« パパンドレウ首相は正しかったと思う | トップページ | 「Buy Domestic」を消費者の行動規範に »

2011年11月13日 (日)

TPPに替わる戦略はある!

 「改めて主張したい。まず交渉に参加すべきだ。そのうえで、この国の未来を切り開くため、交渉での具体的な戦略づくりを急がねばならない。資源に乏しい日本は戦後、一貫して自由貿易の恩恵を受けながら経済成長を果たしてきた。ただ急速に少子高齢化が進み、国内市場は停滞している。円高の追い打ちもある。貿易や投資の自由化を加速させ、国内の雇用につなげていくことが、ますます重要になっている。世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が行き詰まるなか、アジア大平洋地域にはアジア大平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現という共通目標がある。横浜で昨年開かれたAPECでは、FTAAPへの道筋の一つにTPPも位置づけられた。それに背を向けて、どういう戦略を描こうというのか。」

 ――これは今週火曜日の朝刊に載っていた、朝日新聞の社説からの引用です。なんだか意外な感じがしますね、朝日新聞がもろ手を挙げてTPP賛成に回っている。購読はしていても、ふだん社説なんてほとんど読まないので、朝日新聞社がTPP推進派の立場を明確にしているとは知りませんでした。マスコミ各社がこうした問題に対してはっきりとした態度表明をし、旗幟鮮明にすることに私は基本的に賛成です。それにしても(と私は思うのですが)、この社説の文章はひどい。私がTPP反対派だからそう感じるのではないと思います。語気の強さに、内容がまったく伴っていないのです。「貿易や投資の自由化を加速」させることが、どうして「国内の雇用に」つながるのか、その理路はどこに説明されているのでしょう? むしろ自由化によって国内の雇用が失われることを国民は心配しているんじゃないですか? 「アジア大平洋地域にはFTAAPの実現という共通目標がある」なんて断言してるけど、誰がそんな目標に合意しました? 「それに背を向けて、どういう戦略を描こうというのか」なんて脅し文句が効果を持つためには、FTAAPというものが多くの国民に了解されていなければならない筈です。でも、FTAAPなんて名前は聞いたこともないという人の方が、国民のあいだでは(私も含めて)大多数なんじゃないですか?

 TPPをめぐる議論はインターネット上でも白熱していますが、賛成論にせよ反対論にせよ、最近はこんな空疎な文章を探すことの方が難しいような気がします。こういうのを読んでしまうと、やっぱり新聞というものの社会的な役目は終わったのかなと思ってしまう。それはともあれ、「TPPを選択しないなら、他にどんな戦略があるのか?」という反語的疑問文は、TPP推進派の常套句でもありますから、TPP反対派の自分としてはこれに答える義務を感じます。たまたま新聞の社説を読んで感じた腹立たしさがこの文章を書く動機になっているのですが、これは一度はきちんと考えをまとめておくべきことでもあります。確かに反対のための反対では意味がありませんからね。私の考えでは、TPPの問題というのは、それだけを単独で論じるべきものではありません。これは日本がこれからも経済成長を最優先にして行くのか、それとは違う方向に転換するかの分岐点となるべきものだというのが基本的な認識です。いや、野田さんがTPPへの参加表明をしたからと言って、それで日本の将来が決まってしまうほどのものではないのかも知れませんね。これから日本が進むべき方向を決定づけるファクターのひとつであると言い直しましょうか。震災とそれに続く原発事故によって、この国では従来の保守対革新という政治的な対立軸がまったく無効になってしまったと私は捉えています。それはもっと別の対立軸に取って代わられるべきものなのです。

 もっと別の対立軸とは何か? それはもう誰もがよく知っているものです。一方のキーワードを「経済成長」とするなら、もう一方のキーワードは「持続可能性」というあれです。これに類似するキーワードなら、いくらでも挙げられます。「グローバリズム」「GDP」「投資効率」「最適地生産」「能力主義」vs「コミュニティ」「資源循環」「再生可能エネルギー」「地産地消」「互助主義」…。もっと端的に「エコノミー」対「エコロジー」と言っても同じです。そんな対立軸なんて目新しいものでも何でもありませんが、それが観念的なものからいよいよ現実的な争点となって私たちに突きつけられている、それが今日の世界の状況ではないかと思う訳です。いまアメリカやヨーロッパで起こっていることは、単に循環的な景気の谷に落ち込んでいるといったことではないような気がします。それは産業革命以来ずっと右肩上がりに続いて来た経済成長が、とうとう行き止まりの崖っぷちに到達してしまったということなのではないか。日本は世界に先駆けてこの状況に突き当たっていた筈なのですが、崖から先に転落したのはアメリカとヨーロッパでした。何故か? 日本人がコツコツ貯めて来た1400兆円の個人資産が、崖っぷちでふんばる支えとなっているからです。現在の日本円の独歩高は、要するにそのことを表しているのです。しかし、その支えだって、もういつまで保つか分からないというのが今の状況です。

 アメリカのTPPにせよ欧州中央銀行のギリシャ救済策にせよ、言っちゃ悪いけど、経済が没落して行く国々の最後の悪あがきのようなものじゃありませんか。もしも「アジアの成長を取り込む」なんてことを言うなら、現に成長を続けている中国や韓国やインドと組む方がよほど合理的というものです。もうひとつTPP推進派が口にする常套句に、「TPPを利用して」あるいは「外圧を利用して」というコトバがあります。これもヘンな話です。今週、テレビの深夜ニュースを見ていたら、医療分野の改革を進めるためにTPPを利用するという視点で特集を組んでいました。混合診療の問題(保険認定外の治療を受けると、認定部分の治療も保険対象外となってしまうという問題)やドラッグラグ(世界的に認可されている医薬品に厚労省が認可を下さないため、最新の治療が受けられないという問題)について、TPPがこうした閉鎖的な日本の医療制度に風穴を開けてくれるかも知れないというのです。でも、これは話が本末転倒です。TPPに加盟しないと、アメリカが最新薬を売ってくれないというならともかく、ここで取り上げられているのは純然たる国内問題ではないですか。これは私たち有権者が政治を通して正して行くべき問題でしょう。そこにTPPを絡めようとするところにウソがある。TPP推進論者の意見を子細に見てみると、だいたいがこの手のウソで出来ていることに気付きます。

 おっと、脱線した。問題の本質は、TPP参加の是非という小さな論点にあるのではない、日本がこの先も経済成長を最優先にしてやって行くのか、持続可能な社会に向けて舵を切り直すのか、私たち国民がどちらを選ぶのかという点にあるということでした。新聞の世論調査によると、TPPに賛成する人の割合(45%)が反対する人の割合(32%)を上回っている一方、脱原発に賛成だという人の割合は74%に達しているのだそうです。つまり原発には反対だけれども、TPPには賛成という意見の人が結構いるということです。私はこれに違和感がある。もしも既得権益の構造を打破するという視点に立てば、原発反対とTPP賛成は近い立場として括れるのかも知れません。原子力ムラと農業団体は同じ穴のムジナだという見方です。でも私は、こういう見方は庶民感情に訴えるものはあっても、長い目で見れば国の進む方向を誤らせるものだと思う。TPP参加の問題も原発存廃の問題も、その本質はこれからの社会の持続可能性という高次の問題につながるものです。規制緩和によるグローバル経済の進展が、大局的な見地から見て、ほんとうにいま選択すべき方向なのだろうか。原発にノーと言った時、私たちは多少電力料金が高くなっても、安全でクリーンな電力に切り替えて行くべきだと考えた筈です。それが例えば農産物に関してなら、生産性が高ければ(つまり小売価格が安ければ)、大型耕作機械と大量の農薬を使う大規模農法の方が好ましいと考えるのは矛盾している。素朴に当たり前に考えてみましょうよ、これからの日本の農業がヘリコプターでの種まきや農薬散布を取り入れることを私たちは本当に望んでいるのだろうか?

 根本的な問題は、「生産性」という概念が十分に吟味されることなくひとり歩きしている点にあります。これをグローバル経済での取引価格でのみ計ろうとすれば、日本の農業には今後も勝ち目は無い。しかし、環境に与える影響や単位耕作面積当たりの収穫量という観点で見れば、おそらく日本の伝統的な農業の優位性というのも明らかになると思います。TPPに替わるべき国家戦略のヒントはそこにあります。これは農業だけに限ったことではありません、狭い国土と乏しい資源のなかで国民経済をやりくりして行かなければならない我が国は、アメリカや中国と同じ戦略で戦うことは出来ないし、そもそも同じ土俵に乗るべきでもないのです。TPP推進派は、労働集約型の産業構造からの転換といったことを主張しますが、これがそもそも間違いのもとです。これからの社会は、何よりも資源の循環性や再利用性ということを最優先にして設計されなくてはならない。狭い国土に多くの人口を抱える我が国では、再利用可能な資源の最たるものである〈労働力〉を有効に活かすということを国家戦略の中心にすべきなのです。アメリカの大規模農園の多くは、農薬の大量散布や地下水の枯渇によって農業の持続性さえ危ぶまれていると言います。これを日本の将来の姿にしてはならない。短期間の経済効率性を追求して、将来に大きなツケを残すような政策は、この国ではもう支持を得られないと思います。TPPに反対する民主党議員の皆さんは、もしも党を割るほどの覚悟があるなら、例えば日本版「緑の党」を目指す勢力と合流して、新たな政治的な対立軸を国民に示して欲しい。もうすでにその機は熟しています。

|

« パパンドレウ首相は正しかったと思う | トップページ | 「Buy Domestic」を消費者の行動規範に »

コメント

シンプルながらも正確な以下のセンテンス。これに尽きるでしょう。
>もっと端的に「エコノミー」対「エコロジー」と言っても同じです。<
両者の語源を繙いた書籍有ったんですが、盗まれてしまった。

管理人さんが求めてるベクトルは、日本のごくわずかな良心的知識人が求め
もがいてるそれと同じだと思います。
その流れは、オルタナティブ・テクノロジと称されるところが起源だと思ってます。
ほとんどの方達は途上で息絶えたか沈黙しました。
管理人さんにおかれても、先の見えない洞窟を彷徨う心境ではないかと考えます。

TPP反対で離党する議員は一人も現れないでしょう。
そこがお先真っ暗。命を賭けてモノ申す者を失った今の日本。
「カネの多寡」だけがすべてを計る尺度、
アメリカ発ミーム爆撃作戦の成功なのかもな。

遭遇して分かった311の衝撃。
技術農奴の道をひた走る日本国民。

行く先はイバラの道ですけど、応援してます。

投稿: ロシナンテ | 2011年11月16日 (水) 12時01分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138790/53234957

この記事へのトラックバック一覧です: TPPに替わる戦略はある!:

« パパンドレウ首相は正しかったと思う | トップページ | 「Buy Domestic」を消費者の行動規範に »