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2009年9月13日 (日)

ベーシックインカム実現は「子ども手当」から

 最近、「ベーシックインカム」というキーワードで検索して、このブログを訪ねてくれる方が増えています。「ベーシックインカム・実現を探る会」が発足し、新党日本のマニフェストにはベーシックインカム導入が政策公約として掲げられました。こうした動きから、多くの人がこの新しい概念に注目し始めているのだと思います。私もベーシックインカムを熱烈に支持するひとりとして、その普及・啓蒙につとめる努力を惜しむものではありません。影響力の小さいブログサイトとは言え、機会があればいつでもこれを取り上げて行きたいと考えています。(このブログでのベーシックインカムに関する過去の記事については、こちらこちらをご参照ください。)

 ベーシックインカム(以下BIと略します)というのは、国がすべての国民に対して、最低限の生活を保障するだけのお金を一律に支給する制度です。掛け金の要らない年金、あるいは審査の要らない生活保護のようなものと言えば分かりやすいかも知れません。支給する金額は、論者によって幅はあるものの、だいたい5万円から10万円くらいが想定されています。月に5万円ではとても最低限の生活保障にもならないと言われそうです。しかし、もしも夫婦と子供二人の世帯なら、月に20万円の収入になりますから、それだけで生活して行くことも不可能ではないと思います。もちろん議論になるのは財源のことです。これについては私にも持論があるのですが、今回は一番基本的なことだけを述べます。現代社会はオートメーション化が高度に進みつつある社会です。従来は人手に頼っていた多くの仕事が機械やロボットやコンピュータによって自動化され、これによって企業は少ない人件費で高い生産効率を得ることが出来るようになった。このことは個々の企業にとっては利益を拡大するチャンスになりますが、社会全体として見れば生産力が購買力を大きく上回って、モノやサービスが売れない時代になったとも言える。せっかく豊かな時代になったのに、その豊かさが人々に行き渡らないのです。早い話、このギャップを埋めるのがBIです。だからBIを実施するのに財源が無いなどというのは実は間違いで、この潜在的な豊かさの分だけ増税するなり政府貨幣を発行するなりして、政府は財源を確保することが出来る筈なのです。むしろそれをせずに自由経済の市場原理に任せておくだけでは、「豊かさのなかの貧困」という矛盾をさらに拡大することにしかならない、そうBI推進派の私たちは考えるのです。

 民主党政権がいよいよスタートしました。バラマキと揶揄される公約の中でも、特に国民生活にインパクトが大きいと思われるのは、「子ども手当」というものでしょう。これは子供が生まれてから中学校を卒業するまでのあいだ、月に2万6千円の手当を親(養育者)に出そうというものです。けっこう金額が大きいので、もしもこれが実現すれば子育て中の家庭にとっては非常な朗報になるだろうと思います。それを期待して民主党に投票した人も多かったのではないかな。逆に言えば、もしもこれがカラ手形に終わるようなことがあれば、次回の選挙で民主党は国民の厳しい審判を受けるだろうということでもあります。選挙戦を有利に導くためとは言え、こんな財政を省みない大盤振る舞いを公約に掲げるなんて、無責任も甚だしい、そう思っている人も多いのではないでしょうか。が、私はそうは思いません。少子化や若い人の非婚化が社会問題化している今日、これ以上に緊急かつ重要な政策は無いと考えるからです。ダム工事などの公共事業や高価な戦闘機などに貴重な予算を注ぎ込むくらいなら、子供手当を充実させた方がどれほど将来の日本のためになるか分からない。さらに言えば、高度経済成長期を終えて成熟期を迎えたこの国において、「子ども手当」をBI導入に向けた先駆的・実験的な政策と位置付けて、将来の本格的なBI実現に備えるという視点を持つことが重要ではないかというのが私の今回の意見です。

 実際、「子ども手当」とベーシックインカムには本質的な部分で類似点があります。従来の児童手当は、親の年収額による制限があったり、第一子と第二子のあいだに支給額の差がつけられたりしていますが、「子ども手当」の方にはそうした行政の都合による恣意的な差別は無いからです。「金持ちにも子供手当など配る必要があるのか?」というのは、この制度に疑問を感じている人の当然の意見ですが、これは私たちがBI導入のために克服して行かなければならない先入観でもあります。つまり、貧しい人を差別しないのと同様、裕福な人をも区別しないという政治的視点を持つということです。この視点に立たない限り、福祉政策というのは基本的に「施し」の政策になってしまう。現行の児童手当だとか障害者手当だとか生活保護だとか、まさに「施し」の政策そのものでしょう? BIというものの理念とこれほどかけ離れたものはありません。BIは基本的にすべての国民に同じ額の基礎所得を支給するものですが、子供に対しても同額の支給をするかどうかはBI推進派のなかでも意見が分かれるところです。BIは二十歳以上の大人を対象にする、あるいは未成年者については成人の半額を支給する、そんな考え方もBIの基本思想に反するものではありません。年齢による区別は差別ではないからです。そうであるならば、通常のBIの考え方からすると少し変則的にはなりますが、まずは15歳以下の子供に対してBIを支給するという考え方だってあっていい訳です。少子化問題が深刻な日本では、むしろその方が順当であるとも考えられます。

 民主党の「子ども手当」が、少子化対策の切り札になるかどうかは、人によって意見の分かれるところだと思います。むしろそんなものよりも先に、子供が生まれても両親が安心して働き続けられる環境や制度を整えることの方が大事だという意見もあるでしょう。まずは保育所を増やして、待機児童をゼロにしなくてはならない。我が家でも子供は保育料の高い〈無認可園〉に通わせていますから、この意見にはまったく賛成なのですが、一方でそれほどまでして夫婦で働き続けなければならない世の中というのはどうなんだろうという思いもある。うちの息子も小学校に行く年齢になれば、「鍵っ子」になることがすでに運命づけられています。せめて子供が義務教育を終えるころまでは、どちらかの親が家で送り迎えをしてやることは出来ないものだろうか。BIのある社会は、会社勤めだけではない様々な生き方を私たちに許してくれます。子供を育てることも、ボランティア活動をすることも、売れない小説を書くことも、立派な仕事だと認めてくれる。最近の若い人のなかには、会社でも貪欲に出世を望む人は少なくなっているようですし、結婚したい女性のあいだでは専業主婦になりたいという願望を持つ人が増えているらしい。私はこれはとても健全な傾向ではないかと思います。子供ひとり当たり月に2万6千円という金額は微妙ですが、もしもこれが日本で最初のBIということであるならば(民主党はそう宣言してしまえばいいのです)、間違いなく少子化対策として一定の効果を上げるだろうと私は思っています。政府は長期的な視野を持って、子供手当の金額と出生率の関係をモニターして行き、目指す出生率に向けて徐々に金額や支給対象年齢を改定して行けばいいのです。

 もしもBIが実現すれば、労働市場の流動性が増すだろうということがよく言われます。国から最低所得が保障されていれば、人は会社を辞めやすくなるし、企業もまた従業員を辞めさせやすくなる。このことから産業界においてもBIを歓迎する声は高いのです。企業の終身雇用制というものが破綻してしまった以上、労働市場におけるこの方向転換は急務だろうと思います。これと同じように、子供手当すなわち子供を育てる親に対するBIには、「結婚市場における流動性」を高める効果があると予想されます。現在のように雇用状況が不安定な社会でも、結婚して子供を持てば家計が安定するという安心感がありますし、また経済的理由から意に沿わない結婚生活を続けている夫婦が離婚することを後押しする効果もある。(子供をどちらが引き取るか、親権をめぐる訴訟のようなものは増えるかも知れません。) また離婚が成立した後は、子供を連れての再婚ということにもとても有利な条件が整います。特にいまのシングルマザー、シングルファザーの人たちは、経済的にも非常に苦しい立場に追いやられている上に、結婚市場においてはほとんど戦線離脱の状態に置かれていると思います。子供手当は彼らにも復活のチャンスを与えるのです。BIというのは、こういう大きな社会変革の原動力になり得るものです。私たちはこの政策を単なるバラマキとして捉えるのではなく、新しい時代を切り拓くひとつの実験として監視していく必要がある。そして新政権は、これを恒久的な施策として定着させていくことが何より重要です。野党に財源の問題を問われてひるむ必要などありません。財源というのは要するに優先順位の問題に過ぎない、F22戦闘機と日本の子供、どちらが大切かという問題に他ならないのですから。

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