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2012年3月25日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(6)

【6】 マクロで見たエコ通貨の流通について

 前回はICカードとカードリーダーを中心に、エコという通貨の動きをミクロの視点で見て来ましたが、今回は国家経済というマクロの視点でエコ通貨の動きを見て行きます。これまでの説明で、ベーシックインカムとして毎月支給されるエコが、個人から企業へ、そしてまた個人へと循環する流れについては一応の説明をしました。つまり個人が消費の一部として使用したエコは、小売業者→流通業者→製造業者というようにサプライチェーンを遡って行く訳ですが、各業者はまた人件費の一部としてエコを使うことが法律で認められているので、働く個人はベーシックインカムとしてのエコの他に、勤務先の企業から給与の一部としてもエコを受け取ることになるということです。エコは日々減価しながら流通して行く通貨ですから、それを保持している経済主体が減価損を負担することになります。ただここまでの説明では、国や地方自治体などの公共部門がどのようにエコ経済に関与するかが検討されていませんでした。今日の社会では、国や自治体も国内経済の重要なプレイヤーですから、ここがそっくりエコ経済の蚊帳の外に置かれるというのではバランスが悪い。民間の労働者が最大1割までエコで給与が支払われているのに、公務員だけは従来通り満額日本円で給与を受け取っていたのでは、有権者が黙ってはいないでしょう。そこで、国家公務員と地方公務員の給与についても、一律1割をエコでの支払いということにします(もちろん議員報酬も例外ではありません)。いや、それだけではなく、国や自治体のすべての支出について、1割をエコに置き換えるものとしましょう。つまり、政府調達や各種の補助金、公的年金など、公共機関が支出するお金はすべて日本円が9割にエコが1割という内訳にするということです。

 出来ればこれには例外を設けたくないところです。例えば、自衛隊が次期主力戦闘機を購入する際にも適応することとする。戦闘機の落札価格が1機100億円だったとして(高いぞ、F35)、落札業者のロッキード・マーチン社は、90億円と10億エコを日本政府から支払われることになります。そんなことは不可能だと考えるのは早計です。日本円で100億円の受け取りがどうしても必要なら、その分の金額を上乗せして(111億円で)入札すればいいだけだからです。もしも国内メーカーが競争入札に参加するなら、エコの受容性という点で外国企業は不利になるでしょう。エコが国内産業を選択的に優遇するというのはそういうことです。これは言ってみればすべての輸入品に10%の関税がかけられるのと同じことなので、国際社会では到底受け入れられないルールだという意見があるかも知れません。しかし、国内限定通貨は関税とは少し違います。海外の売り手も国内の売り手も、販売価格の1割をエコで受け取るという点では平等だからです。エコは日本国内においても使いにくいお金なので、それを受容するには企業努力が必要になります。仮にロッキード社が戦闘機のアフターメンテナンスのために日本法人を作って、そこで日本人の従業員を雇えば、エコを有効に活用する途が無い訳ではありません。戦闘機を日本に売り込みたいなら、むしろそこまでの企業努力をすべきでしょう。日本に進出したい企業にとって、日本の国内企業と同等に扱われることは、むしろ歓迎すべきことである筈です。まあ、戦闘機に関しては、どう転んでも国内生産が不可能なので、いくら10%ルールがあっても相手の言い値で買わされることに変わりはないと思いますが。

 最初から話が脱線していますね。政府の支出に占めるエコの比率を、1割にするのがいいのか、あるいは5%くらいが妥当なのかといったことについては、もっと詳しい検討をして決めなければなりません。重要なのは、国や自治体が率先してエコ経済の担い手としての役割を果たすという点です。政府支出の1割をエコに切り換えるということは、日本経済の1割をエコに置き換えるという政府の意思表示になるのです。ところで、政府がエコを財源として持つためには、どのような方法があるでしょう? 以前の記事では、税金を財源に充てることを考えていました。つまりエコによる納税を認めるということです。しかし、今回考えている規模の政府通貨の発行量では、政府支出をすべて税金で賄うことは難しそうです。日本の18歳以上の人口は1億700万人くらいです。その全員に年間12万エコを支給するとすれば、約12.8兆エコが市場に出て行くことになります(1万エコ×12か月×1億700万人)。ところがエコは減価貨幣ですから、市場に流通する金額には一定の上限があります。個人の視点で見ると、月に1万エコを支給されて、月間の減価率が20%なら、まったくエコを使わずにカードに貯めておいても、上限5万エコでストップしてしまいます。つまり国内のエコの流通量は、5万エコ×1億700万人=5.35兆エコで一定になるのです。一方、年間の政府支出は約100兆円で、その1割をエコで賄うとすれば10兆エコが必要です。徴税しようにも、そんなお金はどこにも無いのです。では、どうするか? 簡単なことです、政府にもエコを支給してしまえば良いのです。今日のような供給過多で需要不足の時代には、公共部門が持つ旺盛な需要というのは実はとても重要な経済要素なのです。旺盛な需要を持つ消費者にエコを支給するのは、制度の主旨にも合っている。エコは国家予算に組み込まれる必要さえありません。政府が支出をする場面場面で、その都度支払額の10%に当たるエコが生まれるだけのことです。公共部門で発生するエコは月々の平均で8333億エコ、月に2割の減価率でその流通量の上限は約4.17兆エコ、すなわちベーシックインカム分と合わせて10兆エコ弱の金額が国内経済に定常的に流通することになります。

 減価する貨幣というのは、一般的に手離れのいいお金で、通常の貨幣よりも速い速度で市場を駆け巡ります。それが景気回復につながるというのが、減価貨幣推進派の主張です。ところが、すでにお気付きの方もいると思いますが、今回の連載で考えているエコ通貨というのは、減価貨幣ではあっても、流通速度の速い通貨ではないのです。何故なら、月ごとに支払日が決まっているために、原則として月に1回転しかしないからです。シルビオ・ゲゼルの考案した「自由貨幣」(スタンプ紙幣=減価貨幣)というのは、とてもユニークで大きな可能性を秘めたアイデアですが、考えようによっては暴走する可能性もある危険な通貨であるとも言えます。人口4300人のヴェルグル町で1年間の試行がうまく行ったからと言って、日本のような大きな国家の基軸通貨として採用して、うまく行くとは限らない。私が今回目指しているのは、現行の日本円とうまく共存させることが出来、しかも国家の管理通貨として厳格なコントロール下に置くことが出来るような通貨のデザインです。おそらくそれでも減価貨幣の持つ需要喚起能力はいくぶんかは残っているでしょう。ふつうデフレ経済の下では買い控えが起こりますが、ICカードのなかで日々減価して行くお金は擬似的なインフレ状態を作り出し、私たちに消費を急かすからです。しかし、エコを減価させる本当の目的は、そこにはありません。政府通貨というものを短期的な政策に終わらせないためには、発行した通貨を回収する仕組みを作り込んでおかなくてはなりません。そのために政府通貨を税金として回収したのでは、市場での流通という通貨本来の機能が削がれることになってしまう。ところが減価貨幣なら、市場に最後まで留まって、しかも追加供給される通貨とも自然な均衡点を見出だすことが出来るのです。ひと言で言えば持続可能な政策になるのです。

 だからエコはタックスフリーな通貨にしましょう。ここも以前の記事からの改正点です。エコは政府の手元にも発生するのですから、ことさら市場から回収する必要はありません。仮に国民と政府という二大消費者が支給されたエコをすべて使い切ったとすれば、その金額は年間に約22.8兆エコになります(政府支出の1割で10兆エコ、国民の支出が約12.8兆エコ)。いや、そこに市場から循環して来るエコ(給与支給分)が加算されますね。国内の労働人口が約6200万人、その人たちが平均して月額給与のうち2万円分をエコで受け取ったとしましょう。するとここで消費者に還流するのは14.9兆エコになる(2万エコ×12か月×6200万人)。それもすべて消費に回ったとすれば、合計で37.7兆エコということになります。これは日本のGDP500兆円の7.5%に当たる金額です。しかし実際にはそれより少なくなるでしょう(個人の口座やICカードのなかで目減りする分もあるので)。大雑把に言ってGDPの数パーセント程度のエコが流通すると考えていい。この部分が非課税だったとしても、税収全体に与える影響はそう大きくはなさそうです。仮に日本円のGDPがエコに食われたとすれば、国(と地方)の税収は数パーセント減ってしまうかも知れない。が、もしかしたら「良いクーポン」の効果で日本円部分のGDPも拡大するかも知れないのです。そうなれば税収も現在より増えることになる。一方、政府の支出は確実に1割減る訳ですから、財政の健全化に向けてかなり大きな前進となることが期待されます。これは最も楽観的なシナリオですが、悲観的なシナリオも考えておきましょう。こちらはせっかく導入したエコがほとんど流通せずに、個人のICカードのなかで虚しく消滅して行くというシナリオです。この場合は無駄な公共投資は発生しますが(それを避けるためにエコは最初紙幣として発行するのでした)、流通しないエコは日本円の経済には影響を与えないので、GDPの押し下げ要因にもなりません。最善の場合に大きな効果が期待出来、最悪の場合でも大した影響が無いのなら、やってみる価値があるだろうというのが私の考えです。

 企業会計についても触れておきます。もしも企業の会計処理で、これまでの円建ての会計とは別にエコ建ての会計が必要になるとすれば、これは大きな負担になります。日々減価する通貨を対象に財務諸表を作るなんて作業は、考えただけでもげんなりします。しかし、心配はご無用、企業の会計処理のなかでは、基本的にエコは無視してもいいのです。いや、取引先との契約やその後の請求・支払業務などに関する書類には円とエコの併記が必要になりますし、それにともなってシステムの機能追加もしなければなりません。またエコ口座の残高管理は、経理部門にとってとても重要な仕事になる筈です(マイナスになれば行政からのペナルティがあり、多過ぎれば企業の収益悪化につながるから)。しかし、決算報告や税務処理などでは、エコ部分の出納は考えなくてもいい。これはエコがもともとクーポンであることを考えれば、当然のことだとも言えます。企業が自社クーポンを発行して、その分の値引きをしたとしても、損益計算書にその記載をする必要がないのと同じことです。ただ、各企業のエコ口座の動きについては、銀行から情報が行政当局に送られます。マイナス残高が発生していないかを監視するだけでなく、市中のエコの動きがどうなっているかを確認するためです。またエコを促進するために、取引高に占めるエコの割合を見て法人税を優遇するといった施策にも使えます。エコは国内の銀行口座と政府支給のICカード、カードリーダーのなかでしか生きられないお金ですから、1エコたりとも行政の目が届かないところに隠されることはありません。裏社会の資金源になるなんてことも金輪際ありません。

 ここまで書いて来て、ひとつ追加ルールが必要な点に気付きました。企業間の支払いを毎月同じ日に揃えることで、エコの減価負担を各企業に公平に担わせるというのが今回のアイデアですが、小売業者については別にひと工夫必要になります。エコが紙幣であるあいだはいいのです。口座への預け入れ時に金額を20%差し引くというルールがありましたから。電子マネーになったエコについても同じような仕掛けが必要です。もしも店が客からエコを受け取った時点から減価が始まるのだとすると、支払日の前日に受け取ったエコは、ほとんど減価損をかぶることなく次の取引先に渡すことが出来る、これは公平ではありません。店によっては、毎月15日が近づくと〈エコセール〉を始めるなんてところも現れるに違いない。公平さを期するなら、支払日の直前に受け取ったエコであっても、支払日当日にはきっちり20%減価していてくれないと困ります。これを実現する最も簡単な方法は、銀行口座とカードリーダーでの減価処理を毎日行なうのではなく、支払日の早朝3時に一括で行なうことでしょう(口座残高とカードリーダーの残高が一気に20%減るのです)。実際、企業間の支払いが全国一斉で同じ日に揃えられるなら、日々減価する仕組みにしなくても良い訳です。従業員への給与支給日も同日に合わせる必要があります。但し、この場合にも個人の銀行口座とICカードの方は毎日減価させなければなりません。そうしないと月の特定の時期に個人消費が集中してしまうからです。従って銀行口座も個人向けと法人向けでは機能を分けなくてはならない。法人口座(およびカードリーダー)から個人口座への送金も禁止されます(双方向に送金可能だと、減価を回避することが出来てしまうから)。これによってエコは返金処理が出来ないといった問題が発生しますね。このへんはもっとスマートなやり方が無いか、アイデアを募集したいところです。

 消費者、民間企業、そして国や地方自治体がどのようにこの新しいエコという通貨と関わるかについて、アウトラインを説明して来ました。最後に、公共サービスとエコの関係について少し考察しておきます。電力・水道・ガスなどの公共料金、それに公共交通機関の運賃といったものに対してもエコは使えるかという問題です。これらのなかには地方自治体が直接サービスを提供しているものもあれば、民間企業がサービス提供を行なっているものもあります。一般的に地域独占であることが多く、価格にも競争原理が働きにくい分野です。エコを流通させるのは、まさにこの競争原理によってですから、放っておけば公共料金の一部にもエコが使えるようになるという事態にはならないでしょう。すると例えば電力会社にはエコの収入が無いので、当然社員の給料にもエコは混じりません。東京電力の社員は、エコ導入後も高い給料をまるまる日本円で受け取ることになります(国民の反感を買いますね)。ここは政治が介入します。エコが導入され、それを給与の一部として使うことが解禁された時期に合わせ、公共料金も一部がエコに置き換わります。但し、それは消費者が電力料金の一部をエコで支払えるようになるということではありません。エコは国が支払うのです。具体的に言うと、消費者に対しては(日本円の)電力料金を1割値下げして、値下げ分を国が電力会社に対してエコで補填するというやり方です。これは消費者から見れば単なる値下げですから歓迎すべきことです。電力会社から見ればエコの経済圏に1割だけ足を踏み入れることで、一般の民間企業と同等の扱いになるだけのことです。国から見ればここでのエコ支出も財源は不要なので、財政を悪化させることにはならない。誰も損をする人はいません。

 公共サービス分野を特別扱いすることには、ふたつの理由があります。ひとつは消費者が公共料金や運賃の支払いにエコを使っても、それは景気を良くすることにはつながらないからです。電力料や通勤費などは固定費に近いものですから、そこでエコを使われてしまうと、それは「悪いクーポン」として確定してしまいます。もうひとつはもっと現実的な理由で、交通運賃にエコを使わせることは技術的に難しいからです。ICカード(と磁気切符)による自動改札という仕組みがすでに定着しているのに、いまの効率を犠牲にせずに日本円とエコを併用させるのは難しいと思われます(ハイブリッド型の電子マネーなら可能でしょうが)。このように政治的に特別に配慮しなければならない分野はまだ他にもありそうです。それは制度を具体化するなかで、個々に対策を考えて行けばいいのです。もしかしたら、「小さな政府」を信奉する人やリバタリアニズムに近い立場の人からは、政府の裁量権が強くなり過ぎることへの懸念の声が上がるかも知れません。しかし、政府通貨というのはそういうものなのです。むしろ市場の原理で動いている現在の通貨を、国が無理矢理コントロールしようとするから、あちこちに歪みが出ているのだとも考えられる。今日、市場原理に任せておけば、持続可能な社会が自然に実現するなどと考えている人はいないでしょう。グローバリズムの進展とともに、ますます制御不能になって行く世界経済のなかで、国として、政府として、金融資本の手が及ばないところに国民経済の〈聖域〉を作っておくこと、それはきわめて重要なことではないかと思います。政府通貨というものを、私はそのためのものとして捉えているのです。

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2012年3月18日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(5)

【5】減価するカード型電子マネー

 減価する電子マネーというものを実現するには、大きく分けて2つの方式がある、そう私は考えて来ました。ひとつは、減価の管理を銀行の口座管理コンピュータが一括して行なう集中管理方式、もうひとつは、カード型の電子マネーそのものにオペレーティングシステムを搭載して、プログラムによって減価させる分散管理方式です。それぞれ一長一短があります。集中管理方式では、店のレジに置かれるカードリーダーが、その都度銀行の口座を見に行くので回線に負荷がかかります。混雑するスーパーのレジなどでは客を捌き切れないかも知れません。その代わりセキュリティの面では優位性があると思います。カードそのものに残高を持っていないので、データを改竄される心配が無いからです(カードそのものを偽造されてしまえば、不正は防げませんが)。かたや分散管理方式の方は、基本的に回線を通じたデータの送受信が発生しませんから、処理速度という面では有利です。このことは小売の現場ではとても大事なことです。その代わり、電子マネー自体が小型端末としての機能を持たなければならないので、非常に高価なものになってしまうことと、ウイルスやハッキングといった危険性にもさらされるという問題がある。どちらも実用化という面では、大きな難点を抱えています。

 今回私が思い付いた方式は、もっとずっと単純で、現在の電子マネーと同じ技術で実現出来るような〈ローテクな〉仕組みのものです。コストも安上がりで済みます。カードそのものは、私たちがふだん使っているような厚さ1ミリ程度のプラスチック製のカードです。そこにICチップが埋め込まれていて、残高が記録されているのもふつうの電子マネーと変わりません。異なるのはカードリーダーの方です。コンビニなどに置いてある電子マネー用のカードリーダーは、支払い額を差し引いて新しい残高をICチップに書き込むだけのものですが、「エコ」用のカードリーダーはそこにもうひとつ新しい機能が追加されます。つまり、カードをリーダーにかざすと、まずは今の残高とその残高を記録した最新の日付を読み取り、その日付と現在の日付のあいだの日数を計算して、その間の減価額を残高から差し引く処理を最初に行なうのです。あとの機能は通常のカードリーダーと変わりません。これだけの仕組みで減価する電子マネーが実現出来てしまう。なんで今までこんな簡単なことに気付かなかったのだろう?(笑) もちろん多少の不便さはあります。自分が携帯しているカードの現在の残高が持ち主にも分からないという問題です。先週の日曜日には確かこれだけのエコ残高があった筈なんだけど、今いくらなのかはカードリーダーにかざしてみなければ分からない。(分散管理方式ならカード上に残高が表示されますし、集中管理方式ならインターネットで自分の口座残高を照会するという方法があります。) しかし、これはそれほど問題とすべきことでもないでしょう。誰だっていま自分の財布にいくらお金が入っているか、1円単位まで正確に把握している人はいない訳ですし、エコを使い慣れて来れば、1週間で約5%弱目減りするということも、感覚としてつかめるようになるでしょう。

 エコを使う上で注意すべきルールがあります。それはエコはあくまで日本円の代替通貨として、売り手が許容する金額の範囲内で使えるものであるけれど、必ずしも利用可能な限度額と同額を払い出す必要は無いというルールです。これはエコがクーポンの一種だということを思い出していただければ、納得のいくことだと思います。600円のランチセットを食べるのに、100円分のクーポン券を持っていれば500円の支払いで済みますが、たとえクーポンを持っていなくても600円払えば食べられます。これは当たり前のことですね。だから仮にカードのエコ残高が、利用可能なエコの金額に対して不足している場合にも、不足分は日本円で支払えば問題ない訳です。カードに残高が十分ある場合に、支払い側がエコの払い出し額を指定するというオプションは認めないことにしましょう。エコは使うか使わないか、2つに1つを選べるだけです。ただカードの残高がエコの利用可能限度額に満たない場合のみ、カードの全額を払い出して、不足分を日本円に振り替えることを店のレジが自動的に行なうということになります。何故そんな些末なルールにこだわっているかと言うと、店頭での支払い手続きをスムーズなものにしたいがためです。政府クーポンの導入によって、スーパーやコンビニのレジに長い列が出来るようでは、消費者からは歓迎されないでしょうから。エコ導入後は商品の価格表示も変わります。例えば100円の商品が2割までエコの支払いオーケーならば、「¥100(§20)」といった表示になるのです(§を仮にエコの通貨記号とします)。これは「日本円で100円の商品で、そのうち20円分はエコでの支払いも可」という意味です。エコを扱う店では、こうした表示が義務付けられます。客はそれを見て、自分が持っているエコ残高も考えながら買い物をすることになります。

 これに関連して企業間の支払いルールについても付記しておく必要があります。企業間の取引でも一時的にエコ残高が不足して支払不能に陥ることがあり得ます。エコはなるべく口座で持ち越さない方が得な通貨ですから、そういう事態はもしかしたら頻繁に起こるかも知れません。これは経済を混乱させる原因になります。以前の記事では、これを避けるために、企業の支払いでもエコが足りない場合は日本円で補填するルールにしていましたが、今回これは撤回します。それでは相手の取引先にとって予定していた入金予定額に誤差が生じ、会計処理に余計な負担をかけることになってしまうからです。新方式では、エコ口座は一時的にマイナス残高になることを許容することとします。これによってエコの支払いを滞らせないということです。これで企業同士が契約したとおりの金額での日本円とエコの支払いが保証されることになります。ところがひとつ問題があります。エコは減価貨幣ですから、口座のマイナス残高も毎日0.72%の割合で減って行くのです。だったら口座残高は常にマイナスにしておいた方が得じゃない?(笑) マイナス残高が許されるとなると、企業は売る時にはエコを少なく受け取り、買う時には多く支払うということが可能になって、エコの正常な流通が成り立たなくなってしまう。ここは是正策が必要です。支払日(毎月15日)に2か月連続で残高がマイナスだった業者は、エコの取り扱い業者としての資格を停止する、または口座のマイナス残高に(日本円での)高い罰金を科すといったペナルティを設けてはどうでしょう。エコは政府が発行する正式な通貨ですから、厳格な法の規制のもとに運用されるのです。

 小売の現場に話を戻します。エコ通貨が本格的に流通する前に、店のレジシステムもそれに対応したものに改修しておく必要があります。商品のバーコードを読んで、日本円とエコの金額をそれぞれ別に足し上げ、最初にカードでエコの合計額を引き落として、次に日本円の残高を支払うという一連の手続きをスムーズにこなせることが必要です。そのためには、エコのカードリーダーとレジシステムが連携して動作することが重要になります。理想的には、エコと日本円を1枚のカードに収納出来るハイブリッドな電子マネーが実現出来ればベストです。カードリーダーに1回かざすだけで、エコと円の支払いが一度に済んでしまうというものです。これを実現するために、国は既存の民間の電子マネーに、エコ専用のICチップを埋め込むことを認めるべきでしょう。但し、国民ひとりに支給されるエコチップは1個だけですから、電子マネーの発行会社間では熾烈なシェア争いが繰り広げられることになりそうです。消費者の利便性を考えるなら、民間の各電子マネーが互換性を持つように国が指導して行く必要があります。現在の電子マネー(例えばSuica、PASMO、ICOCAのような鉄道会社系のもの、WAON、nanaco、Edyのような店舗系のものを含め)は、使用者の利便性よりも顧客の囲い込みということを第一に考えて設計されているように見えます。だからあえて互換性を取っていないのでしょう。これは構想が小さい。ここはむしろ国が標準化を進めるべきではないでしょうか。エコは特定の事業者のためのものではないのですから、これと組む相手は標準的な仕様を受け入れなければならないということにするのです。これで民間の電子マネーの標準化も進展する可能性がある。消費者にとっても電子マネーの利便性が格段に高まります。

 大手スーパーやコンビニ、量販店などはレジシステムのバージョンアップでエコへの対応を行なうことが出来ると思いますが、問題は個人商店などの小規模店舗です。こうしたお店の多くは、POSシステム(コンピュータと連動したレジシステム)を持っていないので、商品に付いているバーコードを読んで、商品ごとの円金額とエコ金額を別々に集計するという作業が行なえません。従ってエコを取り扱うにしても、手作業に頼らざるを得ないのです。個別の商品に対してエコの受付可能金額を設定することなど不可能でしょう。もちろん店に置いてあるすべての商品に一律のエコ比率を設定するといった方法も考えられますが(「全品2割までオーケー」といったように)、それではせっかくのエコのメリットが活かせません。個人商店のようなお店にこそ、もっとエコを戦略的に使ってもらいたいのです。地域に根ざした小さな商店だからこそ可能な、きめ細かな値付けというものがある筈だからです。デフレ不況というのは、言葉を代えて言えば〈地元商店街の不況〉のことです。不況と言われながらも、一部の量販店やチェーン店は空前の売上と利益を叩き出しています。何故そんなことが可能なのか? こうした店舗を展開する企業は、その規模と組織力にものを言わせて、中国を始めとする新興国から安い製品を大量に買い付けることが出来るからです。一方、国内限定通貨であるエコが使える仕入先の開拓ということなら、地元の小さな商店にアドバンテージがあると思います。地元の生産者や流通業者とのあいだに信頼関係を築くことで、協力してエコを受け入れる体制を作れるからです。大規模店は大量仕入をちらつかせて仕入値を徹底的に叩きますが、エコの経済圏ではそうした力の論理は成り立ちません。

 エコを導入する政府は、小規模な商店でも使いやすいエコ対応のPOSシステムを、安価に貸し出す制度を準備しましょう。それと同時に、POSの使い方を始め、エコ通貨の活用方法に関する啓発事業も進める必要があります。エコ普及の鍵を握っているのは、国内の生産者と消費者を結びつける役割を担っている地元商店街の人たちだからです。そこから立て直さなければ、日本経済の再建ということもあり得ないだろうと思う訳です。――さて、話題が二転三転しますが、エコのカードリーダーが持つ機能について、もう少し補足説明をしておく必要があります。電子マネーであるエコ通貨は、専用のICカードと銀行口座のあいだを(減価しながら)行ったり来たりする訳ですが、その両方の橋渡しをするのがカードリーダーです。店舗のレジに置かれるカードリーダーは、それ自体にエコを蓄える機能を持っています。また蓄えたエコを回線を通じてその企業の銀行口座(エコ口座)に入金する機能も備えています。店は1日の売上(エコ)を、閉店後にまとめて銀行口座に入金します。仮に入金せずに翌日までカードリーダーのなかでエコを寝かせたとしても、夜中の3時きっかりに自律的に減価処理が行なわれます。つまりエコという電子マネーは、ICカード、銀行口座、カードリーダーの3箇所に存在し得るのですが、どこにあっても同じ条件で減価するのです。個人の銀行口座にあるエコをICカードにチャージする仕組みも必要です。銀行や店舗に置かれているATMがその役割を担います。入金や出金の際の銀行手数料をどうするかは検討が必要ですが、手数料を取るとしても、支払いはエコです。もうひとつ、毎月個人に支給されるベーシックインカムとしてのエコを、カードに入金する仕組みが必要です。これは店のカードリーダーに任せましょう。仮に毎月の支給額が1万エコだったとすれば(少な過ぎる? あとで釈明します)、その月のうちに1回だけ店のレジで1万エコをカードにチャージ出来るのです。この時注意しなければならないのは、これは店のカードリーダーからの出金ではないという点です。エコというお金は、まさにその瞬間に無から生まれるのです。

 複雑な仕組みのように感じられるかも知れませんが、利用者の立場に立てばとても簡単な話です。個人がエコ建ての銀行口座を作らなければならないのは、給与やアルバイト料の一部をエコで受け取る必要がある場合のみで、それが無ければ国から支給されるICカード1枚だけで〈エコ生活〉を始めることが出来ます。新しい月が来たら、お店のレジで店員にお願いして1万エコをチャージしてもらいます(カードに記録が残るので、月に2回以上のチャージは出来ません)。あとはエコが使えるお店で買い物をする度にこのカードを出せば、残高がある限り自動的に割引が受けられるというだけのことです。この割引がつまり政府クーポンなのです。政府クーポンと言っても、国が財政負担をしている訳ではありません、国内で経済的な付加価値を生み出している企業や個人がみなで負担し合うクーポンです。端的に、国内産業を振興することを目的としたクーポンと言ってもいいです(だから外資系企業や輸入業者からは歓迎されないでしょう)。私たちがエコを(なるべくカードのなかで目減りさせずに)使い切る努力をすれば、それが国内産業を盛り立てることになるのです。――さて、ここまで電子マネーとしてのエコについて説明して来ましたが、最後に政府クーポン導入時の紙幣としてのエコについて、ひと言だけ追記しておきます。初期導入のコストをなるべく抑えて、政府クーポンの有効性を検証するために、最初は紙幣として始めるのが私のプランでした。月に1万エコの支給なら、例えば500エコの紙幣が20枚綴りになった冊子が行政の窓口で配られるといったイメージになります。電子マネーと違って、紙幣は持っていても減価しませんが、その代わり使用期限が設けられます。支給された月の翌月いっぱいに使い切らないと無効になるのです。これによって減価貨幣と同様に、通貨としての持続可能性が担保されることになります。

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2012年3月11日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(4)

【4】 政府クーポンは究極のデフレ対策

 そもそもクーポンというものは、価格競争をしている市場のプレイヤーが、ライバル企業を出し抜くために利用する営業ツールですから、これを汎用的な政府通貨として発行しようという発想自体に矛盾があります。仮に仕組みとしてそれが有効に機能したとしても、すべての企業がこれを競って採用すれば、結局その分だけ日本円の経済を縮小する(つまりGDPを押し下げる)ことにしかならないのではないか。もちろんクーポンには、取引価格を割り引くという機能と、消費を新たに喚起するというふたつの機能がありますから(前者を悪いクーポン、後者を良いクーポンと呼んだのでしたね)、政府クーポンが一概にGDPを悪化させる要因になるとばかりは言えません。しかし、現在のような長引くデフレ不況のもとでは、クーポンは新規の需要を掘り起こすよりも、既存の需要を食ってしまう可能性の方が強いような気がします。もしもそうだとすれば、政府クーポンというのは、デフレ経済をさらに悪化させるだけの愚かな政策ということになってしまう。今回は、まずこの問題から考えてみることにします。

 私たちは景気の良し悪しだとか、国内経済の見通しだとかいったことを、日本円の尺度でしか判断する習慣を持っていません。しかし、ここで考えてみなければならないのは、仮に日本円の経済の1割が新しい政府通貨によって食われてしまったとして、それで日本の経済は1割縮小したと言えるだろうかということです。貨幣というものは、それ自体の流通に価値があるものではありません。貨幣の流通にともなって、商品やサービスがそれを必要とする人の手に届けられること、そこにこそ実体経済が生み出す本当の価値がある訳です。インフレやデフレというのは、この本来の意味での実体経済に対して、法定通貨のレートが上がったり下がったりする現象に過ぎないとも言えます。例えば国がデノミネーションを行なって、現在の日本円を100分の1に切り下げたとしても、それでこの国のGDPが100分の1に縮小したとは言えないのと同様に、デフレ経済下でGDPが伸び悩んでいる(あるいは縮小している)というのも、実は錯覚に過ぎないかも知れないということです。確かに数字の上では、日本のGDP(名目GDP)は10年以上に亘って横ばいを続けているように見えます。が、その間も日本円の為替レートは上昇を続け、空前の円高を記録している訳です。GDPを計る物差し自体が伸び切っているのだから、見かけのGDPが縮んで見えるのも当然です。そう考えれば、バブル崩壊以降の「失われた20年」などという言い方だって、鵜呑みにせずに疑ってみた方がいいかも知れないのです。確かにデフレ経済には、社会にさまざまな歪みを引き起こすという一面があります(特に雇用問題などにおいて)。しかし、それだってデフレそのものが原因というよりも、新興国の経済発展と国内産業の空洞化ということが大本の原因としてある訳でしょう。デフレは原因ではなく、結果であると言った方が正確ではないかと思います。

 企業や店舗が発行するプライベートクーポンは、単に値引きをアピールするための広告の一種に過ぎませんから、それが取引の証跡として残されることはありません。企業によってはクーポンの受け取り実績を記録して分析しているところもあるかも知れませんが、通常は使い捨てられてしまうだけのものでしょう。ところが、政府クーポンは通貨として業者間を流通するものであり、また必ず銀行口座を通して受け渡しがされるものなので、たとえ値引きのツールだったとしても記録が残ります。するとどういうメリットがあるか? 政府クーポンによって日本円でカウントされるGDPが減少したとして、その規模がはっきり数字として残るのです。デフレをともなう不況のなかで、国内のあらゆる取引の現場で〈値引き〉への強い圧力がかかっています。下請け企業は顧客である大手企業からの要求に屈して、理不尽とも言える値下げを飲まねばならない。そうしなければ取引を止められてしまうからです。企業間の価格交渉は、それこそ密室の出来事ですから、そこでどれだけ国内の取引高が削られたかということは誰にも分かりません。マクロのGDP数値として事後的に現れて来るだけです。昨年と同じ商品を同じ量だけ売って、価格を10%引き下げたとすれば、GDPは端的に10%減少しますが、その実態が直接的には見えないのです。ところが、ここに政府クーポンというものが一枚噛んで来ると、事情が違って来る。デフレ経済のなかでの値引きへの圧力を、政府クーポンがある程度吸収することになるので、値引きによるGDPの削減幅は、政府クーポン(エコ)の流通量によって推し量れるようになると考えられます。さらに円とエコの取引総額を実質的なGDPと見なせば、デフレによって日本のGDPが目減りしてしまうという錯覚にも陥らずに済む、これが今回私が提示したいアイデアです。

 デフレスパイラルという言葉が表しているように、日本経済における価格下落の圧力は、放っておけば自然に均衡して止まるというものではないようです。その背景には、急速に経済発展を遂げつつある新興国の安い製品と安い人件費という構造的な問題が横たわっているからです。最近では中国国内でも人件費が高騰する傾向があるそうですが、中国の次にはベトナムやタイやインドといった国々が控えている訳ですから、先進国の国内経済におけるデフレ傾向は当分のあいだ熄む見通しがありません。こうした大きな構造的変化に対しては、中央銀行の金融緩和策だけで対抗しようとしても効果は限られています。そのことはここ20年間の日本を見れば明らかでしょう。もっと強力な政策が必要だったのです。今回取り上げている「政府クーポン」(国内限定通貨と言っても同じです)という政策は、国内のデフレ圧力に対するガス抜きとして有効なだけでなく、もっと積極的に国内産業の保護と育成という点でも効果を期待出来るものです。そのことは、このブログの以前の記事で何度も説明して来ましたが、簡単におさらいをしておきましょう。仮にあなたが小さな町工場の経営者だったと想像してみてください。大手メーカーに部品を納めるのがあなたの仕事です。客からは毎月のように値下げの要求が来るだけでなく、最近では海外への工場の移転を勧められるようになりました。現地の安い人件費に切り替えれば、価格をもっと下げられるし、利益だって確保出来るだろうというのです。しかし、それは要するに国内の工場と社員を見捨てろということです。あなたが廃業まで考えていたちょうどその時、国民に一律に配られる政府クーポンという制度が始まりました。これはあなたの会社にとって、起死回生のチャンスとなり得るだろうか?

 これまであなたの会社は、あなたが気付かぬうちに新興国の部品メーカーや、すでに海外移転を果たしたライバル企業との価格競争にさらされて来た訳です。客先からの値引き交渉でも防戦一方でした。でも、もしかしたらこの政府クーポンというもので巻き返しが図れるかも知れない。顔を合わせれば値引きを要求して来る取引先の購買担当者に、例えば支払いの2割を「エコ」で受け入れるとこちらから提案してみたらどうでしょう。これは海外のライバル企業には真似の出来ない交渉です。交渉相手のメーカーにしても、国内の消費者に対して政府クーポンでの支払いを部分的に認めなければ市場シェアを落としてしまいますから、手元にはそのままでは使えないエコが貯まっていると想像出来ます。もちろん企業は受け取ったエコを使わずに、口座のなかで減価するに任せておいても構いません。その場合は、政府クーポンは単なる値引きツールとして使われただけのことになります。が、それでは厳しい価格競争を勝ち抜くことは出来ないでしょう。少なくともエコを調達資金の一部に使えるなら、そうしたいと考える筈です。すると次に何が起こるか。これまでは仕入値を下げるために海外の調達先にばかり目を向けていた大手メーカーが、ふたたび国内に調達先を探し始めるのです。これは画期的なことではありませんか。そんなことは過去20年間に一度も無かったことですからね。しかもこれは製造業に限ったことではありません。海外からの安い輸入品に押され気味だった日本の農家や水産業者にとっても巻き返しのチャンスになるし、さらに言えば、私たち国内の労働者にとっても、新興国の労働者と価格競争で張り合える可能性が出て来るのです。

 あなたの会社が売掛金の2割をエコで受け取るためには、それなりの企業努力が必要になります。まず自身の調達先のなかにエコを受け付けてくれる会社を探さなければならない。しかし、特に工業製品のサプライチェーンでは、上流に行くほどそれは難しくなるでしょう。資源に乏しい我が国では、サプライチェーンの最上流まで行くと、天然資源の輸入業者に行き着いてしまう訳で、彼らがエコを受け入れられる余地は極めて小さいと考えられるからです。それでも例えば同じ鋼板を仕入れるのでも、これまでは安い中国製を使っていたのを、国内の製鉄所から買うことで、支払いの一部にエコを使えるようになるかも知れない。国内の素材業者の方でも、積極的にエコを受け付けることで国内販売が拡大するのであれば、そこは努力のしがいがあります。ところで、我が国の経済のなかで、最もエコ通貨に馴染みやすい領域は何かと言えば、それは人件費ではないかと思います。つまり私たちが受け取る給料や賃金のことです。天然資源には恵まれていないこの国も、勤勉で優秀な労働者には恵まれています。これこそが最大の純国産資源です。しかもこの資源は石油や鉱物資源のように枯渇するということがない。これからの日本の経済戦略には、これを最大限に有効活用するという思想が根幹になければならない筈です。ところが、現状はこの貴重な資源が二束三文に買い叩かれているのです。非正規雇用の拡大であるとか若者の就業率の低下といったことは、単なる社会問題というだけではなく、この貴重な資源のおそろしい浪費であると捉えるべきなのです。「よろしい、それでは我が社だけでも社員の給料を上げることにしよう」、社長であるあなたはそう決心をしました、「但し、賃上げ分はエコで支払うこととし、逆に日本円部分の給料は減額することとする。」

 例えばこれまで手取り給与が18万円だった社員が、15万円+5万エコという手取りになったとしたら、これは昇給でしょうか、それとも減給でしょうか? それは5万エコの政府通貨が、どれだけ購買力を持つかで決まります。それが日本円の5万円と同等に使えるなら何も問題はありません。しかし、それは現実的には難しい話でしょう。エコが使える店は増えて行くとしても、売り値の25%までエコを受け付ける店はそうは現れないでしょうから。給料の4分の1がエコになってしまうと、ふだんの買い物にも不便をしそうです。おそらく労働組合の力が強い大企業などでは、エコでの給与支払いということに対するハードルは高いかも知れません。しかし、多くの中小企業では、そんな贅沢は言っていられないと思います。会社を潰さないためにも、社員は自ら進んでエコを引き受ける覚悟を決めなければならない、きっとそういう場面が多く現れるでしょう。けれども、そのことを悲観的に捉える必要はないというのが私の考えです。というのも、現在の日本円万能の経済環境下では不利な立場にある人たち、搾取される立場の人たちがエコの主要な所有者になれば、そこには新しい〈エコの経済圏〉というものが形成される筈だからです。なにしろそこに所属するのは、社会の多数派を占める「99%の私たち」なのですから。経済的に豊かな先進国のなかでも、その豊かさから疎外されている国民が多数を占めているという現実がある以上、エコの経済圏という発想には現実味があると私は見ています。これまで日本円(または米ドル、またはユーロ)の経済圏でおいしい立場にいた人たちは、この新しい市場のことを「プアマンズマーケット」などと呼んで揶揄するかも知れません。しかし、プアマンズマーケット、大いに結構じゃないですか。そこには外国製の高級ブランド商品は置いていないかも知れませんが、生産者の顔の見える安全な食品や血の通った温かいサービスがある。

 読者のことを顧みずに、だいぶ早口でしゃべっていますね(笑)。まだここまで話を進めるための前提条件を説明していませんでした。政府クーポン(エコ)は、最初はクーポン券(紙幣)として個人に配られるのですが、国民がそれに慣れた頃合いを見計らってカード型の電子マネーに切り替わります。それと同時に個人が銀行にエコ口座を作れるようにもなります。企業が給与の一部として支給するエコは、そこに振り込まれる訳です。逆に言うと、国から個人に支給されるエコが紙幣であるあいだは、企業はエコを給与支給には使えないということです。この間はいわばエコ通貨の本格稼働に向けた助走期間であり、企業間でエコによる取引ルールを整備するための準備期間という位置付けになります。この時期には市場でのエコの流通量も、爆発的に拡大するといったことにはならないでしょう。個人用のエコが電子化されると同時に、企業に対してエコでの給与支払いが解禁される訳ですが、当然そこにもルールがあります。給与にどの程度の割合までエコを含めるかということは、労使双方の合意によって決められなければならない、これが基本です。その上で、例えば総支給額の10%までといった上限が法律で定められます。たぶん最初はそんなものでしょう。そして市場でのエコの流通の状況を見ながら、徐々にその限度額を上げて行くというのが良いと思います。要するに企業や個人のエコ口座のなかで、流通せずに滞留しているエコ残高の比率を一定範囲内に収めるという観点で、ルールを設定して行けばいいのです。電子マネーによる政府通貨というアイデアが優れているのは、通貨の流通状況をほぼリアルタイムに監視しながら、政策の微調整が行なえるという点にあります。――さて、次回はいよいよ私たちひとりひとりに配られるカード型電子マネーの仕組みについて説明します。

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2012年3月 4日 (日)

「減価貨幣ベーシックインカム」の新構想(3)

【3】 業者間取引は減価する電子クーポンで

 理論的な考察が続いたので、このへんで具体的な政府クーポンの導入方法について見て行きましょう。(この連載では、法的な強制力が無い独立通貨のことをクーポンと呼んでいます。) 実はこの点については、私はすでに以前の記事でアウトラインを描いています。今回はこれをもう少し整理しながら、現時点で最も現実的と思われるアイデアを示します。それは消費者には紙幣のかたちで政府クーポン券を配ったあと、業者間の取引には電子マネーを使うというやり方です。最終的には、国民ひとりひとりが電子マネーを持つことを目指すのですが、今回は導入のためのステップということも念頭に置きながら考えたいので、そのファーストステップという意味です。

 今日、市場には様々な種類のクーポンが溢れています。紙に印刷されたものだけでなく、インターネットのページをプリントアウトするものや携帯電話の画面に表示させて使うもの、店頭で秘密の合言葉を伝えるだけなんてものもある。また多くの小売店が採用しているポイントカードなども一種のクーポンと見なすことが出来ます。かたちは違っていても、値引きで客を集めて囲い込むという目的は同じです。ところで、もしもクーポンを通貨の一種と考えるなら、その裏にあるお金の流れはどうなっているのでしょう? クーポンには大きく分けて、小売店が発行するもの(ストアクーポン)と製造元が発行するもの(メーカークーポン)とがあります。またまれには〈エコポイント〉のような政府が発行するものもある。いずれの場合にも共通している原則は、値引き分の金額を負担するのはクーポン発行者であるという点です。ポイントカードを含むストアクーポンの場合、値引きはそのお店が負担するだけなので、クーポンがそれ以上〈流通〉するということはありません。メーカークーポンの場合は、店頭での割引金額を一時的に小売店が立て替えて、クーポン券と引き換えにあとでメーカーが精算するという流れになっている。つまりそこではクーポン券が一種の通貨の役目を果たしています。しかし、それを厳密な意味で通貨と呼ぶことは出来ません。小売店にはクーポンを拒否する選択肢も無い代わりに、クーポンを扱うことで損も得もしない仕組みになっている、単にメーカー値引きの代行をしているに過ぎないからです。そこには業者間で利得を分かち合うという、商取引において当たり前の仕組みが欠けています。

 これは従属通貨方式でも独立通貨方式でも同じなのですが、一般に地域通貨というものが業者間取引にまで広まって行かない理由は、この〈利得を分かち合う〉仕組みが、通貨そのものに組み込まれていないからではないかと私は考えています。先に紹介したソル・ヴィオレットのことを思い出してください。ソル紙幣を仕入先への支払いに使えるなら、小売店としては大助かりです。しかし、この場合、5%の損失はそっくりそのまま仕入先に移ってしまいます。地域通貨やクーポン券というのは、簡単に言えば値引きを餌に消費者に購買を促すためのものです。本来なら、そこで発生する損(マイナスの利得)は、小売店・流通業者・メーカーが共同で引き受けるべきものでしょう。客寄せのためのバーゲン品として、ある商品が採算度外視の安売りをされている。小売店が独自の判断でそれをしているのだとしたら、メーカーにとっては迷惑なことです。自社のブランド価値が損なわれてしまいますからね。逆に小売店がメーカーや流通業者とタイアップをして、それぞれが値引きで発生する損を分担するような仕組みがあれば、もっと戦略的な値引きやキャンペーンのようなものが仕掛けられる可能性がある。ただ、それを実行することは不可能ではないとしても、非常に手間とコストのかかることです。仮に合同の営業戦略会議のようなものを開催したとしても、対象とする商品の選定や各業者の負担率といったことで、侃々諤々の議論になってしまうに違いない。スピードが命である今日の小売業において、それではライバルに勝てません。ところが、各業者の意見を調整しなくても、それぞれが自らの思惑で勝手に利得を追求するだけで、自然にバランスのとれた協力体制が出来上がってしまう、そんなうまい方法があるのです。それがすなわち「減価するクーポン」というアイデアです。

 日本円との交換が出来ないクーポン券は、最初から発行者がひとりで値引き額を全額負担することを前提に設計されている訳ですが、これを生産者から小売店までのサプライチェーン全体で負担する仕組みに変更出来ないものだろうか? 私が最初に考えたのは、回数券形式のクーポン券というものでした(記事はこちら)。例えば100円分のクーポン券が、ミシン目で切り取れる5枚のスリップから出来ていて、それぞれに20円という額面が付いている、そんなイメージのものです。小売店は顧客から額面100円のクーポン券を受け取り、端の1枚を切り取って、80円のクーポンとして一次卸業者に渡します(実際には受け取った側がスリップを1枚切り取って買い手に返すという手続きになります)。この時点で、小売店は100円の値引き額のうち20円を負担したことになります。同じ要領でクーポン券は、切り取られながらサプライチェーンを遡上して行く訳です。これには難点がいくつかあります。まず商品の種類によってサプライチェーンの長さは異なるので、5分割というように固定するのは無理があること。各業者が負担する値引き額は、売価に対して同じ比率であることが望ましく、固定された額面額では不公平が生じること。そして何よりも各業者の経理事務が煩雑になってしまい、効率面から受け入れられないだろうということです。ところが、これらの問題を一挙に解決する名案がある。つまりクーポンを電子化して、その電子マネーを時間の経過に沿って一定の比率で目減りさせるというやり方です。その電子マネーを業者間の取引に使えば、サプライチェーン全体での平準化されたクーポン負担が実現する。しかもそのための仕組みは、大した追加投資も無く実現出来ると思われるのです。具体的に説明します。

 この新しい公共クーポンを取り扱おうという業者は、口座を持っている銀行(メインバンク)にクーポン専用の口座を開設しなければなりません。これは通常の取引に使う当座預金や普通預金とは異なる新しいタイプの預金口座で、その仕組みは銀行が用意します。どこが新しいのかと言うと、この口座に預けるお金は日本円ではないのです。ちょうどいいタイミングなので、ここでこのクーポンの通貨単位を決めておきましょうか。エコロジーとエコノミーをかけて「エコ」でどうかな? すでにどこかの地域通貨にありそうですが、とりあえずこれで行きましょう。今後この記事のなかでは、「円」と「エコ」を使い分けることとします。エコ建ての口座と従来の円建ての口座との間では相互に送金は出来ません、エコ口座からは他のエコ口座に対してのみ送金が行なえます。エコ口座は、円口座に付随する〈第2口座〉の位置付けなので、口座番号も円口座と同じで、ただ口座区分だけが異なるものとなります。従って当該銀行に円口座を持っていない企業が、新しくエコ口座だけを開設することは出来ません。また当初はこの口座を開設出来るのは法人のみに限定しましょう(後日個人にも開放されます)。エコ口座に預けたお金には、毎日利子が付きます。但しマイナスの利子です。利子率もここで仮決めしておきましょう、1日当たりマイナス0.741%とします。これは1か月(30日間)複利で回してマイナス20%に相当する減価率です。つまりこの口座に100エコを預けると、1か月後には80エコに目減りしているのです。減価処理は、銀行業務が停止している深夜3時に一斉に行なわれます。

 銀行がこの仕組みを提供するためには、もちろんコンピュータシステムの修正が必要になるのですが、その規模は小さなものだと予想されます。すでに日本のすべて銀行は、コンピュータによる口座管理システムを導入しており、銀行オンラインと呼ばれる仕組みで相互に結ばれています。その資産をそのまま利用出来るからです。口座数と振込データの件数が増える分、ハードディスクの容量やサーバーの台数は若干増強が必要かも知れません。口座種別の追加や減価の仕組みを組み込むために、プログラムにも多少の追加が必要です。でも、例えば銀行の合併に伴うシステム統合などと比べたら、ごく軽微な修正で済むと思います。振込データをやり取りする仕組みも、日本では全国銀行協会というところが定めたいわゆる全銀協フォーマットが標準規格になっているので、そこにエコ口座間での振込データの区分を追加するだけで良い筈です。ついでに付記するなら、エコでの振込を行ないたい企業にとっても、システム改修は小規模なもので済みます。すでに円建ての振込データを作成するプログラムはある訳ですから、それをちょっと修正してエコ建ての振込データを作成するプログラムにすればいいだけです。振込先の口座番号を新たにマスタ登録する必要もありません、口座番号は円建ての口座と同じ番号を使うというルールがありますから、これをコピーするだけでいいのです。すべての銀行が新通貨対応を行なった場合、その費用をどこが負担するかという問題があります。公共クーポンを発行する国や自治体が補助金を出すことも考えられますが、最終的には口座の維持費や振込手数料などによって回収出来るものなので、各銀行に負担してもらうのがいいと思います。対応は法的に強制されるものではありません。しかし、他行と足並みを揃えてサービスを提供しなければ、顧客にメインバンクを他行に移されてしまうおそれがあるので、結局すべての銀行が一斉に対応することになるでしょう。

 この仕組みを使って、企業間でのエコ通貨の流通がどのように行なわれるのか、次にその点を説明します。まず消費者は毎月配られる紙のクーポン券を、任意のお店で使います。受け取った小売店は、自社の支払日までにクーポン券を銀行に持ち込んで、エコ口座に入金します。この時、銀行は〈入金日〉を〈持ち込み日〉とは別に指定出来るオプションを提供することが必要です。どういうことかと言うと、銀行に持ち込んだ日から減価が始まってしまうと、預け主は支払日までに減価損をかぶることになるので、支払日の当日に持ち込みたいと思うでしょう。そうすると、支払日の重なる月末に銀行の窓口がいま以上に混雑することになる。これを回避するためには、実際にクーポン券を持ち込んだ日と入金日を分ける必要があるのです。つまり、その間は銀行がクーポン券をそのまま(減価させずに)預かるという形になる訳です。当然、入金日は支払日当日に指定されることになるでしょう。ただ、そうするとクーポンを扱う小売店は、受け取ったエコをそのまま当月の支払いに使えることになる。せっかく減価する口座の仕組みを作って、業者間で平等にクーポンを負担させようとしているのに、これはうまくありません。そこで、最初に紙のクーポン券を預け入れる場合に限って、預け入れ時に20%を減価させるものとします。100エコを銀行に預けても、入金日には80エコしか入金されないということです。差額の20%は銀行が手数料として徴収する訳ではありません、単に減価するだけです。そこから先のエコの流れは、口座内での毎日の減価と、月に一度の口座間の振込だけになります。するとどの業者も(平均)1か月はエコを自社の口座で寝かせなければならず、(平均)20%の減価損をかぶることになる。

 業者ごとの支払日のバラツキについても考えておく必要がありますね。支払日というのは、企業が独自に決めているものですから、大半の企業が月末支払いのところを、自社だけは月初の支払いにすれば、減価損は1日分で済むことになります。日本円の場合、取引先への支払いはなるべく遅らせるのが定石ですが、エコではこれが逆転するのです。なるべく口座に寝かせないで、早く支払ってしまった方が得だからです。なかには支払いを月単位ではなく日単位にして、日払いにしようとする業者も現れるかも知れない。最終的には、取引をする企業の力関係で、強い業者が弱い業者に減価損を押し付けるということになってしまいそうです。これではまずい。この問題の解決策は簡単なことで、エコの振込日を全国一律で決めてしまえばいいのです。もともとエコは公共通貨なのですから、そのくらいの強制力は働かせてもいいでしょう。例えば銀行業務が立て込む月末・月初は避けて、毎月15日をエコの支払日ということにする。クーポンの入金日は、口座主が指定しなくても、自動的に次の15日になります。銀行は15日が来たら、まずは預かり分のクーポンを口座に入金し、次に各口座から送金するための振込データを作成し、それを銀行オンラインを通して送信した後、受信した振込データを各口座に入金するのです。こうすればすべての業者が公平に20%の減価損を引き受けることになる。持ち越すエコ残高が次月の支払金額とぴったり合えば、減価損は最小で済みます。そこは企業のクーポン戦略の巧拙が現れるところです。そして、エコを扱う各企業が、持ち越しのエコ残高を最小に保とうと努力すれば、サプライチェーン全体を通して、公平かつ最適なクーポン流通に近付くことになるだろうというのが今回の私の仮説なのです。

 これまでの民間のクーポンというのは、特定の企業の販売戦略に従って発行されるもので、サプライチェーン上の他の企業の利益や戦略を無視したものでした。場合によっては、他社にとって迷惑なものでしかない場合も多かったと思います。(小売店の販売計画を狂わせるメーカークーポンだとか、メーカーのブランドを傷つけるストアクーポンだとか。) そこにさらにグルーポンのようなクーポン専門業者が絡んで来ると、健全なサプライチェーンの機能そのものが阻害されてしまう可能性すらあります。政府発行の減価クーポンならば、これらの問題をすべてクリア出来る訳ではありませんが、少なくとも同じ商品を消費者に届ける業者同士が、お互いに利益を少しずつ削って(「三方一両損」の精神で?)、サプライチェーン全体としてクーポンを支える仕組みの基盤が整います。実を言えば、電子マネーであるエコが減価貨幣であることが、各業者がクーポン負担を分担することを保証している訳ではありません。仮に減価しない政府通貨であっても、例えば各業者が円建ての売価の1割を新通貨で受け付けるという暗黙のルールを採用すれば、公平なクーポン負担は実現します。エコを減価させる理由は、これを扱う事業者がエコでの支払いを優先するようにプレッシャーをかけることと、政府クーポンの仕組みそのものを持続可能なものにするというふたつの理由からです(後者については、また改めて説明します)。さて、ここまでの説明に付き合ってくださっている読者の方はほとんどいないと思いますが(苦笑)、まだ検討していなかった政府クーポンというものに関する本質的な疑問について、答えておく必要を感じます。すなわち、政府クーポンは現在のデフレをさらに昂進させるだけではないかという疑問です。

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