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2009年10月 4日 (日)

ベーシックインカム検討のフレームワーク

 「ベーシックインカム・実現を探る会」のホームページに、古山明男さんのベーシックインカム論の第二部が掲載されました。先に発表された第一部の方は、ベーシックインカム(以下BI)の主に倫理的な側面についての考察で、教育者としての古山さんの考え方にとても啓発されるものがあったのですが、第二部の方はBI実現に向けた経済的な側面からの検討で、こちらについてはさらに面白く読むことが出来ました。というのも、「減価する電子マネーでBIをやる」というのは、私自身最近このブログで自説を開陳したばかりのテーマであり、同じテーマを他の人がどのように料理しているのか非常に興味があったからです。まあ、いまの日本で、このニッチなテーマについて大真面目に考えて論じているのは、たぶん古山さんと私のふたりだけしかいないのでしょうが。(笑)

 同じテーマで考えて来た者として、今回の古山論文にはいくつか疑問を呈したい部分もあります。例えば10パーセント以上もの交換手数料が必要となる第二通貨が、何故日本円と混在して流通出来るのかについて、十分な説明が無いように感じられます。(もしも受け取り側が拒否出来るなら新通貨はほとんど流通しないでしょうし、拒否出来ないなら新通貨ばかりが優先して流通するでしょう。) また納税はほとんど新通貨で行なわれる筈ですから、それで財政が立ち行くのかという点にも疑問が残ります。(もしも政府が手数料分を割り引いて新通貨を日本円に交換するなら、そこで減価が止まってしまいますから、結果的に持続可能な経済政策とはなり得ないでしょう。) 一方、自分では思い付かなかった斬新なアイデアも数多く散りばめられています。すべての人に減価モラトリアムがついた引き出し権を与えるというのは面白いし、貨幣が一定の期間で減価するだけでなく、取り引きのタイミングでも減価するというのは検討に値するアイデアだと思います。古山さんの文章を読みながら感じたのは、BI実現のためにはとてもたくさんの考慮すべき要素があって、いまはまだお互いに優劣を競うよりもアイデアをどんどん出すべき段階だろうということです。

 BIを考えるに当たっては、押さえておくべき重要な検討項目があるように思います。例えばいくつか挙げますと… ①BIの実施は日本円(商品券等を含む)で行なうのか、それとも公共通貨で行なうのか。②日本円で行なうならその財源をどこから持って来るのか。③公共通貨で行なうなら貨幣の形式や日本円との交換レートをどうするのか。④BIの支給条件や他の社会保障制度との関係をどうするのか。⑤BI導入後の税の体系はどうなるのか。…といったようなことです。とりあえず、今回、思いついたポイントを抜き出してエクセルの表にまとめてみました。それが下に添付したファイルです。(このブログ記事にファイルを貼り付けるのは初めてですね。うまくダウンロード出来るかな?) 開いていただければ分かりますが、古山さんの案と私の案が比較出来るように簡単にまとめられています(もちろん文責は私にあります)。さらに右側の空欄となった項目にアイデアを書き込んで行けば、あなただけのオリジナルなBI構想が簡単に作れるような仕掛けになっています(ほんと?)。まだ思い付きで作っただけの第1版ですので、今後バージョンを上げて精度の高いものにして行く予定です。もはやベーシックインカムはその是非を論じる段階ではなく、具体的な実現方法に向けて議論を深める段階まで来ていると思います。この表がそうした議論の最初のたたき台になればと思っています。

『ベーシックインカムの方式比較』 「bi_ver.1.00.xls」をダウンロード

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コメント

掲載したエクセルファイルの変更履歴を記しておきます。

『ベーシックインカムの方式比較』

・2009/10/04 bi_ver.1.00 第1版掲載

投稿: Like_an_Arrow | 2009年10月 4日 (日) 07時39分

初めまして。
ベーシック・インカム(BI)関連で検索していてこちらのサイトを見つけた者です。
ベーシックインカム実現を探る会での古山明男さんの『ベーシック・インカムのある社会』を一通り読んだ後でしたので、
こちらの減価する電子マネーでの考察も古山さんの紹介なのかなあと読み進めてたのですが、ブログ主さんご自身が考え出した
点が驚きです。
正直なところ、古山さんの「e¥」構想は完璧には理解できなかったのですが、生産と消費をつなぐパイプとしての減価マネーには、
大筋で同意出来る所です。また原資をどこから調達するかの解決策でもあり、給付・流通・回収の仕組みをきちんと設計できれば
BI実現に向けてかなり現実性を持った考察にステップアップできるものと考えます。

1点、お尋ねしたいところがあります。
上記サイトでの関曠野さんが減価貨幣について否定的な見解を述べられてる稿について、どのように受け止められたでしょうか。
「マクロ経済的には問題が起きるから無理だ」
程度にしか語っておらず、少し説明不足な感を否めません。関さん御自身も「公共通貨」の概念を出していても、そこでの
減価するマネー、しないマネーの差異に関する説明が不十分に感じられました。

>ところで手持ちのお金を使わないでいると毎年少しずつ減価していくという仕組みは、貯蓄に対する処罰的な課税だと言えます。
商業にはプラスでしょうが、このように処罰の恐れによって動く経済があっていいものでしょうか。また人々に消費を強制する
ことはエコロジカルどころか、欲しくない商品まで買わせる浪費的な消費の奨励につながりかねません。これに対してダグラス
の国民配当は、贈与を経済の原動力とするものです。<

いまひとつ、関さんの論からは給付に伴う回収の機能が読み取れなかったのです。減価による回収、良いアイディアだと私は思います。
いかがでしょうか。

投稿: turusankamesan | 2009年11月14日 (土) 14時52分

turusankamesanさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

私も関曠野さんの減価貨幣に対する批判の根拠がどうもよく分からないんです。関さんが「マクロ経済」云々を持ち出して、ゲゼルを批判しているくだりは、経済学を学んだことのない自分にとってはとても高圧的で、反論の余地の無いもののように感じられます。ゲゼル・ファンの自分としては正直ショックだったのですが、でもたぶん関さんご自身も経済学がご専門ではない訳だし、これは何か誤解であるに違いない。今では私はそう思っています。

ちなみに関さんの講演録の中では、ケインズがダグラスのことを非常に高く評価したように書かれていますが、あれも半分は嘘です。ケインズの主著、『雇用、利子および貨幣の一般理論』の第23章で、ゲゼルとダグラスについて触れられているのですが、その中の1節を当ててゲゼルを非常に高く評価している一方、ダグラスについてはゲゼル(やそれと並ぶ異端の経済学者)と比較して、とてもその列に伍するものではないとはっきり書いています。

関さんの講演録はとても素晴らしいものだと思います。ただひとつ、turusankamesanさんも指摘されるとおり、発行した公共通貨をどう回収するかということに対する明確な答えが見当たらない気がします。質疑応答でも同じことを訊ねた方がいますが、釈然としない回答なんですね。ただ、関さんの描いている社会信用が基盤になる社会では、銀行からの企業融資というものは無くなって、融資はすべて国が行ないますから、お金の回収ルートはあるんです。でも、単純な話、国が企業にAの融資を行なって、国民にBの国民配当を配ってしまえば、返済されるのはAの部分だけですから、Bの部分はどうしたって市場に累積されていくしかない。社会信用論というのがそんなに素人が考えても分かるほど、底の浅いものだとは思えませんので、どなたか分かりやすく説明していただけないだろうかと思います。

古山さんのアイデアは私も面白く読みました。実は私自身も「減価する貨幣でBIをやる」ということについては、オリジナルのアイデアを持っていて、ちょうど古山さんが講演されている頃にこのブログでこれに関する記事を連載していたのでした。まあ、そういうご縁もあって(古山さんが私のブログをご覧になっていることはないでしょうが)、何か親近感を覚えるんです。

但し、私の感想では古山さんの講演録は、本論の第2部よりも第1部の方がいいですね。特に教育者としての経験を織り込んでBIの必要性を説いていらっしゃるくだりは心に染みるものがありました。BI導入の障害は、財源問題よりも私たちひとりひとりの心理的抵抗が強いという点にありますから、古山さんのような文章は貴重だと思います。

BI実現に向けた古山理論の方は、私もこの問題を自分なりに考え続けて来たので、まだ少し詰めが甘いかなと感じられました(偉そうなことを言うようですが。笑)。もしもこの問題について、turusankamesanさんがご興味をお持ちでしたら、ぜひ下記の記事も参考にしてみてください。連載8回で、たぶん原稿用紙にして100枚を超えるような長文です。ブロガーは自分の書いた記事へのアクセス数というものをチェック出来るのですが、だいたいの方は最初の1、2回で挫折されているようです(泣)。

『社会信用論と自由経済思想(1)』
http://philosopher.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-9879.html

投稿: Like_an_Arrow | 2009年11月15日 (日) 00時24分

今日初めて読ませていただきました。(2010年5月12日)

本当の意味で議論できる方と初めて出会いました。
感謝に堪えません。
e¥構想を発表したときは、ただただ模索していて、わかりにくいし、問題点も多かったと思います。その後さらにバージョンアップさせ、すっきりさせていますが、HP条ではまだ発表していません。

本業が教育制度研究で、そちらがいまものすごく忙しくなってしまってBIに戻れないでいます。
なのですが、ぜひ、いろいろと意見を交換できる折があればと思っています。

ほんとうに、ありがとうございました。

投稿: 古山明男 | 2010年5月12日 (水) 22時27分

古山明男さま、コメントありがとうございます。と言うよりも、ずっとお待ち申し上げておりました。^^)

「BI実現を探る会」のホームページで古山さんの講演録を拝読して、そこでの感想を元にこの記事を書かせていただいた訳ですが、古山さんのメールアドレスやご連絡先が分からなかったため、引用させていただいたことのお断りもせずに来てしまいました。読み返してみれば、辛口のコメントなども含まれており、たいへん失礼な記事を書いてしまったと思っております。読者の少ないマイナーブログなので、そのへん脇が甘かったと反省しております。

古山さんと同じく、私も「減価マネー」と「ベーシックインカム」の組み合わせはベストマッチだと感じているのですが、「BI実現を探る会」の第一回講演者だった関曠野さんは、シルビオ・ゲゼルや減価マネーに対しては否定的な意見を持っていらっしゃるし、減価マネーや地域通貨の第一人者でいらっしゃる森野榮一さんは、C.H.ダグラスの思想やベーシックインカムをまるで認めていらっしゃらない。その両者の対立する論点が、経済学にうとい自分にはどうしても理解出来ないのです。

私も平日はほとんど時間の自由が無い勤め人稼業なので、なかなか勉強したりじっくり考えたりする余裕が無いんです。でもBIと減価貨幣の問題については、ぜひ今後とも意見を交換させていただきたいです。ワーキングプアだとかロスジェネといったコトバが話題になる昨今、ほんとにこのことは机上の論理として遊ばせておく余裕など無いと思うんです。

投稿: Like_an_Arrow | 2010年5月13日 (木) 02時01分

こんにちは。

ダグラスのA+B理論 (A+B定理) の視点から、ベーシックインカムの必要性を考えています。
ダグラスのA+B理論は、関曠野さんの講演録でも紹介されていますが、実はこの理論については発表された当時から批判も多くあり、この理論が正しいのか、間違っているのか、まだよく判断できていません。

この理論をちゃんと理解した上で、もしこの理論が正しいとするなら、経済は必然的に 「消費者が消費するためのお金が不足する」 ことになるので、ベーシックインカムで所得保証を行う必要が出てきます。

ダグラスのA+B理論をちゃんと理解することは、こちらのコメントにもある 「通貨の回収」 を理解する上でも、また減価通貨について関曠野さんが 「マクロ経済的には問題が起きる」 と仰っていることを理解する上でも、とても重要なのではないか・・・ と思っています。

ただ残念ながら、ダグラスのA+B理論をきちんと説明した文章は英文のものしかないようですし、どなたか翻訳&解説して下さることを心から願っています。

◆ 参考 (英文:翻訳希望)
http://www.alor.org/Political%20Democracy/The%20A+B%20Theorem.htm
http://social-credit.blogspot.jp/2009/09/douglas-hawtrey-debate.html

投稿: kyunkyun02 | 2013年1月12日 (土) 17時28分

こんにちは、Like_an_Arrowさん。
Twitterの方で、ベーシックインカム実現を探る会の方宛てに、「通貨の回収とダグラスのA+B理論」 についての連投ツイートをしてみました。


(1)
これは減価方式のBIを提案されている古山明男さんや、その他何人かの方が疑問に思われている事なのですが、政府通貨によるベーシックインカムの場合、「通貨の回収ルートは分かるが、回収量の整合性が分からない」 と、よく言われています。

(2)
例えば、Like_an_Arrowさん: 「お金の回収ルートはあるんです。でも、単純な話、国が企業にAの融資を行なって、国民にBの国民配当を配ってしまえば、返済されるのはAの部分だけですから、Bの部分はどうしたって市場に累積されていくしかない。」

(3)
この件に関する参照。
◆ http://sasaduka.com/blog/?p=330
◆ 古山明男さん http://economics-human.at.webry.info/201201/article_1.html
◆ Like_an_Arrowさん(*コメント欄参照) http://philosopher.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-495c.html

(4)
この「通貨の回収量」 についても、実はA+B理論が深く関わっているのではないかと思われます。
もしAB理論が正しければ、もともと「価格と所得のギャップ」が存在している訳であり、そのギャップは 「企業が融資を受けること」 によって生じるものだから。

(5)
このような理由からも、加えて減価通貨について考える上でも、「A+B理論は正しいのか? 間違っているのか?」 を検証することは、大変重要になって来るのではないかと思われます。

投稿: kyunkyun02 | 2013年3月21日 (木) 17時35分

kyunkyun02さん、コメントをありがとうございます。なかなかご返事が出来ず、すみません。

ダグラスのA+B理論は面白いですね。私見では、これは正しいか正しくないかなんて議論するまでもない、まったく当たり前のことを分かりやすく説明しただけのものだと思っています。以前、別の記事でA+B理論を批判するようなことを書いた記憶があります。ダグラスは商品の耐用年数というものを考慮していなかったのではないか…なんて。でも、これは私の勘違いですね。A+B理論の正しさに、商品の耐用年数なんて全然関係ありません。

kyunkyun02さんが書かれているように、私もこの問題は「企業が融資を受けること」から発生していると思います。つまり、銀行マネーだけで今の経済が成り立っているというところに問題の本質があるような気がします。これについては現在連載中の記事でも扱っていますので、よろしかったら参考にしてみてください。

投稿: Like_an_Arrow | 2013年3月25日 (月) 01時57分

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