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2009年2月15日 (日)

政府紙幣発行について考える

 このところマスコミで「政府紙幣」の話題が取り上げられる場面が多くなりました。私が政府貨幣の記事を最初に書いたのは、このブログを始めた2005年のことでした。先見の明があった訳ではなく、たまたまインターネットで「セイニアーリッジ政策」、つまり政府貨幣発行政策のことを知り、興味を持ったのがきっかけでした。その時の私の主張は、政府貨幣によって国の抱える莫大な借金をチャラにして、日本を〈きれいな身体〉にして次の世代に引き渡そうというものでした。今日の政府紙幣論議のポイントはこれとは違います。いま問題なのは、国が抱える借金ではなく、当面のこの不況をどう乗り越えるかということだからです。最近急に政府紙幣のことを言い出した人たちは、これによって積極的な財政投資を行なって、景気を刺激することを主張しています。例えばエコノミストの森永卓郎さんは、いつものあの楽観論の口調で、50兆円の政府紙幣を発行して、そのうち25兆円で国民全員に20万円ずつの定額給付金を配り、残りの25兆円で政府は民間企業の株を買うべしなんて主張をしている。麻生政権が実施しようとしている、ひとり当たり1、2万円程度の給付金では、焼け石に水だというのです。

 そんなうまい話があって良いものだろうか? 私たち国民がまず感じるのは、そういう疑問だと思います。私たちが毎日使っている紙幣、つまり日本銀行券は政府が勝手に発行したものではありません。政府とは(一応)独立した日本銀行という株式会社が、自らの持つ資産の裏付けの上に発行したものです。(その裏付け資産の大半は国の借金証書、すなわち国債です。) 確かにものの本を読めば、国家というものは本来、貨幣発行権を持つと書いてある。しかし、日本政府は少なくとも明治時代以降この特権を行使したことはありませんし、先進諸国の中でも政府が財政政策の一環として紙幣を発行している例などありません。もしも国が好き勝手に紙幣を刷って発行出来るなら、政治家なんてこんな楽な商売は無いし、1千兆円とも言われる国の借金だってまったく問題ではなくなってしまう。常識的に考えれば、とても承服出来るような政策ではないと思います。そこでこの政策を主張する人は、何か言い訳を考えなければならないことになります。例えばいまは百年に一度という未曾有の経済危機なので、通常は〈禁じ手〉と言われる政策でもためらうべきではないと言う人もいますし、現在の日本のように生産能力が余っているのに需要が足りなくて不況に陥っているような社会では(デフレ・ギャップが大きいという言い方をします)、政府紙幣を発行してもインフレや通貨不安に結び付く心配など無いと言う人もいます。

 私自身は、政府紙幣の発行には違和感を感じるものの、今のこの閉塞感を打ち破るためには、そのくらいのことを試してみることも充分アリなのではないかと考えています。但し、森永さんの主張するようなやり方、つまり国民に一律にお金を配る政策(いわゆるヘリコプター・マネー)には、金額の多寡に関係なく反対したい気がします。それはもともと不道徳なこの政策に対し、文句を言わせないための口止め料を払うようなものだからです。それはいわば財政の規律を破ることに対して、国民を共犯者に仕立るようなやり方です。(麻生政権の定額給付金のいかがわしさも、これと同じ構図を持っています。) 私はむしろ政府紙幣による大規模な財政出動を行なうならば、喫緊の課題である医療や福祉の立て直しや、最低賃金の引き上げといったことに使った方が、よほど国民にとっては納得が行くし、また有効需要の喚起にも効果があるのではないかと思います。さらに言えば、この禁断の政策を政府に許すに当たっては、厳格なルールを定めるべきだとも考えます。例えば政府紙幣の発行額は、前年の国内総生産(GDP)の正確に10パーセントとし、それよりも多くても少なくてもいけないものとする。(10パーセントが妥当かどうかは分かりません。ただこの政策はみみっちく小額でやっても意味が無いと言われます。森永さんの言うように50兆円程度の金額は必要だと思います。) そしてもうひとつ重要なルールとして、発行した政府紙幣の半分は、国債の償還または(同じことですが)新規国債発行の抑制に当てるものとします。このルールによって、政府紙幣をまるごと財政投資に当てることは出来なくなる。これは次の世代に対する現役世代の義務として、そうあるべきものだと考えるのです。

 政府紙幣に関して、以上のようなことを漫然と考えていたら、さらに過激な考え方があることを知りました。丹羽春喜さんという経済学者の方の言葉にそれはあります。丹羽博士は筋金入りのケインズ主義者であり、ずっと以前から政府貨幣の必要性を訴え続けて来た方です。インターネットで見付けた文章から引用します。私にはたいへん衝撃的な内容だと思えるのですが…。『そのことは、在来の概念での国家財政バランスにおける黒字、赤字といったことが、無意味になるということでもある。これは、まさに、大事件である。それに代わって意味を持つようになるのは、マクロ経済的にデフレ・ギャップが発生しているのか、インフレ・ギャップが発生しているのかということである。すなわち、「真の意味でのマクロ有効需要政策」(いわゆる「国民経済予算制度」政策)を市場メカニズムと結合した「人智の及ぶ限り最善の経済システム」を実現しうる道筋へ、日本が全世界を導いて進むことができるようになるということである。』 私なりに翻訳するとこうなります、「技術が進歩して社会が総体的に豊かになった時代においては、国の財政が赤字だとか黒字だとかいうことは何も問題ではない。社会が豊かになったことが確かなら、国はその分の貨幣を増刷して、国民に豊かさを還元すべきである。」 そして日本は全世界に対して、その先導役であるべきだというのですね。これは気宇壮大なヴィジョンです。(自分流に)もっと噛みくだいて言えば、「働かなくても生きて行ける時代のための新しい経済原理」ということにもつながるような気がします。と書いて、ひとつのスローガンが心に浮かびました、「ベーシックインカムは政府紙幣で!」。そこまで言ったら、ちょっと飛躍し過ぎでしょうか(笑)。

 ところでこれは〈新時代の計画統制経済〉とでも呼べるようなものですから、もしもこれを目指すなら、政府や中央銀行とは独立した中立な査定機関が必要であるような気がします。例えば特定の国に属さない国際機関を作って、そこがある国の需給ギャップを客観的に査定し、許容される政府紙幣の発行額を勧告するといったイメージです。場合によっては、マイナスの査定が出されることもあるでしょう(ジンバブエのような国の場合には)。そうした第三者機関が存在したなら、確かに日本円が独歩高になっている現状からも、日本に対してはかなり大きなプラス査定が出て来そうな気がします。重要なことは、この政策は大きな政府だとか小さな政府といった議論とは別次元の話であるということです。丹羽さんの試算によると、ここ十数年のあいだに日本がデフレ・ギャップのために失った潜在的なGDPは、5000兆円にものぼるのだそうです。まあ、このあたりは学者によって異論もあろうかと思いますし、実際のところは計算で正しい値を求めることなど不可能であるに違いないと思います。だったらまず日本でこれを実験してみて、結果のデータを収集するところから始めるのも一案だと思う。その経験知を持たないあいだは、経済学者の論争だって神学論争の域を出ないものではないかという気がするのです。私自身は、需給ギャップを追加の貨幣で埋めるという発想よりも、貨幣自体の流通速度を高めることで需要そのものを喚起するというシルビオ・ゲゼルの思想により親しみを感じているのですが、政策としての実行のしやすさという点では、政府紙幣の方が勝っているのも確かです。もしも私が麻生さんだったら、この政策に起死回生のチャンスを賭けることに、ためらいは持たないと思うのですが…

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コメント

政府紙幣は消費税金融経済に税制を移行しましから官公庁霞ヶ関解体し政府紙幣で銀行證券に本来の融資両替をさせ政府紙幣と日銀紙幣の公務員経済と庶民経済を両面に不文律 不兌換紙幣とし累積国債を挟みやるものだ。出来なきゃ消費税はゼロにしろや

投稿: 芹沢獅堂 | 2009年3月20日 (金) 20時00分

>政府や中央銀行とは独立した中立な査定機関が必要

これが一番重要だと思いますね。

投稿: ろーりんぐそばっと | 2009年4月11日 (土) 09時56分

あくまで経済を紙幣と法律でもって、中福祉中負担をもらえないひとを赤字国債から解除すれのに日銀紙幣と政府紙幣経済をつくるものだ。官公庁の給与に上乗せでも自然配分削減でもよいのだ。政府紙幣は政府関係者、政府出入り業者で運用し内需と切り離す。なぜなら内需絞殺の消費税10%はいわば官公庁の給与、賞与、退職金、社会保障に過ぎないからだ

投稿: 政府紙幣は儲ける道具ではない、 | 2009年5月 7日 (木) 19時01分

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