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2011年6月26日 (日)

「原発解散」はとてもいいアイデアだ

 小田嶋隆さんのエッセイはいつもとても面白いのだけれど、特に先週の記事は冴えていました。タイトルは『卓袱台返して菅笠ひとり旅』。無能で日和見なリーダーだと思われて来た菅首相が、ここに来て突然「脱原発」の方向性を決めるキーパーソンになってしまった、そういう内容の記事です。これだけ国民のあいだに反原発の気運が高まっているのに、閣僚を中心とした有力政治家のあいだには脱原発ということに消極的な人が多い。これは「利権」だとか「癒着」だとかいう以前の問題で、原発を組み込んだエネルギー政策は国策の基本であり、それをひっくり返すのは一家団欒の卓袱台をひっくり返すのも同じこと、そんなことが出来るのはテーブルマナーを知らないならず者か、例外的なアウトサイダーだけだというのです。「例外的なアウトサイダー」! これはつまり郵政民営化の時の小泉さんと同じじゃないですか。確かに大きな政策の転換を成し遂げるためには、派閥の力学の中からのし上がって来た政治家では、しがらみが多過ぎて無理なのかも知れない。『菅直人という無手勝流の真空政治家が宰相の座にある時に、この度のような空前の災害が起こったのは、もしかすると天の配剤であるのかもしれない』、そこまで小田嶋さんは書きます。

 結論はこうです。小田嶋さんの文章を要約するほど無粋なことはないので、記事からそのまま引用してしまいます。コピペせずに、一文字ずつ味わいつつ打ち込んでみます。『菅直人という政治家が、自らの信念に従ってアウトサイダーの立場を選んだのか、単に力不足のゆえに結果として傍流を歩いてきただけなのか、そのあたりの事情はよくわからない。が、とにかく、この機会を逃したら、脱原発はできないという、そのことだけははっきりしている。菅さんという一見眠そうなアウトサイダーが原発に引導を渡すというストーリーは、こうして考えてみると、なんだか非常に魅力的に見える。「まれびと」(流れてきた客人、流浪の異郷人)が、村に厄災をもたらす怪物を退治するという、神話の話型にもかなっている。ニュークリアを分解して、ニューでクリアなエネルギーを作る。たしかに、お伽噺じみている。このお伽噺を実現するためには、石原さんの言う、「集団ヒステリー」(←地すべり的な世論の爆発)が必要なのかもしれない。面白そうだ。私は乗るつもりだ。』 同じエッセイストのはしくれとして(?)、自分にもこんな文章が書けたらいいのにと思います。小田嶋さんに言われると、ほんとに面白そうです。私もぜひこのお伽噺に乗ってみたい。

 「原発退治のまれびと」というフレーズに夢中になっているところに、同じテーマを扱ったもうひとつの魅力的な文章に出会いました。BLOGOSというページで見付けた、カトラーさんという方の『菅直人首相が目論む?「脱原発解散総選挙」というウルトラ延命策』という長いタイトルの記事です。(元のブログ記事はこちらです。) 現在、菅首相はエネルギー政策の転換を目指して、「再生可能エネルギー促進法」という法律の成立に並々ならぬ意欲を見せているそうです。すでに退陣表明をしている首相の延命策に過ぎないという見方が大勢ですが、カトラーさんはこの法律の成立なくして日本の環境ビジネスに未来は無いだろうと言います。そしてやはり注目すべきは、最後の結論部分の文章です。これも引用してしまいます。『「一点突破、全面展開」とは、菅直人がよく口にする、自身が得意とする行動パターンのことだ。これを今の状況にあてはめ、菅直人になったつもりで今後の行動を勝手に想像すれば、仮に「再生可能エネルギー促進法」が通らない場合は、解散権を行使し、衆議院解散、総選挙に打ってでるのではないか。その場合に実施される総選挙は、「脱原発解散総選挙」とされ、脱原発の是非を問う実質的な国民投票となるだろう。私は菅直人という政治家については、お遍路姿を公開するような所が昔から虫が好かず、顔も見たくないくらいだが、仮にそうした状況が到来したら、迷わず菅直人政権を支持する。』

 カトラーさんもこのバクチに乗るつもりなんですね(笑)。面白いのは、このおふたりの論者が、問題は菅直人という政治家の個人的資質でもなければ、彼に対する国民の好悪の感情でもないと断じているところです。いまや政局の主役は、菅さんでも小沢さんでもなく、原発そのものに移ったということなのでしょうか。そして誰が菅さんの後継になるにせよ、新首相はいまより原発政策に容認的な人になる筈ですから、我ら原発反対派としては、この法律の成立と引き換えにやすやすと菅直人という切り札を手放す訳にはいかない。小田嶋さんは、解散総選挙のことにまでは触れていませんが、話はそこまで行かなくては嘘だと思います。考えてみれば、日本の政治がここ数年来低迷を続けて来たのは、必ずしも首相になった人たちの資質の問題だけではなかったのかも知れません。あれほど膨らんだ政権交代への期待が、短いあいだにしぼみ切ってしまったのも、民主党が不甲斐なかったせいというより、二つの政党のあいだに明確な政策の違いが無かったせいではないか。いまさら安保反対でもないし憲法改正でもない、ここに来て日本から政策上の対立軸が消滅してしまったかのようです。しかし、原発は違う。これは目の前の問題として、いますぐにでも国民に意思決定を迫るものだからです。

 この先日本が脱原発を基本方針にするか、安全性を高めた次世代原発と共存して行くかということは、これからの政策論の最も根幹に据えてもいいような基本問題だと思います。これはまた別途考えてみるべきテーマですが、原発政策を軸にして『保守対革新』とか「経済優先か福祉優先か」とかいったような、鋭く対立していながら、その実何が本質的な対立点なのかよく分からなかった従来の議論が再構築される可能性がある。菅直人首相は、ぎりぎりまで粘って〈再生可能エネルギー特措法を国会で通したあとで〉、よもやのサプライズを演出して衆院解散を仕掛けてみてはどうだろう。もちろんご自身は脱原発の先頭に立って、国民の審判を仰ぐのです。その際、昔小泉さんがやったみたいに、原発推進派は公認しないとか、選挙区に刺客を送り込むなんて荒技は使えません。菅さん自身がまったく国民の信任を得ていないからです。そこでウルトラC級の選挙戦略を練る必要がある。私のアイデアはこうです。まず菅さんは小沢一郎氏を選挙対策委員長に据えます。そのためには選挙後に自身が代表選に立たないと約束することが条件になります(これで辞任の約束は果たされます)。政策よりも政局で生き残って来た現実派のおふたりのこと、国民の反原発の気運に乗じるという作戦で手を結ぶことにわだかまりやためらいは無い筈です。こうして、政局巧者の「菅ー小沢」という最強のタッグが成立する。(笑)

 選対となった小沢さんが最初にやることは、民主党議員だけでなく、すべての国会議員に対してアンケートを取ることです。アンケートの文面は、「今後10年以内に国内のすべての原発を廃止することに賛成ですか、反対ですか?」というそれだけです。回答は、賛成、反対、どちらでもない、の3通りです。未回答も含め、アンケートの結果は全議員の名前とともに公表されます。(未回答または「どちらでもない」と答えた人については、これまでの活動や発言の実績から、選対が賛成・反対のどちらかに色分けします。) 今回の選挙は脱原発の是非を問う選挙ですから、その情報が有権者にとってぜひとも必要なのです。小沢氏は、各選挙区の他党の候補者を見て、最も当選確率の高い有力候補を見定め、その相手候補と同レベルの支持率を持った民主党候補をその選挙区に送り込みます。その際、相手候補とは脱原発賛否において対立する考えを持った候補者を当てるというのが、今回の選挙戦略のポイントです。つまり、他党の脱原発派には民主党の原発維持派を、またその逆の場合には逆を当てるということです。当然、多くの民主党候補にとっては「国替え」を強要されますが、これは仕方ありません。その代わり、どの選挙区の有権者であっても、脱原発に賛成か反対かを意思表示する投票が出来ることになる。カトラーさんの言う「脱原発の是非を問う実質的な国民投票」を、現在の選挙制度の下で実現するにはこれしかないと思います。国民はこの選挙を支持する筈です。

 私はこの選挙によって、日本は脱原発の方向に大きく舵を切るだろうと予想している訳ではありません。このブログで私自身は原発反対派に転向したと宣言しましたが、日本が今後も経済大国としての地位を守って行くためには、原発はやはり必須だろうとも思っています。選挙の結果は、おそらく拮抗したものになるでしょう。そして選挙の結果がどう転ぶにせよ、そこから本当の意味での政界再編が始まる筈です。貧しくても安全な未来を選択するのか、多少のリスクを取っても再び豊かな未来をつかみ取るのか、政界再編のあとに成立する〈整理された二大政党制〉は、その選択肢を私たちに突きつけるものであるかも知れない。その時に、菅直人という政治家がまだ存在感を保っているかどうか、私には分かりません。が、彼の名が、この国の政治史のなかで特異な地位を占めて長く記憶されることになるのは間違いない。名宰相としてではなく、日本という国が大きく方向転換をする分岐点に立って、自らを〈転轍器〉として投げ出した、ひとりの殉教者として記憶されることになるのです。学生運動から始めて、「利権」からも「癒着」からも、それどころか国民の「人気」や「人望」からも遠いところにあった菅さんの長い政治人生は、そのために〈天〉が準備したものだったのかも知れません。(ほんとうかい? 笑)

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