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2006年11月19日 (日)

いじめによる子供の自殺について

 学校でのいじめによる自殺のニュースが相続いています。先月福岡県で13歳の中学2年生男子が自殺をしたのが発端で、その後も岐阜、大阪、埼玉、奈良、新潟、福岡で、いじめを苦にしたと思われる中学生の自殺が起きました。北海道では昨年起きた小学6年女児の自殺について、いじめが原因だったことが明らかになり、福岡では児童のいじめ問題に絡んで、小学校の校長先生までが自ら命を絶ってしまった。一連の事件に動揺する教育界への抗議(またはからかい?)のように、文部科学省には自殺予告の手紙が何通も送り付けられています。事態を重く見た文科省では、子供たちに向けて緊急のメッセージを発表しました。(伊吹大臣の記者発表の様子をテレビで見ましたが、なんだか棒読みの印象でしたね。とても子供たちの心に届くメッセージだとは思えませんでした。) 新聞各社も、子供のいじめと自殺を防止するキャンペーンを展開中です。文科省は、1999年以来廃止していた「いじめによる自殺」という項目を、自殺統計の中に復活したと言います。

 毎年3万人もの自殺者が出ることが常態化してしまった今日の日本でも、十代前半の子供の自殺はまだまだニュース・バリューが高いようです。昔から「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」などと言いますが、連日子供の自殺が大きなニュースになっているのは、きっとそれが珍しいことであるからに違いない、ふとそんなことを考えてしまいました。ニュースを聞いていると、いかにも最近は子供の自殺が急増しているような印象を受けます。果たして実際にその件数は増えているのだろうか、また自殺者全体に占める若年者の割合はどうなっているのだろうか? こういう時にインターネットというのは本当に便利ですね。キーワードで検索すると、すぐに情報が見付かりました。統計によれば、ここ約30年のあいだに、二十歳未満の若年者の自殺件数は、最低が平成5年の446件、最高が昭和54年の919件で、最近は毎年ほぼ5、600件台で推移しています。(さすがにロー・ティーンだけを対象にしたデータは見付かりませんでした。) むしろ増えているのは二十歳以上の成人の自殺、とりわけ中高年男性での増加が目立っています。もちろん毎年数百人の十代の若者が自ら命を絶っているという事実、それは言葉では尽くせないほど重い事実である訳ですが、かと言って日本が他の先進諸国と比べて特に若年者の自殺率が高いという訳でもないようです。

 青年時代にドストエフスキーやショウペンハウエルを耽読したことが関係しているのかどうか分かりませんが、私自身は自殺というものに対する抵抗感や嫌悪感が比較的少ない人間だと思います。もちろん、周りに自殺をほのめかすような人がいれば必死に止めようとするでしょうし、自分自身がいま自殺の危険性を抱えている訳でもたぶんありません。ただ究極のところ人間には自殺する権利だってあるのだ、そんな考えを心の底で持っているのです。そしてこうした考え方の傾向を持つ人間からすると、子供の自殺をさも重大な社会的事件のように扱うマスコミの論調には、ある種の反撥を感じるのです。みんな「自殺はいけないこと、自殺は忌むべきもの」というゆるぎない信念から出発している(まあ、当然ですが)。しかし、若い頃に自殺を想ったことがある人なら覚えがある筈です、いざとなったらいつでも自殺出来るという観念がどれほど心の苦痛を和らげてくれて、場合によっては生きる勇気さえも与えてくれるものであるかということを。私はこの心の甘露を子供から取り上げる権利は大人には無い、と考えます。逆説的ですが、人間には死とすれすれの平面にやっと足場を見付けて、そこに両足を着けてやっと立ち上がれるという状況だってあると思うのです(若い頃の自分の経験から言っています)。自殺に対するマスコミを挙げてのネガティブ・キャンペーンは、そういう危険な場所で平衡を保っている若い人にとって、最後の拠りどころを奪われるようなものであるかも知れない、そんな気がするのです。

 いや、最近の子供の自殺というのは、お前のような文学趣味の人間が考えるような甘っちょろい心の問題などではない、<いじめ>という、ほとんど犯罪にも等しい人格攻撃が要因としてあることが問題の本質なのだ、きっとそういう反論があると思います。それに関しては、まったく同意です(と言うより、この問題について考えてみようと思って、今回の記事を書き始めたのでした)。でも、そうであるならば、マスコミはいじめの問題と自殺の問題を分けて報道して欲しいというのが私の意見です。現在のマスコミの報道は、自殺の危険域にある子供たちの心理に対してあまりに配慮が欠けているような気がします。自殺した子供の自筆の遺書を写真で公開する、クラスメートの生徒にインタビューのマイクを向ける。何故そんな無神経な報道がまかり通っているのだろう。おそらく教育現場のいじめの実態というだけでは、現代のマスコミにとってはニュース・バリューが乏しいのでしょう。だから<実際に自殺した中学生>というスケープゴートがどうしても必要なのだ。(これが高校生ではインパクトが弱い、小学生ならば一層望ましい、そういう話です。) さすがに最近の報道の行き過ぎには警鐘を鳴らす人もいて、自殺報道がさらなる連鎖的な自殺を引き起こしている危険性も指摘されています。これはマスコミ関係者が真摯に受け止めるべき指摘です。例えばいじめに堪え兼ねて自殺した少年の遺書は、同じようにいじめに悩む同世代の子供にとっては、重要な啓示のように映るかも知れない。自殺を想うことと、これを実行することの間には大きな隔たりがあります。自殺すれば、いじめに対する命をかけた抗議としてテレビでも大きく取り上げてもらえる、このことから得られるヒロイックな高揚感は、行為としての自殺への強力なジャンピングボードになるかも知れないのです。

 子供の世界のいじめの問題は、私たちの社会全体の問題としてみなで話し合い、解決の方法を探って行くべき問題です。一方、自殺の問題を解決出来るのは、マスコミの力でも世論の力でもなく、その子の家庭や担任の先生やクラスメートや地域社会の取り組みだけだと思います。要するに自殺というものは、個々の事件のディテールを取材して報道する意味がまったく無い事柄なのです。これは殺人事件などについても言えることですが、マスコミがこうした<人が死ぬ事件>を取り上げるやり方は、本当に非人道的なものだと感じます。読者や視聴者が興味を持ちそうな事件だけが選択的に取り上げられているに過ぎない。つまり彼らは<人の死>を売り物にしている訳です。その証拠に、マスコミは年間三万人の大人の自殺者には、注意も払わない。人の命の重さに軽重はないというのが今日の民主主義の原則です。もしもすべての自殺を同じ重さで扱うならば、新聞の社会面は毎日自殺の記事で埋め尽くされる筈です。自殺というのは、ことの善し悪しは別として、最高度にプライベートな事柄です。大人が自殺をすることをマスコミは放っておいてくれるのに、何故子供が自殺をした場合にはこんなに大騒ぎをするのか。はっきり言って、私はこれは子供に対する人権侵害だとさえ感じるのです。

 教育者でもなく、精神科医でもない自分が、子供の自殺防止に関するまともな意見など言える訳はないし、また軽々しくものを言うべき領域ではないことも分かっています。しかし、このところの報道のされ方を見ていると、何かひとこと言わなくてはいられない気持ちになってしまい、それが今回の記事を書かせました。最後に現在いじめに遭っていて、自殺を考えている若い人へのメッセージを書いて、この文章を締めくくろうと思います。いじめの問題は学校の中だけではなく、大人の社会の中にも同じようにあります。しかし、現在、社会の中ではそれを克服しようとする大きな運動があちこちで展開されているのです。子供の世界でも大人の世界でも、いじめる側の中心にいる人というのは、自分というものに対して無自覚で無反省な人がほとんどですから、この運動は人々の心を目覚めさせる運動でもあります。そんな時代にあって、君のような若い人を失うことは本当に惜しいのです。だって、想像してください、いじめられた人が死んでしまい、いじめた側がのうのうと生き延びるとすれば、これからの世の中は弱肉強食の本当に嫌な世の中になってしまうじゃないですか。目に見える戦争というかたちではないけれど、これからの日本はこの内なる闘いの時代に入ります。しかもそれは充分に勝ち目のある闘いだと私は思っています。どうか君の近くに理解者がいることを信じてください、君の周りにたくさんの連帯者が現れることを信じてください。そしてやがては君をいじめた者たちをも、屈服させて仲間にさせてみせようじゃありませんか。

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コメント


失礼します。
      Googleにて拝見 
    
 「イジメ撲滅」のご案内
       ご笑覧ください。
     http://www4.ocn.ne.jp/~kokoro/    

投稿: あだち | 2008年6月25日 (水) 15時37分

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