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2011年3月17日 (木)

リフレ政策でハイパーインフレは起きるのか?

 このところずっと経済の問題について書いています。私は経済学を専門に学んだ人間ではありませんが、経済に関しては自分なりの持論があって、そこからの主張を展開している訳です。経済問題に関しては、ほとんど論ずる人の数だけ対立する意見があって、いたるところで露骨な中傷をともなう喧嘩が繰り広げられている。だから経済について何か論じようという人は、まず自分がどういう立場の論者かを明らかにしておくことが親切です。最初から自分はこういう党派に属していると手の内を明かしておけば、無用な誤解や挑発を招かずに済みますからね。で、私が(経済問題に関して)どういう立場の人間かと言えば、①減価貨幣や地域通貨にシンパシーを持つゲゼル主義者であり、②ベーシックインカム実現に希望を抱くダグラス主義者であり、さらに、③政府は積極的な貨幣発行策でデフレを脱却すべしと説くリフレ派でもあります。どれも経済学の正統派からは外れた異端説に属するものですね(笑)。そのなかでも特に自分のなかでの関心の強さから言えば、①→②→③の順番なのですが、現在の日本において最も緊急かつ現実的な問題という意味では、③のリフレ政策に関するものが最初に来るでしょう。政府と日銀はお金をどんどん刷って、経済をデフレからインフレに導くべし。さて、この考え方は正しいでしょうか? 今回はこの問題について少し考えてみたいと思います。

 リフレ派だとかリフレ政策なんてコトバを知ったのも実は最近のことなのですが、私が(自覚的に)リフレ派になったきっかけははっきりしていて、原田泰(はらだゆたか)さんという人の本を読んで共感したからです。以前このブログの記事でも取り上げたことがありましたね。原田さんの主張は、たとえリフレ政策(お金をたくさん刷る政策)によって金利が上がり、国債価格が値下がりしていくつかの銀行が破綻することになっても、それで日本経済をマイルドなインフレ基調に戻すことが出来るなら、その方がずっと好ましい、デフレを今のまま放置すれば、銀行だけでなく財政も年金もすべて破綻してしまうだろうというものです。リフレ論者にも過激派と穏健派とがあって、過激派は新規発行国債を日銀に直接引き受けさせたり、さらには政府紙幣を発行するといったことまで主張するのに対して、穏健派の方は一定のインフレ率の目標値(インフレターゲット)を設定して、その目標達成のために日銀は財政法の規定の範囲内で努力すべしと主張します。原田さんはどちらかと言えば穏健派のリフレ派に属するのでしょうが、最近よくマスコミに登場するエコノミストの中には過激派と目される人も多いようです。例えば、森永卓郎さん、勝間和代さん、金子洋一さん、飯田泰之さんといった人たちがそうだと思います(間違っていたらご指摘ください)。政界では亀井静香さんが昔から過激なリフレ論者として知られていましたが、最近は超党派で「デフレ脱却議連」なんてものも出来て、国会議員のあいだにもリフレ派はじわじわ増えているようです。

 その後私もいろいろな人の意見を読んで、リフレ政策に対しては根強い反対論があることを知りました。なかでも反リフレ派の急先鋒と言えば、経済評論家で著名ブロガーでもある池田信夫さんではないでしょうか。(池田さんの文章も最近読み始めたばかりなのですが、とても着眼点が鋭くて刺激される文章が多い。なるほど人気ブロガーであるのも頷けます。) リフレ派はマイルドなインフレ経済こそ望ましいと主張する訳ですが、池田さんによれば現在の日本経済はマイルドなデフレと呼ぶべき状態であって、デフレスパイラルに陥っている訳でもないし(ホント?)、むしろ恐れるべきはこれがインフレに反転することだというのです。何故なら、インフレというものは政府や中央銀行によってコントロール出来るものではなく、古今インフレの暴走によって財政破綻した国の例はいくらでもあるのに対し、デフレで滅んだ国は無いのだから。端的に言えば、リフレ政策にはハイパーインフレを引き起こす危険性があるというのです。(ハイパーインフレという言葉は、学問的には年率数千パーセント以上の文字通り紙幣が紙屑になるようなインフレのことを指すのだそうですが、ここでは年率数十パーセント以上の激しいインフレという意味で使っています。いまの私たちの感覚からすれば、それでも十分「ハイパー」だと思います。) リフレ政策は何故ハイパーインフレを引き起こすのか? 池田さんは「その日」のことを次のようにシミュレーションしています。『日銀が国債を引き受ける日』というタイトルの記事です。少し長いですが、引用します。

『国会で日銀の追加緩和をめぐる論議が続いている。特に亀井静香金融担当相は「日銀が(国債の)市中からの買い入れだけでなく、国債を直接引き受けて財源をつくることをやればいい」と、これまでタブーとされていた国債の日銀引き受けに踏み込んだ。これはマクロ経済学の練習問題としておもしろいので、実際にやったらどうなるか考えてみよう。

日銀が国債を引き受けることは財政法で禁止されているが、国会が決議すれば可能である。かりに国会で「日銀は国債を100兆円買い取れ」という決議が行なわれたら、白川総裁以下、現在の日銀理事は全員、辞任するだろう。それに代わって亀井氏が(議員辞職して)日銀総裁になり、理事をすべてリフレ派に入れ替えれば、「無責任になることにコミット」できる。

市場はどう動くだろうか。国会決議が行なわれる見通しになった段階で、国債が売られて暴落し、入札が成り立たない事態も考えられる。このとき日銀が国債を引き受ければ国債は消化できるが、市中に大量の通貨が供給され、国民は通貨を実物資産に換えるため、インフレが起こるだろう。これによって円が暴落すると輸入物価も上がってさらにインフレになり、70年代のように物価が40%以上も上がることは十分考えられる。

「インフレ目標」でハイパーインフレを防ぐことはできない。インフレには資金需給による貨幣的要因と、政府の信用による財政的要因がある。通常のインフレは貨幣的現象だからマネタリーベースを絞ることで抑制できるが、中南米でよく起こるハイパーインフレは、サージェントも指摘するように通貨の信用が失われて実物資産に換えることによる財政的現象なので、信用を失った日銀がインフレを止めることはできない。逆に日銀が信用を失わなければ、国民は貨幣を実物資産に換えないので、インフレは起こらない。

国債が暴落すると、それを300兆円以上保有している邦銀は莫大な含み損を抱える。邦銀も最初は買い支えるが、支えきれなくなったら、含み損を避けるために売り逃げるだろう。彼らは横並びで動くので、売り始めたら国債はさらに暴落する。たとえば10年物国債の金利が(史上最高水準の)8%になると、額面利率1.2%の既発債の価格は62円になり、全体で110兆円以上の損失が出る。これは90年代の不良債権の純損失を上回り、邦銀のほとんどが破綻するだろう。

こうした事態が予見された段階で取り付けが起き、2008年の欧米のような状態になろう。欧米より悪いのは、財政も破綻しているため、政府が銀行を救済できない点だ。この結果、金融システムは完全に崩壊し、企業が大量に倒産して1000万人ぐらいが失業し、インフレで年金や金融資産の実質額は大幅に低下して高齢者の生活は破綻し、実質GDPも大幅に低下して、日本は60年代ぐらいの生活水準に戻るだろう。』

 まだ鳩山政権だった昨年の記事なので、事実はすでに古くなってしまっていますが、なかなか面白い考察だと思います(特に亀井日銀総裁というのは笑えます)。ただ、気になったのはここで挙げられている数字のことです。10年物国債の金利が1.2%から8%に上がると価格が62円になる(つまり38%も暴落する)というのはオッケーです。私もエクセルで確認してみました。ただそれで銀行が持つ300兆円の国債価格が110兆円以上(正確には113兆円)減損するというのは、素人目にも計算がおかしい。もしも銀行が持つ10年物国債がすべて残存期間10年の新しい国債ばかりだったとすれば、38%の暴落もあり得ますが、当然300兆円の国債のなかには今月償還期限を迎えるものもあり、残存期間5年のものもある訳ですから、113兆円という額の暴落はしません。もしも銀行が保有する国債の残存期間が均等にばらけているなら(ここ10年以上、政府はほぼ毎年30兆円以上の国債を発行して来た訳ですから、市中に出回っている国債も当然ばらけているでしょう)、300兆円に対する損失額は66兆円(22%)程度に収まると予想されます(計算根拠は下の図を参照)。すると銀行が被る損失額が90年代の不良債権の純損失を上回るという記述にも疑問が付きます。しかも、(これも今回インターネットで調べて知ったのですが)邦銀が持つ300兆円の国債残高のうち半分以上はゆうちょ銀行が持っているのです。民間銀行が持つ国債の額は、銀行によってばらつきはありますが、平均して総資産の18%程度です。仮に保有する国債価格が池田仮説に従って22%下落したとしても、毀損されるのは総資産の4%くらい。それで「邦銀のほとんどが破綻するだろう」というのはあり得ない推定だと思います。

Kokusaikakaku_2

 一方、ゆうちょ銀行に関しては、厳しい見通しを持たざるを得ません。こちらは1行で158兆円もの国債を保有していて、それは総資産の80%を占めるものだからです。もしも22%の国債下落が起きれば、ゆうちょ銀行だけで35兆円以上の損失を出すことになります。これが民間銀行であれば、あっという間に破綻ということになるのでしょうが、それでもゆうちょ銀行は破綻しませんよね。他の民間銀行はともかく、ゆうちょ銀行だけは国が絶対に潰さないからです。池田さんの文章にある「欧米より悪いのは、財政も破綻しているため、政府が銀行を救済できない点だ」というのも、最初の仮定と矛盾しています。亀井総裁のもとで日銀は100兆円単位で国債を引き受けている訳ですから、政府には銀行を救済するための資金はいくらでもある筈です。すると何のことはない、ゆうちょ銀行の損失がそのまま日銀に移っただけということになります。日銀も株式会社である以上、財務状況の著しい悪化は免れませんが、そこはまあ目をつぶって、日銀には現在の日本経済の歪みを全部抱え込んでもらうしかない…というのが、過激リフレ派の主張である訳です。その結果、当然ゆうちょ銀行は再び国有化される(亀井さんは大喜びでしょうか)。ゆうちょ銀行の総資産に占める国債の割合が80%以上という数字を見てしまうと、そもそも郵政民営化という方針自体に初めから無理があったことが分かるのです。

 民間銀行もなんとか生き延び、ゆうちょ銀行も潰れないとなると、「取り付け騒ぎ」も起こりようがないし、そこからハイパーインフレに一直線というシナリオもあり得ないのではないでしょうか。(日銀に負債を押し付ける政策が優れているのは、同じ銀行でも日銀には取り付けが起きないという点です!) リフレ政策に反対する人たちは、たぶん本当に取り付けから始まるハイパーインフレを心配しているのだろうと思います。これは個人的な感想になりますが、エコノミストと呼ばれる人たちには(池田さんを始め)本当に生真面目な方が多いと思います。政府や日銀が信用を失えば、貨幣の価値が暴落してすさまじいインフレが起こるだろう、たぶん教科書的にはそれがセオリーなのでしょう。では、私たち国民はいまの政府や日銀をそれほど信用しているのだろうか? だからこそインフレにならないばかりかデフレがこんなに長く続いているのでしょうか? そんなことありませんよね。国民はもうずいぶん長いあいだ、日本の政治には幻滅しか感じなくなっている。日銀が何をやっているかなんて一般の国民は知りもしません。それなのに何故、円の価値は信じられ、信用不安からインフレに転じることがないのか? それは私たちが政治の低迷とは無関係に、この国と国民をお互いに信じているからではないでしょうか? 今回の記事を書いている途中に、まさに千年に一度という大震災が起こりました。凄惨な状況の被災地で起きていることを、私たちひとりひとりが目撃した筈です。それは世界中の人たちが驚くような光景でした。悲惨さに驚いたのではありません、強い絆で結ばれた人間の信頼が、恐ろしい状況のなかでさえいかに神々しいまでの光を放つものか、そのことに驚いたのです。経済理論が何と言おうと、こんな国で信用不安やハイパーインフレを起こすなんて容易なことではない、私はそう考えます。

 国難とも言える大災害を前にして、いま国会では増税論が勢いを増そうとしています。しかし、消費税の増税は災害で大きなダメージを受けたこの国の経済をいっそう冷え込ませるだけです。いまこそ大胆なリフレ政策に踏み出すべきです。つまり災害復興国債を百兆円規模で発行して、それを直接日銀に引き受けさせるのです。もしも白川さんが首を縦に振らないなら、池田さんのアイデアを採用して亀井さんと交代させればよろしい。ここで世の中に出て行く百兆円のお金は、被災地の復興に使われると同時に、日本円の価値を百兆円分だけ薄めることになります。当然ある程度のインフレは起こる筈です。でも、それをハイパーインフレにまで拡大させることは我々国民が許さない。インフレによって私たちの給料や資産が目減りするとしても、その目減り分のお金が被災地の人々を支援するために駆けつけるのだとすれば、一体誰がそれに不満を持つでしょう? 亀井さん、そしてデフレ脱却議連の議員の皆さん、どうかいまこそあなた方の頑張りが求められていることを自覚して欲しい。菅政権に任せておいてはこの国がガタガタに崩壊してしまう。政府が抱える借金など問題ではありません。子ども手当や高速料金を見直したところで、どれだけの財源になるというのでしょう。むしろ必要なのは大胆なシニョリッジ政策の発動なのです。いまこそ日本の政治が腹を括るべき時です。

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