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2009年10月25日 (日)

「肉食経済」から「草食経済」への転換を

 年利5パーセントの利子によって駆動される経済は、必然的に年間5パーセント以上の成長や拡大を要求される経済でもあります。もしも金融資本に支払う利子というものが無くなれば、常に成長に向かって追い立てられる経済からも脱却出来る。これが自由経済思想(シルビオ・ゲゼル)や社会信用論(C.H.ダグラス)が目指した方向でした。経済が成長の呪縛から逃れることが出来れば、現在よりはもっとゆったりとした、環境にも優しい社会が実現出来そうな気がします。最近、「草食男子」なんていうコトバが流行していますが、これをもじって言えば、「肉食経済」から「草食経済」への転換ということが、これからの社会が目指す方向になるのではないでしょうか。しかし、ひとりの生活人としては果てしない競争経済からの離脱に憧れを感じる部分があるとしても、社会全体として見た場合に成長を止めた縮小均衡の経済が果たして持続可能なものとして成り立つのかどうか? この点はよく考えてみる必要がありそうです。私自身、これまでにこの問題を深く考えたことはなかったので、何か持論といったものがある訳ではありません。とりあえず今回は、この問題をめぐるいくつかの論点を思いつくまま書いてみたいと思います。

 「肉食経済」だとか「草食経済」なんてコトバは単なるシャレに過ぎませんが、これは時代の気分を捉えるためには便利な符丁かも知れないので、少しこれに沿って考えてみましょう。肉食経済というのは、要するに規模を求める経済のことです。二十世紀最高の経営者と言われたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチさんは、事業の「選択と集中」ということを経営のポリシーに、大胆なリストラと企業買収をドラスティックに推し進めました。彼によれば、ある事業分野で最終的に生き残れるのは、世界第一位と第二位の企業だけだというのです。だからもともと強みの少ない事業からは潔く撤退して、すべての経営資源を強みのある分野に集中させた。その結果、在任期間中に売上高を6倍にまで高め、GEを収益世界一の会社にしたのです。究極の肉食戦略とでも呼ぶべきものですね。ジャック・ウェルチ氏と言えば、彼が社長を退くときの後継者選びのやり方が印象に残っています。30万人の社員の頂点に立つ次の経営者を決めるのに、氏は各事業分野の有力者を名指しで選び出し、互いに競わせました。そしてそのなかの一人が勝ち残ると、なんと敗れた競争者の方は解雇したのです(もちろん相応の持参金はつけたのでしょうが)。おそらく自分が去ったあとの組織の内紛を恐れたのでしょう。まさにライオンの群れを思い起こさせる「肉食企業」の論理です。

 これに対して、もしも「草食企業」というものがあるとすれば、それはどんな会社になるでしょうか。これが典型的という例を思いつくことが出来ないのですが、私がイメージするのは例えばビル・トッテンさんが経営する会社です。「オバマ大統領の政策で、唯一評価出来るものはホワイトハウスの庭に家庭菜園を作ったことだ」といった小気味いい文章を書かれるトッテンさんは、私が敬愛するエッセイストのひとりでもあります。(過去に何度か記事を引用させていただいたことがあります。) そのトッテンさんは、1972年に日本国内で起業されて、経営はいまも順調に続いている。社員数800人の堂々たる会社です。経営のポリシーは、業績の悪化によって社員を解雇することはしない、利益は経営陣への報酬や株主への配当よりも社員に還元することを優先する、その代わり業績が思わしくない時には社員全員の給料を削ってみんなで耐え忍ぶ、残業はなるべく少なくして社員ひとりひとりがプライベートな生活を大事に出来るよう支援する、そして社長自らが実践しているように社員にも家庭菜園を始めるよう奨励したりしている。こちらに社員の方のコメントが載った記事がありますが、社内の様子はとてものびのびしていて楽しそうです。実は私もトッテンさんの会社と同じ業界の人間なのですが、どうせならこの会社の社員だったら良かったのにと思わずにはいられません。(笑)

 もちろんビル・トッテンさんの会社が草食スタイルを貫いていられるのには、経営者のポリシーだけではない理由があります。コンピュータのソフトウェア開発というのは人材だけが頼りの業態で、例えば電機や自動車や薬品メーカーのような大規模な先行投資が必要ない、「その日暮らし」が可能な分野だという点です。(同じソフトウェア業界でも、大型のパッケージ製品を開発する会社は、先行投資=ハイリスク・ハイリターン型の製造業に近い業態と言えます。) おそらく世の経営者のなかには草食スタイルの会社運営に親近感を覚えている人も多いのではないかと思いますが、それが許されないのは今日の高度な技術社会においては、研究開発や設備投資にかかる費用を最初に銀行から借りて来なくてはならないという理由によります。年利のついた借金を返すためには、金利以上の利益をコンスタントに上げ続けなければならない。(いまがゼロ金利だなどというのは、銀行にお金を預ける場合のことであって、借りる時にもゼロ金利の訳ではありませんからね。) 要するに、銀行からお金を借りた瞬間から、企業は弱肉強食の経済原理のなかに投げ込まれてしまう。いくら社長さんが社員の生活を第一にと言っても、ライバル企業に打ち勝って売上を確保するためには、新しい機械も買わなくちゃならないし、リストラだってしなくちゃならない。あるいは最近国内で起こっているような、安売り合戦というかたちのチキンレースです。どちらにしても安定した持続可能な企業のあり方とは程遠いものです。

 とにかく「ウィナー・テイクス・オール」の経済の仕組みを変えなければならないと感じます。大企業が莫大なお金を研究開発費に注ぎ込むのは、知的財産権という制度が確立されているからです。先に特許を押さえてしまえば、後から来るライバルに対して絶対的な優位に立てる。このことが技術の進歩を促進している面は確かにあるのでしょうが、またこのことが企業をして先行投資というバクチに走らせる要因にもなっています。そして取得している国際特許の数がそのまま国の経済力の差になり、先進国に特許を独占されているために途上国はいつまで経っても貧困から抜け出せないという構図になっている。すべての経済制度が、勝者に有利になるように設計されているのです。もしも地球規模で人類の調和ある発展と持続性を求めるのであれば、知的財産権はそれを専門にする国際機関が一手に管理し、途上国にも安価に供与するような仕組みにすることが必要だと思います。(もちろん特許取得者の権利をすべて剥奪する訳ではありません、その対価はこの国際機関が一定範囲で保障することになります。) これからの世界で、ほんとうに真剣に持続可能性ということを考えるのであれば、見直さなければならない制度や慣習はいくらでもありそうですね。現在の不安定なグローバル経済を安定させるために、金融取引に対する規制や課税を強化することなど、国際協定を作ってでも真っ先に実施すべきことがらでしょう。

 いや、だいぶ話が大きくなってしまった、もう少し現実的な話題に戻しましょう。これからの時代、「肉食企業」よりも「草食企業」が有利になると予想出来る現実的な理由があります。それは、弱肉強食の価値観を持つ企業には、特に若い人が集まらなくなるだろうということです。いまでこそ不況で就職難の時代ですからこの問題は顕在化していませんが、間違いなくこれから日本の企業は若手の人材難に悩むことになる。少子化で若者の数が少なくなることだけが原因ではありません、すでに一流企業と言われるところでも、新卒者が入社してまもなく大量に辞めてしまうことが問題になっている。何故辞めてしまうのか? 理由はいろいろあるにしても、根本的なところは肉食系の企業体質に草食系の若者が馴染めないということにあるのだと思います。(働き始めて三十年近く、いまだに会社というところに馴染めない〈元祖草食男子〉の私が言うのだからたぶん間違いない。笑) これは裏付けの無い単なる予想ですが、今日日、社員の定着率のいい会社には草食系のマインドが色濃くあるのではないかという気がします。きっとトッテンさんの会社などは、この業界のなかでは例外的に離職率の低い会社なんじゃないかな? 成果主義だとか厳しいノルマによって社員を拘束しているような企業は、これからの草食時代を生き延びて行くことは出来ない。最近、日本流の終身雇用制のメリットが見直されつつあるという話も聞きますが、持続可能な社会への転換期には、企業のあり方そのものも根本から見直す必要があるように思います。

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