« 社会信用論と自由経済思想(4) | トップページ | 社会信用論と自由経済思想(6) »

2009年7月 5日 (日)

社会信用論と自由経済思想(5)

 今回は私の提案する「減価する電子マネー」が実際に導入されたあとの社会というものを想像してみることにします。果たしてこれが現実性のあるアイデアかどうか、いろいろな思考実験をしながら確かめてみたいのです。まずはこのお金を持って行きつけのスーパーマーケットに入ってみることにしましょう。目新しいのは商品の値札に見慣れない記号が書かれていることです。例えばこんな表示です、「¥700/§300」。これは日本円で700円と国内円(新通貨)で300円という意味のようです。(“§”という記号に特別な意味はありません。国内円を表す通貨記号と捉えてください。) 単に「¥4000」といった値札を付けた商品もあります。なるほど「魚沼産コシヒカリ」ですか。国内円は1円たりとも受け付けないという生産者の強気な姿勢が感じられますね。同じお米でも、銘柄によって「¥1500/§500」というのもあれば、「¥1200/§1200」なんてのもある。これはどちらを買うか迷うところです。一方では「§100均一」なんて売り場もあります。これは地元で採れたちょっと形の悪い野菜などを売っているのですね。朝の開店と同時に売り切れてしまう人気のコーナーです。その他にも、本日の目玉商品として国内円だけで買える商品も結構あります。いくつかのスーパーを買い回りすれば、国内円だけで必要な品物は買い揃えられるかも知れません。輸入食品は日本円の比率が高くなる傾向がありますが、これは当然のことでしょう。むこうのバナナが「¥198/§48」なのに対して、こちらのメロンは「¥98/§398」。値段から産地や生産者の顔が想像出来て面白いですね。私が一番気になるお酒のコーナーを覗いてみると(笑)、どのメーカーのビールも価格の10パーセントが国内円と設定されているようです。これはきっと税制との関係でそうなっているのだろうと思います。

 では、次にレジに向かいましょう。このスーパーでは、レジも国内円に対応した新型のものに入れ替えています。商品はバーコードで読み取られ、日本円と国内円が別々に集計されます。日本円の支払い方法は従来と同じです。国内円の方は電子ワレット(個人用の電子マネー機器を今後こう呼びます。ワレットはお財布です)を読み取り機にタッチするだけですから、会計に時間がかかるということもありません。(最初の頃は、お客さんが電子ワレットのロックを解除するのに手間取る場面も多く見られましたが、最近はみなさん慣れたようです。) なかには現金での支払いをせずに、1回のタッチですべての会計を済ませている人もいます。あれは国内円と日本円を両方チャージ出来る新型のワレットを使っているのでしょう。支払われた国内円がこのあとどうなるのか、それについても少し説明しておかなければなりません。レジの中には店舗専用の電子マネー(ICチップ)が仕込まれています。これは個人用とは違って、毎日ベーシックインカムが自動チャージされることのない業務用の電子マネーです。むろん深夜3時に1パーセント減価する機能は個人用と同じです。レジにたまった国内円は、このスーパーを展開する企業の本部に送られます。各店舗の売上をまとめるのもやはり業務用電子マネーです。さらにそれはこの企業が持っている専用の銀行口座に送られます。これは国が直接運営する無店舗の銀行で、扱っているのは国内円のみです。もちろんこちらも毎日1パーセントずつ口座残高が減ります。それでもこの銀行口座が有利な点もあります。それは口座間の振込手数料がまったくかからないという点です。現在の民間銀行は、振込金額に応じてかなりの手数料を取りますが、それがゼロなのです。ただ、預け入れの限度額に応じた一定の口座維持費はかかりますが(こちらは日本円です)。この銀行口座は個人でも持つことが出来ます。ネットショッピングやオークションなどをする人には、とても便利なものになると思います。要するに、この国内円というお金は、国が支給するICチップと国が管理する銀行口座という閉じられたループの中を、減価しながらぐるぐる巡るものなのです。

 それでは次にもっと小さな個人商店を覗いてみましょう。ここにも国内円対応のレジが置いてありました。聞いてみれば、これは国が非常に安価に貸し出しているものなのだそうです。こちらは回線経由で店主の個人口座と直接結ばれています。このレジが便利なのは、客が客自身の口座から携帯する電子ワレットに国内円をチャージする機能も備えていることです(いま思い付いたアイデアです)。手持ちの国内円が無くても、日本中どこの店に入っても電子マネーを補充することが可能なのです(口座に残高があればですが)。面倒な操作も必要ありません、入金したい金額を入力してレジにかざすだけ。ワレットに記録されているID番号から持ち主の口座を判定して、指定された金額を引き出して来るだけです。もちろん手数料などかかりません。…で、何の話でしたっけ? そうそう、個人商店の話でした。この新しい通貨が導入されて以来、多くの個人商店で客足が戻ったと言います。その理由はこのお店の値付けを見れば分かります。先ほど見学した大手スーパーと比較すると、明らかに国内円の使える割合が大きいのです。からくりは簡単、家族経営の小さなお店なので人件費はかかりませんし、大きな設備投資などもほとんど無いので、日本円を必要とする割合が大手企業よりもずっと小さいのです(これは経営者のライフスタイルにも拠るところです)。置いてある商品は、ほとんどが国内産のものばかりです。安い輸入品を大量に仕入れるためには、大企業の持つネットワーク力が不可欠ですが、地元の質の良い商品を(国内円で)少量仕入れるためには、生産者との信頼関係が何よりの武器になります。だから小さな個人商店でも、仕入れる商品の開拓や値段の設定などに、いろいろ工夫や努力の出来る余地があるのです。これまでの安値で買い叩いて大量一括仕入れをするというビジネスモデルが(部分的にですが)通用しなくなって来たとも言えます。ほら、店のおやじさんの表情も明るい。商店街に昔の活気が戻って来たみたいです。

 国内円が企業と企業のあいだでどのように流通して行くか、その点についてもう少し詳しく見てみましょう。前回も説明したように、販売価格の何パーセントまで国内円で受け付けるかを決めるのは売り手側です。これは小売店だけでなく、中間の流通業者や生産者についても同じです。小売店の店頭価格に国内円の占める比率が高い商品は、当然流通過程でも国内円主体で取り引きされていたのでしょうし、生産者も国内円主体で出荷したものと想像されます。ここまでは前回の復習です。そして先ほども説明したように、銀行口座間の取り引きに手数料はかかりませんから、国内円部分の支払いは毎日決済が原則になるだろうと予想されます。何故なら、お金を払う側としては、月末締めの翌月末払いなんていう悠長なことでは、資金がどんどん減って行ってしまいますから、払えるものは一刻も早く払いたいと考える筈だからです。通常の商取引では、資金繰りのことを考えて、買い手は支払いをなるべく遅らせたいと思うものです。ところが減価するお金の場合には、この発想が逆転します。売り手が「掛け売り」で構わないと言っても、買い手がそれを許してくれないのですね(笑)。結果として国内円は、個人→小売店→流通業者→生産者というルートをすごいスピードで駆け抜けて行くことになります。減価するお金は、とにかく「手離れのいい」「貯め込まれない」お金ですから、それを導入するだけでも取り引きがめざましく活発化するのです。そもそも常識的に考えれば、物を買うタイミングとお金を支払うタイミングに現在のような大きなずれがあること自体おかしなことです。これは商品よりもお金が優位であるが故に、取り引きにおいても買い手が優位に立ち、優位な側が相手に圧力をかけているという構図に他ならないと思います。

 さて、次の問題はこうして企業間で取り引きされた国内円が、どのようにして個人の消費者に還流して来るかという問題です。それを説明する前に、今度は近くにある職業安定所(あ、ハローワークだ)に立ち寄ってみましょう。国内円が導入されてから、失業率が劇的に改善されたと聞いていますが、そのからくりを探ってみようと思うのです。最近は職安もシステム化が進んでいて、求職者はパソコンで求人票を検索出来るようになっています。(私も過去にずいぶんお世話になりました。笑) おおっ、ここにもありましたよ、例の記号が! 「SE募集。基本給、¥120,000/§60,000」。なるほど、そういうからくりだったのか! 商品の仕入れにだけ国内円を使っても、企業は集まって来る大量の国内円を捌き切れません。国内円は供給連鎖(サプライチェーン)の上流にどんどん溜まって行くばかりです。これを経済の大きな循環にするためには、当然企業としては従業員への賃金の支払いの一部にこれを使えなくてはならない。そしてもちろん使えるのです。但し、その割合には上限を設けることが必要でしょう。どのくらいが妥当かな、仮に日本円の総支給額の二分の一までということにしておきましょうか。日本円の20万円にプラスして国内円の10万円が上乗せされるといったイメージです。もちろん国内円の割合は一律ではありません、それは雇用者と被雇用者のあいだで個々に取り決められることになります。優秀な人材が欲しい企業は、高給を提示するだけでなく、全額を日本円で支払うことを約束しなければならないかも知れません。逆に職に就きたい個人にとっても、能力や経験以外にもうひとつアピール出来るポイントが増えることになります。つまり国内円で給料を受け取れるということを履歴書に書くことが出来るのです。これは採用する企業にとってはかなり魅力的な条件となる筈です。

 働く人への給料の支払い方法も、日本円の部分は従来どおり月給制が主流ですが、国内円の部分は日払いが当たり前になるだろうと思います。企業にすれば減価するお金は一日も早く手放したい訳だし、個人にしても使いにくい国内円を月末にまとめて支払われるより、毎日少しずつ受け取った方が便利だからです。とにかく振込手数料がかからないのですから、このへんは各企業が自由にやり方を決めればいい訳です。(こう考えると、個人の銀行口座は働く人すべてに必須ですね。) 税金のことについても簡単に触れておきましょう。ベーシックインカム導入後の税の体系をどうするかということは、実はこの制度の根幹とも言うべき重要な問題です。個人の所得税に関して言えば、日本円の収入と国内円の収入を分けて考えます。つまり法律によって決まっている税率が、日本円部分と国内円部分にそれぞれ別個に適用されるということです(国内円部分については累進課税ではなく、一律の税率=フラット・タックスになります)。これは地方税についても同じです。サラリーマンが源泉徴収によって税金を引かれるのも従来と同じです。国内円での税金は、給料の支払い単位で納めてもらうことになります。つまり「毎日納税」です。フラット・タックスなので年末調整なども必要ありません。そうだ、ヴェルグル町で実際にあったように、税金を一括前倒しで支払いたいという人も現れるかも知れませんね。しかし、これは国の財政上、受け付けることが出来ないと思います(この点はまた次回説明する予定です)。その他の税金についてはどうでしょう。まず消費税というのは、減価貨幣の導入とともに廃止されます。なにしろ政府は、年間100兆円以上の政府通貨発行権(セイニアーリッジ特権)を手に入れるのですから、財政赤字なんて言っていたのはいつの時代の話だということになる。相続税や贈与税、固定資産税のようなものは、残念ながら従来どおり日本円で払っていただきます。これらの税金は、価値を無傷で貯め込むことの出来る日本円の経済圏に属するものだからです。(もしも莫大な国内円を遺して死んだ人がいたとしても、そこから相続税を徴収する必要は無いと思います。個人資産としての国内円は、たとえそれが1億円だろうが10億円だろうが、2、3年でほぼ30万円に収束してしまうお金なのですから。むしろ相続人が派手に使ってくれた方が経済的効果があるというものです。)

 細かい制度の設計について説明し始めると、だんだんほころびが出て来るような気がしますが(笑)、気にせずにもう少しだけ説明を続けます。企業が納める法人税や企業会計のあり方はどうなるかという点です。日本円の部分の経済活動に関しては、納税も含めて従来の会計規則がそのまま継続されます。企業はこれまでどおりの決算を行ない、損益計算書を作って、利益に対しては日本円での納税を行ないます。問題は国内円部分の決算と納税をどうするかという点です。日々減価するお金なんてものについて、正確な決算報告をするなんて至難の技だ、たとえそれが可能だったとしても、大規模なコンピュータ・システムが必要になるに違いない、もしもそんなふうに考える人がいたら、それは完全な誤解です。それどころか、企業はほとんど何も事務作業をする必要すら無いのです。と言うのも、国内円の企業間取り引きについては、すべて国が運営する「国内円銀行」が把握していますから、各企業の決算処理は銀行が代行して行ない、企業は銀行から送られて来る決算資料をそのまま株主に公開すればいいだけなのです。大企業だろうと個人事業者だろうと、脱税や粉飾決算は一切不可能。ただ税率や納税方法をどうするかということについては、別途検討が必要ですね。こちらは個人の所得税のように一律の税率という訳には行かないと思います。例えば取引額に5パーセントの課税をするのであれば、それは消費税の復活と変わらない。法人税はあくまで利益部分にかかるものだからです。もしかしたら国内円部分の法人税は必要無いのかな? まあ、そのへんはまた改めて考えてみることにしましょう(少し息切れ。笑)。さて次回は、このような経済改革のなかで国が果たすべき役割について考察します。減価貨幣を流通させるためには、経済活動の一端を担うプレイヤーとして、国の役割がきわめて重要になる筈なのです。(この連載、いったい何時まで続くんだろう?)

|

« 社会信用論と自由経済思想(4) | トップページ | 社会信用論と自由経済思想(6) »

コメント

なるほど。1つの商品に日本円と国内円のどちらかでなく、
併存する形でも取引され国内円は専門バンクが一括して
処理するわけですね。納得です。
細かいことをいえばキリがないですが、それは開けても
いない箱の中身をあれこれツっこむようなものですね。

無責任かも知れないけど、やはりフタを開けてみないと
問題点も何も分かりようもどうすることもできませんし、
運用しながらあれこれと問題点を見つけ、解決の道筋を
探すことの方がより現実的でベターな選択ですね。
そもそも100%大丈夫と豪語するシステムや決め事ほど、
アヤしいものはないですからね。

ともかく、ベーシック・インカムについて考えるほどに
単なるお金の話を越えて、さまざまに身近な事や問題と
絡んでくるのがよく分かりますね。
まだまだ続きそうですが、楽しみにしています。

追伸:脳科学者茂木健一郎さんのブログでも最近(6月28日)
ベーシック・インカムのことについての記事がありました。
その記事は英文なので、あまりよく分かりませんでしたが、
コメントを見る限りでは肯定的な内容だそうです。

投稿: あかみどり | 2009年7月11日 (土) 11時17分

あかみどりさん、こんにちは。

もしも経済学の専門家の方から見たら、今回の私の記事なんてまったく検討にも値しないものなのだろうと思います。それでも、減価貨幣とベーシックインカムを組み合わせるという着想は、けっこう見どころがあるんじゃないかという気がしているんですよね。ただ、私のブログはマイナー過ぎて、議論のタネを蒔いたことにもならないのが口惜しいのですが。(笑)

たぶんあと2回分くらいはネタがあるので、連載は続くと思います。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

投稿: Like_an_Arrow | 2009年7月13日 (月) 00時05分

ベーシックインカムについて調べていたらたどり着きました。
減価する国内円、面白い発想だと思います。
古いエントリーにコメントするのはどうだか分りませんが、とりあえず今からこのブログにあるものをざっと読んでみようと思います。

この記事の感想としては、国内円には税金がかからないようにしてもいいんじゃないかという考えがわきました。
でもそれだと国内円だけでみんな生活しようとすれば税収がなくなるのでしょうか?
ただ、目減りする国内円は、そのこと自体が税金を徴収しているようなものではないのかなとも思えるのです。

考えをまとめながら読みすすんでみたいと思います。

投稿: HAMAH | 2011年1月25日 (火) 15時55分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138790/45541246

この記事へのトラックバック一覧です: 社会信用論と自由経済思想(5):

« 社会信用論と自由経済思想(4) | トップページ | 社会信用論と自由経済思想(6) »