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2007年1月14日 (日)

減価する電子マネーが日本を救う?

 前回、シルビオ・ゲゼルの提唱した「減価するお金」について、その基本的なコンセプトを紹介しましたが、これを現代に復活させるアイデアについて、少し考えてみました。ヴェルグルの「労働証明書」は、紙幣の裏面に12個のマス目が印刷されており、紙幣を持っている人は、1ヶ月に1枚ずつ、額面の1パーセントの値段のスタンプを貼ることを義務付けられていました。お金自体が減価する訳ではなく、所持していることにコストがかかり、紙幣にも1年間という寿命があるのです(スタンプが12枚貼られた紙幣は、おそらく新しい労働証明書かオーストリアのシリングに交換されたのだと思います)。現代の我々から見れば、これはスマートなやり方ではありませんね。スタンプを買って、持っているお金全部に貼る手間は大変なものですし、1ヶ月や1週間単位にスタンプを貼る義務が発生するとなれば、特定の日や曜日に消費が集中する弊害も出て来ると思います。電子マネーの発達した今日なら、もっと簡単な仕組みで「なだらかに減価するお金」を実現出来ます。最近はSuicaやEdyのようなプリペイド式の電子マネーが普及していますが、利用方法はそれと同じイメージです。ひとりひとりが1枚のカードを持ち、そこにお金をチャージする、すると気付かないうちに毎日少しずつ目減りしているといった仕組みです。SuicaやEdyは、カードに埋め込まれたICチップに金額の残高が記録されているのだと思いますが、減価する電子マネーでは、銀行のキャッシュカードのように所持者のID番号だけを登録しておき、お金の管理は中央のコンピュータで行なうことになります。つまり、通貨の発行元がコンピュータのプログラムによって、毎日わずかずつ一定の割合で減価させて行くのです。カードに金額が記録されていないので、偽造される危険性も小さいですし、最近の銀行のATMが採用しているような生体認証機能まで付けてやれば、盗難対策などのセキュリティもバッチリです。いや、仕組みは分かるけど、目減りする電子マネーなんて一体誰が使うのさ? そんなものに大事なお金をチャージする人なんている訳ないじゃん、意味無いよ。そう思いますか? ところが、これを普及させる画期的なアイデアが実はあるのです。

 以前、パチンコ好きな友人と話していて、こんな質問をしたことがあります、パチンコで勝った時は景品と引き換えるの、それともお金に換金するの? 日本ではお金を賭けての賭博は禁止されていますが、パチンコの場合、ちょっと怪しげな交換所に行けば、現金に換金出来ることは誰でも知っています。友人の言うには、最近の大型パチンコ店にはスーパーマーケット顔負けの品揃え豊富な景品交換所が設置されていて、生活に必要なものはたいてい手に入るのだそうです。しかも、現金で払い戻すよりもずっといい換金率で交換出来るのだと言います。それでも、ほとんどのパチンコファンは、現金に換金することを選ぶそうです。私の友人も現金派でした。何故?と聞くと、彼、答えて曰く、だって景品と交換してしまったら、それ以上パチンコで遊べなくなってしまうじゃない。まあ、これは笑い話ですが、重要なヒントがここには示唆されています。パチンコをする人にとって、例えばスーパーで買える1万5千円分の食料品や日用雑貨よりも、1万円の現金の方が価値があるということです。これはパチンコをしない私にも理解出来る心理です。よほど生活に困っているならともかく、小遣いで遊んで得たお金は、小遣いとして取っておきたいじゃないですか。少なくとも現金で持っていれば、これを何に使おうかと迷う楽しみを留保出来ます。経済学の用語では、これを〈流動性のプレミアム〉と呼ぶそうです。お金には、利子が付くというプレミアムと、流動性のプレミアムの2つがある訳ですね。このことを理解すれば、お金を稼ぐのが大変なのも分かる気がします、私たちはそんなプレミアム分まで一緒に稼いでいる訳ですから。ということはですよ、逆に言えば、日本円からこの2つのプレミアムを削って制限したようなお金を作れば、それは現在の貨幣に比べてかなりライトで稼ぎやすいお金になるのではなかろうか? 例えば、お米は買えるけどキャビアは買えないお金、国内旅行には使えるけど外貨には両替出来ないお金、家の金庫にはしまえるけど銀行では預かってもらえないお金、そして利子が付かないばかりか放っておくと価値が目減りして行ってしまうお金、そんなお金があれば、それは日本円に対してどのくらい値段の安いものになるだろう?

 前に紹介したワーキングプアの特集番組では、子供ふたりを抱えた若いお母さんが、昼も夜も週末も働いて、月に18万円の手取りを稼いでいました。その金額でアパートを借り、子供の教育費を負担し、3人で生活して行くのは大変だなあ、我々はそんなふうに同情を感じながら番組を見ていた訳ですが、見方を変えればこんなふうにも考えられます。18万円と言えば、それを今の中国に持って行けば、おそらく工場で働く若い工員さんを7、8人は雇えるような金額でしょう。事実、日本の大手企業は、そのような日本円の強さを利用して、世界中で稼ぎまくっている訳です。ところが、貧しい母子家庭のお母さんには、そんなふうにお金の流動性を活かして稼ぐ手段などはまったくありません。ジャパン・マネーは、トヨタのような強力な国際企業が、世界を舞台に戦うための武器としては非常に有効かも知れない。しかし、我々のような国内の貧乏人にとっては、日本円は明らかにオーバースペックなのです。貧しければ貧しいほど、日本円の持つ潜在的なプレミアムをドブに捨てながら生活している訳で、それが一層貧しさを助長する構図になっているのです。これは日本全体にとっても大変な無駄であるに違いありません。そこで私の提案です。日本政府は、政府の通貨発行特権(セイニアーリッジ特権)を利用して、国内の主に貧しい世帯を対象にした第二の通貨を発行してはどうでしょう。この通貨は、強い国際通貨としての円から、贅沢なプレミアム部分を削ぎ落とした生活人のための通貨で、ゲゼル理論による減価性も具えている新しいコンセプトのお金です。私は以前の記事で、政府はセイニアーリッジ政策によって、現在の政府部門の借金を帳消しにすべし、そのためには日銀券と同じ機能を持つ政府発行のニセ札を発行すべしという無責任な意見を書きましたが、そんな姑息な手段は必要無いかも知れません。むしろ政府が堂々と減価する電子マネーを発行することによって、国の借金は減らせるし、税収不足による赤字体質も改善出来るし、ワーキングプアや生活保護世帯の救済も可能だし、失業問題の解決にもつながる、まさに「四方一両得」のようなうまい政策になるかも知れないのです(本当かい?)。

 さあ、ここからはまた裏付けの無い夢想家の描くシナリオです。どこに詭弁やトリックがあるか、注意して読んでくださいね。私が考える政府発行の電子マネーは、次のようなかたちで世間に流通させます。まず国内のすべての世帯に対して、日本円を新通貨(仮に「新円」と名付けましょう)に交換するオプションを与えます。この時、額面上の等価交換ではなく、プレミアムを付けます。どのくらいの割合がいいかな、例えば25パーセントとしましょうか、1万円札を出して12500円の新円をカードにチャージしてもらうというイメージです。この25パーセントがどんな根拠に基づくかと言えば、要するに現在の日本円が持つプレミアムを削った分の保障になっている訳です。交換時の限度額も設定した方がいいですね、働く人ひとりにつき、本人と扶養家族を足した人数かける6万円くらいを上限としてはどうでしょう。サラリーマンと専業主婦と子供2人の4人家族なら、月に最大24万円までを新円と交換出来る。その25パーセントに当たる6万円が上乗せされたトータル30万円がカードにチャージされるのです。先ほどの母子家庭のお母さんなら、18万円に4万5千円のプレミアムが付いて、22万5千円の新円に替わる訳です(もちろん給料の全額を交換しなければならない訳ではありません。金額は本人が決めるのです)。貧しい家庭にとっては、結構なボーナスになるのではありませんか? これなら当座の生活費として、少しは持っておきたいと思う人も多いのではないかな? もともと貯金するためのお金ではないし、大きく目減りする前に使ってしまえばいいんだから。しかも、この政策を実行するのに、政府のフトコロはまったく痛まないのです。なにせセイニアーリッジ特権で、打出の小槌のように新円を生み出せるのですから。それどころか、新円と引き換えに日銀券が国庫に戻って来る訳ですから、それを国家予算に使うことも出来る。そうなれば消費税も上げなくていいし、法人税や所得税だってうんと安く出来るというものです。もちろん、これは一種の悪貨には違いありませんよ。しかし、この悪貨は自ら減価して、やがては消えてしまう「後腐れのない悪貨」なんです。あ、そうだ、新円の減価率も決めておかなくちゃいけませんね。ヴェルグルの労働証明書は、年に12パーセントのコストがかかるお金でしたが、我が国の新円は年に20パーセントの減価率でどうでしょう。つまり、プレミアム部分が1年でチャラになる計算です(125×0.8=100)。しかも減価は財務省のコンピュータが毎日自動的に計算してくれるので、ユーザーは何もしなくていい。エクセルで試算してみました、1日に0.061パーセントずつ目減りさせれば、複利で年に20パーセントの減価になりますね。1万円なら1日当たりの減価額は6.1円。毎夜みんなが寝静まった夜中の3時に、日本中の新円がチャリンと音を立てて(立てないけど)、0.061パーセント分だけ減るのです。

 いや、だから仕組みは分かったけど、そんな電子マネーを一体どこの誰が喜んで受け取るのさ? 俺だったらそんなもの、受け取りを拒否するよ。ええ、きっとあなたならそう言うと思っていました。私だってそう言います、政府発行とは言え、そんな信用があるんだか無いんだか分からないお金、しかも毎日目減りするお金なんて貰って嬉しい商売人はいません。ところが、ですよ、これはシュヴァーネンキルヘンやヴェルグルでも実際に起こったことなのですが、この減価するお金が実はすごい勢いで流通し始めるのです。からくりは単純だし、言われてみれば自然なことです。最初はお店や企業から敬遠されていた新円ですが、どこかのお店がこれを受け入れる決意をする、するとお客さんはその店を選んで殺到するようになります。そうなれば、他の店もそれに追随せざるを得ない。急速に新円を使えるお店は増えて行きます。店の経営者にしても、新円が広く流通して、それで仕入れが出来るようになれば、経営上何も問題は無い訳です。あとは基本的に市場原理に任せておけば大丈夫だという気がします。ただ、いくつか国が法律で規制しておかなければならないこともあります。ひとつは、従来の日本円と新円とを、貨幣価値の点で差別しないというルールです。例えば、あるお店や企業が、支払いに新円を受け付けないのは全くの自由です。特定の商品についてのみ受け付ける、あるいは販売価格の何パーセントまでなら受け付けるといったルールを決めてもオッケーです。ただ、同じひと袋のお米に対して、旧円では2000円だが、新円ならば2500円といったふうに二重の価格を設定することだけは法律で禁止されます。旧円でも新円でも、1円は1円なのです。もうひとつは、民間企業が従業員に新円で給与を支払う場合のルールです。給与の一部を新円で支払えるかどうかは、その金額も含めて受け取り側の選択に従うことになります。新円が余っているから、今月はそれで給料を支給するなんてことは認められません。しかも、従業員本人と扶養家族ひとり当たり6万円までの限度額と、25パーセントの金額上乗せも厳格に守る必要があります。おそらく企業としては、給与の一部に新円を使うことは損を確定することなので、出来れば避けたいと考える筈です。基本的に新円は、政府部門から家計部門に供給されるのです。

 どうでしょう、まだまだ荒削りなアイデアですが、これが実現した場合にどういうことが起こるか、少し頭のなかでシミュレーションをしてみましょう。まず減価する貨幣の性質上、市中のお金の循環がとても速くなり、消費が活発になって景気が一気に上向く、これは間違いのないところだと思います(これは先行事例で証明されています。この即効性がゲゼル理論のすごいところです)。またこの政策は、国内産業の振興あるいは復興にもつながるだろうと期待出来ます。今日、国内の産業が空洞化しているのは、海外から安い製品が大量に輸入されているからです。ところが、国内で新円による取り引きが活発になると、輸入製品と国産製品の価格差が縮まります。国内限定の地域貨幣である新円では、輸入代金の支払いは出来ないからです。スーパーマーケットに行けば、最近は中国産を始めとする輸入野菜が、国産の野菜よりもずっと安い値段で売られています。はるばる海を越えて運ばれて来ている筈なのに、とても不自然なことです。それほど国際通貨間の価格差は激烈なものなのです。これでは国内の生産者はたまったものではない、廃業する農家が増え、食料の自給率が下がる一方なのも肯けます。安価な国内通貨は、日本の生産者にもう一度希望の光を与えることになるでしょう。もちろんそうは言っても、日本の場合、原材料やエネルギーのほとんどを輸入に頼っている訳ですから、すべてが自給自足という訳には行きません。例えば自動車メーカーが、新車を百パーセント新円での支払いオーケーで売り出すなんてことは考えられません。それでも、メーカーは新円の持つバイイングパワーを無視することは出来ませんし、販売価格の何パーセントまで新円で受け入れるか、その比率をめぐってメーカー間の競争が起こると予想されます。つまり、国内で販売する製品に関しては、なるべく国内での加工や生産を優先するようになるでしょう。これで国内の下請け産業も復活するのです。一般的にセイニアーリッジ政策というものは、インフレを助長して経済を混乱に陥れる悪政のように言われます。ことに現代のように、各国の通貨が変動相場制によって互いにリンクしている世界では、一国の通貨政策はその国だけの問題ではありません。しかし、これが政府発行の国内限定通貨という話になれば、世界経済に与える影響も比較的小さいのではないかと思われます(ここはまったくの素人考えです)。その上さらに、政府通貨が電子マネーであるという点が、政策運営上、有利に働きます。政府はコンピュータによって新円の動きをリアルタイムにモニター出来ますから、通貨量を地域別に細かく調整することなども可能です(通貨量は、例えば公務員の給与や生活保護費に含ませる新円の割合などで調整します)。確かに非常にラディカルな政策ではありますが、そこには強力なコントロールが利くのです。また私たち庶民の側からすれば、国民のための通貨の誕生は、単に経済を活性化するだけでなく、人と人のつながりを再構築するための機会にもなるでしょう(これが地域通貨の持つ最大の効能です)。若者のあいだには、(念願の)愛国心だって芽生えて来るかも知れません。これはすごい、まさに救国の一策だ。低下する一方の支持率を回復する秘策として、安倍さん、こんなんいかがですか?

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コメント

今まで書かれて来たことを纏めているだけかと思いますが、原因は「貨幣とは何か」を理解していないからではないかと思います。
辛口批評ですいませんでした。

貨幣とは単なる交換の仲介物です、そこで何を交換するのかということがヒントになります。

投稿: けんじ | 2007年2月26日 (月) 20時19分

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