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2011年5月 2日 (月)

孫正義さんを支持します

 震災以来、ふだんはあまり読まない週刊誌をよく読むようになりました。とにかくテレビや新聞の報道では、いま知らなければならない一番大事なことが分からない、そういうもどかしさを感じるのです。何故そうなのかを考えてみると、理由は簡単なことだと気が付きました。今回の震災、特に原発事故のニュースに関して、テレビや新聞は政府発表の公的な情報にゲストとして呼んだ専門家の解説を付け加えて流すばかりで、当のテレビ局や新聞社の意見や立場というものを全くアピールしていないからです。例えば「原発のあり方については見直すべき時に来ているのではないか」といった論調の社説が現れる。そんなことは言われなくても当たり前のことで、いまさらそんな社説を読まされても腹が立つだけです。「今すぐ浜岡原発を止めよ!」という断固たる意見表明がマスメディアから発せられることはまずない(毎日新聞のコラムには載ったそうですが)。世間が原発反対派と推進派に分かれて激しく議論を戦わせているのに、マスコミ各社はどっちつかずの玉虫色の報道しか流しません。確固たる主張が無いから、取材の内容も浅いものにしかならないのです。そこにいくと一部の週刊誌は実によくやっていると思います。週刊現代は事故後一貫して反原発の立場を貫き、毎回100ページを超す濃い内容の記事を提供してくれていますし、週刊ポストは政界と東電の闇の部分に深く切り込んだ記事で、今回の事故の背景を伝えてくれている。ふだんは大衆向け路線で、メディアとしては格下と見られている(?) この二誌が、非常時においては特に頼もしく感じられます。

 その週刊ポストの先週号が、孫正義さんへのインタビュー記事を載せていました。インタビュアーはノンフィクション作家の佐野眞一さん。孫さんと言えば、被災地への義援金として個人で100億円の寄付をしたということがニュースで話題になりました。さすが日本一のお金持ちはスケールが違う、と私たちはびっくりした訳ですが(少し前に10億円を寄付したユニクロの柳井さんの影が一気に薄れてしまいましたね。笑)、孫さんは単にノーブレス・オブリージとしてお金だけを出した訳ではなかったのです。震災直後からほとんど不眠不休で被災地支援の活動を精力的に続けている。緊急用の災害用伝言板を1日で立ち上げ、メールやSMSの利用料を1週間無料にし、被災地にはたくさんの携帯電話と充電器を送り、全国の携帯ショップを拠点に募金を開始し、被災者のための支払い延期や破損・紛失対策を打ち出し…そうしたことをわずか数日間のうちにやってのけているのです。いや、それくらいのことなら他の通信事業者もやっているのかも知れませんが、孫さんがすごいのはその先です。西日本を中心に17の県の県知事に対して被災者の受け入れを要請し、合計30万人(!)の受け入れについて約束を取っている。そして震災十日後にはさいたまアリーナの避難所を訪れ、さらに福島入りして、被災者受け入れを申し出た佐賀県知事の親書を福島県の災害対策本部に届けている。かと思うと、私財から新たに10億円を投じて「自然エネルギー財団」なるものの設立を宣言し、国会議員やマスコミを呼んで財団設立のためのプレゼンテーションをしている。とても一企業家の行動とは思えません。

 この間の孫さんのツイッターでの発言を追ってみましたが、なるほど孫正義という人がいかに非凡であるかがよく分かりました。110万人のフォロワーのいる孫さんのもとには、被災地を始め全国からたくさんの支援の要請が舞い込んで来ます。そのひとつひとつに即断即決で「やりましょう」と答え、それをすぐに実現させて行く様子には小気味よささえ感じます。なかには「本業に専念すべきではないか」といった批判的なツイートも現れますが、きっとこの人のなかでは被災者を助ける仕事に本業も何もないのでしょう。そのスケールの大きさは、孫さん自身も尊敬するという坂本龍馬を彷彿とさせるものがある。孫さんの八面六臂の活躍を見ながら、ひとつ強く感じたことがあります。そうだ、自分がいま政治のリーダーに求めていたのはこの行動力だったんだ。震災から1か月あまりのあいだ、菅政権はいったい何をして来たか? 家を失った数十万人の国民をほったらかしにしたまま、復興構想会議なるものを立ち上げ、増税のための伏線を張った。放射線被害に関して正しい情報を開示せず、原発周辺の放射線濃度が国の定める基準値をオーバーするや、基準値の方を緩和するなどという暴挙に出た。大災害時に国民を守れない、いや守ろうとする意思さえ無い人たちに、政権の座に就いている資格など無い。非常時にこそ人はその本性をさらけ出します。今回の震災は、図らずも政治家の資質をふるいにかけるリトマス試験紙の役割を果たしたとも言えます。

 原発被害を過小評価したい陣営のなかには、大きな発信力を持つ孫さん自身がいまや風評被害の発信源になったなどと言う人がいます。しかし、それはものごとに責任を持とうとしない評論家の意見です。もしかしたら私たちは放射能というものを必要以上に恐れているのかも知れない、国際基準の10倍程度の濃度なら〈ただちに〉健康に影響するものではないのかも知れません。が、この問題に関しては、まだ学者のあいだでも意見が割れている以上、政治は常に最悪の場合を想定した上で国民の生命を守るように行動するのがセオリーでしょう。小学校の校庭から危険な値の放射線が検知されているのに、子供たちを避難させることもなく、校庭で運動することだけを禁止した上で授業を続けさせるなんていうのは、どう考えてもまともな政治的判断だとは思われません。せめて子供たちだけでも安全な場所に疎開させてやって欲しいという孫さんの意見は、議論の俎上に乗せることさえ無用なほど正しい意見ではないかと思います。地域を指定しての避難ということは、住民の自主判断に任せてはいけないのです。それは政治が強制すべきものです。コミュニティが強固であればあるほど、住民は逃げ遅れることになるからです。この点でも私は孫さんの意見にまったく賛同します。大震災に際して時の総理大臣が孫正義ではなく菅直人だったということこそが、日本にとって最大の国難だったと言えるかも知れない。

 福島原発事故があったにも関わらず、まだ国民の半数以上が原発維持に(消極的にかも知れませんが)賛成していることが信じられません。全国47都道府県のうち原発を擁しているのはわずか13箇所だけです。だから半数の国民にとって原発事故は他人事なのだろうか? しかし、反原発をひとつのイデオロギーにしてしまって、国を引き裂く対立軸にしてしまうのはうまいやり方ではない。孫さんは事業家らしく脱原発に向けた具体的な工程表を提示してくれています。中心となるアイデアは再生可能エネルギーの全量買取制度というものです。太陽光発電などで作られた電気を個人や企業から国がすべて買い取ることを約束する。1キロワット時につき40円、それを20年間に亘って継続することを国が保証すれば、再生可能エネルギーは急速に普及するだろう。これはヨーロッパではすでに20年も前から実行されていて、効果が確認されている政策なのだそうです。そのことも孫さんのプレゼン資料で初めて知りました。放射性物質で汚染されてしまった土地には、ソーラーパネルを敷き詰めて脱原発のシンボルとしてしまおう、これを孫さんは「東日本ソーラーベルト構想」と名付けています。なんて美しいヴィジョンなのだろうと思います。将来に向けた豊かな構想力とそれを構想で終わらせない行動力。インタビューで孫さん自身は政界に進出する気はないと明言していますが、時代がこの人を放っておかないのではないか、私にはそんな気さえするのです。

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コメント

震災以後、哲学者さんの姿勢表明とブログ発信に敬服しています。
自分も声を上げたいが考えがまとまりません。
それ以前に、今回の地震と原発事故の対応に感情が凍りついていました。
何を書いても考えても無力感と焦燥感がにじんでしまい、文章になりません。
ここ1、2週間でようやく気持ちのフリーズも溶けてきて、戦闘態勢に入れそうなところです。
原発に関しては「毒食わば皿まで」と達観していた自分を恥じます。
恥じながら、やはり
日本人(東京人)少しは毒も食えよ、食って恐怖を感じたなら食わないで済む方策も少しは考えろよ
な感情も湧いています。
しかし、その責を負う義務もない子供らまで巻き込んでいる現実に苛立ちを抑えられません。

今、求むるものは何なのでしょうか。
日常性
回復
責任
原因
展望

どれもが本質の周縁部のような気もします。自分自身にも響いて来ない。
希望 なのかなあ。
原発事故は、震災からの復興を目指す希望すら奪い去ってる虚しさがあります。
乱文ご容赦。

投稿: turusankamesan | 2011年5月 4日 (水) 05時38分

turusankamesanさん、こんにちは。

> 原発事故は、震災からの復興を目指す希望すら奪い去ってる虚しさがあります。

同感です。震災以降、いつも原発事故の問題に気持ちが引き戻されています。これまでに考えて来たこと、書いて来たことのあれやこれやが、なんだかすべて虚しいことのように思えてしまいます。

この連休をはさんで、世間はもう震災モードから日常モードに復帰して来ているように感じます(被災地は別として)。でも、自分のこのブログではまだまだ復帰には時間がかかりそうです。

投稿: Like_an_Arrow | 2011年5月 8日 (日) 07時43分

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