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2006年12月17日 (日)

ワーキングプア問題への処方箋

 ワーキングプアという言葉を、私は7月に放送されたNHKの番組で初めて知りました。非常に強い印象を受けたので、さっそくブログの記事にも取り上げたのですが、先週の日曜日に同番組の続編が放映され、やはり心を揺さぶられるものがありました。今回は働く女性と高齢者の貧困がテーマでした。福島県で小学生の息子2人を育てている30代の女性は、昼間は建設会社でパートタイマーとして働き、夕方学校から帰って来た子供たちに食事を食べさせ、寝かしつけたあと、また夜のパートに出掛ける。睡眠時間4時間で、土日も無く働いて、手にする給料は月に18万円ほどなんだそうです。出来れば給料のいい正社員になりたいのですが、母子家庭であることが企業からは敬遠されるのだそうです。(子供の看病のために1日休んだだけで解雇されたこともあったと言います。) また京都に住む元大工の80歳になる男性は、積み立ての年数が5年分だけ足りないために、年金をまったく受けることが出来ず、75歳の妻とふたり、空き缶拾いでその日その日の生活をつないでいます。いざという時のための貯金が70万円あるのですが、逆にそれが災いして、生活保護も受けられない状態なのだと言います。決して遊び暮らして来た挙句に、現在の境遇に陥ってしまった訳ではないのです、ほとんど働きづめに働いて来た人生の果てに、80歳にして空き缶拾いの毎日。何故国や自治体は、いや、同じ日本人である我々は、彼らに何もしてやれないのだろうか?

 正直に言いますと、夏に見た1回目の番組と比べて、今回の放送には多少の失望を感じました。それは取材を受けていた貧しい人たちに対してではもちろんなくて、番組を制作したNHKに対してです。前回の番組から何も進歩していないじゃないか、そんな腹立たしさを感じたのです。巧みなカメラワークと編集で、視聴者の心に同情や憐憫の気持ちを掻き立て、担当のキャスターは前回と同様、このような貧困を放置している政治や社会への疑問を投げ掛けてみせる。この番組によってワーキングプア問題はかなり一般に認知されるようになったし、だからこそ今回の番組には大きな注目も集まっていたのだと思います。が、番組の印象は前回とまったく一緒でした。半年間の取材期間があったのだから、もっと具体的な意見や提言があっても良かった。こういった問題を、情緒にのみ訴える仕方で取り上げる今のマスコミの姿勢に私は大きな疑問を感じます。民放に比べればNHKはずっとマシだとは思いますが、今回の番組の中でも、登場者の顔がアップで映り、切々としたナレーションが語りかけるうしろには物悲しいBGMが流れていた。私は以前から深刻なニュースやドキュメンタリー番組では、BGMは使うべきではないと考えていました。それは不謹慎なことだと思うからです。そこに制作者サイドも自ら気付いていない、深刻な社会問題を商品化して情緒的に消費しようとする傾向が現れてはいまいか。いや、そんなマスコミ批判の話などはどうでもいいのですが、私は今回の番組の中には、ワーキングプア問題を解決するための大事なヒントが、いくつか隠されていたと感じたのです。で、今回は番組が取り上げなかったそれらのヒントについて書いてみることにします。

 まずひとつめです。最初に取り上げられていた母子家庭の話題の中で、これからの2年間で<児童扶養手当>が削られることが、深刻な痛手になると解説していました。この家庭では、月に4万円出ていた扶養手当が、2年後には半分に減らされるのだそうです。同じような話として、生活保護費の母子加算が、やはり3年のあいだに段階的に廃止されるという問題があります。これは大変重要なポイントだと思うのですが、非常に貧しい層の人たちに対するこうした特別手当の減額や廃止は、たとえどんな合理的な理由があろうとも、政府は思いとどまるべきだと思います。もしかしたら日本は、他の福祉先進国に比べても、児童手当や母子手当の面では手厚い保護が行き届いているのかも知れない(たぶんそんなことはないでしょうが)。しかし、たとえそうだったとしても、国際的な標準に合わせるためだとか、貧困世帯間の格差を是正するためなどという、一見もっともらしい理由で手当を減らすべきではないと考えます。何故なら、それが不公平であるとか不合理であるとかいう理屈とは別に、すでにその金額の上で彼らの生活は組み立てられてしまっているからです。これは障害者自立支援法についても言えることです。多くの母子家庭や障害者家庭は、現在の福祉政策のもとで、ぎりぎりの綱渡りをするような生活をしています。たとえ改革のためとはいえ、行政の都合で大きく綱を揺すぶってみるなんて乱暴なことはすべきではありません。(ですから私は同じ理由で、たとえ善意のものであっても、永続的なものになり得ない一時的な優遇措置や民間の寄付なども、貧困層に対してはよほど慎重に行なわなければならないと考えます。)

 ふたつめは、就労支援の問題です。現在の政府が掲げている、働く人の自立を促す政策には基本的に賛成します。現実問題として、現代社会は高度に進化した産業社会であり、そこで労働者に求められる技能も高度なものになっているからです。訓練によって、それを習得出来る潜在能力を持った人に対しては、学習や職業訓練に対する充分な支援を国としても行なうべきです。しかし、その支援策を、うわべだけのごまかしで終わらせてもらっては困る。番組で紹介された女性は、介護福祉士の資格を取ろうと考えましたが、専門学校の卒業が条件であることが分かって断念せざるを得ませんでした。昼も夜も週末も休みなく働いている彼女に、学校に通う時間は無いからです。国が掲げている授業料の一部負担といった程度の支援では意味が無いのです。国が本当に支援を行なう気があるなら、資格や技術を身につけて、実際に新しい職に就けるまでのあいだの生活保障をすべきです(このことはゲスト・コメンテーターの方も言っていました)。たとえ一時的な財政支出は増えようとも、長い目で見れば、高い技能を持った労働者を育てることは、国の財政にとってもプラスに働く筈です。

 3つめは年金支給の問題です。空き缶拾いの80歳の老人は、年金を1円も貰えないのだと言います。もしもこの方が、生涯まったく国民年金を払っていなかったというなら話は分かります。が、そうではないのです。払っていたが、生活が苦しくて、払えなかった期間もあった。年金受給年齢になってみると、積み立て期間が足りないので年金が貰えないことが分かった。こんな理不尽な話ってありますか? まるで詐欺に遭ったようなものだ。いま政府は、フリーターや非就業者の人たちにも国民年金への加入を呼びかけています。しかし、通算25年という長い支払い期間が年金受給の条件となっている現行制度では、過去に未納の時期があった人や収入の安定しない人にとって、年金に加入すること自体がリスクになってしまいます。たとえどんな短い期間でも、年金を納めていた人には、その期間に応じた年金を支給すべきです。たとえその金額がすずめの涙ほどのものであったとしても、納めた人には必ず見返りがあるというのが公平な仕組みではないですか。テレビに出ていた老人の場合、20年間は年金を納めて来たのですから、満額の五分の四に当たる金額の年金を受け取ってしかるべきです。もしもどうしても国が年金を払わないと言うなら、これまで積み立てたお金の一部でも返還すべきだ。政治家が加入する議員年金は、たった10年間の積み立てで受給資格が出来るばかりか、たとえ満期になる前に議員を辞めても、掛け金の8割は返還される仕組みだそうです。だったら国民年金や厚生年金だって、同じ仕組みにしなけりゃ不公平じゃないか。(批判の多かった議員年金は、今年の初めに廃止が決定されましたね。しかし、現職議員や議員OBにはほとんど不利益は無く、完全廃止までには40年も50年もかかるような廃止案なのだそうです。)

 4つめは生活保護制度についてです。番組で紹介されていた老夫婦は、虎の子の蓄えの70万円があるばかりに、生活保護を受けられないのだそうです。もしもそのお金を生活費として使ってしまい、無一文になればおそらく生活保護を受けられるのだと思います。何故そうしないのでしょう? それは想像が出来ます。老人は自分が先に死んだ時のため、遺された妻にせめてものお金を遺したいのです、そして自分の葬儀代のことで妻に心配をかけたくないのです。私はこの70万円の話を聞いた時、切なくて涙が出ました。日本にはいま、生活保護水準以下で暮らす世帯が400万世帯もあるのだそうです。彼らの多くは、家族に遺すこのなけなしのお金のために、生活保護を諦めているのではないかと想像します。これは制度を改革すべきです。今回、持ち家があるために生活保護を受けられない世帯に、不動産を担保に生活費を貸すリバースモーゲージという仕組みが導入されました。私はこれは良い仕組みだと思います。(不動産を所有している世帯に生活保護費を支給すること自体、不公平なことですから。) これと同じ仕組みを預貯金にも応用することは出来ないものか。つまり、老夫婦は70万円のお金を国に預け、その代りに生活保護を受ける。国は預かったお金を、もしもの時の医療費か、または葬儀代が必要になった時にのみ、必要な額だけ返還するのです。これならば、虎の子の70万円を守るために生活保護を諦める必要も無くなるのではないでしょうか。でも、おそらく国はこの政策を採らないでしょう。何故なら、もしもこれを正式なルールとして採用すれば、生活保護を受けずに必死で頑張っている世帯が、なだれを打ったように生活保護の申請に走るだろうから。国の予算はそれに耐えることが出来ない。要するに、現在の生活保護制度は、実際にそれを受け取る資格がある人たちが、それを辞退していることでかろうじて成り立っているのだと思います。生活保護制度に関しては、どう考えても抜本的な仕組みの改革が必要ですね。

 最後にもうひとつ、ワーキングプア問題解決のために最も重要な施策が、最低賃金の見直しです。何故か日本の最低賃金は、各都道府県ごとに決められています。最も低いところで610円(青森、岩手、秋田、沖縄)、最も高いところでも719円(東京)、全国平均では673円なのだそうです。これがワーキングプアを生み出す元凶になっています。私はこれを全国一律にし、値段もおよそ倍の1200円程度にすることを提案します。時給1200円なら、1日8時間労働で、土日を休んでも月間の総支給額が20万円程度にはなります。これなら睡眠時間4時間で土日も無く働いている人たちが、少しは余裕のある暮らしに移れるというものです。だが、これには経済界から猛反対が出るでしょう。実際、最低賃金をそのレベルまで引き上げたら、経営が成り立たなくなる企業も続出するに違いない。けれどもここでも物事は大局的に見る必要があると思います。過去20年くらいを振り返ってみれば、国内で大きな成長を遂げた企業は、パートやアルバイトなど安い労働力を利用して伸びて来たところが多いことに気付きます(コンビニやドラッグストアやファーストフードなど)。言葉を換えれば、これら成長産業は、労働者が正当な報酬として受け取るべき富を収奪して成長して来たのだとも言える。それを是正しようという話です。もしも一気に最低賃金を引き上げることではショックが大き過ぎるのなら、政府お得意の段階的導入でも構いません。来年度は800円、さ来年は1000円、3年目には1200円にすればいい。私はこれを先に提案した法人税の廃止と同時進行で進めればいいと思います。おそらく大手のコンビニやスーパーマーケット、飲食チェーンなどでは不採算店を閉める動きが加速すると思いますが、これは昔から地元に根付いていた家族経営的なお店に、もう一度チャンスを与えるきっかけになるかも知れません。

 最近は「格差社会」ということが大きな問題としてマスコミを賑わしていますが、私はこれは少し違うような気がします。格差があること自体が問題なのではなくて、国民の生活を保障する最後のセーフティネットが破れてしまい、社会の底が抜けてしまっていることが問題なのです。「相対的な格差」ではなく、「絶対的な貧困」こそが問題です。今回の番組を見て、そのことがはっきりと分かりました。日本の貧困問題は待ったなしです。私たちこの国の政治に責任を持つ国民は、すぐにでも行動を起こさなければなりません。私には、とりあえずこのブログ上で意見を発表することくらいしか出来ませんが、それでも何もしないよりはましです。これからもこの問題については継続的に考えて行きたいと思います。

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