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2006年9月 3日 (日)

Googleが倒産する日

 前回の記事でブログの機能について考えたのをきっかけに、最近話題になっている梅田望夫さんの『ウェブ進化論』という本を読んでみました。このところ、戦争責任をめぐっての重苦しい本ばかり読んでいた自分には、とてもいい気分転換になりました。著者は長年、アメリカのIT産業の中心であるシリコンバレーに住み、コンサルタントをしている方だそうです。現在インターネットの世界で起こっている革命的とも言える変化を、現場から臨場感豊かに伝えてくれるのがこの本です。何よりも、全編にあふれているオプティミズムがいい。梅田さんは、いま進行中のインターネット革命に、未来の明るい希望を見出しています。日本の若い人たちの中から、十年後、二十年後に次の革命を起こす人が出て来るかも知れないと予感している。梅田さん自身の行動力もすごい。そのために日本人一万人をシリコンバレーに移住させてしまおう、そんなことを真面目に考えてNPOまで立ち上げてしまう人なのです。

 『ウェブ進化論』の明るい未来志向の世界観に私も共感します。ただ、ひとつだけ梅田望夫さんとこの点だけは意見が違うなと感じた部分がありました。それはグーグルという企業に対しての評価です。この本の中で、梅田さんはグーグルをIBMやマイクロソフトと並ぶ、十年に一社しか現れないエポックメーキングな企業なのだと力説しています。確かに説得力はあるのですが、冷静に考えてみれば、やはりちょっと無理がある気がします。私もGoogle検索にはひとかたならずお世話になっている人間のひとりですし、これはもうインターネットの世界で必要不可欠なサービスであることも認めます。でも、いくら「シリコンバレー史の頂点を極めるとてつもない会社」だと言われても、所詮はインターネットのテキスト検索だけを売り物にしている会社ではないかと思ってしまう。そこに巧妙なアイデアで、莫大な広告収入を得る仕組みを付け加えているからと言って、それが十年に一度の大革命だとは私には思えないのです。いや、私がグーグルという会社に一種のうさん臭さを感じるのは、梅田さんが言うところの「玉石混交問題」だとか「自動秩序形成」という、それ自体いろいろと問題をはらむ課題に対し、グーグル社が独自の<秘法>によって解答を与えようとしている、その点にあります。何の話かと言えば、グーグル検索で出て来る結果の順番、つまり<ランク付け>の話です。

 グーグルのサービスが素晴らしいのは、利用者にとっては無料で、全世界のインターネット・サイトから、キーワードを含んだページを瞬時に探し出して来てくれること、そのことが素晴らしいのであって、ランク付けの結果が素晴らしい訳では断じてありません。『ウェブ進化論』の中には、「グーグルの生命線たるページランク・アルゴリズム」という表現が出て来ますが、これが私には信じられないのです。むしろみんながグーグルを使うので、広告を出稿する企業も、たとえどんなにグーグルのランク付けが恣意的なものだったとしても、文句は言えないというだけのことではないのでしょうか。グーグルのランキング方法は企業秘密ですが、私自身は秘密の方法でランキングされた検索結果を見せられることを好みません。これを企業秘密にしておくのは、グーグルという会社の儲ける仕組みに関わる問題だからで、利用者のことを考えた結果ではないからです。

 もしも私がグーグルに対抗する検索エンジンを作るとすれば(お、話がデカいぞ。笑)、ページランク・アルゴリズムは決してブラックボックスにはしないでしょう。単純なページビューでのランキングや、そのページに向けられたリンク数でのランキングの他に、各国別のアクセス・ランキング、時系列で見た場合のランキング推移など、検索者の自由な指定によって抽出や並べ替えが出来るようにする。さらに贅沢を言えば、検索者の好みを学習して、その人向けのランキングを表示する機能も欲しいところです(業界用語ではパーソナライゼーションと呼ばれている手法です。インターネット書店のアマゾンが、個人向けの推薦商品を表示するのと同じ仕組みですね)。例えば私が「超人」という言葉を検索したら、これはもうニーチェの超人思想のことを調べようとしているのに決まっているので、「超人ロック」や「キン肉マン」の話題などは上位に表示しないでいただきたい(笑)。まあ、そんなふうなことです。私ならこのパーソナライズの機能については、たとえお金を出しても使いたいような気がします。

 今日ではもう誰も、当たり前のようにグーグルのサービスを使って、インターネットの世界を歩き回っている訳ですが、最初にこれを使った時の驚きは、誰もが覚えのあることだと思います。どんな難しいキーワードで検索しても(難しいかどうかはコンピュータには関係ありませんが)、わずかコンマ数秒で結果を出して来る。まるで魔法のような世界です。梅田さんの本を読んで、おぼろげながらそのカラクリが分かりました。ふつうインターネットの世界で何か事業を始めようという会社は、まずは大手のコンピュータ・メーカーに見積りを依頼して、ハードウェアとソフトウェアを調達するところから始めます。ところが、グーグルという会社では、自社で使うコンピュータを自分で設計して、自分で作ってしまったというのです。創立者である二人の若者は、大学でコンピュータ・サイエンスを学び、最新の研究成果をふんだんに注ぎ込んで、世界でたったひとつしかないシステム・アーキテクチャを生み出した。グーグル社の何処にあるか分からないデータセンターでは、そうして作られた30万台ものサーバーが24時間、365日休みなく稼動しているのだと言います。私もコンピュータ業界の末席にいる者として、一体それがどのようなシステムなのか興味はそそられますが、それにしてもそれが十年先にも他社の追随を許さないほど画期的なものだとは信じ難いことです。いくら世界最優秀の頭脳を集めたと言っても、1年半で性能が2倍になるというこの世界で、十年分も先進的なコンピュータが作れるものだろうか?

 グーグルという会社の存在意義は、他の企業が真似の出来ない、インターネット上の全テキスト情報の高速検索ということを、力ずくでやってみせたというその一点にあります。逆に言えば、他にもっと高性能で高機能の検索サービスが出てくれば、グーグルはその存在意義を一瞬で失うことになる。これが例えばパソコンの世界なら、ウィンドウズに代るどんな優れたパソコンが登場したとしても、マイクロソフトからそのシェアを奪うのは容易なことではない筈です(事実、ウィンドウズよりも優れた小型コンピュータは過去にいくつも存在しました)。パソコンという商品の特性もありますが、マイクロソフトは顧客が容易に他社の製品に乗り換えられないような仕掛けを、ウィンドウズという製品の中に作り込んでいるからです。しかし、グーグルは違います。私たちがグーグルを使うのは、グーグルという会社が好きだからでも、みんながそれを使っているからでもありません。現在のところ、それよりも高性能な検索エンジンが他に無いから使っているだけのことだと思います。それを超える魅力あるサービスを提供する会社が現れれば、もうグーグルを使い続ける意味は無い。インターネット検索は、言ってみれば世界の市場にたったひとつしか生き残れないタイプのソフトウェア・サービスです。人が集まらない検索サービスに、広告を出すスポンサー企業は無くなります。株式時価総額十兆円を誇るグーグルも、つぶれる時はあっと言う間ではないかと思うのです。

 あ、誤解しないでください、私はグーグルという会社が嫌いな訳ではありませんし、つぶしたいと思っている訳でもありません(正直なところマイクロソフトはちょっと嫌いですが)。ただ、梅田さんが「情報発電所」と呼ぶ、30万台のコンピュータ・パワーにものを言わせただけのビジネスモデルは、意外と脆いものであるかも知れないと考えているのです。それでは、グーグル社はこの先どういう方向を目指せばいいのか? グーグルに対抗心をみなぎらせているマイクロソフトの追撃をふりほどいて、そのビジネスモデルを磐石なものにする戦略はあるのでしょうか? さて、ここからが今回の記事の本題なのですが(前置きが長くてすみません)、これから私が考えている他社を寄せ付けない究極の検索エンジンについて説明したいと思います(冗談だと思って読んでくださいね)。ヒントはグーグル自身にあります。これもグーグル・ユーザーが一度は驚く経験ですが、グーグルの検索結果にはキャッシュというものがあって、見たいホームページが更新されたり消されたりしていても、暫くのあいだはそのコピーがグーグルのシステムの中に保管されています。世界のほとんど全てのページを、自社のハードディスクに一時的とは言え保存しておくという発想自体が驚きです(何故そんなことが出来るんだろう?)。しかし、グーグルのヘビーユーザーなら時に思うことがある筈です、何故キャッシュをもう少し長いあいだ取っておいてくれないのだろうと。

 私が考える検索エンジンの理想形は、この過去のインターネット情報を、その日の日付のまま永久に保存しておくというものです。全世界のサーバー上に散らばった30億ものホームページ、しかも日々すごい勢いで増加しているその情報の全てを保存することなど不可能だと言われるでしょう。しかし、全てのページが毎日更新されている訳ではありませんし、変更があったところの差分だけを保存すればいいのですから、まったく荒唐無稽ということでもないような気がします。また毎日が無理だとすれば、一週間ごとならどうでしょう。このサービスでは、検索のオプションで過去のある日付を指定すると、その日のインターネットの状態がデスクトップ上にほぼ完全に再現されることになります。言ってみれば、仮想的にその時代にタイムスリップ出来る訳です。もちろん過去に削除されたページもすべて保存している訳ですから、リンク切れもほとんど無くなる。こうなるともう誰もインターネットの本体(?)など見に行かなくなるかも知れない、インターネット検索サービス会社のバックアップ・サーバーの方が、インターネットのメイン会場になるような気がします。(笑)

 これがどれほど画期的な仕組みであるかは、こんな想像をしてみるとすぐに分かります。もしもインターネットが発明されたのが西暦1900年で、その時以来、すべてのホームページやブログが一日単位ですべて保管されているとしましょう。1945年8月15日と指定して検索をかければ、多くの人のその日の日記や記事が、その日の状態のまま読めるのです。そこにはまだ日本の経済的復興も、中国共産党政権の誕生も、ベトナム戦争の勃発も、何も知らなかった時代の空気がそのまま残っている。私はこれは学問研究に大きな変化をもたらすような気がします。ある社会的通念がどのように世界に伝播して行くのかを追跡調査することも出来ますし、ある流行語や新語がいつどこで誕生したかなどということもすぐに調べられる。今はまだインターネットが普及して十年くらいしか経っていないので、それが持つ史料的価値と言われてもピンと来ませんが、今から百年先の人類にとって、それがどれほどの贈り物になるかを想像してみてください。これはもうタイムマシンの発明にも匹敵するものかも知れません。

 もちろん、そんなマニアックな機能を一般の人が使いこなすかという疑問もあるかと思います。そこまで金をかけて作るべきシステムかと考える人もいるでしょう。しかし、それはグーグルの創業者たちが気付いていた、インターネット検索サービスの特別な意味を理解しない人の考えです。重要なのは、ふつうのシステムのような費用対効果などというケチな損得勘定の問題ではありません、インターネット検索は間違いなくインターネットそのものと不可分なほど重要なサービス分野であり、そこで最終的に生き残れるのはたったひとつの事業者だけだという点なのです。グーグル社は最初にそのことに気付いたという点で、莫大な先行者利益を手にしました。しかし、彼らのビジネスモデルとて完璧ではない。相手に資金力さえあれば、いつでも逆転される危険性があるからです。私が空想している、過去の情報も丸ごと保管するというビジネスモデルは、この点においても強力です。どんな豊富な資金力を持った企業でも、失われた過去の情報まで買い戻すことは出来ないからです。

 私はこの壮大なビジネス構想を、日本のどこかの大企業か、または産学共同体が企画してくれたらいいのにと思います。プロジェクトは初め、秘密裡に進行します。巨大なデータセンターに、全世界のインターネット情報を<時系列的に網羅した形で>ひたすら貯め込みます。急ぐことはありません。最低限五年分くらいの情報が蓄積されたら、そこで新しいインターネット検索サービスの開始を宣言する。キャッチフレーズは、「時空を自由に行き来出来る、リンク切れの無いネット空間」というものです。五年間の蓄積があるので、もう誰も追いつけはしない。つまり、その日がGoogle社の倒産する日です。

(追記1 この文章を本気にされる方がいると困るので(笑)、お断りしておきます。このビジネスモデルの最大の問題は、資金の問題ではなく、著作権の問題です。実際、現在でもグーグル社は、そのキャッシュ機能に関して著作権法違反で訴えられることが多いのです。ですから、もしもこれに近いアイデアが実現するとすれば、それは一営利企業によるものではなく、各国政府の共同プロジェクトとして行なわれるものである筈です。)

(追記2 梅田さんの『ウェブ進化論』に対して、他のブロガーの方たちがどのような評価をしているのかが気になって、いろいろGoogleで検索してみました。賞賛の声がとても多いのですが、中におひとりだけとても鋭い批判を投げ掛けている方がいらっしゃいました。think or dieさんという方の『愛と苦悩の日記』というブログです。私にはとても共感出来る意見が多かったです。『ウェブ進化論』という本は、ある意味で煽動的な内容の本でもありますから、バランスを取るためにthink or dieさんの文章と併せて読むことをお勧めします。)

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コメント

全世界で生成されている情報量についての研究があります。

http://www2.sims.berkeley.edu/research/projects/how-much-info/index.html

投稿: okamoto | 2006年9月 4日 (月) 17時15分

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