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2010年8月22日 (日)

いまさらリニア新幹線はあり得ない

 いまの日本にはおかしなことがいっぱいありますが、これもそのひとつです。JR東海は2027年の開業を目指して、東京-名古屋間にリニア新幹線を走らせるプロジェクトをスタートするのだそうです(東京-大阪間の開通は2045年!予定)。思い返してみれば、リニアモーターカーについては国鉄の時代から、もうずいぶん長いあいだ研究や実験が続けられています。1970年代にその構想が発表された時には、輝かしい21世紀の〈夢の超特急〉(死語…)としてそれなりの期待を持たれていたのだと思います。しかし、いつまで経っても実験段階で留まっているので、あれはもう陽の目を見ない過去のプロジェクトなのだとみんなが思うようになっていた。だからここに来て、17年後の開業を目指すなんて発表を聞くのは、多くの国民にとってとても違和感を覚えることだった筈です。なんでいまさら? これがほとんどの国民の正直な感想でしょう。

 もしもリニア新幹線が、現行の新幹線と比べて画期的に省エネでランニングコストが安いとか、環境対策の点で一日の長があるとかいうなら、21世紀のプロジェクトとして意味が無いこともないでしょう。ところが調べてみると、リニアというのは省エネでもエコでもないんですね。現行の新幹線よりも大量の電力を食い、日本アルプスの美しい景観を損ない、沿線の住民は騒音だけでなく強い電磁波にも曝されるというリスクがある。山岳地帯を突っ切るために当然トンネルの長さはかつてないものになる訳ですが、それがまた自然環境に悪影響を与えるのではないかと懸念されています。当然工費も莫大なものになります。どう考えても時代に逆行している筋の悪い計画です。経営の面から見ても、リニア新幹線の乗客として期待されるのは、既存の新幹線の乗客がほとんどで、一部に航空機を使っていた客が流れ込む程度でしょうから、ビジネスとしても大きな拡大が期待出来る訳でもありません。何故、素人が考えても大失敗に終わることが目に見えている計画に、民間企業であるJR東海が突き進もうとしているのか。なんでも現在の会長という人が執念を持ってそれを強行しようとしているらしい。日本の将来を閉ざしている原因のひとつに老害というものがあると私は思っているのですが、ここにもその典型が見られます。

 何故国もマスコミもこれに断固反対しないのでしょう? 民間企業の事業計画に政治は口を出すべきではないとでも言うのでしょうか? しかし、多額の費用を投じてJR東海が破綻したあと、それを救うために大規模な公的資金の投入が行なわれるのは火を見るより明らかなことです。インターネットでいろいろな情報を拾ってみると、現在の新幹線も最初に計画が発表された時には、世間の大反対に遭っているという事実を書いている人がいました。リニア新幹線もだから実際に営業が始まって、その利便性や経済効果が明らかになれば、それまで反対していた人たちも納得せざるを得ないだろうというのです。現在の新幹線が、とりわけ東海道新幹線が日本の経済成長の一助を担った功績は認めざるを得ないと思います。でもそれは在来線で9時間もかかっていた東京-大阪間を、3時間で結ぶというイノベーティブな変化があったからこそです。現在の新幹線はさらに進化して、2時間半まで所要時間を短縮しています。最高時速300キロで2時間半のところが、500キロで1時間半になったところで、そんなものはイノベーションとは呼べないでしょう。もしも現行の新幹線よりも高い乗車賃が設定されるなら、客にとってはむしろサービスダウンですらあります。

 もしもリニア新幹線が開通したら、いまの新幹線はどうなるのでしょう。停車駅を増やして地域交通の担い手にするというのがJR東海の用意した答えであるようです。しかし、その場合には在来線と競合することになるし、もしも乗車賃が現在の特急料金並みに高ければ、通勤や通学の足として利用される機会もたいしてないだろうと思われます。東海道新幹線がJR東海のドル箱であり、すでに初期投資の回収も終わっているなら、もっと簡単なやり方で乗客を倍増させる方法があります。新幹線の特急料金を廃止して、在来線と同じ料金で利用出来るようにするのです。高速道路も無料化が検討されているのですから、そのくらい大胆な方針を打ち出してみてはどうでしょう。これこそイノベーションと呼べる事業転換です。17年も待たずにいますぐ実行出来るし、リニアのような莫大な初期投資も必要無い。もしも現在の東海道新幹線に輸送能力の限界があるなら、東北新幹線などで採用されている2階建て車輌を導入するという手もあります。現行新幹線が稼ぎ出す利益をすべて投じて、17年後のリニア開通に社運を賭けるなどというのは、経営判断として狂っているとしか思えないのです。

 もうひとつ中央リニア新幹線を導入する理由として、現行新幹線の老朽化と大規模な改修工事の必要性ということも挙げられています。しかし、これこそ21世紀の重要なプロジェクトとして研究開発を進めるべき分野だと私は思います。つまり、定常の運行になるべく影響を与えない仕方で、いかに老朽化する設備のメンテナンスを行なっていくか、その方法を開発するということです。リニア新幹線ほどの華やかさはないけれども、ここで開発される技術は将来の大きなビジネスにつながる可能性のあるものです。なにしろ老朽化というのは東海道新幹線だけでなく、日本中の新幹線、いや世界中の高速鉄道がこれから迎える共通の課題だからです。世界初の高速鉄道である東海道新幹線を擁するJR東海は、この方面の研究で先行出来るアドバンテージを持っている筈です。世界で唯一営業運転を行なっている上海リニアは、ドイツの技術協力によって造られました。日本はすでにリニア先進国ではありませんし、 既存の新幹線技術の売り込みでも苦戦しています。むしろこれからは、特に先進国においてはメンテナンスの時代に移行して行く訳ですから、そちらに経営のリソースを集中させることの方が正解でしょう。「ガラパゴスリニア」と心中することは日本の選択肢ではありません。

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