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2008年3月16日 (日)

相続税も消費税も累進課税も全部廃止!

 少し前のエントリーで、経済評論家の森永卓郎さんの文章に触発されて、日本は経済的な鎖国政策に転換すべしという記事を書きました。先週掲載された森永さんの新しい記事には、また違った意味で触発されるものがありましたので、今日はこれについて書こうと思います。今回の森永さんの主張は、日本は行き過ぎた格差是正のためにも相続税を大幅にアップすべしというものです。その内容が尋常でなく過激なのです。いまの税制では、遺産相続に対しては5000万円までが基礎控除となり、相続税の対象外となります。その控除額を2000万円まで引き下げ、しかもそれを超える分については100%(!)の課税にしたらどうかというのが森永さんの提案です。つまり、預金や株式や不動産や家財といったすべての資産を合計して、評価額が2000万円を超える部分はそっくり国が召し上げるということです。私は森永さんという方をリベラル派のエコノミストとして信頼しているのですが、時々こういう暴論をためらいもなく発表されるので、がっかりすると言うか、ずっこけてしまいます。この人は温厚なリベラリストの顔をしているけど、本質的には遅れて来た過激派マルキストなんじゃないか、そんなふうに思ってしまうのです。

 今回の記事には、読者からのコメントが山のように寄せられています。なかには森永説に賛成という意見もありますが、多くは反対意見です。反対意見どころか、エコノミストとしての見識を疑うといった厳しいコメントも数多く見受けられます。今後森永氏がご自身の論陣を張る上で、今回のエッセイが敵に対する弱みにならないことを祈るばかりです。それにしても、私が今回の文章に触発されたというのは、権威あるプロのエコノミストがこんな荒唐無稽な提案をしても許されるというなら、自分にだって税制については少し言いたいことがあるぞ、そういう意味です。というのも、私は相続税というものは必要悪のひとつで、本当は廃止した方がいいと思っているからです。相続税だけではない、生前贈与の贈与税も廃止すべきだし、所得税も累進課税ではなく、税率一律のフラットタックスで充分ではないかと思っている。金持ちが聞けば喜びそうな意見ですが、私がそういった考えを持つに至ったのには訳があります。もしも私の過去の記事を読んだ方なら、また同じ話を聞かされるのかと思われるかも知れませんが、今回はそれを〈税の公平〉という観点からもう一度考察してみたいと思います。

 今日、極端な無政府主義者でもない限り、国や地方の徴収する税そのものを否定する人はいないと思います。国家を運営するには、中央政府も地方自治体も必要だし、社会的インフラの充実や、教育、医療、福祉、はたまた防衛といった分野でも公共の予算は必要になるからです。問題は、国や自治体の収入源である税を、どこからどのような比率で徴収するかということです。高度経済成長期の日本では、高額所得者への所得税率は、国税・地方税を合わせて90%を超えていた時期がありました(現在は最高50%)。また相続税の方も以前は最高75%の税率が課されていました(こちらも現在は最高50%。小泉構造改革の時代に、税率の累進性が緩和されたのです)。私たちは昔から累進課税というシステムに慣れてしまっているので、お金持ちが高い税率で税金を納めるのは当然だと思っています。でも、よく考えてみれば、これって変ですよね。例えば年収300万円の人が税率10%で30万円の税金を納めている時に、年収10億円の人が税率50%で5億円の税金を納めなければならないことに、どういった正当な理由があるのでしょうか? 公平さという意味ではむしろ累進課税の方が歪んだ仕組みであるような気がします。事実、世界を見渡せば、累進課税を止めて、誰もが一律の税率を課されるフラットタックスに移行する国もあるのです。成長著しいロシアや、東欧諸国などがそうです。

 何故所得税や相続税が累進課税になっているのかと言えば、そうでもしなければ金持ちと貧乏人の格差がひらく一方だからです。いまの税制度は、基本的に〈お金が動いた現場〉をつかまえて税をむしり取る仕組みです。所得税然り、消費税然り、相続税然り。ここには税制度における重大な抜け穴があります。すなわち、いったん所得税の網をかいくぐって貯め込まれたお金は、それが消費に回されるか、あるいは所有者が死亡するまでは税務署の監視を逃れる特権を得るという抜け穴です。税金は、一般的にお金のフローに対しては厳しく、ストックに対しては甘く出来ているんですね。これは別に経済学の理論に則ってそうなっている訳ではなく、単に現実的な徴税のしやすさのためにそうなっているに過ぎません。タンスの中にしまい込まれている現金や株券に課税することは、物理的に不可能だからです。では、もしも理論的にそれが可能だとした場合、個人の保有する資産に課税することに正当な理由はあるのでしょうか? これに対しては、もともと所得税や相続税を支払った残余である個人の資産に課税することは、二重課税ではないかという意見があるかと思います。が、私はその意見は的外れだと考えます。現金や預金はもちろん、国内の株券や債券に関しても、その資産価値を保証しているものは国の通貨の信用と安定性です。その信用供与の対価として課税するという理屈は、特に否定される理由は無いように思うのです。少なくとも私たちは、土地や建物に対しては毎年固定資産税を支払っている訳です。お金に対して同じように資産税が発生しない理由は、土地や建物と違ってそれがタンスに隠せるからということ以外に考えられません。

 最も税務署の目に付きにくく、しかも大量に流通している貨幣というものに対する課税方法が発明されなければ、資産税というものは実現されませんし、従って資産家が持つ税制上の特権も揺らぐことはありません。これが日本人の個人資産が1500兆円もありながら、国や自治体の財政がいつも赤字で、借金体質に陥っていることの一番の原因です。これに対して画期的なアイデアを考え出したのが、19世紀から20世紀にかけてドイツで活躍したシルビオ・ゲゼル(1862-1930)という異端の経済学者でした。なんとゲゼルさんは、お金を持っていること自体に税金がかかるような、不思議な紙幣を考案したのです。それはスタンプ紙幣と呼ばれるものです。具体的にイメージするなら、例えば1万円札の裏側に12個のマス目が書いてあり、そこに紙幣の発行日の翌月からの年月が印刷されていると思ってください。2008年4月から始まって、2009年の3月までといった具合です。その紙幣を持っている人は、2008年の4月になったら、4月のマス目に100円の印紙を買って貼らなければ、その1万円札はお店や銀行で受け取ってもらえないのです。だから1万円札を1年間持ち続けるにしても、年間1200円分の税金がかかることになるのです。確かにこれなら、タンス預金にすることで資産税をゴマかすことは難しそうです。なんだか子供だましのような話ですが、実はゲゼルさんの死後、ヨーロッパの2つの市でこの紙幣が実際に試されたことがあったのです。結果はどうなったと思います? この紙幣を導入した市では、税金の滞納率が減ったばかりか、市民が税金を前倒しで支払うようにまでなったのだそうです。これはさもありなんことですね、税金を払うのが後になればなるほど、余分な印紙代まで払わなければならなくなる訳ですから。

 今回は税金の公平さについて考えているので、シルビオ・ゲゼルの思想の深いところにまで踏み込むことはしません。ただ、お金を所有していることに〈持ち越し税〉をかけるというこのアイデアは、税収を増やすことだけが目的ではないという点は補足しておく必要があります。スタンプ紙幣を採用した2つの市では、ヨーロッパ中が不況にあえぐなか、奇跡のような好景気に沸いたという事実があるからです。これは現代の日本に置き換えて想像してみればすぐに分かることです。いまの日本のような所得税と消費税を主体とした制度(フローへの課税)では、お金はどうしても貯蓄に回され、そこで滞ってしまうことになります。ところがお金を持っていることに税金がかかる制度(ストックへの課税)なら、欲しいものがあれば早く買ってしまった方が得ということになり、1500兆円の個人資産を需要に駆り立てることが出来るのです。これは豊富な個人資産があり、生産能力の余剰もあるのに、需要不足で経済が目詰まりを起こしている現在の日本にとって、まさにうってつけの処方箋だと言えます。もちろん100年前と違って、忙しい現代人が1万円札の裏にちまちまとスタンプを貼っている余裕などありません。しかし、現代には例えば電子マネーという技術がある訳で、これをうまく活用すればもっとスマートに「税金のかかるお金」を実現出来ると考えられます。これに関しては、以前このブログでも2通りのシナリオを書いています。もしも興味がおありでしたら、次の2つの記事も併せてご参照ください。(『減価する電子マネーが日本を救う?』『日本円が電子マネーに代わる日』

 結論としてまとめるならば、所有者が死んだら2000万円以上の資産はすべて没収、というような暴力的な手段に頼らなくても、もっと現実的、効果的、人道的に富の再配分は可能だろうということです。しかも重要なことは、資産税の導入は決して金持ちいじめではないという点です。もしもこれが実現すれば、相続税や贈与税は存在意義が無くなりますし、所得税だって低い税率でのフラットタックスで良くなるからです。もちろん低所得者層にも恩恵があります。国の税収が安定するのにともない、消費税だって即刻廃止することが出来るからです。(消費税というのは本当にひどい税金で、稼いだお金をその月に使わなければならない我々貧乏人にとっては、それこそ二重課税そのものです。) いかがでしょう。個人資産が1500兆円もある日本だからこそ出来る贅沢な税制改革。ぜひ森永さんのような大胆な発言を恐れない〈戦うエコノミスト〉の方には、ご検討いただきたい内容です。我らリベラル派にとって、これからはマルクス主義ではなく、ゲゼル主義の時代だと思うのです。

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コメント

どっちも似たようなものだな。
資産没収制度に過ぎないよ。
リベラル=大きな政府=私有財産侵害
やっぱりな。

二重課税は危険だということがよくわかったよ。

それと、政府が保証するから金銭で持つだけであって、政府が保証しないなら金やダイヤモンドで持つ。それだけのことだ。

投稿: スミ | 2008年4月 7日 (月) 02時21分

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