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2011年11月27日 (日)

産業の効率化は流通改革から

 グローバリズム全盛の時代に、これ以上国内産業を空洞化させないためには、まずは自分たちの消費スタイルを見直そう、前回はそういう話をしました。今回は、それと同時に国内産業の効率化をどう進めるかという話をします。というのも、TPP問題が議論されるようになって以来、日本の農業の非効率さがすべての元凶のように言われる風潮があって、私はこれに疑問を感じているからです。TPP推進派は、日本の農家も大規模化・機械化を進めて、生産性と競争力を高めるべきだと言います。日本でも昔は大地主が小作を使って効率的な農業を行なっていたのが、戦後の農地解放で小規模農家に分割されてしまい、効率化の道を阻まれた、そんな議論をする人もいます。確かに農業には規模のメリットがあるのは常識的にも理解出来ますし、狭い国土とは言っても改善の余地はあるのだろうと思います。しかし、日本の農業の競争力を高めるためなら、大規模化や機械化よりも先にやるべきことがあるのではないかとも思うのです。それは流通の無駄を省くことです。

 そんなことは指摘されるまでもなく、分かり切ったことだと言われるでしょうか? それはその通りなのですが、何故かTPPをめぐる議論のなかで、この当たり前の論点があまり取り上げられないことに不審を感じるのです。最近は、日本の米作農家でも、手間のかかる田植えをせずに、田に直接種蒔きをするところが現れているのだそうです(乾田直播または湛水直播と呼ばれる農法です)。これによって単位面積当たりの収穫量は1割程度減少するものの、人件費は3割程度削減出来る、そんな記事を目にしたことがあります。仮に従来の農法に比べて3割のコスト削減が出来たとしても、それで改善される生産性は20%程度に過ぎません。それで日本の農業が国際競争力を持つようになるなんて、とうてい考えられないことです。一方、国内の標準的な農産物流通では、農家の出荷単価と小売り単価のあいだには数倍もの開きがあるのだそうです。それだけの中間マージンが上乗せされているということです。法外な、と言っても過言ではない。この流通構造を温存したままでは、いくら生産過程での効率化を進めてもほとんど無意味です。TPPに加盟するにせよしないにせよ、日本の農業は変革されねばならない。が、変革されるべき対象は、農業そのものの生産性ではなく、流通過程の効率性だということです。

 農産物は一般的に、農家→農協→卸売市場→仲卸業者→小売店といった流通を経て消費者に届けられます。それぞれが中間マージンを乗せる訳ですから、米や野菜の小売値が高いのも当たり前です。農業の改革と言うのなら、大規模化だとか機械化なんてことよりも、この流通ルートの長さを何とかしなければならない。しかし、TPP反対派からはそんな声は出て来ません。何故かと言えば、TPPに最も強く反対しているのは個々の農家ではなく、組織力を持った流通業者の方だからです。ありていに言ってしまえば、農協(JA)なんてものは、農業利権に寄生する既得権団体以外の何ものでもない。日本の農業は守って行かなければならないけれども、農協を守る必要は無いとTPP反対派である私は考えます。農業という第一次産業において、価値を生み出しているのは農家であって、農協ではないからです。最近は産地直送を看板に掲げるお店も増えて来ているようですが、これはいい傾向だと思います。特に新鮮さが売り物である農産物においては、望ましい流通ルートは、「農家→小売店→消費者」か「農家→消費者」のいずれかでしかあり得ない。しかし、こういった流通改革は、業界の内部から自発的に起こることはないし、政策によって後押しされることもありません。TPPに反対する政治家だって、農業利権に寄生している団体を票田にしているから反対のポーズをとっているだけで、この利権構造を壊してまで農業を合理化するつもりなどないからです。その陰で割を食うのは、いつも安く買い叩かれる生産者と高く売り付けられる消費者です。

 農業の流通改革のためには、生産者と消費者が直接結びつくしかないだろうと思います。最近はインターネットを使って米や野菜を直販する農家も増えているようです。我が家でもここ数年、お米は秋田の農家から直接取り寄せているのですが、配送料込みでも値段は安いし、何よりも生産者の顔が見える安心感がある。農産物の場合、この安心感は大きな付加価値になります。輸入された野菜や果物では、これは望むべくもないことですからね。国内の中間流通は、価格競争力ばかりでなく、わざわざ商品の付加価値まで削いでいるのです。直売所やインターネットを介して、農家と消費者が直接取引をするようになれば、もっといろいろな付加価値のある商品が市場に出て来るのではないかと思います。例えば、非効率な農業の代表格のように言われているものに「棚田」があります。山あいの斜面の狭い土地に、まるで幾何学模様のように美しい水田が広がっている様子は、日本の原風景とも呼べるようなものです。その全国にある棚田が、いま後継者がいなくて危機に瀕していると聞けば、誰もがこれを守りたいと思う筈です(私も思います)。だったら「棚田米直販サイト」というのを立ち上げたらどうだろう。値段は少し高いけれども、地域や銘柄を指定して全国の棚田米が買えるショッピングサイトです。ここでお米を買うことが、日本の棚田を守ることにつながる。しかも顔の見える生産者が美田で作った、おそらくは無農薬か低農薬のお米ということになれば(農薬に関する情報も開示すべきでしょう)、それは購買者にとって最高のプレミアムになると思うのです。

 生産者と消費者を直接結びつけることが合理的なのは、農業だけではありません。現在の円高とデフレの影響で、家電メーカーも青息吐息の状態ですが、一方でここ何年かのあいだに家電量販店と呼ばれる業態が大きく成長しています。都心の歴史ある百貨店がどんどんつぶれて、家電量販店に置き換わっている。メーカーが慢性的な赤字経営で苦しんでいるのに、小売業者だけが肥え太るというこの状態は、やはり健全なものとは言えない気がする。かつて各家電メーカーは、系列店と呼ばれる小売店(街の電気屋さん)と共存共栄の関係を築いていました。いまや圧倒的な販売力を持ち、どこのメーカーに対してもロイヤリティフリーな量販店に、利益をすべて持って行かれるような構図になっている。何故メーカー自身がこの状況を変えようとしないのか、私には分かりません。本当の価値を生み出しているのは一体誰なのか? 私は家電量販店の隆盛にはたぶんにバブル的な要素があり、長続きしないのではないかと予想しているのですが、このバブルがはじけた後に、日本の家電業界全体が再生不能なほどに傷ついているのではないか、そのことの方が心配です。もはや系列店制度も崩壊して、流通そのものが戦国時代に入ったのだから、メーカーも直接消費者とつながるチャネルをどんどん開拓すればいいのです。都心の一等地に立派な店舗を構える量販店の販売コストを、消費者に負担させる必要など無い。もしも量販店の魅力が、異なるメーカーの競合機種を比較して購入出来る点にあるというなら、大手メーカーが共同出資して販売会社を作り、直営のリアル店舗を作ったっていい。メーカーが直接消費者の声を聴ける場を作ることは、本業のものづくりにもいい影響を与える筈です。

 今回の記事で、私は別に農協や家電量販店を敵に回そうとしている訳ではありません。私自身、家電量販店にはひとかたならずお世話になっていますしね(農協にはお世話になった記憶がありませんが)。ただ、これからの時代、本当に必要な価値を生み出している人たちや企業が報われる経済構造にして行かなければならない、そう思っているだけです。勤労者として私たちは、自分が社会にどのような価値を生み出しているのかを考えて仕事をしなければならないし、消費者として私たちは、自分が支払うお金がその価値を生み出してくれた人たちにきちんと届くのかを考えて買い物をしなければならない。迂遠なように見えても、そうした個人の自覚の上にしか、産業の本当の効率化はあり得ないと思うのです。規制緩和やグローバリズムの進展で本質的な何かが変わる訳ではない。TPP参加で日本の産業構造が効率化されるなどというのは神話に過ぎません。

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コメント

いつもブログ読ませてもらってます。
自分が考えていたことを的確に表現されていたので始めてコメントさせてもらいます。

自分も農業をやっていますが生産者価格と小売価格の乖離についてはご指摘のとおりです。農産品で一番利益を得ているのは農産品を畑あるいは地方の青果市場で安く買いたたいて中央の市場で高く売る流通業者と販売価格を独自に決定できる大手スーパーや百貨店などの販売業者です。特に大手販売業者では不作だからと安く買いたたいておいて、消費者に対しては不作だからと高く売ることが恒常的に行われています。
最近でこそ直売所ができ適正価格で取引することも可能なのですが、全ての生産物を直売所で販売するには手間がかかりすぎ、かつ一度に大量には出荷できないので生産物のほとんどは市場出荷か流通業者経由となっているのが現状です。もちろん流通や販売にコストがかかるのはわかるのですが流通販売のコストが適正であるとはとても思えません。(これは漁業においても同じような図式があるのではないでしょうか)
個人的には販売価格の一定割合が生産者へフィードバックされるような仕組み作りが必要かと思います。本来であれば農協がその役割を担って価格交渉や制度化へ取り組むべきなのですが現在の組織にそれは望むべくもありません。

最近TPP以上に脅威だと感じているのが農業の大規模化、異業種からの参入です。
大規模すればコストが下がる面も一部にはあるでしょうが、現在の農業はすでに多くが機械化されており大規模化のメリットは一般に語られるほど多くありません。高齢化や兼業化で手が回らない農家は専業農家に農地を貸すあるいは作業委託をし、専業農家も高価で使用時期の限られる機械は共同購入、共同使用することで組織化していますので、実質的には農業法人化はすでに実現しつつあります。また、高齢化で担い手のない農地も特に何も対策をとらなくともあと10年たてば貸与や売買で専業農家へ集約してゆくのは明白です。(機械の共有化、共同利用も本来は農協が担う役割であると思うのですが)
これに対し強制的な大規模化、異業種参入は無用な軋轢と地域コミュニティの破壊を生むことになりかねません。後継者不足には政府方針の腰の据わらなさ(いつ方針が180度変わるかわからない不安感)も大きな要因の一つであると思います。農家としては何もしないでいてくれるのが一番だったりします。
農地の大規模化(大型機械の通行可能な農道の整備や灌水設備)は既にほとんどの農地で実施されていますのでこれ以上の農地の集約は田んぼの畦を取り払って大きな一つの田んぼにする意味しかなく、農業土木業者に無駄金を払うことにしかなりません。
もちろん大規模化でメリットのある土地もあるかもしれませんし、大規模化で成功している農家もあるかと思いますが、製造業のように大企業もあれば中小企業もあるわけでそこに大企業だけを保護するやり方では中小だけではなく農業全体が衰退すると思います。
テレビに出ている大規模農家の声も農家を代表しているというより自分に有利な制度を要求している企業家のように聞こえてしまいます。

政府やマスコミには農業を守るというより農業に携わる人間の生活をいかにして守るか、(農業に限らず国民すべてが対象でしょうが)多くの人が自立できるように、過不足なく富を分配できるかの視点で語ってもらいたいと思います。長文失礼しました。

投稿: | 2011年11月28日 (月) 10時06分

貴重なコメントをありがとうございます。

私は農業についてはまったくの門外漢なのですが、いただいたコメントから改めて日本の農業の置かれた苦境がよく分かりました。

> 特に大手販売業者では不作だからと安く買いたたいておいて、消費者に対しては不作だからと高く売ることが恒常的に行われています。

なるほど。不作だとスーパーの野菜も高くなるのが当たり前かと思っていたのですが、必ずしも生産者価格が上がっていた訳ではなかったんですね。(!)

> 全ての生産物を直売所で販売するには手間がかかりすぎ、かつ一度に大量には出荷できないので生産物のほとんどは市場出荷か流通業者経由となっているのが現状です。

なるほど、なるほど。確かに直売所を作れば流通の問題が解決するというようなものではないんですね。直売流通にこそ、広域圏での規模のメリットを活かすべきなのだろうと思います。第三者の起業家によってではなく、農家が共同でそうした試みを始めることが出来ればいいのかも知れません。

この問題については、私ももう少し勉強してみようと思います。またいろいろとご教示いただけると嬉しいです。

投稿: Like_an_Arrow | 2011年11月28日 (月) 22時48分

はじめまして、
私は、長崎県平戸市内で産地直売所と室内装飾業を営んでいます。これからの農水産物直売所の新しいビジネスモデルとして、農水産物で地域全体の活性化を考えた場合、農林水産業と、建設業との連携体を構築する事です。その地域の消費者への還元サービスにより、生産者へは生産高の向上、消費者には消費意欲の促進、その地域への貢献を図る目的で、考案した地産地消に繋がるシステムを展開中です。

投稿: タクミ | 2015年7月17日 (金) 18時24分

タクミさん、古い記事にコメントをいただきましてありがとうございます。

TPP交渉はどこに落ち着くのか、未だによく分かりませんが、全国で産地直売所のビジネスは活性化しているようで、これは良いことだと思います。

私は関東に住んでいますが、家の近くの農産物直売所は品物は悪くなくても、店舗がまったくオシャレじゃありません。そこに改善の余地がありますね。農林水産業と建設業の異業種コラボレーション、いいと思います。

投稿: Like_an_Arrow | 2015年7月20日 (月) 02時37分

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