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2007年9月 2日 (日)

こんな財政再建策は要らない(と思う)

 インターネットで立花隆さんのエッセイを読んでいたら、「50年国債」というアイデアが紹介されていました(記事はここ)。償還期限が50年という超長期の国債のことです。30歳の時に買ったとしても、満期で受け取る時には80歳。そんなもの誰が買うんだろうと思ったら、これは資産家をターゲットにしたものなんだそうです。つまり、50年という長い償還期限の代償として、これを子や孫に相続する時の相続税を免除する、そうすれば資産家にとっては非常に魅力的な金融商品になるのではないかというのです。1998年以降、毎年大量に発行されるようになった国債の償還期限が、いよいよ来年からやって来ます。ここでもし新規国債の引き受け難が起こったら、巷でささやかれている財政破綻が現実のものとなるかも知れない。もうすでに国内の銀行や保険会社、近く民営化される郵政公社などは、国債をこれ以上買い増し出来ないほどたっぷりと持っています。日銀だって同じ。だとすれば、ここはどうしても国民の個人資産1500兆円を当てにするしかありません。個人向け国債をばんばん売り捌くには、なるほど相続税免除の長期国債というのはグッド・アイデアかも知れません。

 『まじめな話、これくらい過激なことをやらないと、日本の財政破綻は救えないと思う。』 立花さんはこんなふうに書いて、このアイデアが究極の財政再建策であるかのように推奨していますが、ここで疑問が湧きます。もともと日本の財政問題が深刻であるのは、その問題自体が先送りされて、いつか大爆発する時限爆弾のようなものになってしまっている、そのことにあると思います。先送りすればするほど、その爆発の規模は大きくなると予想されます。50年国債なんていうのは、それこそ究極の先送り策ですよね。確かに我々の世代が生きているあいだには爆発は避けられるかも知れない。が、それはほとんど将来の世代に対する犯罪行為に等しいものです。私は立花隆さんという著作家を、いろいろな点でとても面白くまた頼もしく思っているのですが、このアイデアに対してはとても納得が行きません。そしてさらに心配なのは、次の選挙のことしか頭にない政治家たちによって、この政策が本当に実施される可能性が高いのではないかということです。すでに日本には30年国債が存在しており、近く40年国債の導入も検討されていると聞きます。相続税免除の特約はまだ付けていないようですが、それが国会で議論され始めたら危険信号です。実はイギリスやフランスではすでに50年国債が売られている、そんな事実も正当化の理由にはなりません。

 経済に関してはずぶの素人である私が(いや、すべての分野において素人なんですが)、このブログでたびたび経済の話題を取り上げるのは、こうした素人目にも明らかにおかしいと思われる言説が、しばしば見受けられるからです。例えば社会格差を是正するために、昔のような重い累進課税を復活すべしというのも、そうしたおかしな言説のひとつです。今の税制では、年間所得が1800万円以上の場合、所得税と住民税の合計は一律50パーセントになっています。1970年代には最高税率が90パーセントを超えた時期もありましたから、現在の税制が高額所得者を優遇するものであるのは確かです。しかし、年収別の所得税額の分布を見てみれば(一昨年の統計がここにあります。119ページを参照)、年収2000万円以上の高額所得者の納税額はトータル約1兆4700億円程度であって、これを1.6倍(税率80パーセント)しても、国の税収は9千億円ほど増えるに過ぎないのです。これでは社会格差是正の原資としては全然足りませんよね。実は私も以前は、所得税の累進性をもっと高めるべしと考えていたし、そのことをブログにも書いた気がしますが、今ではこれは誤りだったと思っています。それは優秀な人材を海外に流出させ、国力を低下させることにしかならないと思うからです。ただ、世帯の所得格差が、貧しい世帯のいっそうの低所得化というかたちで広がっている現在、ワーキングプア層への減税と、超高額所得者層への多少の税率アップは、まあ妥当な政策ではないかとは思いますが。

 もうひとつ前言撤回のお詫びをひとつ。増え続ける政府の債務を解消するために、政府貨幣の発行ということを提言したことがありました。いわゆるセイニアーリッジ(シニョレッジ)政策というやつです(記事はこちら)。立花さんの言い方に倣えば、これくらい過激なことをやらないと、それこそ財政破綻は避けられないと思っていたのです。しかし、〈減価する貨幣〉を含む〈資産課税〉の考え方を知ったいま、もはや国家によるセイニアーリッジ権の発動は最善の策ではないと考えるようになりました。日本には1500兆円もの豊かな個人資産と、また借金に比べてあまり取り上げられる機会はありませんが、資産価値700兆円にも上る豊かな国有財産があります。冷静に考えれば、まだ窮余の秘策を繰り出すほど追い詰められている訳ではないんですね。仮に国民の資産への課税が、実行するのに難しい将来のテーマだったとしても、国の資産を有効に活かすことは、財政を立て直すための現実的な政策でありうる筈です。小さな政府を目指す自民党政権は、国有地の売却ばかりを考えているようですが、むしろこれは民間に貸し出すことで地代収入を持続的に得る方向で考えるべきでしょうね。これはシルビオ・ゲゼルの「自由土地」の考え方にもつながるものです。超長期の国債発行にせよ、重い累進課税の復活にせよ、セイニアーリッジ政策の発動にせよ、いずれも将来に向けた持続可能な財政政策とは言い難い訳です。

 ということで、今回は以前書いた文章への訂正も兼ねて、財政問題に関する現時点での私見を簡単にまとめておきました。まだこのブログを始めて2年足らずですが、以前の記事を読むと多少の違和感を感じることがあります。特に政治や経済の問題に関してはそうです。読者の方にとっても、同じテーマについて書いているのに、主張が一貫しないと感じる部分もあろうかと思います。これについては勉強中の身の上ゆえ、ご容赦いただけたらと思います。それにしても、最近の極端な経済状況のことを思うにつけ、ゲゼル思想の先見性というか、妥当性には驚かされるばかりです。誰か世論に大きな影響力を持つ人の中から、この思想に共鳴する人は現れないものでしょうか?

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コメント

現行の税制は金持ちを優遇しすぎである。

所得税(住民税を含む)の税率は6段階で、最高税率は50%、相続税のそれも6段階で、最高税率は50%である。

所得税(住民税を含む)、相続税ともに、累進段階を倍の12段階に増やし、その最高税率を90%に引き上げるべきである。

所得格差の拡大は目に余る。個人の能力や努力に応じて所得に格差があるのは当然であろう。しかし、格差には限度を設ける必要がある。

現行の最高税率はどれだけ多額の所得があっても、たったの50%。こんなバカな話はない。いくら沢山稼いでもほとんど税金に持っていかれるのでは働き甲斐がない、という人がいる。何と強欲なことか。働き甲斐は、金だけか。ほかにあるだろう。税率90%でも、まだ10%は手元に残るのだ。

配偶者や子供にできるだけ多く財産を残してやりたい、という気持ちはわかる。しかし、すでに生きているうちにずいぶん与えてきたはずだ。金持ちの子供はそうでない者の子供にくらべてめぐまれた生活を送り、高い教育も受けている。機会均等という観点から言えば、これは不平等な話である。金持ちの子とそうでない者の子は、スタート地点から差がついてしまっているのだ。それが、遺産の多寡で、さらに差がつくのだ。税率を90%にしても、まだ10%は残してやれる。さらに基礎控除分もある。それで十分ではないか。


投稿: 野分権六 | 2007年9月 4日 (火) 22時31分

財政再建のために消費税を上げよう、との提言がさかんになされている。

私は、かねてより、消費税の引き上げには、その逆進性ゆえに金持ち優遇になるからと、反対してきた。

消費税を上げる前にやるべきことがある。
それを、財政再建策 その1、その2 として述べてみたい。

【財政再建策 その1】

1.「地価税」 を復活、強化する。
  土地は、本来、国のもの、国民共有の財産である。
  また、国家の保護がなければ、土地の私的所有は不可能である。
  したがって、土地所有者は、国に対して相応の税金を払わねばならない。
  ただし、公共の用に供する土地は非課税、現に人が居住したり、働いている土地はその
  居住人数・就労人数に応じて、一定の金額までは非課税とする。
  「地価税」は、平成5年度に約6000億円の納付があった。これを、2兆円程度になるように強化し、復活させる。

2.所得税・相続税の税率の累進段階を倍増し、最高税率を90%に引き上げる。
  
3.超低賃金国からの輸入品に特別関税をかける。
  
4.たばこ税を10倍にする。

5.車両重量1500kg以上の乗用自動車の自動車重量税を2倍にする。


これから述べることは、すべて、いかに情報を公開させることができるか、にかかっている。
情報を詳細に公開させて、実態を白日の下にさらさなければ、私が述べることは理解を得られないだろう。

報道されている大阪市のさまざまな不正は氷山の一角であり、国でも、地方でも、実に驚くべき不正が広範に行われているのである。
これを正すだけで、何兆円もの歳入増、歳出減が実現できる。

情報を公開させて、世論を味方につけた上で、警察、検察が強制捜査を行い、不正、悪事を徹底的に叩けば、財政収支は劇的に改善する。

【財政再建策 その2】

1.税金の滞納者、不正・ごまかしによって課税を逃れている者、
  に厳罰を科する。
  どれだけコストがかかってもよい。絶対に逃げ得、不正を許さない
  ことが重要なのだ。

2.公務員の職務怠慢による徴税もれ、徴税見逃しを徹底的に
  摘発し、厳罰を科する。

3.公務員の不正支出、無駄遣い、汚職には、一罰百戒で
  厳罰を科する。

4.公務員に対する給与、諸手当、賞与、退職金の個人別明細を
  公開し、民間大企業並み以上になっていれば、是正する。

5.特に不正が顕著な地方自治体の固定資産課税については、
  厳重にチェックし、課税不足額を算出して、これを地方交付税
  から差し引く。

なお、公務員、特に地方公務員は、暴力に極端に弱い。
警察の強力なバックアップが必要である。

歳出面で、今後、何を削り何を増やすかについては、【財政再建策 その1】【財政再建策 その2】を実行した後に、大いに議論したらよい。  

投稿: 野分権六 | 2007年9月 4日 (火) 22時53分

戦後、日本は格差の小さい平等な社会を目指してきた。その結果、国民の大部分が中流、という均質な社会を実現することができた。多少の例外はあったけれど、極端な金持ちのいない、社長と新入社員の収入の差もせいぜい10倍程度、という世界にも類のない理想的な平等社会になっていた。
それを可能にしたのが、労働者の保護と累進所得課税と相続税だったのである。

雇う側と雇われる側では、ほっておけば、雇う側が強すぎて勝負にならない。だからこそ、政府は弱い労働者の味方にならなければいけないのだ。政府の労働者保護は不可欠なのだ。

ところが、10年ほど前から、政府は労働者の保護ということにきわめて不熱心になった。
弱い立場の労働側が経営側に押しまくられているのに、ほったらかしにしてきた。
経営側は、リストラと称して、正社員の首をどんどん切った。一方で、 外国人 、派遣社員、フリーターなどを下請けを経由したりして、極端な低賃金、悪労働条件で雇ったのである。
また、日産自動車に代表されるように、経営者たちは、べらぼうに高額な報酬を取るようになった。

さらに、本来、所得格差是正のための有力な手段であった従来の税制は、竹中平蔵氏に代表される人たちによって、金持ち優遇税制 に改悪されてしまった。

今一度、戦後の原点に返って、とどまる所を知らない所得格差の拡大に歯止めをかけ、格差縮小に向けて流れを変えなければならぬ。
政治を変えさせねばならない。

投稿: 野分権六 | 2007年9月 5日 (水) 10時05分

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