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2011年10月30日 (日)

TPP問題私見

 11月のAPEC開催を目前にして、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加をめぐる議論が活発化しています。この問題については、私自身スタンスを決め兼ねていたのですが、インターネット上でいろいろな人の意見を読んでみて、やっぱりTPPというのはちょっと「筋の悪い」話なのではなかろうかという考えに傾いています。賛成派の意見も反対派の意見も、耳を傾けてみればそれぞれ一理あって説得力のあるものばかりです。対立の本質は、ここ10年余りのあいだに国内でずっと争われて来た論点、つまり経済成長を優先するか、国民生活を優先するかという問題に他ならないと思います。いや、この言い方はちょっと語弊がありますね、きっとTPP賛成派(ひと昔前の構造改革派?)の人たちは、「経済成長あってこその国民生活ではないか」という反論を返して来るでしょうから。これもひと昔前に流行った「トリクルダウン理論」というやつの蒸し返しです。しかし、小泉改革によって、一部の企業は成長したかも知れないけれど、その成長の果実が大多数の国民にトリクルダウンして来ることはありませんでした。実際に起こったことは、非正規労働者の急増であり、所得格差の急拡大です。そんな市場優先主義に嫌気がさして、私たちは政権交代を選択したのではなかったでしょうか。ところが、変節してしまった民主党は、小泉政権でさえ思い付かなかったほどの過激な規制緩和に乗り出そうとしている。それがTPPです。

 考えてもみてください。もしもこれが日本とアメリカ、2国間の包括的なFTAという話だったら、そんなものは議論の俎上にさえ載って来なかったでしょう。それが何故、多国間の協定であれば、現実的な選択肢として議論されるようになるのか? もともとTPPというのは、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドという比較的小さな4か国でスタートしたものでした。そこにアメリカ、オーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが新たに参加表明をしているというのが現在の状況です。そこにさらに日本が加わって10か国になったとしても、GDPの大きさで見ればアメリカと日本だけでその90%以上を占めるのだそうです(アメリカが67%、日本が24%)。つまりこれは「カムフラージュされた日米FTA」と見ることも出来る訳です。しかも、後から参加したアメリカの圧力で、TPPの対象範囲は貿易だけではなく、投資、金融、サービス、労働、政府調達などの分野にも広げられてしまった。そのアメリカは、リーマンショック以来、大幅な財政赤字や国内失業率の悪化に苦しんでいます。そしていま、日本に対してTPP参加を熱心に掻き口説いているのもアメリカなのです。これはもう「罠」と呼んでも差し支えないほど露骨な筋書きじゃありませんか。ここまで来ると、TPPのメリット、デメリット以前に、その素性の悪さに警戒感を持たない訳にはいきません。

 乗り遅れると大きな不利を蒙るといった交渉事も世の中にはあるでしょう。例えばこれから戦争が始まるという時に、軍事同盟に参加するタイミングを逸すれば、それは国の存続をさえ危うくするかも知れない。しかし、こと経済協定に関しては、後から参加することの不利益をさほど懸念する必要も無いと思います。そこに参加しなかったからと言って、9か国を敵に回すことになる訳ではありません。もともと互恵的な関係を目指して結ばれる協定なのですから、互いにメリットがあれば後からでも参加は可能な筈だし、もしも後からの参加を許さないというなら、8か国(アメリカを除く)と個別にFTAを結べばいいだけの話です。では、日本の参加のタイミングとしては何時がいいのか? それはもう決まっています、現在の円高が解消されてからです。特にいまは、歴史的な円高に加えて、放射能問題の影響もあって日本の輸出力が大きく低下している時ですから、常識的に考えても自由貿易の協定に参加するという選択はあり得ない筈なのです。野田首相は、交渉のテーブルに着くだけだとか言って、反対派の警戒心を解こうとしているようですが、ごまかしもいいところです。交渉に参加することの目的は、協定への加盟を前提として、可能な限り自国に有利な条件を引き出すという点にあります。TPPに参加するかどうかは分からないけれど、とりあえず交渉にだけは参加するなんて態度表明が、国際政治の世界で通じる訳がない。国内の世論がまとまっていない以上、今回の交渉は見送るべきなのです。別に不参加の言い訳を考える必要もありません。日本はいま震災からの復興を最優先すると言えばいいだけのことです。

 TPPに最も強く反対しているのは、農業関係者、農水省の役人、あるいはそこに利害関係を持っている族議員と呼ばれる人たちでしょう。アンケート調査の結果では、国民の半数以上は日本のTPP参加に賛成しているようです。その理由のひとつとして、手厚く保護されている日本の農業のあり方と、その利権の構造に対する反感というものがあるような気がします。そのような手厚い保護をして来たからこそ、日本の農業はいつまで経っても生産性が低く、国際的な競争力を持ち得ないのだ、そんな意見もよく目にします。しかし、その見方は事実の一面しか捉えていないような気もするのです。今日のような経済がグローバル化した時代には、生産性を比べる数字だって為替レートひとつで大きく変わってしまいます。(もしも1ドルが360円だったら、日本の農業は価格競争力で世界のトップに躍り出るでしょう。) むしろ日本では、農業人口は全人口の2%程度しかないのに、食料自給率は40%もある、そのことの方がよっぽど重大な事実だと思う。もしも農業人口が5%に増えれば、この国は食料の自給自足が出来るということだからです(少なくとも畜産品を含む農産物分野においては)。こう考えれば、農業の生産性は全然低くないんじゃないですか。私の考えでは、日本の農業の本質的な問題は他国に比べて生産性が低いことではありません、農業従事者の高齢化と後継者がいないことの方が問題だと思います。そして何故後継者が育たないかと言えば、ひとつには政府がちらつかせる規制緩和の方針が、農業に未来が無いことを暗示しているからでしょう。TPPによって、海外の安い農産物が規制無しに入って来ることになれば(繰り返しますが、生産性の差で安いのではありません、為替レートの差で安いのです)、日本の農業はほんとうに壊滅してしまうに違いない。

 日本の農業を変えて行くためには、TPPという外圧を利用するしかないなどとうそぶいている人たちは、ほんとうに規制緩和で農業が再生すると信じているのでしょうか。TPPが締結されると、これまで零細な農家が細々と守って来た農地を大規模資本が買い上げ、アメリカのような広大な農地に巨大な耕作機械が並ぶといった光景が現れるとでも言うのでしょうか。日本のどこにそんな土地があります? どこの国の事業家が日本の農業にそんな投資をしようなんて思います? ウソをつくのはやめましょうよ。TPPを推進したい人は、日本の農業なんて滅びてしまってもいいと考えているに違いないのです。むしろグローバルでの最適地生産が進むことで、日本は安い農産物を外国から輸入すればいいと考えているのです。でも、ほんとうにそれでいいのでしょうか? 今週、日本の人口が初めて減少に転じたというニュースがありましたが、全世界的にはまだ非常な速度で人口増加が続いています。そのために21世紀が地球規模での食料危機の時代になることは、ほぼ確定的な未来なのです。しかも温暖化による影響で、かつて無かったような大規模な自然災害が各地で起こっている。そんな状況のなかで、自国の農業を守らないという選択肢がどれほど危険なものか、野田首相は分かっているのだろうか。私は、日本が作り上げて来たような、小規模な農家を中心にした地産地消の農業が再評価される日はきっと来るだろうと思っています。機械化や大規模化が効率的だというのは、投資家の理論です。むしろこれからは労働集約型の産業を見直すという発想の方が大事だと私は考えます。なにしろ人間の労働力こそ、いつの時代にも変わらない最大の再生可能資源と言えるからです。

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