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2009年2月22日 (日)

減価するポイントカードで売上倍増?

 今回は減価貨幣のことを考えていて思い付いたアイデアをひとつ。最近は街の電気屋さんに元気がなくて、代わって家電量販店と呼ばれる小売チェーンが売上を伸ばしています。こうした量販店の多くは、自店でのみ通用するポイントカードを発行して、客の囲い込みを図っています。私も財布のなかにはポイントカードを持っていますから、ポイントがたまることの嬉しさは知っています。購買価格の10パーセントくらいのポイントなので、大きな買い物をすると結構な額がたまる。ただ、どこの量販店でも同じようなポイントカードを発行していますから、それが他店との差別化につながっているかは疑問です。そこで家電量販店の社長さんに私からの提案。御社のポイント還元率を業界最高の20パーセントに設定してはどうでしょう? その代わりに発行したポイントは1日につき1パーセントずつ目減りさせるという仕組みを取り入れるのです。この方法ですと、発行後70日でポイントは半減し、1年後には2.5パーセント程度まで減価する計算になる。1万円で買い物をしたお客さんは2000円分のポイントを受け取り、そのまま2ヶ月あまりポイントを使わずにいれば1000円まで目減りして、1年後には50円ほどになってしまうということです。これを実現するためのコストは大してかかりません。ポイントカードの残高は本部のコンピュータで一括管理していますから、プログラムをちょっと修正するだけで済んでしまいます。

 顧客の気持ちになって想像してみましょう、こんなポイントカードがあったら、魅力的に感じない人はいるでしょうか? なにしろ一律20パーセントという値引き率です。ポイントが減価するという性質上、顧客の消費行動にも変化が現れる筈です。〈まとめ買い〉や〈ついで買い〉をして、なるべくポイント残高を残さないという買い方が選好されるでしょう。つまり客単価が上がる一方で、ポイント残高の繰り越し額は激減する。いまポイントカードを発行している企業は、顧客が貯めているポイントが隠れ債務となっていることが問題視されています。(なにしろ日本人は利子が付かないお金でさえ貯蓄をするのが大好きな国民性ですから。) この債務が減ることで、企業の財務体質が健全化するという効果も期待出来ます。さらに当然のことながら、減価するポイントカードには顧客の来店頻度を高める効果がある筈です。カードにたまっているポイントが日に日に目減りして行くことで、人は落ち着かない気分になる。これを持っている人は、次に買いたいものを意識して考える習慣が身につくのです。もちろんなかには、減価するポイントカードに馴染めないお客様もいるに違いありません。そういう方のためには従来の減価しない割引率10パーセントのカードも残しておくという選択肢があります。ひとりのお客様が両方のカードを持っていても問題ありません。賢い消費者は、うまく両方のカードを使い分けながら買いものをすることになるでしょう。それでまったく構わないのです、どちらにしてもあなたのお店で買いものをしてくれることに変わりはないのだから。この仕組みに顧客が慣れて来たら、1枚のカードに2種類のポイントを分けて貯められる、お得意さま仕様のゴールドカードを作ってもいいでしょう。

 この新しいタイプのカードを短期間に普及させるためには、どうしたらよいでしょう? これに対してもうまい方法があります。既存のカードを持っているお客様対象に優待キャンペーンを実施するのです。従来のポイントカードを新しいカードに切り替える際に、たまっていたポイントを2倍にして移行するという思い切ったキャンペーンです。これは期間限定のサービスであることを強調します。これで一気にカードの切り替えが進むと同時に、ポイントの消化も加速する。期間中の売上は倍増することでしょう。むろんその間の粗利は下がりますが、これは負債であるポイントを償却するためのコストだと考えてください。そうだ、言い忘れましたが、もうひとつシステムの改良が必要なところがありました。それはレジでのポイントの扱いについてです。2つ以上の商品を買われたお客様がポイントを使って支払われる場合に、レジに1回並ぶだけで、今回発生するポイントも最適に消化出来る仕組みをプログラムとして組み込むことです。具体的には、値段の高い商品から順にポイントの精算をして行き、最終的にお客様のポイント残高を最少にするようにシステムが計算するようにします。これもさほど難しい改造ではありません。実を言えば、この機能は現行の減価しないポイントカードに対しても組み込まれていて然るべきものなのです。今でもポイントをなるべく使い切りたい人は、レジで店員に面倒な指示をしたり、あるいは商品ごとにレジに並び直すといった手間をかけなければならないからです。特に減価するポイントカードでは、この機能は必須となります。

 減価するポイントカードを、競合に対する値引き競争のツールとのみ位置づけてはいけません。これを導入することの真の目的は、市場のパイを食い合うことではなく、需要を促進することで市場のパイそのものを拡大することにあるからです。とは言え、もしも御社のこのカードが成功すれば、競合も同じようなカードを作って対抗して来ることは当然でしょう。そこで御社は、いまのうちから次の戦略を練っておく必要があります。減価するポイントカードの価値をさらに高めるために、小売業としてのビジネスモデルの転換を図るのです。結局のところ、今回の世界的不況が自動車や家電などの耐久財メーカーを真っ先に直撃したのは、すでにこの分野では商品の供給が行き渡っており、新しい需要が生み出されにくい環境にあるからです。そういった状況のなかで、減価するポイントカードによって購買をせかされても、顧客はストレスを感じるだけかも知れません。しかし、本当に需要というものは家庭のなかで枯渇してしまったのでしょうか? よく見回せば、どこの家庭にも古くなったり故障したりして使われなくなった電気製品がひとつやふたつはある筈です。最近は故障した製品を修理して使うよりも、新製品に買い換えることを業界全体が奨励していますから、ひとつの製品を長く大事に使うというライフスタイルが廃れてしまった。ここにビジネスチャンスがあります。新しく買いたい商品が見付からなくても、修理またはオーバーホールして使いたいものは家の中にいくらでも見付かる訳ですから。メーカーに持ち込めば嫌な顔をされる修理品でも、御社のサービスカウンターでは快く引き受けてくれる。それを可能にするサービス部門の拡充を図ります。修理やオーバーホールのニーズは、家のなかの家電製品の数が増えるほど定常的に発生しますから、このサービスは減価するポイントカードとも相性の良いものである筈です。

 さらにアフターサービス部門が実力をたくわえたら、リサイクル事業にも乗り出しましょう。これもこれからの時代のニーズとして有望なものです。中古品を買い取り、オーバーホール後にリサイクル専門の店舗で販売する。これは一見、小売業としての自殺行為のように見えますが、そうではありません。これからは経済格差が前提の社会になりますから、リサイクル品を求める購買層が間違いなく拡大する。安い海外メーカーの新製品より、しっかりオーバーホールされた国内メーカーの製品の方が好ましいと思う消費者もいるでしょう。いまは彼らのニーズを満たすものが無いのです。(自動車に比較して、家電製品でのリサイクルが遅れているのは、業界としての怠慢に他なりません。) ここでもポイントカードが有効に活用出来ます。つまり中古品の買い取りに自社のポイントを使うという発想です。例えば減価しないポイントであるならば、現金より20パーセント上乗せで買い取る、減価するポイントなら50パーセント上乗せにする。お客様にとっては、ちょっと魅力的なサービスでしょう? これで顧客の消費ライフサイクルをまるごとカバー出来る仕組みが完成する。ここまで来れば、ポイントカードと言えども単なる販促ツールの域を脱しています。それは大量消費の時代が終わって、持続可能な社会に移行することが望まれている時代における、ひとつの提言とも言えるものです。もともと「減価する貨幣」というものは、経済の無限の拡大指向(恒常的なインフレ社会)に対するアンチテーゼとして考案されたものでした。減価するポイントカードの取り組みは、これを一企業が先取りするという画期的な意義を持つものなのです。

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コメント

初めまして
もともとポイント制度って消費者の囲い込みが主な目的でしょう。「無くなっていくポイントなら最初からいらないから現金で最初から20%値引きして。してくれないなら他で買うから」っていわれて一社でもそれに応じれば、ポイント制度自体瓦解すると思います。実際、価格comなどでポイントはつかないけれど安いところを探してインターネット通販で買うこともちょくちょくありますから。あんまり現実的な施策では無いような気がします。

投稿: はたはた | 2009年4月19日 (日) 02時16分

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