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2006年12月 3日 (日)

「法人税廃止」というアイデア

 先日の朝日新聞の読者投稿欄に、とても面白い意見が載っていました。もともと私は、最近の新聞には読む価値のある記事はほとんど無いと思っているのですが、読者投稿欄と4コマ漫画を読むのが毎日の楽しみになっているので、なかなか購読を止められません。私の興味を引いたのは、『法人税下げは大いに賛成だ』という刺激的なタイトルがついた記事です。小泉政権の頃から、この国の政府は企業ばかりを優遇し、個人を徹底的に冷遇して来た、そういう認識が私にはあります。企業は政権与党に莫大な政治献金をしているので、そういういびつな政策が平気でまかり通っているのだろう、そんなふうに考えているのです。だからこの投稿記事のタイトルを見た時は、安倍首相も大喜びしそうなこんな意見を平気で掲載する朝日新聞は、一体どういう見識なのだろうと思った。が、短い記事の内容を読んで、なるほどこれは卓見かも知れないと感心したのです。まずは全文をご紹介します。11月24日の朝刊からです。

 『政府税制調査会が法人税の引き下げを検討するとのこと。大賛成です。私は以前から法人税はよくない税金だと思っていました。
 賛成の理由は、①企業の構成員(従業員など)が所得税を払っている。法人税まで払うと構成員にとって税金を二重に払うことになる。②企業は利益を小さくするために、無駄な消費や違法行為をしがちである。③法人税逃れの法人(宗教法人、社会福祉法人、NPOなど)が多い、の3点です。
 ただ、減税分を消費税で穴埋めするのは反対です。企業は国から各種の産業支援を受けています。そこで、法人税を下げる代わりに、その分だけ産業を支援する予算を削減したらどうでしょうか。
 産業支援は、経団連などの経済団体が中心となって企画・実行すればよいと思います。企業は、従業員がより多くの所得税を払えるよう、おおいに稼いで欲しいと思います』

 最近の新聞やテレビがつまらないように、いまの国会での論議がつまらないのは、国民を煽る刺激的なコトバには満ちていても、要するに本当に自分のアタマでものを考えている人が、メディアの世界にも政治の世界にも少ないせいではないかという気がします。どこかで既に聞いたような、陳腐な常套句ばかりが飛び交っている。むしろ、面白い意見や目からウロコのアイデアは、私たち大衆のなかにある。新聞の読者投稿欄や個人のブログの中に、そういったアイデアのタネを見付けるのは私の楽しみのひとつなのです。今回のこの投稿子の方にしても(大学の非常勤講師の方だそうです)、おそらくこの問題について充分考えた上で、300字程度の字数制限の中で工夫して要点だけをまとめているのでしょう。この記事のバックには、おそらく数十枚の論文になるほどの語られなかったアイデアが隠されているに違いない、そんな印象を私はこの文章から受けたのです。で、これにインスパイアされた私は、この記事のさらに続きを考えてみました。投稿子の方は、産業支援費の削減と引き換えに、いろいろと問題のある法人税というものを縮小することを提案されている。縮小の理由には私も賛成です。そこで私はいっそのこと、法人税を全廃してしまうことを考えてみた。

 現在の日本の税制で、何が一番の問題かと言えば、税の不公平さだとか、国と地方の税源のバランスだとかいうことよりも以前に、国家予算に対して税収そのものが全然足りないということが第一に挙げられなければならないと思います。ですから、私は今回の投稿にあるように、法人税の削減を政府支出の抑制で補うだけでは充分ではないと考えます。むしろ、法人税の削減分を従業員の所得税を上げることで補えばいい、これが今回の提案の骨子です。財務省の資料で見ると、国税と地方税を合わせた税収の中で所得税と法人税が占める割合は、それぞれ28.8%と25.0%なのだそうです。ということは、単純計算で個人の所得税を約2倍近くまで(87%)引き上げれば、法人税を廃止しても同じ税収が得られることになる。要するに我々が今の倍の所得税(と住民税)を払えば、法人税は廃止出来るのです。もちろん反論がありますよね? とんでもない話だと思われるでしょう? まあ、もう少し聞いてください。たとえ政府が「法人税廃止、所得税2倍」という政策を決定したとしても、企業が浮いた分の法人税をすべて利益に組み入れられる訳ではない、そこには労働市場における市場原理が働く筈だからです。これまで3万円の所得税を払っていた人が、6万円の所得税を払わなければならなくなる。手取り額は3万円のマイナスです。ある企業では、社員の生活を保障するために、(浮いた法人税分から)3万円の給与アップを行なうでしょう。すると、それを行なった企業と行なわなかった企業の間では、給与の格差が生まれる。当然、能力のある社員は高い給与を求めて転職をするでしょうし、新卒者は現在以上に給与水準を見て会社選びをするようになるでしょう。優秀な人材を集めたい企業は、浮いた法人税を内部留保になど回している余裕はありません。結局のところ、税制変更時の混乱が収まってみれば、現在とほぼ同じような手取り給与に落ち着いて行くのではないか。サラリーマンの給与の相場は、税率に合わせてスライドしている訳ではなく、景気や物価に合わせてスライドしているのです。資本主義の社会では、商品の価格を最終的に決めるのは、メーカーでも小売店でもなく市場です。これは労働市場においても同じことでしょう。

 今週発表された重箱の隅をつつくような政府税制調査会の法人税減税案では、個人の所得は当面増えも減りもしないでしょう。単に企業の利益が少し増えて、それに伴って政治献金も増えるだけです(あ、そうか、まさに自民党の狙いはそこにある訳だ)。私はそんな小細工を使うことよりも、もっと思い切って、法人税をゼロにしてしまうことを提案します。法人税がゼロになってしまえば、例えば経団連にしても、これ以上自民党にすり寄って尻尾を振るインセンティブはほとんど無くなる。私の予測では政治献金も大幅に減るでしょう。それだけではない、他にも法人税廃止のメリットはたくさんあるように思います。思いつくままに挙げてみますと、①所得税は法人税ほど景気の波によって上下しにくいので、国と地方の税収が安定する。②企業の中では姑息な節税対策、税金逃れのための粉飾決算のようなものが防げる(投書でも指摘されている通りです)。③経理部門による面倒な税務処理や国税局による監査など、社会に直接の価値を産まない無駄なコストが省ける。④企業や資本の海外流出を抑制する効果がある(逆に国民は逃げ出すかも知れませんが。笑)。⑤国民の税金に対する関心を高め、それがひいては国の財政健全化につながる。ざっとそんなところでしょうか。結構いいことずくめではないですか。いや、もちろん課題もあります。もともと赤字体質で法人税をほとんど納めておらず、社員の給与水準も低い企業では、法人税廃止のメリットなど何も無く、単に社員の生活が苦しくなるだけでしょう。だからこの政策の実施に当たっては、非課税枠の拡大や累進税率の見直しなど、所得税そのものの改革も必要になると思います。

 これも最近の記事で読んだのですが、大手都市銀行が史上最高益を更新しながら、法人税を1円も払っていないというニュースは、我々納税者を激怒させるものでした。不良債権処理で出た多額の欠損を、七年間にも渡って税の控除に繰り越せるという税法のせいです。一部の大企業に対するこういう歪んだ優遇政策も、法人税そのものが無くなってしまえば、もう問題ではなくなります。このくらいの思い切った政策提言を、どこかの野党は提出してみたらどうでしょうか。こういう政策こそ、<骨太の改革>と呼ぶに相応しいじゃありませんか。読者の皆様のご意見をお待ちします。

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