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2012年3月18日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(5)

【5】減価するカード型電子マネー

 減価する電子マネーというものを実現するには、大きく分けて2つの方式がある、そう私は考えて来ました。ひとつは、減価の管理を銀行の口座管理コンピュータが一括して行なう集中管理方式、もうひとつは、カード型の電子マネーそのものにオペレーティングシステムを搭載して、プログラムによって減価させる分散管理方式です。それぞれ一長一短があります。集中管理方式では、店のレジに置かれるカードリーダーが、その都度銀行の口座を見に行くので回線に負荷がかかります。混雑するスーパーのレジなどでは客を捌き切れないかも知れません。その代わりセキュリティの面では優位性があると思います。カードそのものに残高を持っていないので、データを改竄される心配が無いからです(カードそのものを偽造されてしまえば、不正は防げませんが)。かたや分散管理方式の方は、基本的に回線を通じたデータの送受信が発生しませんから、処理速度という面では有利です。このことは小売の現場ではとても大事なことです。その代わり、電子マネー自体が小型端末としての機能を持たなければならないので、非常に高価なものになってしまうことと、ウイルスやハッキングといった危険性にもさらされるという問題がある。どちらも実用化という面では、大きな難点を抱えています。

 今回私が思い付いた方式は、もっとずっと単純で、現在の電子マネーと同じ技術で実現出来るような〈ローテクな〉仕組みのものです。コストも安上がりで済みます。カードそのものは、私たちがふだん使っているような厚さ1ミリ程度のプラスチック製のカードです。そこにICチップが埋め込まれていて、残高が記録されているのもふつうの電子マネーと変わりません。異なるのはカードリーダーの方です。コンビニなどに置いてある電子マネー用のカードリーダーは、支払い額を差し引いて新しい残高をICチップに書き込むだけのものですが、「エコ」用のカードリーダーはそこにもうひとつ新しい機能が追加されます。つまり、カードをリーダーにかざすと、まずは今の残高とその残高を記録した最新の日付を読み取り、その日付と現在の日付のあいだの日数を計算して、その間の減価額を残高から差し引く処理を最初に行なうのです。あとの機能は通常のカードリーダーと変わりません。これだけの仕組みで減価する電子マネーが実現出来てしまう。なんで今までこんな簡単なことに気付かなかったのだろう?(笑) もちろん多少の不便さはあります。自分が携帯しているカードの現在の残高が持ち主にも分からないという問題です。先週の日曜日には確かこれだけのエコ残高があった筈なんだけど、今いくらなのかはカードリーダーにかざしてみなければ分からない。(分散管理方式ならカード上に残高が表示されますし、集中管理方式ならインターネットで自分の口座残高を照会するという方法があります。) しかし、これはそれほど問題とすべきことでもないでしょう。誰だっていま自分の財布にいくらお金が入っているか、1円単位まで正確に把握している人はいない訳ですし、エコを使い慣れて来れば、1週間で約5%弱目減りするということも、感覚としてつかめるようになるでしょう。

 エコを使う上で注意すべきルールがあります。それはエコはあくまで日本円の代替通貨として、売り手が許容する金額の範囲内で使えるものであるけれど、必ずしも利用可能な限度額と同額を払い出す必要は無いというルールです。これはエコがクーポンの一種だということを思い出していただければ、納得のいくことだと思います。600円のランチセットを食べるのに、100円分のクーポン券を持っていれば500円の支払いで済みますが、たとえクーポンを持っていなくても600円払えば食べられます。これは当たり前のことですね。だから仮にカードのエコ残高が、利用可能なエコの金額に対して不足している場合にも、不足分は日本円で支払えば問題ない訳です。カードに残高が十分ある場合に、支払い側がエコの払い出し額を指定するというオプションは認めないことにしましょう。エコは使うか使わないか、2つに1つを選べるだけです。ただカードの残高がエコの利用可能限度額に満たない場合のみ、カードの全額を払い出して、不足分を日本円に振り替えることを店のレジが自動的に行なうということになります。何故そんな些末なルールにこだわっているかと言うと、店頭での支払い手続きをスムーズなものにしたいがためです。政府クーポンの導入によって、スーパーやコンビニのレジに長い列が出来るようでは、消費者からは歓迎されないでしょうから。エコ導入後は商品の価格表示も変わります。例えば100円の商品が2割までエコの支払いオーケーならば、「¥100(§20)」といった表示になるのです(§を仮にエコの通貨記号とします)。これは「日本円で100円の商品で、そのうち20円分はエコでの支払いも可」という意味です。エコを扱う店では、こうした表示が義務付けられます。客はそれを見て、自分が持っているエコ残高も考えながら買い物をすることになります。

 これに関連して企業間の支払いルールについても付記しておく必要があります。企業間の取引でも一時的にエコ残高が不足して支払不能に陥ることがあり得ます。エコはなるべく口座で持ち越さない方が得な通貨ですから、そういう事態はもしかしたら頻繁に起こるかも知れません。これは経済を混乱させる原因になります。以前の記事では、これを避けるために、企業の支払いでもエコが足りない場合は日本円で補填するルールにしていましたが、今回これは撤回します。それでは相手の取引先にとって予定していた入金予定額に誤差が生じ、会計処理に余計な負担をかけることになってしまうからです。新方式では、エコ口座は一時的にマイナス残高になることを許容することとします。これによってエコの支払いを滞らせないということです。これで企業同士が契約したとおりの金額での日本円とエコの支払いが保証されることになります。ところがひとつ問題があります。エコは減価貨幣ですから、口座のマイナス残高も毎日0.72%の割合で減って行くのです。だったら口座残高は常にマイナスにしておいた方が得じゃない?(笑) マイナス残高が許されるとなると、企業は売る時にはエコを少なく受け取り、買う時には多く支払うということが可能になって、エコの正常な流通が成り立たなくなってしまう。ここは是正策が必要です。支払日(毎月15日)に2か月連続で残高がマイナスだった業者は、エコの取り扱い業者としての資格を停止する、または口座のマイナス残高に(日本円での)高い罰金を科すといったペナルティを設けてはどうでしょう。エコは政府が発行する正式な通貨ですから、厳格な法の規制のもとに運用されるのです。

 小売の現場に話を戻します。エコ通貨が本格的に流通する前に、店のレジシステムもそれに対応したものに改修しておく必要があります。商品のバーコードを読んで、日本円とエコの金額をそれぞれ別に足し上げ、最初にカードでエコの合計額を引き落として、次に日本円の残高を支払うという一連の手続きをスムーズにこなせることが必要です。そのためには、エコのカードリーダーとレジシステムが連携して動作することが重要になります。理想的には、エコと日本円を1枚のカードに収納出来るハイブリッドな電子マネーが実現出来ればベストです。カードリーダーに1回かざすだけで、エコと円の支払いが一度に済んでしまうというものです。これを実現するために、国は既存の民間の電子マネーに、エコ専用のICチップを埋め込むことを認めるべきでしょう。但し、国民ひとりに支給されるエコチップは1個だけですから、電子マネーの発行会社間では熾烈なシェア争いが繰り広げられることになりそうです。消費者の利便性を考えるなら、民間の各電子マネーが互換性を持つように国が指導して行く必要があります。現在の電子マネー(例えばSuica、PASMO、ICOCAのような鉄道会社系のもの、WAON、nanaco、Edyのような店舗系のものを含め)は、使用者の利便性よりも顧客の囲い込みということを第一に考えて設計されているように見えます。だからあえて互換性を取っていないのでしょう。これは構想が小さい。ここはむしろ国が標準化を進めるべきではないでしょうか。エコは特定の事業者のためのものではないのですから、これと組む相手は標準的な仕様を受け入れなければならないということにするのです。これで民間の電子マネーの標準化も進展する可能性がある。消費者にとっても電子マネーの利便性が格段に高まります。

 大手スーパーやコンビニ、量販店などはレジシステムのバージョンアップでエコへの対応を行なうことが出来ると思いますが、問題は個人商店などの小規模店舗です。こうしたお店の多くは、POSシステム(コンピュータと連動したレジシステム)を持っていないので、商品に付いているバーコードを読んで、商品ごとの円金額とエコ金額を別々に集計するという作業が行なえません。従ってエコを取り扱うにしても、手作業に頼らざるを得ないのです。個別の商品に対してエコの受付可能金額を設定することなど不可能でしょう。もちろん店に置いてあるすべての商品に一律のエコ比率を設定するといった方法も考えられますが(「全品2割までオーケー」といったように)、それではせっかくのエコのメリットが活かせません。個人商店のようなお店にこそ、もっとエコを戦略的に使ってもらいたいのです。地域に根ざした小さな商店だからこそ可能な、きめ細かな値付けというものがある筈だからです。デフレ不況というのは、言葉を代えて言えば〈地元商店街の不況〉のことです。不況と言われながらも、一部の量販店やチェーン店は空前の売上と利益を叩き出しています。何故そんなことが可能なのか? こうした店舗を展開する企業は、その規模と組織力にものを言わせて、中国を始めとする新興国から安い製品を大量に買い付けることが出来るからです。一方、国内限定通貨であるエコが使える仕入先の開拓ということなら、地元の小さな商店にアドバンテージがあると思います。地元の生産者や流通業者とのあいだに信頼関係を築くことで、協力してエコを受け入れる体制を作れるからです。大規模店は大量仕入をちらつかせて仕入値を徹底的に叩きますが、エコの経済圏ではそうした力の論理は成り立ちません。

 エコを導入する政府は、小規模な商店でも使いやすいエコ対応のPOSシステムを、安価に貸し出す制度を準備しましょう。それと同時に、POSの使い方を始め、エコ通貨の活用方法に関する啓発事業も進める必要があります。エコ普及の鍵を握っているのは、国内の生産者と消費者を結びつける役割を担っている地元商店街の人たちだからです。そこから立て直さなければ、日本経済の再建ということもあり得ないだろうと思う訳です。――さて、話題が二転三転しますが、エコのカードリーダーが持つ機能について、もう少し補足説明をしておく必要があります。電子マネーであるエコ通貨は、専用のICカードと銀行口座のあいだを(減価しながら)行ったり来たりする訳ですが、その両方の橋渡しをするのがカードリーダーです。店舗のレジに置かれるカードリーダーは、それ自体にエコを蓄える機能を持っています。また蓄えたエコを回線を通じてその企業の銀行口座(エコ口座)に入金する機能も備えています。店は1日の売上(エコ)を、閉店後にまとめて銀行口座に入金します。仮に入金せずに翌日までカードリーダーのなかでエコを寝かせたとしても、夜中の3時きっかりに自律的に減価処理が行なわれます。つまりエコという電子マネーは、ICカード、銀行口座、カードリーダーの3箇所に存在し得るのですが、どこにあっても同じ条件で減価するのです。個人の銀行口座にあるエコをICカードにチャージする仕組みも必要です。銀行や店舗に置かれているATMがその役割を担います。入金や出金の際の銀行手数料をどうするかは検討が必要ですが、手数料を取るとしても、支払いはエコです。もうひとつ、毎月個人に支給されるベーシックインカムとしてのエコを、カードに入金する仕組みが必要です。これは店のカードリーダーに任せましょう。仮に毎月の支給額が1万エコだったとすれば(少な過ぎる? あとで釈明します)、その月のうちに1回だけ店のレジで1万エコをカードにチャージ出来るのです。この時注意しなければならないのは、これは店のカードリーダーからの出金ではないという点です。エコというお金は、まさにその瞬間に無から生まれるのです。

 複雑な仕組みのように感じられるかも知れませんが、利用者の立場に立てばとても簡単な話です。個人がエコ建ての銀行口座を作らなければならないのは、給与やアルバイト料の一部をエコで受け取る必要がある場合のみで、それが無ければ国から支給されるICカード1枚だけで〈エコ生活〉を始めることが出来ます。新しい月が来たら、お店のレジで店員にお願いして1万エコをチャージしてもらいます(カードに記録が残るので、月に2回以上のチャージは出来ません)。あとはエコが使えるお店で買い物をする度にこのカードを出せば、残高がある限り自動的に割引が受けられるというだけのことです。この割引がつまり政府クーポンなのです。政府クーポンと言っても、国が財政負担をしている訳ではありません、国内で経済的な付加価値を生み出している企業や個人がみなで負担し合うクーポンです。端的に、国内産業を振興することを目的としたクーポンと言ってもいいです(だから外資系企業や輸入業者からは歓迎されないでしょう)。私たちがエコを(なるべくカードのなかで目減りさせずに)使い切る努力をすれば、それが国内産業を盛り立てることになるのです。――さて、ここまで電子マネーとしてのエコについて説明して来ましたが、最後に政府クーポン導入時の紙幣としてのエコについて、ひと言だけ追記しておきます。初期導入のコストをなるべく抑えて、政府クーポンの有効性を検証するために、最初は紙幣として始めるのが私のプランでした。月に1万エコの支給なら、例えば500エコの紙幣が20枚綴りになった冊子が行政の窓口で配られるといったイメージになります。電子マネーと違って、紙幣は持っていても減価しませんが、その代わり使用期限が設けられます。支給された月の翌月いっぱいに使い切らないと無効になるのです。これによって減価貨幣と同様に、通貨としての持続可能性が担保されることになります。

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