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2012年1月11日 (水)

野田政権の増税路線に反対する

 年の初めなので何か景気のいい話でもしたいと思うのですが、景気のいい気分になれる材料が何も見当たりません。野田政権は「社会保障と税の一体改革」なんて耳当たりのいいキャッチフレーズで、2015年までに消費税を10%まで引き上げる案を出して来ています。これに対してマスコミからも国民からも強い反対の声が上がらないのは、巨額の財政赤字(1000兆円!)を解消するためには、増税もやむなしと多くの人が考えているからでしょう。しかし、消費税を現行の5%から10%まで増税したところで、それで国の税収がどれだけ増えるかと言えば、せいぜい13兆円くらいのものなのです。現在の国家予算は約半分が借金によって、つまり国債によって賄われています。その額40兆円以上。税収が13兆円増えたところで、1年間の借金が40兆円から27兆円に減るだけで、国の借金が増え続けることに変わりはないのです。いや、13兆円の税収増というのも実はあやしい話で、増税によって家庭の消費が落ち込み、企業の収益も悪化すれば、トータルの税収はいまとそう変わらない可能性もある。財政再建どころか景気がさらに悪化するだけのことかも知れないのです。

 増税に反対する人たちの主張は、大きく分けて次のふたつに分類出来るようです。増税によって景気が悪化するという認識は同じですが、一方は増税よりも先に財政の無駄を徹底的に省いて、出費の方を抑えよと説く。常識的に考えても当たり前で理解しやすい話です。ところがもう一方は、むしろ今こそ積極的な財政投資を行なって、公共事業で景気を浮揚させよと説く。景気が良くなれば税収も増えるのだから、一時的に国の借金が増えても問題無いというのです。なかには「政府通貨の発行」や「国債の日銀引き受け」ということをセットで持ち出す人もいます。常識的にはなかなか理解しにくい話です。民主党が政権を取った時には、私たちは「事業仕分け」や「天下りの禁止」によって財政は健全化するのではないかという淡い期待を持っていました(マニフェストにそう書いてあったから)。今はもう誰もそんな甘い期待を持ってはいません。民主党の挫折と変節は腹立たしい限りですが、他のどこの党が政権を取ってももう財政再建は不可能だろうという諦めムードが漂っている。そこに財務官僚の操り人形のような総理大臣が現れたのですから、増税路線まっしぐらになってしまうのも無理ありません。

 私自身は「政府通貨」の熱心な支持者ですから、当然増税には大反対な訳ですが、増税反対派が緊縮財政派と積極財政派に分かれて仲間割れをしているようじゃ、いまの増税路線に歯止めをかけることは難しいだろうと思っています。耳を傾けてみれば、どちらの言い分にも一理あるのです。どちらの言い分にも一理あって、長年に亘ってお互いを説得出来ないということは、どちらの言い分にも欠陥があるのではないかと考えるのが自然です。公共事業の削減や公務員の人件費カットくらいのことでは、現在の財政赤字に対しては焼け石に水でしかない。なにしろ国家予算を半分にまで切り詰めなければ財政は健全化しないのですから、支出削減(だけ)で財政再建をするなんてことは現実的ではないのは明らかです。では、政府通貨をばんばん発行して、財政赤字の穴埋めをするというアイデアはどうかというと、こちらもまったく現実的とは言えない。デフレ経済を脱却するために一時的に政府通貨を一定限度内で発行するというならともかく、毎年40兆円ずつ(日銀券と交換可能な)政府通貨を発行したりしたら、デフレ脱却どころかハイパーインフレになってしまう。落としどころはたぶん折衷案にあるのではないかと思います。どうもエコノミストと呼ばれる人たちには教条的な信念の持ち主が多いようで、折衷案というものを主張する人をほとんど見かけない。しかし、一般人の常識で考えれば、全体的には無駄な財政支出を削減し、日銀による国債引き受けも一定限度で許容し、場合によっては増税も組み合わせながら財政健全化に向かわせるしかないのではないか。私たちはみんな、間近に迫った財政破綻という怪物と戦っている訳ですから、使える武器は何でも繰り出した方がいいのです。

 使える武器と言えば、増税よりも先にやるべきことはたくさんあるのではないかと思います。その第一は「納税者番号制」の導入です。日本の税の捕捉率がどの程度なのか分かりませんが、昔から正しく税金を納めているのはサラリーマンだけだというのが世間の常識ですから、これを導入するだけでかなりの税収増が期待出来る。すでに2015年を目標に導入が検討されているそうですが、財政破綻の現実味を考えれば、そんな悠長なことでは間に合わない。まずはこちらを導入して、その効果を見てから増税を検討すべきでしょう。また納税者番号は、銀行預金・証券・保険などにもひも付けておくことが重要です。いまの日本は、莫大な個人資産が凍りついていて、お金が循環しないことが問題なのですから、増税を検討するなら消費税や所得税のようなフローに対する課税より、ストックに対する課税を考えるべきなのです。また消費税を増税するなら、生活必需品と贅沢品の税率を変えることも必要でしょう。これを実現するためには、個々の品目ごとに税額を計算する仕組み(インボイス方式)が必要で、そのためにはお店のレジやコンピュータシステムも大幅に変えなければならなくなります。個人的には、そんな無駄な社会投資をするくらいなら、消費税は5%のまま据え置いて、資産税や金融取引税(トービン税)などによって税収を確保する方が良いと思っているのですが、もしもインボイス方式の消費税が導入出来るなら、そこには大きなメリットがあるのも事実です。例えば環境に配慮した製品に対しては消費税率を低くするとか、国が特別に保護したい農産物には消費税をゼロにするといったきめ細かい政策が実施出来るようになるからです。これが前提になるなら、消費税の最高税率が20%くらいになっても国民は納得するだろうと思います。

 もしも税制改革を議論するなら、そういった具体的な方法論にまで踏み込んで議論をして欲しい。野田政権の「社会保障と税の一体改革」を読む限り、そうした具体論を検討した形跡がありません。具体論が無いということは、理念が無いということです。2012年の最重要な政治的テーマは、とにかく来るべき財政破綻をいかに回避するかという一点に尽きると思います。被災地の復興も、少子高齢化への対策も、公的年金の改革も、TPP加盟に向けた交渉も、代替エネルギーの開発も、すべては国の安定した財政基盤があってこその話でしょう。もしも日本をひとつの企業に例えるなら、その財務内容はすでに破綻が確定してしまった企業のそれです。これ以上、国民に空手形を切るような政権に政治を任せておくことは出来ない。年末に民主党の若手議員が何人か、離党して新党を結成したそうですが、今年は政界再編の年というよりも、〈政界崩壊〉の年になる予感がします。日本の政治に何か変化が起こるとすれば、それはおそらくこの崩壊の後にやって来るのかも知れない。問題は、財政破綻がそれまで待ってくれるかどうかということです。

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