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2009年11月 8日 (日)

国は外国人看護師・介護士を追い返すな!

 以前から気になっていた問題です。今週月曜日の朝日新聞1面に、看護師、介護福祉士として働く希望を持ってインドネシアから来日した人たちが、資格試験を受けるのに言葉の壁で苦しんでいるという記事がありました。昨年から日本とインドネシアは、政府間で福祉関係の人材受け入れに関する協定を結んでいたんですね。この分野での人手不足に悩む日本と、労働者に十分な職を提供出来ないインドネシアの利害が一致したということなのでしょう。外国から福祉分野の働き手を受け入れるという話を最初に聞いた時、自分たちの親の世代を自分たちで面倒見ることも出来ない今の日本というのは、ほんとうに先進国と呼べるのだろうかと思ったものでした(もちろん自分自身の反省も含めてです)。一方で、(自国内に仕事が乏しいからとは言え)わざわざ言葉も通じない外国にまで来て、老人ホームや病院で働こうというかの国の若い人たちのことを想うと、ありがたいやら申し訳ないやらで、素直に頭を下げたい気持ちになったものです(多くの日本人が同じように感じたのではないかと思います)。昨年来日した彼らは、いまは研修生として各地の施設で学びながら働いている訳ですが、決められた期間内に資格試験に合格しないと強制的に帰国させられることになっている。今年実施された看護師の国家試験では、82人が挑戦して合格者はゼロだったと言います。

 家人が福祉施設で働いているという関係もあって、社会福祉士・介護福祉士の試験問題集を覗いてみたことがあるのですが、その範囲の膨大さと設問の難しさに仰天した覚えがあります。とにかく福祉に関する歴史や法律や制度について、微に入り細に入り専門知識を問う問題ばかり。何冊もあるぶ厚い参考書を丸暗記していなければ満点は取れそうもない、働く現場ではまったく役に立ちそうも無いトリビアを延々1日かけて試される、そういう試験なのです。専門学校を出た日本人でさえ合格率50パーセントの難関です。そこにさらに言葉の壁が立ちはだかる。「褥瘡(じょくそう)」、「仰臥位(ぎょうがい)」なんていう日本人にだって難しい専門用語を来日して2、3年のインドネシア人が読み解かなければならない。新聞社の行なったアンケートでは、研修生を受け入れている施設の7割以上が、試験に際しては英語か母国語での受験を可能にする、せめて漢字には振り仮名をつけるなどの配慮をして欲しいと答えているのだそうです。ところがこれに対する厚生労働省の見解は、「日本の法令に沿った資格付与が協定で決まっており、試験水準を下げることは考えていない」というものでした。この問題については、とにかく腹立たしい気持ちが先に立ってしまうのですが、自分が何に対して腹を立てているのかがはっきりしました。この杓子定規な官僚主義まるだしの、厚生労働省の役人どもに対して腹が立っていたのだった。

 おかしなところはいくらでも指摘出来ます。例えば試験問題を英語やインドネシア語に翻訳したからと言って、何故それが「試験水準を下げる」ことになるのでしょう? 看護や介護の現場では、言語コミュニケーションが重要なのは確かですから、日本語を理解出来ることが資格付与の条件のひとつだというなら話は理解出来ます。でもそれならそもそも海外からの人材受け入れに関する協定など結ぶべきではなかったということになる。むしろ厚生労働省としてはこの協定を受けて、研修生の日本語教育についても十分配慮し、制度を整えていくのが筋というものでしょう。昼は施設で働きながら、夜は試験勉強と言葉の習得に励み、3年で結果を出せなければ強制帰国というのでは、あまりに過酷過ぎます。もうひとつおかしいのは、介護福祉士の資格というのは国家資格とは言っても、それを持っていなければ福祉施設で働けないというものではないということです。せいぜい就職に有利といった程度の資格に過ぎないのです。看護師の方は医師免許と同じで、病院で医療行為を行なうためには必須の資格ですが、資格の要らない看護助手として働きながら看護師を目指すという道もある。実際に研修生を受け入れている施設の多くで、試験に対する特別の配慮を求めているということは、彼らがすでに福祉の現場で認められるいい仕事をしていることの証拠だと思います。行政側の都合で3年で送り返す必要など無いのです。何故、政治の場で決定されたことを、こうして官僚は骨抜きにしてしまうのか? ちなみに、介護福祉士の資格試験を実施している「社会福祉振興・試験センター」や、外国からの研修生の受け入れ業務を担当している「国際厚生事業団」などは、厚生労働省の役人の有力な天下り先であることも覚えておく必要があるでしょう。

 泥くさく人間くさい福祉という分野は、官僚主義とは最も折り合いのよくない分野である筈です。ところがそこはまた官僚主義が最も介入しやすい分野でもあるのです。何故かと言えば、福祉というのは公費の支えが無ければ産業として成り立たない分野だから。役人が口出しをし、自らの利権をそこに張りめぐらすことで、日本の福祉は大きく歪められ損なわれてしまっている。私たち国民は、そこにきちんと監視の目を向け、おかしなことについては声を上げていかなければならないと思います。今回の外国人受け入れのことだって、決して小さな問題ではありません。せっかく日本で学んだ研修生を3年で追い返すということは、単に公費の無駄づかいに当たるだけではない、本来なら日本とインドネシアの友好のかけはしとなってくれる筈の若い人たちを、日本嫌いにして母国に送り返すだけの結果になる可能性だってあるのです。これが長い目で見て、どれだけ国益を損なうことであるか、考えてみれば誰にでも分かることでしょう。インターネットで検索したら、研修生はインドネシアからだけでなく、すでに第二陣がフィリピンからも来日しており、近くタイとも同じ内容の協定を結ぼうとしているという記事が見付かりました。だとすればこれは将来の「東アジア共同体構想」にも影響を及ぼさずにはいない問題です。私は鳩山由紀夫という政治家は支持しないけれども、彼が掲げた「友愛にもとづく社会」という理念については無条件で支持します。厚生労働省が所管する福祉行政は、友愛社会を実現するために最も重要な役割を担うものである筈です。最近は長妻大臣もお疲れ気味の様子で、いまが正念場ではないかと思いますが、ぜひこの問題にも目を向けていただきたいものだと思います。

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コメント

問題をとりあげていただきありがとうございます。
ドラッカーの<すでに起こった未来>という邦題の書物がございますが、この問題は<おこる前から自明の未来>であっ
ただけになんとも言葉がありません。

投稿: 酒仙坊 熟睡命 | 2009年11月 9日 (月) 22時49分

一人当たり、莫大な税金が

日本語教育から莫大なコストかかっています

なぜ日本人待遇を変えないのでしょうか?
非常にいきどおりを感じます

かれらは円高の恩恵を受けますが
日本人は看護士で働くことに将来の展望を描けません

低賃金で過酷だからです

外国人看護士今のままいれるのは欺瞞が残ります

フリーターなど教育しらほうが
はるかにコストが安いし

看護士の資格を取るのに
一人あたり何百万も税金で出すのでしょうか?

投稿: ドン | 2010年5月 9日 (日) 19時04分

とりあえず長文乙。

これについては、FTA(自由貿易協定)がらみでムリヤリ日本が「のまされた」条項であるので、この程度の「配慮」は当然と考えます。日本は外国人労働「移民」の原則禁止が国是。

インドネシアやタイなどの東南アジア諸国はその「老獪」な外交手腕に定評があり、今回の付帯合意(日本の法令に沿った基準に従うべし)の運用を見て、日本も無策ではなかったのだと、逆に安心した次第です。

投稿: くく | 2010年9月 7日 (火) 16時29分

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