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2012年4月 1日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(7)

【7】 エコ通貨は持続可能な社会をもたらすか?

 減価する政府通貨というものが、国内産業を振興する仕組みについて説明して来ました。今回はその応用で、持続可能な社会の実現のためにも、この新通貨が一役買うかも知れないという点について述べます。連日のニュースでは、東京電力が法人向けの電力料金を平均17%も値上げしようとしていることが報じられています。今週、東電の原発がすべて停止しましたが、原子力発電よりも火力発電の方がコストが高いというのが値上げの理由です。東電は、原発事故の処理費用や賠償金がコストを圧迫しているとは口が裂けても言いません。しかし、お金に色はついていませんから、値上げ分の一部は事故処理にも使われると考えていい。当然、産業界からは大反対の声が上がっています。こうした状況のなか、電力の自由化を急いで、電力供給にも競争原理を取り入れるべきだという意見をよく耳にするようになりました。私も電力自由化には賛成ですが、しかし価格競争によって自動的に安くて質の高い電力が供給されるようになるかと言えば疑問です。火力発電に使う化石燃料は、長い目で見れば、価格が上がることはあっても下がることはないでしょう。太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーは、まだまだ高コストで、国の補助金なしではやって行けないのが実情です。価格を競おうにも、企業努力で出来ることは非常に限られています。

 単純なコスト比較をすれば、再生可能エネルギーが火力に(ましてや原子力に)太刀打ち出来るようになるのは、よほどの技術革新でも無い限り不可能でしょう。ただ、電力事業者のコスト構造にまで踏み込めば、そこにひとつの可能性が見えて来ます。原子力発電所や火力発電所のコストのなかで大きなウェイトを占めているのが燃料費です。特に液化天然ガスを使う火力発電では、発電コストの6割程度が燃料費になります(原子力の場合は2割程度だそうです)。一方、太陽光発電や風力発電では、基本的に燃料費はただです。水力発電、地熱発電、潮力発電なども同じですね。つまり再生可能エネルギーというのは、燃料費がかからない発電方式だと言い換えてもいいと思います。それなのに何故再生可能エネルギーの方が高くつくかと言えば、燃料費以外の経費が高いからです。発電効率そのものは問題ではありません、単位発電量当たりの経費が高いというところが問題なのです。その経費のなかでも大きなウェイトを占めるのは、設備費と人件費でしょう。ソーラーパネルは安くなって来たとは言え、まだまだ高価なものですし、それ以前に陽当たりの良い広大な土地が要る。風力・水力・地熱発電なども、大規模な設備投資が必要な点では同じです。ただここで注意すべきことは、ソーラーパネルにしても、風力発電用の風車にしても、またダムや地熱発電設備にしても、国内生産が可能なものばかりだということです。つまりエコでの調達が可能なのです。設備のメンテナンスにかかる人件費に至っては、純国産の資源ですから、最もエコの使いやすい調達物です。ひと言で言えば、再生可能エネルギーはエコと親和性がいいということです。いや、設備費や人件費が国内で調達可能であることは、火力発電所や原子力発電所でも同じではないかという反論が返って来そうですね。でも、コストの内訳が違います。火力発電所のコストに占める燃料費の割合が60%だということは、火力発電所から送られて来る電力の60%は輸入品だということです。それに対して太陽光発電所や風力発電所で作られる電力は大部分が国産です。

 考えてみれば、資源小国である日本が「地産地消」を推進すれば、自然の成りゆきとしてエコロジカルな社会に近づくのは理の当然です。燃やすべき石油が採れないのだから、CO2を大量に排出すること自体不可能な訳だし、国産のウランが無い以上、原発だって止めるしかない。国内で生産出来るエネルギーは、ほとんどが再生可能エネルギーだけなのです。にもかかわらず現状では国内で消費されるエネルギーの大部分は輸入に頼っている。何故か? 単一通貨に基づく経済原理のなかでは、他に選択肢が無いからです。そこでは地域経済というものの可能性がまったく排除されている。もしもエネルギーにかかるコスト構成を、輸入部分と国産部分とに分解して、国産部分には為替レートに影響されない別の経済原理を当てることが出来るなら、発電業者にとっての採算性の概念も大きく変わるかも知れないのです。原発事故以来、発電コストという考え方が私たち国民にも親しいものとなりました。火力なら1kwhを10円以下で発電出来るのに、風力では15円、太陽光では40円くらいかかるということを私たちは知っています。それだけを比較すれば、再生可能エネルギーにはとても価格競争力など無いように見えます。しかし、そこにエコが絡めば話は違って来る。火力発電所の10円のコストのうち、6円分は輸入燃料に由来するものですから、残りの4円の経費のうちの半分をエコで賄ったとしても、日本円での8円のコストは削れません。一方、15円相当の風力発電コストがすべて国内由来のものであったとすれば、半分をエコで賄うことで日本円部分のコストは8円以下に抑えられる。まあ、人件費や設備費の半分をエコで支払うことは現実的ではないかも知れませんが、両者の価格差がかなり縮まることは確かです。(太陽光発電は現状ではあまりに高コストです。これは将来の技術だと見るのが妥当です。)

 この考え方はエネルギーだけでなく、資源のリサイクルについても当てはめられます。いま中国のレアアースに対する輸出規制が問題になっています。ハイブリッド車の充電池などにも欠かせないレアアースは、全世界の産出量の9割以上を中国に依存しているのだそうです。これを止められたら日本の製造業は大打撃を受けます。一方で「都市鉱山」というコトバがあるように、レアアース(希土類)を始めとするレアメタルは、国内の資源ゴミのなかにも大量に眠っています。ただ、それを取り出すのには高いコストがかかる。いくら世界的にレアメタルが高騰していると言っても、これをリサイクルすることは(現状では)採算に合わない訳です。ところがここで見方を変えてみましょう。海外からレアメタルを輸入すれば、その分の日本円が(ドルに換算された上で)海外に流出します。国内の資源ゴミからレアメタルを回収することは、一企業から見ればコスト高かも知れませんが、海外への通貨の流出がほとんど無い分、国内経済にとってメリットがあるとも考えられます。資源ゴミを回収・分別して、そこから微量の再生資源を取り出すなんてことは、気が遠くなりそうなほど手間のかかる作業でしょう。が、地球全体の資源保護という面から見ても、それは間違いなく意味のあることです。少なくともそこに手間をかけることは、社会の持続可能性にとって良いことである筈です。海外からの輸入レアメタルと再生レアメタルを、同じ日本円のコストという指標で比較しただけでは見落とすものがそこにはあります。資源を発掘し消費し廃棄するという一連のサイクルを日本円が支えているとするなら、それを回収し再生するサイクルを支えるのがエコ通貨です。国内の人件費の一部をエコに置き換えることが出来るなら、そうした取り組みも加速されるだろうと考える訳です。

 ものを大切に使うということは、家計のためだけでなく、社会的な資源の持続性のためにも重要なことでしょう。ところが、ここ2、30年くらいに起こった変化ではないかと思いますが、ものを大切に使うことは美徳ではなくなってしまいました。故障した電気製品を修理に出そうとすれば、店員に新しい製品を買った方がいいと言われます。実際に、修理費と同じくらいの金額で性能の向上した新製品が買えたりする訳です。こうした消費はおかしいと心のどこかで思いながら、私たちはかなりの頻度でパソコンや家電製品を買い換えている。こうした問題も、経済を日本円とエコの二本立てにすれば解決の方向性が見えて来ます。故障した製品の修理費が、法外と思えるほど高いのは、それが国内の人件費だからです。中国の工場で大量生産された製品の値段が安いことに理由があるように、修理費が高いことにも理由があるのです。エコが流通する社会では、修理費の一部はエコで支払うことが出来ますから、新製品の価格と修理費のあいだには、消費者が納得出来るような価格のバランスが復活するのではないか。メーカーも修理のしやすさを前提にした設計をするようになるでしょうし、そうした製品は消費者からも受け入れられるだろうと思います。気に入った製品を大事に長く使うことは、成熟した現代の消費者のニーズにも合ったことだからです。企業にとっても、国内でメンテナンスのための技術者を育成・維持することは、技術の伝承という点でも意味のあることだと思います。歴史を大局的に見れば、これからはどんどん資源が稀少化して、リサイクルやメンテナンスの重要性が増すことは間違いありません。もともと資源が乏しい日本は、世界に先駆けてそのための新しい経済モデルを構築する絶好のポジションにいると言ってもいいのです。国内限定通貨は、それを推し進める強力なツールになります。

 もうひとつ、これからの日本が立ち向かわなければならない重いテーマが、少子高齢化への対応です。私はこれにもエコ通貨が解決の指針を与えてくれるのではないかと思っています。高齢者年金の支給開始年齢が、現在段階的に引き上げられつつあります。それにともなって企業の定年を65歳にまで引き上げることを法律で義務付けようとする動きもあるようです。これによって若年層の就職難がいっそう深刻化するという懸念もあります。これも大局的な目で見れば、おかしな話だと思います。もしも現在の日本に〈職の絶対数〉が不足しているなら、まだまだ働ける高齢者が増えることは若者にとって脅威だし、無年金の期間が生まれることは中高年にとって恐怖でしょう。しかし、いまの日本で足りないのは、職の絶対数ではありません、〈日本円をバリバリ稼ぐことが出来る職〉が足りないだけです。実際に福祉や介護といった分野では、慢性的な人手不足が続いています。給料が安いので、若い人を惹き付ける職場になっていないのだと思います。行政の補助はあっても、限界があります。こういう領域にこそ、エコを広めたい。60歳で定年を迎えて、年金支給年齢まで働きたい人の再雇用を、福祉・介護の分野で進めてはどうでしょう。それをするのは簡単なことで、60歳以上の職員に対しては、給与に占めるエコの割合の規制を緩和してやればいいのです。同じ福祉施設の職員に、同じ額の給料を支払う場合に、60歳以上の職員に対しては50%までエコで支給出来るといったイメージです。(逆に若い人を閉め出さないよう、総量規制のようなものは必要ですね。) もちろん60歳を過ぎても、日本円をバリバリ稼げる技能を持った人は、日本円の経済圏で活躍してもらっていい。それが国の経済のためでもあります。が、年金受給年齢まで食いつなぐ必要があるという理由だけで、一般の労働者が日本円の経済圏に寄生することを法律で保証するのは愚策です。

 どうでしょう。国内限定通貨(エコ)というものが、持続可能な社会の形成にどのように役立つか、イメージを持っていただけたでしょうか。簡単に言えば、それは最大の再生可能資源としての労働力をバランスよく活用するための仕組みだと言えます。グローバル経済の進展のなかで、労働力の価格差があまりに大きくなってしまったせいで、国内の質の高い労働者を企業は雇えなくなってしまっている。それを是正するためにエコ通貨は投入される訳です。さて、持続可能性というキーワードに絡めて、もうひとつエコを導入することの隠された意味を説明して、今回の記事を締めくくります。それは来るべき首都直下地震に対する備えとしても有効だろうということです。昨年の東日本大震災によって、日本は経済的にもたいへんな被害を被りました。その被害総額は20兆円、GDPの4%にも相当する金額だったそうです。しかし、首都直下地震が起きれば、被害はそんなものでは収まりません。1923年の関東大震災では、当時の日本のGDPの4割にも相当する社会資産が失われたと言います。それと同じ規模の震災が東京を襲えば、もはや日本円の信認も何もあったものではない。1万円札が紙屑同然になる…かどうかは分かりませんが、たいへんなインフレと経済的な混乱が全国をおおうことは必至です。そんな時、たとえ銀行が機能を止めたとしても、個人が持つICカードと店舗のカードリーダーがあれば、最低限の交換手段としてエコを利用することは出来る(電力も必要ですね)。金持ちも貧乏人も等しく最低限の購買力を与えられる訳ですから、生活物資の交換や配給のためには打ってつけの仕組みだと言えます。震災後の復興は、そこから始まるかも知れない…。まあ、そこまで言うと自分でも眉に唾をつけたくなりますが(笑)、将来起こるかも知れない大災害や財政破綻のことを考えると、日本円だけに頼り切ったいまの経済体制がとても危ういものに見えて来るのは事実です。

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コメント

国内の一般家庭向けの電力コストは、契約にも依りますがおおよそ23円/kwhといわれています。火力発電の燃料コストを6円/kwhとするとすると、燃料費はずいぶんと小さな割合ですね。火力発電コストの燃料費の割合が60%というのは、そのほかの設備償却ひや管理費の大きさを隠蔽するために電力会社が作り上げた神話ではないかと疑いたくなります。日本の電力価格が世界的にみて最高水準にあるのは、よく知られた事実です。今後、各電力会社による燃料費以外のコスト削減に期待したいと思います。政治主導で本気で取り組めば、再生可能エネルギーへのシフトによるコストの増加分の大半を吸収できそうですね。

投稿: | 2012年5月 2日 (水) 18時11分

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