすること、②ドラクマには貨幣そのものに減価する性質を持たせること。①はユーロ圏に属する国として、財政規律の面から絶対に必要なルールです。もしもドラクマとユーロが交換可能で、ギリシャ政府が自由にドラクマ紙幣を印刷出来るとすれば、ギリシャがユーロの発行権を持ったのと同じことになってしまう。これは欧州中央銀行が許しません。このことは交換レートを調整すれば解決するといった問題ではなく、通貨の本質に関わる問題です。②の減価性ということは、新ドラクマを持続可能な通貨にするためにぜひとも必要なルールということになります。でも、こんな説明では全然イメージが湧きませんよね。具体的にギリシャ政府が何をするのかを見て行く方が早いでしょう。

 新ドラクマの発行と同時に、ギリシャ政府は政府支出の一律2割をドラクマで支払うことを宣言します。抜き打ちで突然やるのではありません、国民(とユーロ諸国)に対して、その通貨政策の意義と目的を十分に伝えた上で、準備期間を設けて実行すればいいのです。公務員給与や年金、各種の補助金や生活保障費、政府調達の支払い、その他政府の財布から出るお金はすべてユーロ80%とドラクマ20%という比率になります。ドラクマは政府通貨なので、発行の裏付けとなる国債の発行や政府資産なども必要ありません。つまり、これだけで政府支出は(緊縮財政の痛みを伴わずに!)2割カットが出来るということです。ドラクマは、公務員や年金受給者や生活保障を受けている個人を通して、また政府の仕事を請け負っている民間業者を通してマーケットに出て行きます。このあと、ドラクマの流通は出来るだけ市場の自由な働きに任せることが原則になりますが、最低限のルールは政府が決めておく必要があります。それは例えばこんなルールです、「取引においては1ドラクマ=1ユーロというレートを厳守すること」、「ドラクマを受け取るかどうかは売り手側の決定によること」、「取引価格に占めるドラクマの割合は最高20%までとすること」、「民間企業の給与も、労使の合意を前提に最高20%までドラクマでの支払いを可とすること」…。ここで挙げた20%というのが妥当な数字かどうかは、別途検証が必要になりますが、要するにこれは国内GDPの2割をドラクマに移行するというギリシャ政府の意思表示になるのです。

 いくらギリシャ政府がドラクマを普及させようとしても、国民がこれに見向きもしなければ新通貨は流通せずに終わってしまうでしょう。しかし、おそらくドラクマが流通することになるこれだけの理由があります。ひとつはギリシャ国民のユーロに対するアンビバレンツな感情です。ギリシャは2001年のユーロ加盟以来、高い経済成長を続けて来ました。ところがそれがバブル景気に過ぎなかったことを、リーマンショック以降思い知らされたのです。出来ることならユーロに加盟する以前の経済に戻りたいと考えている人も多いでしょう。だから新通貨はやはり「ドラクマ」というネーミングであることがふさわしい(新ドラクマは旧ドラクマとは貨幣価値が異なるし、お札のデザインも違ったものになるでしょうが)。もしかしたら国民からは熱烈な歓迎を受けるかも知れません。ドラクマが普及するもうひとつの理由は、(いつも言っているように)市場原理の法則によってです。市場ではドラクマを扱うことが客寄せになりますから、店の経営者たちのなかには、限度額(20%)ぎりぎりまでドラクマでの支払いを受け入れようとする人も現れるでしょう。そのためには仕入先もドラクマを受け取ってくれる業者を探さなければならない。こうして国内の流通の一部分が自然にドラクマによって占められるようになる。ドラクマはギリシャ国内限定の通貨ですから、地産地消を促進し、国内産業を潤す役目も果たします。つまり政府の財政が健全化すると同時に、民間の経済も活性化するという一石二鳥の経済政策になるのです。

 次に減価性の問題です。ドラクマは政府が持つ〈通貨発行特権〉によって自由に発行出来るお金ですから、これを回収して市中の流通額を一定に保たなければインフレを起こしてしまいます。政府通貨を回収する最もオーソドックスな方法は税金です。しかし、税金の支払いの一部をドラクマで受け付けることは、端的にユーロ部分の税収を減らすことですから、せっかくの財政再建効果にブレーキをかけてしまう。またドラクマが市中で流通する代わりに税として吸い上げられてしまうと、民間経済に対する新通貨の効果も限定的になってしまうでしょう。そこでドラクマは最初から「減価通貨」として設計することが必要になります。時間の経過とともに額面価格が目減りしてしまうようなお金のことです。それをどのような仕組みで実現するかということは、説明が長くなるので今回は割愛します。「スタンプ紙幣」だとか「減価する電子マネー」といったキーワードで検索すれば、いろいろなアイデアがあることが分かっていただけると思います。市中に流通するドラクマの総量(マネーサプライ)は、設定される減価率によって一定に保つことが出来ます。政府通貨は、ドルやユーロや円のような銀行マネーとは違って、政府の厳格な統制下に置かれなくてはなりません。減価通貨は減価率を調整することで、流通量と流通速度をある程度自由にコントロール出来るので、政府通貨の発行形態としてもふさわしいのです。

 ギリシャによるドラクマ・ユーロ併用制は、他のユーロ諸国からも好意的に受け止められるのではないかと思います。ギリシャのユーロ部分のGDPが2割縮小することは、ユーロ経済圏全体にとってマイナス要因ですが、もともとギリシャのGDPがユーロ全体に占める割合は3%にも満たないのです。それよりも、ギリシャの財政が安定して、ユーロの信用が守られることの方がずっと大きい筈です。もしもこの試みがうまく行けば、財政危機に陥っている他のユーロ諸国にとってのお手本にもなります。ゆくゆくは、ユーロ圏全体で二重通貨制が採用されるかも知れない。――このアイデアは決して奇策でも何でもないという点を最後に強調しておきます。いま世界では、国内の経済が悪化すればするほど、失業率が上がり、国の生産性が落ちるというジレンマがあちこちの国で起こっています(日本も同じです)。これは奇妙な話ではありませんか。ギリシャ人が勤勉に働かないので、財政危機に陥ったなんて言われていますが、ギリシャの若者の失業率は50%を超えているのです。つまり働きたくても働けない状況がある訳です。みんなが一生懸命働いて、国の経済を上向かせなければならない時に、失業率だけが上昇するという不条理。その原因はいろいろあるでしょうが、根本的なことはユーロが実体経済を支える通貨として有効に機能していないからだと思います。グローバリズムの進展のなかで、ユーロは実体経済から遊離して、金融投機の対象となってしまった(日本円も同じです)。地域通貨の導入というのは、グローバル経済のこの歪みを解消するという健全な思想に基づいたものです。それは経済をもう一度生活者の手に取り戻そうという国民の願いにも沿ったものであるのです。

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