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2007年1月21日 (日)

地域通貨を起爆させるためのシナリオ(1)

 前々回前回に引き続き、今回もまた新しいお金に関する考察です。この減価するお金や地域通貨というのは、考えれば考えるほど面白いテーマですね。大きく捉えれば、効率第一、経済性最優先の現代社会に対するアンチテーゼと見なすことも出来るし、また身近なテーマとして捉えれば、地元の商店街を活性化するための手軽なイベントのようなものとして考えることも出来る。身の丈に合わせていろいろなアイデアが浮かんで来ます。たぶん一番壮大な構想は、世界中から貧困を撲滅し、持続可能な地球環境の実現を目指す〈減価する世界通貨〉というものになるのでしょう。私がこのテーマで最終的にたどり着きたいのはそこです。けれども、まだゲゼル理論について勉強し始めたばかりの自分には、そこまでのシナリオを描く想像力がありません。前回は政府発行の第二通貨というアイデアについて書きましたが、これも現実的な政策としてはほとんど可能性の乏しいものに思えます(ただ、現在のように国家財政が破綻寸前という状況のもとでは、どんな突飛な政策が飛び出しても不思議ではない気もしますけど)。で、今回は少し現実に戻って、すでに各地で試行されている地域通貨というものをベースに、その可能性を考察してみたいと思います。まだ日本では地域通貨の歴史は浅く、その存在も広くは知られていません。規模という点でもほんの小さなコミュニティ活動程度のものがほとんどのようです。でも、これはゲゼル主義にのぼせている私の思い込みに過ぎないかも知れませんが、地域通貨というものの持つ潜在的な可能性は、そんな小さなものではないような気がするのです。誰でも気軽に参加することの出来る地域通貨、それを一挙に起爆させて、大きな国民的なムーブメントにまで成長させ、この閉塞した経済状況を打開する道は無いものだろうか? もしも国がそれをやらないなら、地域がそれを先導して、今日の経済体制を変えて行くことは出来ないものだろうか? これが今回のテーマです。(どうも毎回、素人の怖いもの知らずで、気宇壮大な話ばかりしていますね。苦笑)

 ひと言に地域通貨と言っても、いろいろな種類のものがあるようで、その形態から〈紙幣型〉のものや〈通帳型〉のもの、利子の付き方から〈減価型〉のものと〈無利子型〉のもの、通貨単位がその国の国家通貨に連動しているものと別の基準を持っているものなど、分類の仕方は様々なようです。ヴェルグル・タイプの紙幣型・減価型・国家通貨連動型を一番フォーマルな正統派の地域通貨とすれば、それとは反対の気軽でカジュアルなスタイルの地域通貨もあるようです。1983年にカナダで発明されたというLETS(レッツ、Local Exchange Trading Systemの略だそうです。交換リングという名前で呼ばれることもあります)という地域通貨の形式は、その後全世界に広まり、現在では日本を含む二千以上の地域で実践されている、いわば地域通貨の代名詞とも言える存在です。LETSがそれほど広く受け入れられた背景には、その導入の手軽さがあります。LETSを始めるためには、紙幣を印刷する必要はありません、参加者がひとりに一冊ずつ、小遣い帳のような通帳を持つだけで始められるのです。アイデアは簡単。もしも私があなたから、自家栽培の野菜を頒けてもらい、その値段を話し合いの上で100ポイントと決めたら、私は自分の通帳にマイナス100と書き、あなたは自分の通帳にプラス100と書く、そして互いに通帳を交換して相手のサインをもらいます。これだけ。つまり、参加者のあいだで商品やサービスをお互いの納得する値段で交換し、それを記帳するだけで取り引きが終わるのです。これを厳密な意味で〈通貨〉と呼べるのかどうか、私には分かりませんが、確かに現代の国際通貨のような、利殖と収奪のための道具ではない、人と人との信頼と交流のための道具という意味では、最も純粋なお金のかたちだと言えるような気もします。

 お金というものについて、子供に訊かれると答えるのが難しい質問があります。うちはいつもお金が足りないと言ってるけど、どうして自分で自由にお金を作ってはいけないの? 最初のお金は誰がどうやって作ったの? この質問に上手に答えるのが難しいのは、世間に出回っているお金というものは、煎じつめれば無から生み出された架空の存在だからだと思います(経済学では、通貨は国家の信用によって生み出されるなんて言いますけれども)。ところが、LETSでは、紙幣や硬貨のような実体のある貨幣は必要ありませんし、それを始めるに当たって、準備資金も要らなければ担保資産も要らないのです。このシステムでは世間に出回る通貨の総額は常にゼロサムだからです。考えてみれば、これはとても自然なことです。人間はこの世に裸で生まれて来て、いろいろな人のお世話になったり、いろいろな人の役に立ったりしながら、最期は死んで土に帰って行く、つまり人間の存在そのものが原則的にゼロサムだからです。LETSは、社会的動物である人間のあり方を、最も純粋なかたちでサポートする通貨だと言えるかも知れませんね。誰でも、この世界に生まれて来た時から、目に見えない一冊のLETS通帳を持っている、そんなふうに考えてもいいでしょう。よくお葬式の席上で、故人を偲んで、あの人は実にいい人だった、私もあの人にはずいぶんお世話になった、そんなふうに回想される人がいます。そういう人は、通帳にプラスの残高をたくさん貯めていた人です。あいつは最期まで周りに迷惑をかけて、ひどいやつだった、奥さんもずっと泣かされどおしだったよ、そんなふうに回想される人は、マイナスの残高をたくさん残して逝ってしまった人です。それでもお葬式ということになれば、すべてのことは水に流し、ゆかりのあった人たちはみな故人のことを懐かしく思い出す、そんな温かさがLETSという地域通貨の思想にもあるような気がします。

 こういうタイプの素朴な地域通貨を指して、金本位制ならぬ、〈善意本位制〉の通貨制度と呼ぶこともあるそうです。なかなかうまいこと言いますね。しかし、逆にそれが人間の善意に基づいたものであるからこそ、その広がりには限界があるとも言えそうです。例えば、ある地域で流通するLETSでお米や野菜も買えるとなると、それで生活してさんざんマイナスを貯めた人が、よその場所に去って行ってしまった瞬間に(死んであの世に行ってしまった場合も含めて)、その地域からその金額の富が失われることになります。そんな人が増えれば、地域経済そのものが壊されてしまう。これを抑制するために、通帳のマイナスポイントに上限を設けているグループもあるそうです。でも、それではせっかくの善意の流通機構に制限を加えることになる訳で、痛し痒しです。ですから、私はLETSのようなコミュニティ通貨を、ゲゼルが提唱したような「公的な裏付けを持った減価する紙幣」と同列に論ずることには多少の抵抗を感じるのです。おそらく地域通貨が大きな力を持って、国の経済全体にも影響を与えるところまで育つとすれば(もちろん良い影響ですよ)、それはLETS通貨ではないと思うのです。では、現代において、そうした可能性とポテンシャルを秘めている地域通貨はあるのでしょうか? そういう動きが現実にどこかで始まっているのでしょうか? …というところで、この続きは来週また書きます。実は今週は、ウィークデーは新年会続きで毎晩帰りが遅く、週末は週末で家事やら子守りやらが忙しくて、なかなか原稿を書く時間がとれなかったのです(いまも子供が昼寝をしている間にこれを書いています)。もしも家庭内LETSというものがあれば、1000ポイントくらいつけておいて欲しいくらい。「何言ってるの、あなたのLETS通帳は、月曜から金曜まで真っ赤だったじゃないの!」 ああ、そうでした、ごめんなさい。というわけで、人間は一般に自分が相手にしてもらったことは過小評価して、自分が相手にしてあげたことを過大評価する傾向がありますから、それをお互いの納得ずくで金額化しておくことは、例えば夫婦和合のためにだっていいことかも知れませんね。(笑)

(日本にもゲゼル研究会という組織があることは前にもご紹介しましたが、そこにメールを出して入会の申し込みをしてみました。するとこんなご返事をいただきました、『入会に際しましては、研究会では会費などは徴収しておりませんので当研究会会員であると名乗っていただくだけで会員になることができます』。このおおらかさというか、アバウトさがいいですね(笑)。という訳で、本日から私もゲゼル研究会会員を名乗らせていただこうと思います。よろしくお願い致します。)

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コメント

 現在、地域通貨を立ち上げたいと研究中なので、とても面白く読ませてもらいました。
 実際は、死屍累々といった感じですね。事業の成否は、人・物・金というけどタイミングというか状況も大きいでしょうね。人が、第一だろうけど。駒ヶ根ケースがもっとも上手くいっているような感じですね。
「つれてって」カード。私は、気宇壮大の前にリアリズムでいってみます。ここは現実的な、しょっぱい日本ですから。

投稿: ひとみちゃん | 2011年6月27日 (月) 23時59分

ひとみちゃんさん、コメントありがとうございます。

だいぶ以前に書いた記事なのですが、目にとめていただいて嬉しいです。これ以降もオルタナティブ通貨については何度も書いているのですが、私はどちらかと言うと地域のコミュニティ発行の通貨より、国や自治体が発行する第二通貨に関心を持っています。

「つれてって」カードというのは知りませんでした。ホームページで見ると、なかなか本格的な電子マネーのようですね。いまなら、被災地でこそ地域通貨の試みが始まっても良さそうな気がします。

投稿: Like_an_Arrow | 2011年6月28日 (火) 00時31分

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