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2009年9月27日 (日)

「子ども手当」に所得制限はあり得ない

 民主党が公約に掲げている「子ども手当」について、ベーシックインカム導入のための実験としても評価出来るという意見を前々回の記事で書きました。ところが今週の新聞記事によると、新閣僚のなかには「子ども手当」を高額所得者にまで支給するのは不適切だ、使い道を子供向けに限定出来ないかといった意見が続出しており、閣内でも論争になっているのだそうです。社民党と国民新党から入閣した福島さんや亀井さんは所得制限の設定を主張しており、財務大臣の藤井さんは使途制限の設定に前向きの姿勢、一方で厚生労働大臣の長妻さんは所得制限に反対する考えを表明しているらしい。ここはひとつ長妻大臣に踏ん張って欲しいところですが、まだ先行きどうなるか予断を許さないところです。

 今回の選挙で民主党を選んだ国民は、「子ども手当」という政策を、「子供を生み育てている世帯への国を挙げての応援」として受け取り、これを支持したのだと思います。もちろんそこには少子化対策という政策的な意図も含まれているでしょう。それなのにそこに所得制限や使途制限を設けるとなると、これは従来の児童手当と同様の「低所得者層に対する経済援助」という別の目的の政策にすり変わってしまう。このふたつは本質的にまったく意味が違います。この国の制度では、子供を生み育てるということは、金持ちにとっても貧乏人にとっても経済的にまったく報われることのない、厄介な仕事でしかないのです。将来の国の人口を支えるという、国民経済の視点から見ても最も重要である筈の仕事が、まるで行政のお荷物のように扱われているのがこの国の現状です。(私自身、児童手当の申請や公立保育園の入園申請で役所とやり合った経験から、ほんとうに子育て家庭は行政から厄介者扱いをされているんだという実感を持っています。) 「子ども手当」は、そんなこれまでの行政の考え方に最初の風穴をあける政策だった筈です。

 いや、今回の記事ではあまり感情的なことを書くつもりではありませんでした。(自分がいま子育てまっ最中の当事者なもので、この件についてはどうしても平静な気持ちで書けないのです。笑) 今回取り上げたかったのは、もっと政策技術的な問題です。亀井金融担当大臣は、子ども手当を支給するための所得制限として、年収1千万円という金額を示しているのだそうです。例えば「夫婦共稼ぎで5人の子供を育てている家庭が、収入合計が1千万円を超えたからと言って、高額所得者と呼べるだろうか?」という問題はさておいても、単純に年収1千万円で線引きするという考え方は、いかにも大雑把というか粗雑なロジックで、(従来の自民党ならともかく)これからの政治を担う政党の政策論議には相応しくないように感じるのです。そもそも子ども手当というのは、子供ひとり当たり年間31万2千円という結構な金額の支援策である訳ですから、一定の所得額で区切れば必ずそこには大きな不公平感をともなう逆転現象が起こります。

Teate01_4

 これは年収1千万円を所得制限とした場合の世帯の総収入額のグラフです(スケールは正確ではありません、あくまでイメージです)。横軸が前年の年収額、縦軸が子ども手当を加えた今年の予想年収額を表します。当たり前ですが、年収1千万円を境にグラフには大きな段差が出来ます。もしも子供が5人いる世帯で、前年の収入が999万円だったなら、子ども手当を156万円受け取ることが出来るので、今年の総収入は1155万円になります。ところが運悪く前年の収入がぴったり1千万円だったなら、子ども手当は出ませんから、今年の総収入も1千万円のままです。昔、配偶者控除に関する制度設計が、これと同じように雑だったために、家庭の主婦がパートで働いて副収入を得ると、ある金額帯では世帯の総収入が逆に減ってしまうという問題が起こりました。おそらく現行の児童手当でも同じ問題が起こっているものと思われます(なにせ粗雑な自公政権のやったことだから)。もしも今、こんな単純な所得制限で子ども手当を支給したら、これはたいへんな社会問題になるでしょう。新政権の目玉政策は、政府への信頼を失墜させる目玉となり兼ねない。もちろん子ども手当の支給条件を少し変えれば、このような逆転現象を回避することは可能です。例えば先ほどのグラフを次のように修正した場合です。

Teate02_2

 これは子供ひとり当たり2万6千円を支給するものの、子ども手当を支給した場合の収入合計が1千万円を超えないように上限を設けた場合のグラフです。先ほど例に挙げた子供5人の世帯で言えば、年収844万円までなら子ども手当は満額の156万円が出ますが、年収900万円なら手当は100万円まで減額され、年収1千万円ではゼロになるという仕組みです。これなら理不尽な逆転現象は起きません。が、やはりある金額帯では働いても働いても収入が増えないという納得の行かない事態が生じます。現行の配偶者控除の仕組みでは、逆転現象こそ是正されているものの、やはり一定の金額帯では主婦がパートで働いても、その分が税金や社会保険で持って行かれ、世帯収入がほとんど増えないという馬鹿げた状況になっている、それと同じことが起きるのです。こういう問題を放置して来たことが、前政権に対する国民の不信が深くなった要因のひとつだと思うのですが、民主党政権もそれと同じ道を歩むのでしょうか?

Teate03_2

 もしも子ども手当にどうしても所得制限を設けたいなら、支給額は上のグラフのように世帯収入によって漸減する方式を採るべきでしょう。収入ゼロの世帯には満額の月額2万6千円が出るけれども、収入が増えるに従って子ども手当の額が少しずつ減って行くという仕組みです。これなら貧しい世帯への経済的支援という意味では、一応制度としての「体」をなしていると思います。その代わり、ほとんどの世帯では満額2万6千円の子ども手当を受け取ることが出来なくなる訳で、これは重大な公約違反だということになる。やはり民主党政権への信頼を大きく損ねることは必至です。繰り返しますが、「子ども手当」という政策が従来の児童手当と違って画期的である所以は、それが貧困対策では決してなく、子供を育てている世帯への国としての感謝を表す「友愛政策」だという点にあります。おそらくまだ与党の自覚が乏しい福島さんや亀井さんが所得制限を言い出すのはなんとなく分かりますが、(もっとクレバーだと思っていた)藤井さんまでもが使途制限を言い出したのには、正直がっかりしました。この問題がどのような決着を見るのか、新政権の今後を占う試金石のひとつとして見守ることにしたいと思います。

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コメント

全くいい加減な想像なんですけど、所得制限には格差是正派マスコミさんが引っかかるんじゃないかと思いますので、マスコミさんはあまり乗り気では無いかと・・・いや内心では

「冗談じゃない!格差是正世論を引っ張った我々が、何故大損せねばならないのか!」

構造改革派を殲滅させしマスコミさんの格差キャンペーン・パワーがそのまま、実行者に跳ね返ってきたりして・・・
なんて希望的観測で凄く適当な事を描いてしまいました。すいません。


(そもそもマスコミさんでも子供手当の影響を受けるのは若い世代が主なので案外関係無かったりして・・・となるとこの話は完全に戯言なんです。)

投稿: ふくろう | 2009年9月30日 (水) 14時44分

子供が4人でも年収1000万以上であれば、やって行けるはず。うちは母子家庭で、300万円もありませんでしたよ。奨学金と、新聞奨学生で、二人、大学に行きました。まだ、働きながら、返しています。子供は、日本の財産だと思うけど、ばらまきは、いかがなものでしょうか?本当に、勉強したいのなら、受け皿を充実するために、使ってほしい。 

投稿: 貧乏ママ | 2009年10月11日 (日) 16時04分

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