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2009年11月 1日 (日)

持続可能な社会に向けた企業モデル

 環境持続性とこれからの企業のあり方について考えるつもりが、「肉食経済/草食経済」というコトバを思い付いたためにテーマが脱線してしまいました。前々回の課題認識に戻って、もう一度これについて考えてみることにします。もしも製品の「古びる」、「傷む」、「腐る」速度をうんと遅らせることが出来るなら、商取引がフェアなものに近付くと同時に、環境にも優しい社会が実現するかも知れない。但し、それはモノがなかなか売れない時代の到来とも言える訳で、企業はそういう時代をどうやって生き延びることが出来るのか、これが先に私の立てた課題でした。もちろんこれからの社会がそうした方向に自然に向かうとは考えられません。よほど思い切った環境税でも導入しない限り、環境持続型の産業構造に移行する経済合理性が無いからです。しかし、日本は他のどの先進国にも増して、真っ先に資源枯渇という試練を受ける運命にある訳ですし、また自らにCO2の25パーセント削減という高いハードルを課してしまった訳ですから、国だけでなく企業や個人も省資源、低炭素、低環境負荷という方向に向かって全力で突っ走らなければならない。そこでの努力や工夫が、半世紀後には世界中が求める技術や製品や企業モデルとなって結実するに違いない、そういう希望にイチかバチか賭けるしかないのです。

 あまりいいアイデアも浮かばないのですが、もしも日本がこの方向転換をうまく成し遂げたとして、その時に企業のあり方はどういうものになっているか、少し想像してみたいと思います。まず思いつくのはリサイクル分野の事業を拡大するという方向です。製品のリサイクルと言えば、エコロジーの文脈で論じられる場合がほとんどですが、むしろ経済格差が当たり前の前提になるこれからの社会で開拓すべき有望な市場として捉えられるべきものです。例えば自動車がいまの社会でこれだけ広く行き渡っている理由は、中古車売買の市場が確立されていてうまく機能しているからだと考えられます。もしも中古車を買うという選択肢が無ければ、多くの世帯はマイカーを持つことも出来なくなる訳ですから。(我が家には中古車すら無いけど。笑) 日本中が構造改革一色だったころ、経済学者はトリクルダウン理論なるものを主張していました。経済が成長して、企業や金持ちが潤えば、そのおこぼれが貧乏人にもしたたり落ちて来るというのです。ウソでした。経済指標上はいざなぎ景気を抜く長い好況期が続いたにもかかわらず、貧困は拡大し深刻化したのです。でも、お金というものはトリクルダウンしないことが分かったけれども、自動車の例を見ても分かるとおり、中古製品というものは流通する仕組みさえあれば実に自然にトリクルダウンするんですね。だとすれば、環境対策のためだけでなく、経済格差是正のためにも、この分野にテコ入れすることは国としても重要な政策になると考えていい訳です。またこれはメーカーにとっても実は悪いことではない筈です。もともと中古車を買う世帯はレクサスの新車は買わないのだし、中古市場でクルマが売れるからこそ買い換え需要だって活気づく訳ですから。メーカー自身がリサイクル事業に乗り出したっていいし、市場が大きくなれば関連事業で稼ぐことだって出来ます。

 またこれはグローバルで見ても重要な戦略になると期待出来ます。最近、中国やインドの新興自動車メーカーが、驚くほどの安さで新車を売り出そうとしています。いくら日本の自動車メーカーが合理化に励んでも、軽自動車を21万円で売り出すインドのタタ社にはかないません。でも、よく考えてみてください、タタの新車とよく手入れされたスズキやダイハツの中古車が同じ値段だったとしたら、あなたはどちらを買いたいと思うでしょう? 信頼性や快適さを求めるなら、たとえ5年落ちの中古車でも日本車に一日の長があるように思うのは単なる身びいきだろうか? 過去を振り返れば、すでに自動車や家電製品といった分野では、メードインジャパンの中古品が世界を席捲していた時代があった訳です。もしもそれだけの需要がまだあるならば、むしろリサイクル製品にもメーカーの保証を付けて正規の販売ルートで売る選択肢を考える方が正解だと思う。ベンツやポルシェに中古市場は似合わないけれど、日本車は中古車でも故障が少なくメンテナンスも簡単で実によく働いてくれる、そういう評判によるブランドが確立出来れば、これからの時代の世界戦略としても十分通用するのではないか。しかも環境性能において、日本製品は他の追随を許さないということになれば、「ものづくりニッポン」のステータスは今後さらに高まる可能性さえあります。これを実現するためには、日本のメーカーは国内の飽きっぽい消費者だけをターゲットにしていたのではダメで、製品における基本的な品質や耐久性、そして販売後のメンテナンス性という地味な部分での実力をふたたび取り戻さなければならない。

 そしてもうひとつたいせつなことがあります。私たち消費者の方も持続可能な社会に向けて意識を変える必要があるということです。最近日本語の「もったいない」というコトバが、海外で脚光を浴びているそうです。これに当てはまる外国語の訳語が見当たらないんだそうです。日本独自の価値観だというのですね。しかし、過去はともかく現代の日本人がこのコトバを心に刻んで生活しているとはとても思えません。アメリカでサブプライム問題が起こった時、ローンの上にローンを重ねて身の丈に合わない生活をしていたアメリカ国民を、私たちは一種蔑みの視線で見たものでした。が、多くの日本人が感じたことではないかと思いますが、この点に関してだけはアメリカの方が日本よりもずっと健全で羨ましいと思ったことがあります。それはアメリカでは中古住宅の価格がそれほど下落しないらしいということです。アメリカ人は自分の住む家の手入れをこまめにして、よく手入れされた中古住宅はむしろ新築の時よりも値段が高くなることがあると言います。日本では信じられないことです。この点、日本の業界事情はほんとうにひどくて、住宅は新築の時が一番高くて、その後はほとんど値崩れと言ってもいいほどのスピードで価値を落としてしまう。いくら日本の住宅が木造中心でもともと耐久性が低いと言っても、こんなことになったのはここ数十年の傾向ではないかという気がします(調べた訳ではありませんが)。「女房と畳は新しい方がいい」という古い俚諺がありますが、昔の人は畳替えをしただけで十分快適な住居ライフを送れるだけの精神的ゆとりがあったのでしょう。持続可能な社会に向けて、現代日本人の持つこの「ブランニュー信仰」は見直す必要がありそうです。

 日本人の多くが、せっかく買った住宅の価値下落にストレスを感じているとすれば、そこにビジネスチャンスがあります。少子高齢化と並んで、これからの日本経済の重い足枷となるだろう問題に、分譲マンションの老朽化という問題があります。新築の時には最新の住居設備を備えた夢のような住まいに思えたものが、築数十年を経てさまざまな不愉快なトラブルが起こった挙句、いよいよ建て替えという話になる。しかし、住んでいる人たちはもう高齢化していて、それだけの資力も持っていない。住民のあいだには建て替え賛成派と反対派の対立も起こって、人間関係も険悪になる。もしもそんなことが頻繁に発生して社会問題化するようなことがあれば、新築マンションだって全然売れなくなってしまうに違いありません。そんな時代に新しくマンションを売ろうとするなら(人口が減るこの国では、そもそも高層住宅自体が不要になる気もしますが)、とにかく建物のメンテナンス性を徹底的に高めることと、数十年後の解体・建て替えまでのライフサイクルを購入者に説明して、安心感を与えることが何より重要になると思います。それも販売会社がそれを保証するというかたちではなく(そんなものは誰も信じない)、技術開発によって商品(マンション)の物理的な性能の一部に保守性や解体性を組み込んでおくことで将来を保証するのです。(例えば規格化され安価に交換出来る上下水道ユニット、隣室に迷惑をかけずに内装工事が行なえる完璧な遮音性、取り壊し費用が安くてしかも耐震性抜群の建築構造、等々。) もしもこれが実現すれば商品として魅力的だし、そうした新しい工法で建てられた建造物が一般化すれば、これも持続可能な社会に向けたジャパン・スタンダードとして世界に売り出せるものになる筈です。

 とにかく重要なのは、製品のライフサイクルを生産から廃棄に至るまで責任を持って設計しておくことだと思います。2012年に完成が予定されている「東京スカイツリー」は、634メートルという世界一の高さを誇る建造物になるそうです。このところ明るい話題の無い日本経済に、景気回復に向けた刺激を与えてくれるならそれは結構なことです。が、私はペシミストなのでこんなことも考えてしまう、まったく保守費用も取り壊し費用もバカ高そうなこんな巨大建造物を押し付けられることは、将来の日本人にとってどれほど迷惑なことだろうと。東京スカイツリーのホームページを見てみましたが、建築後のメンテナンスのことや、まして遠い未来の取り壊しのことなどにはひと言も触れられていません。世界にアピールする21世紀の建築物として、これはおかしいのではないかと私は思います。世界一の高さなんてことは別に誇れることでもなんでもない(どうせすぐに抜かれてしまうでしょうから)。むしろ大事なのは建築後のことです。もしも建築後のライフサイクル・プランがすでに出来ているなら、それは広く公表しておくべきだし、それが無いなら建築計画全体を変更してでも新たに組み込むべきです。墨田区は新東京タワーの誘致に成功して大喜びしているかも知れませんが、例えばこれの耐用年数が百年だったとして、百年後の墨田区民が老朽化して倒壊の危険性さえある化け物タワーのふもとで怯えながら暮らしている様子も私たちは想像してみなくちゃいけない。持続可能な社会を構想するということは、自分たちが死んでしまったずっと後の時代の、私たちの子孫の生活を想像することに他ならないと思うからです。

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