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2007年8月 5日 (日)

拝啓、安倍総理大臣殿

 大きな歴史的使命を背負った貴方にとって、今回の選挙の結果は返すがえすも残念なものでした。国家としての高邁な理想が、取るに足りない大臣の失言や、本来政策とは分けて考えるべき年金スキャンダルによって、泥を塗られ、踏みにじられる光景は、私たち国民にとっても見るにしのびないものでした。こういう結果になってみて初めて気付くのですが、安倍総理、貴方は戦後の歴代首相の中でも少し変わった特殊なタイプの首相であるように思えます。この国の行く末について、単に政治的な観点を超えて、日本人の精神的な問題にまで踏み込んで憂慮の念を持っているという点において特殊なのです。貴方の性急過ぎた改革の裏には、この国の道徳的な再生や独立した矜りある国民意識の醸成といった確固たる目標がある。確かに戦後の日本は経済的には大復興を遂げました。が、その陰で失われてしまった大事なものがあったのです。これを回復することを政策の第一目標に掲げたリーダーは、もしかしたら貴方が最初ではなかっただろうか。思えば戦後六十余年を経て、ようやく日本にもそういう首相が誕生したのだとも考えられます。

 貴方が現実的な問題として提起した憲法改正について、国民レベルでもようやく積極的な議論が戦わされる土台が整って来ました。その結果、国民のあいだでひとつの合意が形成されつつあると私たちは考えています。それは、日本もいつかは国民の手による自主憲法を持つことが必要である、しかしそれは日本が真の意味で独立した国家になった後のことだという考え方です。つまり、①日米安保条約という片務的な条約を見直して国内の米軍基地を撤廃し、②国民が納得する日本独自のバランスのいい防衛体制を構築し、③第二次大戦で日本が侵略した国々と本当の意味での和解を成し遂げた後で、憲法の改正に着手すべきだということです。それまでは憲法九条をむしろ戦略的に活用しなくてはならないと私たち国民は考えるのです。この点が、総理にぜひ再考していただきたい点なのです。現行憲法のもとでも集団的自衛権が行使出来る筈だという貴方のお考えは、美しい日本の実現とどのような論理的な整合性を持っているのか? ここに私たちは大きな矛盾を感じるのです。安倍政権は〈美しい国〉を標榜しながら、対米従属政策を一層推し進めようとしているだけではないか、多くの国民はそう感じ始めています。今回の選挙で、自民党がノーを突き付けられたのは、単に年金問題のためだけではないのです。

 これからの時代、本当に日本を変えられるリーダーが登場するとすれば、その人は中国や韓国やアジアの国々との、歴史的な和解を主導出来る人でなければならないと思います。小泉前首相は、この点で歴史を十年以上も逆行させてしまった。この罪は重いと見なければなりません。最近ある人のエッセイを読んでいたら、こんな歴史的なエピソードが紹介されていました。ドイツでは1970年に、時のブラント首相がポーランドを訪問して、初めてドイツ軍の侵略の犠牲者に対して、ひざまずいて謝罪をしたのだそうです。その時のブラントさんの言葉が素晴らしい。『こうすべきであったのに、こうしなかったすべての人たちに代ってひざまずく』、こういう言葉です。政治家の力量は、やはり発する言葉の重みで量られるものですね。この言葉によって、戦後のドイツは過度の自己卑下に陥ることなく、また戦後25年という空白の期間をも埋めて、歴史的な和解に向けて一歩を踏み出したのだと思います。この名文句が無ければ、侵略国と被侵略国、双方のあいだの心理的対立に架け橋はかからなかったかも知れない。残念なことに、こうした言葉を発せられるリーダーが、戦後の日本にはいなかったのです。ただ、私は思うのですが、もしもこの言葉を小泉さんが口にしたとしても、それは上っつらな反感を買うものにしかならなかったでしょうが、安倍さんの口から出れば、それなりにサマになったのではないかという気がするのです。

 小泉さんという人は、心の奥底に根本的な人間不信を抱えた、冷酷な指導者だったという気がします。それに比べれば、貴方はむしろ政治家として愚直過ぎるくらい正直で、空想的なまでの理想主義者と映ります。私たちは、今日の日本の窮状を打開するためには、冷酷な現実家よりも誠実な理想家の登場を待つ必要があると考えています。ですから、貴方が続投を決意すると聞けば、もう一度だけ貴方に期待してみようかという気にもなるのです。もちろん逆風は強いでしょう。その中で貴方が国民の期待に応えるためには、これまでの方向性を大きく転換して、我々をあっと驚かすくらいのことをやってみせなくてはいけない。これまでの矛盾に満ちた対米従属路線を捨て、クリントン氏かオバマ氏かは分かりませんが、アメリカの次期リーダーとは丁々発止のタフな外交戦を繰り広げ、一方アジアの国々に対しては、ブラント首相も色褪せて見えるほどの効果的な演出と魅力的な言葉で、歴史的な和解への道を切り拓いて見せる。それが出来る資質という点からすれば、小沢さんよりも安倍さん、やはり貴方だと私は思う。もしもそれが実現すれば、憲法や教育基本法を改正すること以上に、この国は道徳的にも復活するのです。

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