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2011年12月 4日 (日)

農産物直売所の新しいビジネスモデル

 先週の記事にとても示唆に富むコメントをいただきました。農業を営む方からのコメントです。これを読ませていただいて、やっぱり日本の農業には流通改革が待ったなしなんだ、そういう思いが強く湧き起こって来ました。農業関係者でもない自分が、にわか勉強でこの問題についてこれ以上書くことは不遜なことだと分かっているのですが、何か書かずにはいられない気分なのです。私の本職はシステム屋なので(名刺にはコンサルタントなんて肩書きが入っています。この業界では年を食って使い物にならなくなった技術者をそう呼ぶのです)、もしも自分が農産物直売所の新しいビジネスモデルとそれを実現するシステムについて提案書を書くとしたら、どんな内容を盛り込むだろう。それを想像しながらもう一度この問題について考えてみたいと思います。

 あるテーマに対して改善案を考えるためには、まずは現状の問題点を認識しなければなりません。いただいたコメントには、現在の農産物直売所の問題点がこう指摘されていました、「全ての生産物を直売所で販売するには手間がかかりすぎ、かつ一度に大量には出荷できないので生産物のほとんどは市場出荷か流通業者経由となっているのが現状です」。ふたつの問題点がある訳ですね。①直売所で販売するのは(農家にとって)手間がかかる、そして、②直売所では出荷量が限られているということです。もしも十分な出荷量が確保出来るなら、手間をかける意味もあるのでしょうが、現状では直売所への出荷はまだ農家にとって副業以上のものではないのだと思います。ウィキペディアで「農産物直売所」を調べると、国内の農産物流通のうち、直売所経由で販売されるのは全体の5%程度に過ぎないのだそうです。消費者の実感からしてもそんなものでしょう。さらにウィキペディアの記述から、直売所が持つ別の問題点も浮かび上がって来ます。③近隣農家から同じ種類の農産物ばかり集まり、品揃えが悪くなる傾向がある、④同じ農産物が競合することで、直売所内での価格競争が発生する、⑤中間業者による品質管理がなく、残留農薬などのチェックも行なわれない…。こうして見ると、けっこう課題が多いですね。しかし、課題が多いということは、改善の余地も大きいということです。

 課題を整理すると、①販売の手間、②出荷量の少なさ、③品揃えの悪さ、④商品の競合、⑤品質管理という5項目に分類出来るかと思います。まだあるのかも知れませんが、とりあえず今回は試論ですから、これだけにしておきましょう。ひとつずつ見て行きます。まず、①販売の手間ということですが、これは現在の直売所が販売のための「場所貸し」の機能しか提供していないからではないかと思われます。農家は、毎朝穫れた野菜を自らトラックで持ち込んで、値付け作業まで行なっている。これを効率化するのは簡単なことで、店側がトラックを出して農家に野菜を取りに行けばいいのです。10軒の農家が10台のトラックを動かすのと、1台のトラックが10軒の農家を回るのとでは、どちらが効率的か考えてみれば分かります。(物流業界でミルクランと呼ばれる手法です。) 値付けや袋詰めなどの作業も、個々の農家がやるより専門の作業者がまとめてやる方が効率がいい。当然人件費はかかりますが、ここで重要なのはトータルで見たときのコスト効率です。直売所がなかなか規模を拡大出来ないのは、基本的にフリーマーケットと変わらない販売スタイルを取っているからです。フリマが販売力において大手スーパーにかなわないのは当然のことです。

 次に②出荷量の問題…は後回しにして、③品揃えの悪さと④商品の競合について考えてみます。これも実はフリマスタイルの弊害であって、店舗側がしっかりした経営戦略を持って品揃えの計画を立てることでしか解消されません。原則として一物一価のルールにして、複数の農家から買い付ける場合にも同一の買い取り価格・販売価格とすることが必要です。価格は出品する農家との交渉になりますが、最終的に価格決定を行なうのは店側です(もちろん交渉決裂もあり得ます)。新鮮さと安さが売りものの直売所で、ひとつでも割高に感じられる商品が並んでいると、全体の集客力を低下させてしまうおそれがあるからです。品揃えと同様、値付けも直売所にとって最重要な戦略マターなのです。――すると農家は自分で値段を決められないの? それじゃあ農協に出荷するのと変わらないじゃない? いや、そんなことはありません。中間流通が入らない分、農家の出荷価格を高く維持出来ることには変わりありません。(そうでなければ直売所になど卸さなければいいんです。) その日に仕入れたものをその日にすべて売り切るという方針で、店は最適な値付けと商品ミックスを考えなければならない。現在の直売所制度では、販売価格に占める店側のマージン率は固定であるようですが(例えば15%とか)、このルールは撤廃されます。とにかく値付けはお店の責任。その代わり、農家には全量買い取りが保証されます。

 ハウス栽培や長距離輸送が当たり前になった今日では、スーパーの生鮮品売り場からすっかり季節感が失われてしまいました。直売所のコンセプトは、地元で採れた旬の野菜や果物をその日のうちに家庭に届けることですから、大手スーパーより品揃えの面で多少見劣りすることは仕方ないと思います。それでも産地直送のコンセプトを保ちながら、出来るだけ多品種の農産物を集めるためには、物流の範囲をある程度広げることが必要になるでしょう。理想的には、集荷圏が隣接する複数の直売所がタイアップして、お互いの集荷品を交換出来る物流センターを用意出来ればベストです。つまり両者のミルクランルートが交差する地点に中継所を置き、そこで集荷中の商品の一部を積み換えるのです。(物流業界でクロスドックと呼ばれる手法です。) 物流センターと言っても、小型トラックが荷物を積み降ろし出来るスペースがあればいいので、どこかの倉庫の軒先を借りる程度で済んでしまいます。これだけの工夫で、品揃えは飛躍的に増える筈です。理論的には、仮に半径20kmの集荷圏を持つ直売所がネットワークを組めば、半径60kmの地域からの集荷が可能になります。しかもこれは集荷範囲が広がるという効果だけにとどまりません、農家から見れば販売範囲を大きく拡大する効果もある訳です。直接契約している直売所は1か所でも、近隣の複数の直売所にも出荷品が並ぶ訳ですから。もちろん直売所同士は中間マージンを取ることなどしませんし、その必要もありません。

 以上のような物流の効率化によって、農家にとっての②販売量の問題もある程度クリア出来るでしょう。最後に⑤品質管理の問題ですが、これこそ地産地消のアドバンテージが最大限活かせる分野の筈です。まず鮮度を保証するために、すべての商品に収穫日を表示しましょう(基本的には収穫日は「今日」です)。現在の農産物流通では、店先で一番見映えが良くなるように、実が熟する前に収穫してしまうことも多いそうですが、直売所で売られる商品ではそんな必要もないのです。最近はスーパーで売られている野菜にも見られるような、生産者の名前を入れる商品ディスプレイも基本でしょう。農薬情報に関しても、正確に表示することが直売所のポリシーでなければなりません。農業に携わっていない私たちは、簡単に「無農薬」だとか「減農薬」と言ってしまいますが、その実態についてはほとんど知らない訳です。輸入作物の危険性も含めて、消費者を啓蒙して行くのも地域の直売所のだいじな役割だと思います。以上が私が考える農産物直売所の改善案になりますが、重要なのは誰がこの直売所ビジネスの推進者になるかということです。これは農家が共同で経営出来るようなものではなさそうです(書きながらそう思いました)。出来れば志を持った〈社会起業家〉の方に託したい気がしますが、ノウハウを持っている点ではやはり農協になるのかも知れません。前回の記事で私は農協不要論のようなものを書いてしまいましたが、それは付加価値を生み出さない中間流通業者としては不要だということで、このような農産物直売所の経営に乗り出すなら、日本の農協は大いに見直されることになるでしょう。農協はTPP反対を唱えるだけでは国民の信頼も失ってしまう。変革は急がねばなりません。

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コメント

はじめまして
白鳥英美子の萩でここにやってきました。
私も昔この曲をよく聞きました。
歌声ソフトを使ってこの曲のカバーをユーチューブに
投稿したのでよかったら聴いてください。

http://www.youtube.com/watch?v=W9n26K-GA3E

投稿: あろあろ | 2011年12月 5日 (月) 18時17分

あろあろさん、こんにちは。ご返事が遅くなってすみません。

「萩」聴かせていただきました。よく特徴をつかんでいますね。懐かしい気持ちで聴きました。鴉鷺のベストアルバムはCDにもなっていて、私も確か持っているのですが、何故かこの名作は収録されていないのです。いまの若い人たちにも聴いて欲しい1曲なのですが…

投稿: Like_an_Arrow | 2011年12月12日 (月) 00時57分

先日「産業の効率化は流通改革から」にコメントさせて頂きました農家の者です。遅くなりましたが年内の農作業がほぼ終了したのでやっとコメントさせて頂きます。またしても長文になりますがご容赦ください。

まず、先日のコメントでの私の書き方が悪かったのですが農業の改善は「生産者価格と小売価格の乖離」の問題が最も重要で、「直売所の改善」は農家的にさほど重要ではないということです。その上で直売所の改善案に対するコメントを以下に列記します。
①販売の手間
手間賃をよほど低価格にしないと利用する農家はいないのではないでしょうか?一商品につき10円の手間賃ぐらいがしきい値かなと思います。

②出荷量の少なさ
コメント無しです

③品揃えの悪さ、④商品の競合
一物一価になると間違いなく品質は劣化します。また、スーパー等の農産物の販売では、スーパーは商品を買取り、値付けし、売れ残り品を処分するという作業すべてを自分で行い販売リスクを負う代わりに価格決定権を持つのです。したがってそれを直売所側がそれを行うのではスーパーと同じリスクを負い利益はスーパー以下となり、結局はスーパーより安い代わりにサービスも商品も悪い直売所になってしまいます。
さらに値付けの低い直売所には売らなければいいと簡単に言われても売り先を選べる程の直売所の数は多くなく、鮮度の必要な農産物を早く売り切らなければならないので直売所に価格決定権があるのではスーパーと同じで買いたたかれてしまいます。参考までに売れ残った農産物は農家が引き取り処分しています。
直売所をネットワーク化するという発想は面白いとおもいます。ただし、売れ残りや商品の重複を避けるため受注発送等のシステムを取り入れるべきだと思います。

⑤品質管理
現在すでに日付入りラベルで収穫日は管理されており収穫後3日を経過し商品は店頭から撤去されますし農薬は作物毎に薬品名と使用量、使用履歴を提出しています。

結論として③④のコメントでも書きましたが農家はまとまった量の農産物を手間をかけずに出荷したいが出荷先を選ぶことが出荷先の数および鮮度的にでき難いため搾取に甘んじなければならない状況にあること、さらに生産者価格と小売価格の間にどれだけの乖離があってもそれを規制する法律がないことが搾取を容易にしているのだと思います。これは漁業でも同じではないでしょうか。そして成功している農業法人は自己で最終商品化まで行ったり、大規模化したりという点ばかりが取り上げられていますが、一番の成功要因は最終商品化や直接販売化で中間搾取されないことだと思います。
政府や行政が法律を整備してくれるだけで農業は生き返ることができると思うのですが…。

投稿: 農家の者 | 2011年12月25日 (日) 16時32分

「農家の者」さん、コメントありがとうございます。
ご返事が遅くなってしまい、すみませんでした。

今回の記事は、以前いただいたコメントに触発されたものであると同時に、一消費者としてこんな農産物直売所があればいいなと思って書きました。中間マージンが高いということは、その分が消費者価格に転嫁されている訳ですし、中間流通が長いということは、その分鮮度の劣る商品を消費者は手にしている訳です。その点、品揃えの良い直売所は本当に魅力があると思います。

いただいたコメントを読ませていただいて、スーパーの流通というのはそう悪いものではないのかなと思いました。確かに買い取りのリスクを負う以上、商品の品質に対する姿勢も厳しくなりますし、品揃えに対しても店の努力が必要な訳ですから。問題は、ご指摘のように「搾取」と呼べるほど高い中間マージンにあるようですね。

これは最近書いた人材派遣業などでも同じですが、中間搾取というものを野放しにしているのは、行政の責任でもあると思います。ただ農産物の場合、生産者の立場が苦しいのは、商品の寿命がとても短いという点ですね。水産物なら冷凍保存という手段がありますが、野菜や果物ではそうはいかない。売れ残りのリスクを取る小売業者が、そのリスク分をマージンに上乗せするのは仕方ないことなのかも知れません。法律でマージン率に上限を設ければ解決するのか、難しいところだと思います。

投稿: Like_an_Arrow | 2011年12月31日 (土) 23時59分

明けましておめでとうございます。

>>品揃えの良い直売所は本当に魅力があると思います。
生産者の立場から見ても本当は直売所ですべて売り切ることができれば鮮度のいい物を安く提供できていいのですが、量的にすべてということはまず不可能です。それをふまえた上で直売所同士を結ぶシステム(元の文章で提案されていましたミルクランのリレー方式)はうまく活用できれば生産者、消費者ともに得をするシステムだと思います。

>>売れ残りのリスクを取る小売業者が、そのリスク分をマージンに上乗せするのは仕方ないことなのかも知れません。
小売業者のリスクマージンによる上乗せだけであれば許容範囲と思いますが中間流通業者が投機的に関与(地方の市場で安く買いたたいて都市部の市場で高く売る)していることはあまり知られていないと思います。人材派遣業の中間搾取も同じだと思いますが規制すれば流通が止まるので危険という意見もあるでしょうが格差が広がらないようにコントロールすることこそが行政の役目だと思いますし、市場による均衡がベストだとは思えません。(本来はそういう流通システムの構築も農協がメインでやる仕事なのですが)
ごく近い将来にTPP導入や農業法人の参入などで農業を取り巻く環境は大きく変わると思いますのでひょっとしたら中間業者そのものが直接販売で駆逐されるかもしれません。(その時には個人農家は絶滅しているかも)

ともかく今後とも新しい直売所の提案も含めて検討に参加させて頂けたら幸いです。

投稿: 農家の者 | 2012年1月 1日 (日) 02時31分

明けましておめでとうございます。コメントありがとうございます。

福島第一原発の作業現場では、派遣会社から送り込まれている作業者が法外な搾取を受けているとも聞きますし、この中間搾取の問題は今後大きく取り上げられるべき問題ですね。

今年はTPPの動向も含めて、しっかり行政の行こうとする方向を凝視していかなければならない1年になると思います。また折にふれてこの問題も取り上げて行きたいと思いますので、よろしくお願いします。

投稿: Like_an_Arrow | 2012年1月 1日 (日) 08時47分

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