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2010年3月28日 (日)

ベーシックインカムは企業からの人頭税で

 前回からの続きです。ベーシックインカム(BI)の財源をどうするかという問題を考えています。BIは産業の効率化による果実を国民全員で分かち合うものなのだから、その負担は主に企業部門が引き受けるのが正解だろう、これが前回の結論でした。そのためには、法人税というもののあり方を根本的に見直さなければならない。これから私が書くことは、これまでにずっと温めて来たアイデアといったものではなくて、先週の記事で風呂敷を広げてしまった手前、引っ込みがつかなくなってあわてて考え出したものです(笑)。だからひとつの試案として受け取っていただけると助かりますし、おかしなところがあればご指摘いただけるとなお助かります。

 これは誰もが感じていることだと思いますが、法人税というものは財政の視点から見てまるで頼りにならない税金です。とにかく景気の波に連動して、税収額が毎年大きく変動するので、安定した財源として期待出来ない。財政投資によって景気対策を打ちたい時に限って、法人税収入が落ち込むという根本的な矛盾があります。何故そんなことになるかと言えば、法人税というものが企業の所得に、つまり〈儲け〉の部分にかかる税金だからです。利益を出していない企業は基本的に法人税を納めなくてもいい。(自治体に納める固定資産税や事業所税などは別です。) だから利益隠しによる脱税なども横行する。いくら赤字企業でも、事業を行なうためには公的なインフラを利用している訳ですから、事業規模に応じて税を納めるべきだという議論もあります。ただ、それが正論だとしても、例えば売上高に比例させた法人税(外形標準課税)を導入するなんてことは現実的に不可能です。そんな税制のもとでは、不況期には企業はどんどんつぶれてしまうし、新しく起業しようという人も現れなくなる。企業も資本もこの国からいっせいに逃げ出してしまいます。

 もしも国が安定した法人税収入を得たいと考えるなら、ひとつだけ現実的に可能な方法があると思います。それが企業に課せられる「人頭税」というものです。このアイデアは誰かがもう提案しているのかな? 「"ベーシックインカム" "人頭税"」というキーワードでGoogle検索すると、700件弱のヒットがあります。なかにはベーシックインカムのことを「マイナスの人頭税」なんて表現している記事もありました(うまい!)。でも、上位30くらいの記事をざっと見たところ、これを新しい法人税の形として提案している人はいないようです。ということは、これは私のオリジナルと言ってもいいのかな? 簡単に説明します。企業は雇用している労働者の「労働時間」に対して一律に課税されることになります。雇われている人が正規社員であるか、非正規社員であるかには関係なし。またその人の給料の多寡にも関係なく、ただ労働時間に対して一定の単価を掛けるかたちで税額計算がされるのです。(これは人頭税というより「雇用税」とでも呼んだ方が適切かも知れません。でも、この記事では「人頭税」で通します。ブログ記事にはインパクトが大事ですからね。笑) 人頭税は社員だけでなく、会社の経営者や役員、また自営業者などにもかかります(どのように彼らの労働時間を捕捉するかという技術的な問題については今回は考えないことにします)。ベーシックインカムの実現という視点からすると、労働は出来るだけ機械やコンピュータにやらせるべきものであって、人間の労働は〈悪〉とまでは言わないまでもなるべく減らすべきものである、この思想がこの税の根拠になっているのです。

 簡単な試算をしてみましょう。現在の日本の人口は約1億2700万人。そのうち半分の6300万人が就労者です。就労者の平均年収は430万円程度だそうですから、労働による所得の合計は約270兆円。これはGDPの二分の一強を占める金額です。仮に国民ひとり当たり8万円(年に96万円)、未成年者(2300万人)には半分の4万円(年に48万円)のBIを配るとします。(ちなみに私は子供にも大人と同額のBIを配ることには反対です。そんなことをしたら、この国は少子化から一挙に多子化に反転してしまう。子供へのBI支給額は、目標となる出生率を決め、それを達成するために最適な額という視点で決定されるべきものです。) この金額のBIを支給するために必要な年間予算は約111兆円。これを6300万人の就労者で割ると、ひとり当たり年間176万円の負担になります。つまり平均176万円の所得税増税でBIは実現可能だということです。その負担を個人の所得税ではなく、企業の人頭税として徴収しようというのが私の提案です。仮に就労者の年間平均労働時間を1800時間とすると、1時間当たり1000円弱という金額になる。つまり、企業はひとりの労働者を1時間働かせるごとに、1000円の人頭税を徴収される訳です。(実際にはBI導入によって削減出来る財政支出がたくさんありますから、人頭税額はそれより低く抑えられると思います。) 下に計算に使った表を掲載しておきますので、参考にしてみてください。

Bi_simulation_2

 当然そんな税の新設は不可能だと思われますよね? 中小企業は軒並み倒産してしまうだろうと? でも、考えてみてください、従業員には月額8万円、夫婦と子供ふたりなら月額24万円ものBIが国から支給されるのですよ。だったら給料を減らせるじゃありませんか! 企業がどのような割合で給与や賃金(および役員報酬)を削って人頭税に回すかということは、それぞれの企業で考えてもらえばよろしい。BIは単身者に厳しく、大家族に優しい制度ですから、これまでの扶養手当とは逆に単身手当などを設けて、世帯間の所得バランスに配慮する会社も出て来るでしょう。人頭税は給与額に関係なく一律だと言っても、すべての従業員から同額を給与天引きすることは現実的ではありません。時給800円のアルバイトさんから、時間単価1000円の税は引こうにも引けませんからね。もっとも、この制度の前提として最低賃金も廃止されますから、時給800円の従業員にも多少なら税負担してもらうことも不可能ではない。問題はそれで人が集まるかということだけです。おそらくこれまでアルバイトやパートなどの安い非正規従業員を使って急成長して来たような企業が、この新税導入で一番打撃を受けることになるでしょう。しかし、私の意見ではそもそもそういう企業は是正を受けるべきなのです。考えてもみてください、この国で過去二十年間に急成長した企業を思い浮かべてみれば、ほとんどが時給1000円以下の安い労働力を使い捨てにしながら伸びて来た企業ばかりではないですか。それがワーキングプアと呼ばれる低所得者層を構造的に生み出し、この国を出口の無いデフレスパイラルに追い込んだ一番の元凶だったのですから。

 でも、だからと言ってマクドナルドの原田社長やユニクロの柳井社長が、この新しい税制度に反対する理由は無いと考えます。国内で安い労働力が調達しにくくなるのはライバル企業も同じですし、BIのある社会になればハンバーガーは100円でなくても、ジーンズは1000円でなくても売れるようになるでしょうから。それに最低賃金の縛りが無くなるのですから、アルバイトは時給300円で募集すればいいのです。BIのある社会では、職に就きたい人の求めるニーズも変わって来ます。もちろんお金も大事ですが、それ以上に「やりがいのある仕事」、「技術や経験の積める仕事」、「目標を共有出来る仕事仲間」、「居心地のいい職場環境」などといったものが人を惹きつけることになる。もしもあなたの会社がそれらを提供出来るなら、ボランティアでもいいから働かせて欲しいという人が押し寄せて来るかも知れない。(あ、ボランティア従業員に対しても人頭税はいただきますからね。笑) それにここが重要なところですが、こういう税制のもとでは業務の効率化・省力化への動きが強力に加速されることになります。特に日本では流通業やサービス業の労働生産性が低いことが、景気低迷の大きな要因になっているのですから、こうしたショック療法で産業界に活を入れることは理に適ったことだと思うのです。そうなれば経団連の会長だって、「雇用を守る」なんて、言ってることとやってることが正反対のウソをつかなくてもよくなる。経営者はどんどん無人化を進めて、どんどん人を切ってくれればいいのです。

 「ちょっと待てよ。でも、そこには矛盾があるぞ。」 気がついた方もいらっしゃるかも知れません。もしもこうした動きが本格化して、産業の効率化が進んだあかつきには、就労者の人口が減って行く訳ですから、BIの原資である人頭税自体も減って行ってしまう。そうなるとBIの支給額も減らさざるを得なくなって、結局は元の木阿弥に戻ってしまうのではないか? そう、書いていて自分でもその矛盾に気付きました(笑)。ただ、(少し苦し紛れに)言い訳をさせてもらうなら、これはBIを考える上で私たちが陥りがちなゼロサムの発想に囚われているからこその矛盾だと思うのです。現在は効率化や省力化を進める代わりに、海外の安い人件費を利用する方向で企業は動いている。日本経済の失われた十年(二十年?)というのは、その痛いしっぺ返しとも言えるのです。国内の労働力を海外の労働力に置き換えたところで、この世界を総体として豊かにしたことにはなりません(もちろん相手国にとって技術の移転という効果はある訳ですが)。その努力を国内産業の効率化という方向に向けていたら、この国は今とはどれほど違った状況になっていたことでしょう。産業の効率化によって、社会の富は増すということを思い出しましょう。社会が豊かになれば、どこかにBIの原資はある筈だ、これが我々の出発点でした。もしも人頭税によって効率化が促進されれば、BIの原資は人頭税から従来の法人税に重心を移すことになるのだろうと思います。ベーシックインカムというのは、固定化したひとつの経済思想といったものではなく、産業の進歩による富の増加をバランス良く社会に還元する技術の問題ですから、常に工夫を凝らして制度をチューニングして行くことが重要になるのです。

 まとめます。これまでの法人税や所得税や消費税といったものは、経済の発展に対してブレーキをかける働きを持つものでしかありませんでした。企業に課せられる人頭税は、ふたつの面でこれら従来の税制度とは異なるメリットを持っています。ひとつはこれが産業効率化へのインセンティブをビルトインしている制度であるということ、もうひとつはこれが(BIと組み合わされることによって)流動性ある真に自由な労働市場というものを実現する可能性を秘めているということです。掛け声だけで全然進展しないワークシェアへの取り組み、仕事を失っている人が多いにもかかわらず一向に減らない残業時間、そしてまたうんざりするほど効率の悪いホワイトカラーの仕事ぶり(私のことです。笑)、こうした問題を抱えているこの国の産業に対しては、政治主導でこのくらい思い切った改革を仕掛ける必要があるのではないだろうか。ベーシックインカムが軌道に乗るまでの工程は、決して平坦な一本道ではなく、試行錯誤の繰り返しにならざるを得ません。なにしろ人類がこれまで経験したことのない社会制度を新しく生み出そうというんですからね。でも、道に迷いそうになった時に、自分たちに言い聞かすひとつの合言葉があります、総体として技術は進歩しつつあり、社会は豊かになって行くのだから、その豊かさをみんなで分かち合う方法は絶対にある筈だ、そういう信念の言葉です。私は「ロストジェネレーション」などという失礼な名前で呼ばれている今の若い人たちの中から、これを実行に移す行動力と信念を持った人が現れることを望みます。

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コメント

ベーシックインカム制度を導入すると、いわゆる3K職場で働く人がいなくなるのではないかと…。
特に民間中小企業あたりは過酷な労働条件の職場が多いですからねぇ。
正規公務員や大企業正社員のような楽で高収入の仕事は誰でも憧れますが…。

投稿: ponpon | 2010年3月28日 (日) 16時46分

コメントの公開とご返事が遅くなってすみません。(いつも謝ってばっかし。)

BIで3K職場での働き手がいなくなるということは、よく指摘されますが、本当にそれが必要な労働であるなら、労働市場の市場原理によって3K職場の賃金が上がるでしょうから、バランスは保たれるとも考えられますね。むしろ3Kであるにもかかわらず低賃金であるのは、労働市場が買い手市場なので、低賃金でも人が集まるからではないでしょうか。BIが実現すると、労働市場は完全な売り手市場になりますから、従来の低賃金では人は集まらないでしょう。

企業は、人が集まらない分野の仕事はオートメーション化するか、または製造業ならいっそう生産拠点を海外にシフトすることで乗り切ろうとするでしょう。国内のサービス業やオートメ化が難しい公共分野の仕事は、ニーズがある以上、賃金は上がるでしょう。BIで3K職場が人手不足になるとしたら、もともとそういった職場で働く人は、労働市場において正当な報酬を支払われていなかったのだとも考えられますね。

投稿: Like_an_Arrow | 2010年4月 7日 (水) 22時54分

うーん、少し辛口のコメント致します。
筆者の方はデスクワークオンリーで肉体労働、まして3kと呼ばれる労働に従事されたご経験は皆無ではありませんか。
オートメ化とは、人が集まらないからするのではなく、人の不確実性を排除する為に生れているんですよ。

BIならば3kも賃金上昇により労働需要は賄われる。
こういう考え方をするBI提唱者を唾棄したい心境です。
そう思うならBI現実化の折りには自ら諸手を上げて3k職場に向かう意思を公言して欲しい。 今よりはるかに高収入になれまっせ。
BIを新自由主義と抱き合わせて考えると足元すくわれます。市場原理だけでBIを論じてしまう危険性を深く考えるべきです。

本題にもどって、
BIの財源を企業の人頭税で、と考えついた直感をご提示願います。

投稿: turusankamesan | 2010年4月18日 (日) 12時19分

turusankamesanさん、こんにちは。

> 筆者の方はデスクワークオンリーで肉体労働、まして3kと呼ばれる労働に従事されたご経験は皆無ではありませんか。

だから? もしもあなたが3K労働を深く経験していて、そこから学び得た真実のようなものがあるなら、是非お聞かせ願いたいものです。

> そう思うならBI現実化の折りには自ら諸手を上げて3k職場に向かう意思を公言して欲しい。

もしも自分の体力と能力で勤まる仕事で、自給○万円くらいいただけるなら、諸手を挙げて参加表明したいです、もちろん。

> BIを新自由主義と抱き合わせて考えると足元すくわれます。市場原理だけでBIを論じてしまう危険性を深く考えるべきです。

別に新自由主義と抱き合わせているつもりもないし、市場原理だけでBIを論じているつもりもないんだけど…。というわけで今回のコメントはスルーだな。

投稿: Like_an_Arrow | 2010年4月18日 (日) 22時49分

> そう思うならBI現実化の折りには自ら諸手を上げて3k職場に向かう意思を公言して欲しい。

もしも自分の体力と能力で勤まる仕事で、自給○万円くらいいただけるなら、諸手を挙げて参加表明したいです、もちろん。

では、現行の新聞配達業務(チラシ折り込み、朝夕配達)を月収幾らなら諸手を上げて参加表明いたしますか。

投稿: turusankamesan | 2010年4月19日 (月) 19時22分

> では、現行の新聞配達業務(チラシ折り込み、朝夕配達)を月収幾らなら諸手を上げて参加表明いたしますか。

「新聞配達業務」は学生時代に1年ほどやったことがありますが、ぜんぜん3K労働なんかじゃありませんよ。早起きは「きつい」かも知れないけど、「汚く」も「危険」でもありませんからね。ちょうどネタ切れだし、今週はBIと3K労働の問題でも取り上げてみようかな。(約束は出来ませんが…)

投稿: Like_an_Arrow | 2010年4月21日 (水) 00時19分

shine はじめまして。
数学や経済のことはあまり分からないのですが、こちらの記事と前回の記事に書かれていることは、何かものすご~く重要なことが含まれていると感じています。
そこで、ぜひお願いがあるのですが、もっとよく理解したいと思っていますので、『人頭税』 という言葉ではなくて、ストレートに 『雇用税』 という表現を使って、前回と今回の記事をまとめたものを、新たに記事にして頂けると、とてもありがたく思います。
(記事の最後の方で、要点を箇条書きにされても良いと思います。)

投稿: kyunkyun | 2010年5月16日 (日) 20時52分

kyunkyunさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

私も経済については全くの素人なんですが、ベーシックインカムといった新しい概念については、素人なら素人なりに考えるべきことがあるんじゃないかと思います。それで変わるのは私たちひとりひとりの生活ですからね。

人頭税と呼ぶか雇用税と呼ぶかは別にして、この記事で書いたことはもう一度きちんと検討する必要があると思っています。あ、それから私の記事は、まず完成された理論なり思想なりがあって、それをネタに書いているんじゃないんです。書きながら泥縄式に考えをまとめているんですね(笑)。ですからkyunkyunさんもここから何かインスピレーションを感じるものがあったら、ご自分なりのBI論を考案してみるのも面白いと思いますよ。

投稿: Like_an_Arrow | 2010年5月17日 (月) 22時57分

かつてイギリスあたりで貧困が問題になり、BIと同じような制度が行われました(救貧法でぐぐってみてください)
その結果、企業は支給される分だけ人件費を削り、労働者の所得が支給される額と同じになってしまいました
労働者側は働いても働かなくても同じということになり、労働者が極端に減りました
同時に財政的な負担もまし、税が増加。税を支払っていた人たちが貧民とかし、支給を受けるの悪循環で数年で廃止になってしまいました

投稿: こねこねこ | 2011年5月20日 (金) 05時25分

BIに財源など不要です。
制限付き兌換紙幣を作ればよいだけです。
現在の紙幣は不換紙幣です金貨、銀貨の扱いです。
ここに兌換紙幣が登場します。国民に20万ずつ
配ります。貯蓄制限付き、海外使用不可です。
不換紙幣に交換するには高い手数料を払います。
これだけで税金も不要になります。

投稿: zenta | 2016年5月11日 (水) 03時49分

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