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2011年11月 6日 (日)

パパンドレウ首相は正しかったと思う

 前回の記事でTPP参加への反対論を書きました。それと同時にいくら反対派が声を上げても、対米従属路線の野田政権が、見切り発車でTPP交渉に参加することは避けられない状況なのだろうとも思っていました。ところが、今週またこの問題は思いがけない展開を見せました。今月12日から始まるAPECのなかで日本が交渉参加を表明したとしても、もう手遅れだというのです。どういうことかと言うと、日本がTPPの交渉に参加するためには、米国政府と米国議会による事前協議と承認が必要で、そのためには最大5か月ほどかかるため、今からではもう来春からのTPP交渉には間に合わない可能性が高いというのです。日本政府はそのことを知ることの出来る立場にいたのに、適切な情報開示を行なって来なかった、野党からはそんな批判の声も出ているようです。

 このニュースを聞いた時の私の正直な感想は、「?」というものでした。だってもともとTPPというのは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で発足した経済協定でしたよね。アメリカは後から加入した新参者に過ぎなかった筈です。そこに日本が参加、じゃなかった、「参加交渉への参加」をするためにですね、何故アメリカ議会の承認を経なければならないのか。それじゃあブルネイ議会の承認はどうなっているんです? アメリカは日本にTPP参加を強く求めていたのに、何故いまさらそんな矛盾したことを言い出したのか? 実はこれは詐欺師がよく使う手です。お人好しの金持ちをつかまえて、あやしい儲け話を持ちかける。相手はためらって少し考える時間をくれと言う。3日後に意を決して電話をしてみると、あの話はもう締め切りましたと言われる。そこをなんとかと懇願すると、それじゃあ特別にうちの社長に取り計らってみましょうと答える。こうして単にだまされるだけでなく、恩まで着せられる訳です。人間心理のアヤで、その方が詐欺行為が見破られにくくなるんですね。こんな状況でもTPP参加に前のめりな野田さんは、どう見ても国際政治における〈いいカモ〉でしかない。屈辱外交もここに極まれりというべきです。

 財政破綻寸前のギリシャで、パパンドレウ首相がユーロ圏にとどまるか否か、国民投票を行なって決めると言い出しました。苦労をしてギリシャ救済策をまとめ上げたフランスのサルコジ大統領やドイツのメルケル首相は、このギリシャ首相の突然の発表にかんかんです。でも、ギリシャという国の将来を考えた時、私はパパンドレウさんの政治的決断はまったく正しいものだったと思います。交渉相手をかんかんに怒らせることだって外交駆け引きのテクニックのひとつでしょう(かんかんに怒っている方だって、自国民向けのパフォーマンスをしているだけなんだから)。ギリシャの国内には、フランスやドイツの屈辱的な救済策を呑むくらいなら、ユーロを離脱して自国通貨のドラクマに戻ろうという世論もあるのです。どちらに転ぶにせよ、この先のギリシャ国民を待ち受けているのは茨の道です。強い政治的指導力でこの困難を乗り越えることは不可能だと思います。どちらを選択しても、未来に大きな困難が待ち受けていると分かっている状況では、正しい政治的決断というものは原理的にあり得ない。後でその困難が現実となったとき、野党はその選択をした現政権を非難し、世論もそれに同調することは分かり切っているからです。こういう状況で政権が選べる最善手は、国民自身にそれを選ばせることでしょう。それは政治の責任回避ということではありません、来たりくる困難を乗り越えるためには、国民が主体的にそれに立ち向かい、誰にも責任転嫁をしないことが必要なのです。

 パパンドレウさんの乾坤一擲の決断は、内外からの強い反発でつぶされてしまったようです。このチャンスを逃したことは、これからのギリシャにとって長く禍根として残るのではないかと私は思います。しかし、考えてみれば、状況は日本も同じですね。TPPに参加するかどうかという選択肢は、どちらかを選べばバラ色の未来が約束されるといったようなものではないからです。端的に言って、どちらを選んでも日本国民は苦難の道を歩まなければならない。どちらを選んでも政権は「それ見たことか」という非難を受けることが必定なのです。だったらギリシャ首相の勇気に倣って、TPP参加も国民投票で決めてみたらどうだろう。たとえ日本の農業が大打撃を受けるにせよ、政治に見捨てられたというシナリオよりも、国民の総意でそうなったというシナリオの方が農業関係者も納得出来るし(たぶん)、農業の復活のためにもプラスに働くのではないだろうか。国民投票を経たあとでは、農業問題も単なる政治問題から国民全体の問題として認識されるようになるからです。(TPPに関しては、それ以前にその「素性の悪さ」を国民に周知徹底することの方が重要だとは思いますが…) 考えてみれば、日本にも「国民投票法」というものが出来たのですから、これを活用しない手はありません。もともとこれは安倍政権時代に憲法改正を目指して作られた法律ですが、震災後のいまとなっては憲法改正なんて誰も話題にさえしない。もっと喫緊の重要な案件への適用を考えるべきです。

 そう考えると、国民投票の対象にしたいテーマはまだ他にもいろいろありますね。例えば原発問題。これは国論を二分する難問で、原理的に正解の無い問題です。何故かと言うと、原発を継続するにしても廃止するにしても、メリットよりデメリットの方が大きいからです。もっと正確に言うなら、どちらを選択しても大きな不利益を被る人が出て来ることが分かっているからです。(もしも不利益を被る人がいないような政策なら、そもそも論争にさえならないでしょう。) こういう問題に対しては、いくら議論を尽くしても答えは出ません。かと言って国会決議で決めてしまったのでは、後々に遺恨が残る。むしろ国民投票にかけてもらった方が、私たち有権者としても納得が行くのではないか。原発問題だけではありません、増税問題にしても、年金改革問題にしても、郵政民営化問題にしても、政治的には正しい答えを出せない問題ばかりです。ここ何年ものあいだ、日本の政治が停滞しているのは、そうした問題ばかりが積み残ってしまっているからではないでしょうか。日本は民主主義国家のなかでも、国民投票を行なったことがない例外的な国です。私は、日本もはっきりした対立軸と政治的主張を持った二大政党制に向かうことが望ましいと考えているのですが、当面それが望めないのであれば、国民投票というツールを利用して閉塞した状況を打開する選択肢も考えるべきなのではなかろうか。ギリシャのニュースを聞きながら、そんなことを思ったのでした。

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コメント

どうも、初めまして。
パパンドレウ元首相についての意見が自分と一致していました…。

海外メディアとかサイトとか見てると「パパンドレウは今回のショックの元凶」みたいに書かれていて
散々な扱いされてますけど、いずれ遅かれ早かれ借金を隠していたことはバレてしまうんだから…。

もし後に借金が更に膨らんでからバレたらもっと悲惨なことになっていたでしょうね…。

というかこれの真の元凶はパパンドレウ以前の借金を隠してた内閣ですよね。
いずれ彼を歴史が正当に評価するときが来るんでしょうかね…。

あと原発についての考え方も自分と近いです。
ネット上見かけるとむやみやたらに「原発廃止」を唱えてる方々がいますけど、
確かに今の東電に問題があるのはもっともなんですが、かといっていきなりはいしするともっと悲惨なことになりますよね…。

管理人さん、返答待っております。

投稿: | 2012年6月16日 (土) 05時15分

いよいよギリシャは今日(6月17日)が再選挙だそうです。結局、パパンドレウ前首相が目論んだ国民投票と同じことが選挙で争われる訳ですね。新政権が、ユーロとドラクマを併用する二重貨幣制なんてのを採用すれば面白いと思うのですが、他のユーロ諸国がそれは許さないでしょう。

原発に関しては、私は(今では)はっきりした脱原発派です。これについては最新の記事にも書きました。ただ、原発とこの先共存する道がまったく無いかというと、可能性はあると思います。例えばそれは緊急停止に制御棒など必要としない、新しいタイプの原発などというものが開発された場合です。あるいはトリウム原発という選択肢もあるかも知れません。原発なら何でもかんでも反対、というのはやはり違和感を感じます。

投稿: Like_an_Arrow | 2012年6月17日 (日) 23時52分

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