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2012年3月25日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(6)

【6】 マクロで見たエコ通貨の流通について

 前回はICカードとカードリーダーを中心に、エコという通貨の動きをミクロの視点で見て来ましたが、今回は国家経済というマクロの視点でエコ通貨の動きを見て行きます。これまでの説明で、ベーシックインカムとして毎月支給されるエコが、個人から企業へ、そしてまた個人へと循環する流れについては一応の説明をしました。つまり個人が消費の一部として使用したエコは、小売業者→流通業者→製造業者というようにサプライチェーンを遡って行く訳ですが、各業者はまた人件費の一部としてエコを使うことが法律で認められているので、働く個人はベーシックインカムとしてのエコの他に、勤務先の企業から給与の一部としてもエコを受け取ることになるということです。エコは日々減価しながら流通して行く通貨ですから、それを保持している経済主体が減価損を負担することになります。ただここまでの説明では、国や地方自治体などの公共部門がどのようにエコ経済に関与するかが検討されていませんでした。今日の社会では、国や自治体も国内経済の重要なプレイヤーですから、ここがそっくりエコ経済の蚊帳の外に置かれるというのではバランスが悪い。民間の労働者が最大1割までエコで給与が支払われているのに、公務員だけは従来通り満額日本円で給与を受け取っていたのでは、有権者が黙ってはいないでしょう。そこで、国家公務員と地方公務員の給与についても、一律1割をエコでの支払いということにします(もちろん議員報酬も例外ではありません)。いや、それだけではなく、国や自治体のすべての支出について、1割をエコに置き換えるものとしましょう。つまり、政府調達や各種の補助金、公的年金など、公共機関が支出するお金はすべて日本円が9割にエコが1割という内訳にするということです。

 出来ればこれには例外を設けたくないところです。例えば、自衛隊が次期主力戦闘機を購入する際にも適応することとする。戦闘機の落札価格が1機100億円だったとして(高いぞ、F35)、落札業者のロッキード・マーチン社は、90億円と10億エコを日本政府から支払われることになります。そんなことは不可能だと考えるのは早計です。日本円で100億円の受け取りがどうしても必要なら、その分の金額を上乗せして(111億円で)入札すればいいだけだからです。もしも国内メーカーが競争入札に参加するなら、エコの受容性という点で外国企業は不利になるでしょう。エコが国内産業を選択的に優遇するというのはそういうことです。これは言ってみればすべての輸入品に10%の関税がかけられるのと同じことなので、国際社会では到底受け入れられないルールだという意見があるかも知れません。しかし、国内限定通貨は関税とは少し違います。海外の売り手も国内の売り手も、販売価格の1割をエコで受け取るという点では平等だからです。エコは日本国内においても使いにくいお金なので、それを受容するには企業努力が必要になります。仮にロッキード社が戦闘機のアフターメンテナンスのために日本法人を作って、そこで日本人の従業員を雇えば、エコを有効に活用する途が無い訳ではありません。戦闘機を日本に売り込みたいなら、むしろそこまでの企業努力をすべきでしょう。日本に進出したい企業にとって、日本の国内企業と同等に扱われることは、むしろ歓迎すべきことである筈です。まあ、戦闘機に関しては、どう転んでも国内生産が不可能なので、いくら10%ルールがあっても相手の言い値で買わされることに変わりはないと思いますが。

 最初から話が脱線していますね。政府の支出に占めるエコの比率を、1割にするのがいいのか、あるいは5%くらいが妥当なのかといったことについては、もっと詳しい検討をして決めなければなりません。重要なのは、国や自治体が率先してエコ経済の担い手としての役割を果たすという点です。政府支出の1割をエコに切り換えるということは、日本経済の1割をエコに置き換えるという政府の意思表示になるのです。ところで、政府がエコを財源として持つためには、どのような方法があるでしょう? 以前の記事では、税金を財源に充てることを考えていました。つまりエコによる納税を認めるということです。しかし、今回考えている規模の政府通貨の発行量では、政府支出をすべて税金で賄うことは難しそうです。日本の18歳以上の人口は1億700万人くらいです。その全員に年間12万エコを支給するとすれば、約12.8兆エコが市場に出て行くことになります(1万エコ×12か月×1億700万人)。ところがエコは減価貨幣ですから、市場に流通する金額には一定の上限があります。個人の視点で見ると、月に1万エコを支給されて、月間の減価率が20%なら、まったくエコを使わずにカードに貯めておいても、上限5万エコでストップしてしまいます。つまり国内のエコの流通量は、5万エコ×1億700万人=5.35兆エコで一定になるのです。一方、年間の政府支出は約100兆円で、その1割をエコで賄うとすれば10兆エコが必要です。徴税しようにも、そんなお金はどこにも無いのです。では、どうするか? 簡単なことです、政府にもエコを支給してしまえば良いのです。今日のような供給過多で需要不足の時代には、公共部門が持つ旺盛な需要というのは実はとても重要な経済要素なのです。旺盛な需要を持つ消費者にエコを支給するのは、制度の主旨にも合っている。エコは国家予算に組み込まれる必要さえありません。政府が支出をする場面場面で、その都度支払額の10%に当たるエコが生まれるだけのことです。公共部門で発生するエコは月々の平均で8333億エコ、月に2割の減価率でその流通量の上限は約4.17兆エコ、すなわちベーシックインカム分と合わせて10兆エコ弱の金額が国内経済に定常的に流通することになります。

 減価する貨幣というのは、一般的に手離れのいいお金で、通常の貨幣よりも速い速度で市場を駆け巡ります。それが景気回復につながるというのが、減価貨幣推進派の主張です。ところが、すでにお気付きの方もいると思いますが、今回の連載で考えているエコ通貨というのは、減価貨幣ではあっても、流通速度の速い通貨ではないのです。何故なら、月ごとに支払日が決まっているために、原則として月に1回転しかしないからです。シルビオ・ゲゼルの考案した「自由貨幣」(スタンプ紙幣=減価貨幣)というのは、とてもユニークで大きな可能性を秘めたアイデアですが、考えようによっては暴走する可能性もある危険な通貨であるとも言えます。人口4300人のヴェルグル町で1年間の試行がうまく行ったからと言って、日本のような大きな国家の基軸通貨として採用して、うまく行くとは限らない。私が今回目指しているのは、現行の日本円とうまく共存させることが出来、しかも国家の管理通貨として厳格なコントロール下に置くことが出来るような通貨のデザインです。おそらくそれでも減価貨幣の持つ需要喚起能力はいくぶんかは残っているでしょう。ふつうデフレ経済の下では買い控えが起こりますが、ICカードのなかで日々減価して行くお金は擬似的なインフレ状態を作り出し、私たちに消費を急かすからです。しかし、エコを減価させる本当の目的は、そこにはありません。政府通貨というものを短期的な政策に終わらせないためには、発行した通貨を回収する仕組みを作り込んでおかなくてはなりません。そのために政府通貨を税金として回収したのでは、市場での流通という通貨本来の機能が削がれることになってしまう。ところが減価貨幣なら、市場に最後まで留まって、しかも追加供給される通貨とも自然な均衡点を見出だすことが出来るのです。ひと言で言えば持続可能な政策になるのです。

 だからエコはタックスフリーな通貨にしましょう。ここも以前の記事からの改正点です。エコは政府の手元にも発生するのですから、ことさら市場から回収する必要はありません。仮に国民と政府という二大消費者が支給されたエコをすべて使い切ったとすれば、その金額は年間に約22.8兆エコになります(政府支出の1割で10兆エコ、国民の支出が約12.8兆エコ)。いや、そこに市場から循環して来るエコ(給与支給分)が加算されますね。国内の労働人口が約6200万人、その人たちが平均して月額給与のうち2万円分をエコで受け取ったとしましょう。するとここで消費者に還流するのは14.9兆エコになる(2万エコ×12か月×6200万人)。それもすべて消費に回ったとすれば、合計で37.7兆エコということになります。これは日本のGDP500兆円の7.5%に当たる金額です。しかし実際にはそれより少なくなるでしょう(個人の口座やICカードのなかで目減りする分もあるので)。大雑把に言ってGDPの数パーセント程度のエコが流通すると考えていい。この部分が非課税だったとしても、税収全体に与える影響はそう大きくはなさそうです。仮に日本円のGDPがエコに食われたとすれば、国(と地方)の税収は数パーセント減ってしまうかも知れない。が、もしかしたら「良いクーポン」の効果で日本円部分のGDPも拡大するかも知れないのです。そうなれば税収も現在より増えることになる。一方、政府の支出は確実に1割減る訳ですから、財政の健全化に向けてかなり大きな前進となることが期待されます。これは最も楽観的なシナリオですが、悲観的なシナリオも考えておきましょう。こちらはせっかく導入したエコがほとんど流通せずに、個人のICカードのなかで虚しく消滅して行くというシナリオです。この場合は無駄な公共投資は発生しますが(それを避けるためにエコは最初紙幣として発行するのでした)、流通しないエコは日本円の経済には影響を与えないので、GDPの押し下げ要因にもなりません。最善の場合に大きな効果が期待出来、最悪の場合でも大した影響が無いのなら、やってみる価値があるだろうというのが私の考えです。

 企業会計についても触れておきます。もしも企業の会計処理で、これまでの円建ての会計とは別にエコ建ての会計が必要になるとすれば、これは大きな負担になります。日々減価する通貨を対象に財務諸表を作るなんて作業は、考えただけでもげんなりします。しかし、心配はご無用、企業の会計処理のなかでは、基本的にエコは無視してもいいのです。いや、取引先との契約やその後の請求・支払業務などに関する書類には円とエコの併記が必要になりますし、それにともなってシステムの機能追加もしなければなりません。またエコ口座の残高管理は、経理部門にとってとても重要な仕事になる筈です(マイナスになれば行政からのペナルティがあり、多過ぎれば企業の収益悪化につながるから)。しかし、決算報告や税務処理などでは、エコ部分の出納は考えなくてもいい。これはエコがもともとクーポンであることを考えれば、当然のことだとも言えます。企業が自社クーポンを発行して、その分の値引きをしたとしても、損益計算書にその記載をする必要がないのと同じことです。ただ、各企業のエコ口座の動きについては、銀行から情報が行政当局に送られます。マイナス残高が発生していないかを監視するだけでなく、市中のエコの動きがどうなっているかを確認するためです。またエコを促進するために、取引高に占めるエコの割合を見て法人税を優遇するといった施策にも使えます。エコは国内の銀行口座と政府支給のICカード、カードリーダーのなかでしか生きられないお金ですから、1エコたりとも行政の目が届かないところに隠されることはありません。裏社会の資金源になるなんてことも金輪際ありません。

 ここまで書いて来て、ひとつ追加ルールが必要な点に気付きました。企業間の支払いを毎月同じ日に揃えることで、エコの減価負担を各企業に公平に担わせるというのが今回のアイデアですが、小売業者については別にひと工夫必要になります。エコが紙幣であるあいだはいいのです。口座への預け入れ時に金額を20%差し引くというルールがありましたから。電子マネーになったエコについても同じような仕掛けが必要です。もしも店が客からエコを受け取った時点から減価が始まるのだとすると、支払日の前日に受け取ったエコは、ほとんど減価損をかぶることなく次の取引先に渡すことが出来る、これは公平ではありません。店によっては、毎月15日が近づくと〈エコセール〉を始めるなんてところも現れるに違いない。公平さを期するなら、支払日の直前に受け取ったエコであっても、支払日当日にはきっちり20%減価していてくれないと困ります。これを実現する最も簡単な方法は、銀行口座とカードリーダーでの減価処理を毎日行なうのではなく、支払日の早朝3時に一括で行なうことでしょう(口座残高とカードリーダーの残高が一気に20%減るのです)。実際、企業間の支払いが全国一斉で同じ日に揃えられるなら、日々減価する仕組みにしなくても良い訳です。従業員への給与支給日も同日に合わせる必要があります。但し、この場合にも個人の銀行口座とICカードの方は毎日減価させなければなりません。そうしないと月の特定の時期に個人消費が集中してしまうからです。従って銀行口座も個人向けと法人向けでは機能を分けなくてはならない。法人口座(およびカードリーダー)から個人口座への送金も禁止されます(双方向に送金可能だと、減価を回避することが出来てしまうから)。これによってエコは返金処理が出来ないといった問題が発生しますね。このへんはもっとスマートなやり方が無いか、アイデアを募集したいところです。

 消費者、民間企業、そして国や地方自治体がどのようにこの新しいエコという通貨と関わるかについて、アウトラインを説明して来ました。最後に、公共サービスとエコの関係について少し考察しておきます。電力・水道・ガスなどの公共料金、それに公共交通機関の運賃といったものに対してもエコは使えるかという問題です。これらのなかには地方自治体が直接サービスを提供しているものもあれば、民間企業がサービス提供を行なっているものもあります。一般的に地域独占であることが多く、価格にも競争原理が働きにくい分野です。エコを流通させるのは、まさにこの競争原理によってですから、放っておけば公共料金の一部にもエコが使えるようになるという事態にはならないでしょう。すると例えば電力会社にはエコの収入が無いので、当然社員の給料にもエコは混じりません。東京電力の社員は、エコ導入後も高い給料をまるまる日本円で受け取ることになります(国民の反感を買いますね)。ここは政治が介入します。エコが導入され、それを給与の一部として使うことが解禁された時期に合わせ、公共料金も一部がエコに置き換わります。但し、それは消費者が電力料金の一部をエコで支払えるようになるということではありません。エコは国が支払うのです。具体的に言うと、消費者に対しては(日本円の)電力料金を1割値下げして、値下げ分を国が電力会社に対してエコで補填するというやり方です。これは消費者から見れば単なる値下げですから歓迎すべきことです。電力会社から見ればエコの経済圏に1割だけ足を踏み入れることで、一般の民間企業と同等の扱いになるだけのことです。国から見ればここでのエコ支出も財源は不要なので、財政を悪化させることにはならない。誰も損をする人はいません。

 公共サービス分野を特別扱いすることには、ふたつの理由があります。ひとつは消費者が公共料金や運賃の支払いにエコを使っても、それは景気を良くすることにはつながらないからです。電力料や通勤費などは固定費に近いものですから、そこでエコを使われてしまうと、それは「悪いクーポン」として確定してしまいます。もうひとつはもっと現実的な理由で、交通運賃にエコを使わせることは技術的に難しいからです。ICカード(と磁気切符)による自動改札という仕組みがすでに定着しているのに、いまの効率を犠牲にせずに日本円とエコを併用させるのは難しいと思われます(ハイブリッド型の電子マネーなら可能でしょうが)。このように政治的に特別に配慮しなければならない分野はまだ他にもありそうです。それは制度を具体化するなかで、個々に対策を考えて行けばいいのです。もしかしたら、「小さな政府」を信奉する人やリバタリアニズムに近い立場の人からは、政府の裁量権が強くなり過ぎることへの懸念の声が上がるかも知れません。しかし、政府通貨というのはそういうものなのです。むしろ市場の原理で動いている現在の通貨を、国が無理矢理コントロールしようとするから、あちこちに歪みが出ているのだとも考えられる。今日、市場原理に任せておけば、持続可能な社会が自然に実現するなどと考えている人はいないでしょう。グローバリズムの進展とともに、ますます制御不能になって行く世界経済のなかで、国として、政府として、金融資本の手が及ばないところに国民経済の〈聖域〉を作っておくこと、それはきわめて重要なことではないかと思います。政府通貨というものを、私はそのためのものとして捉えているのです。

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