« HAPPY NEWS | トップページ | スピリチュアリズムについて »

2006年1月 7日 (土)

憲法改正『不決議』案

 さて、年は明けましたが、天下国家を論じたい私の気持ちは収まりません。今年国論を二分するであろう重要な話題と言えば、現実味を帯びて来た憲法改正問題でしょう。既に昨年の秋に自民党は新憲法案なるものを公表しています。自民党の目論見としては、今年世論をあの手この手で憲法改正の方向に誘導しておいて、来年の参議院選挙を待って議案を国会に提出し、一挙に国民投票にまで持って行きたいといったところではないでしょうか。そのための布石を打つ意味でも、今年はとても重要な年になる。私たち国民ひとりひとりにとっても重大な問題です。一年の始めに、まずはこのテーマを取り上げたいと思います。

 この正月休みに、日本国憲法をじっくり読んでみました。恥ずかしいことですが、この歳に至るまで一度も全文を通読したことがなかったのです。そして何故これを義務教育の中でしっかり教えないのだろうと不思議に思いました。それとも中学校の教科書か副読本に載っていたのに、勉強嫌いの自分が記憶していなかっただけなのかな? たとえ今の憲法が改正されようがされまいが、まずはそれを若い人たちにしっかり教えて行くことが必要なのではないか、これが自分の生まれた国の憲法を通読してみて、私が最初に感じたことでした。そこには、戦後の新しい国づくりにおいて、私たち日本人が何を目指し、世界の中でどのような役割を果たして行くかについて、分かりやすく力強い言葉で書かれていたからです。それは最近の政治家の言葉や選挙のマニフェストの中では見られないような、心に響く言葉でした。

 憲法改正には、衆参両院での三分の二以上の投票による可決と、国民投票による二分の一以上の賛成が必要なことが、他ならぬ憲法そのものによって規定されています。現憲法が発布されて以来、いまだ国民投票にまで進展したことはありません。現在、特に護憲派の人たちが非常に危機感を募らせている背景には、与党により具体的な改正案が出されたことの他に、既に衆議院では議席の三分の二を与党が占め、来年には参議院の改選が行なわれることが決まっており、さらには野党第一党の民主党の中にも改憲賛成論が出始めているという事実があります。前回の総選挙の時と同様、また自民党の巧みなワンフレーズ広告によって、なすすべもなく世論が改憲論に傾いて行ってしまうのではないか。まともな議論が国民のあいだで戦わされるいとまもないくらい、なしくずし的に国民投票にまで持ち込まれてしまうのではないか。

 それにしても、新しく民主党の党首に選ばれた若い前原さんは、何故突然に憲法改正に対して好意的な態度を示し始めたのでしょう? それは前原氏が以前から主張していたことなのか、党首になって急に改憲に目覚めたのかは知りません。もしも前者であれば、そもそも民主党は前原氏を党首にすべきではなかったと思いますし、後者なら野党第一党の党首としてあまりに思慮に欠けた政策転換であったと私は思います。これは民主党の選挙戦略としても非常にまずい事態でしょう。現在の日本は、護憲か改憲か、国を二分しての論争が始まる前夜なのです。自民党がはっきり改正案を打ち出して来ているのに、野党第一党が改憲論になびいたのでは、護憲派の国民はどの党を支持すればいいのか。党首の不用意なひと言で、民主党は大量の票を一瞬にして失う可能性もあります。前原さん個人の信念なんてちっぽけな話ではないのです。その上老練な(?)小泉首相に、入閣だの与野党大連立だのとからかわれるに至っては、もうお話にもならない。いずれにせよ、護憲派の人たちにとっては歯噛みをするような状況です。

 私は個人的な心情としては護憲派の人間なのですが(これまで憲法本文を読み通したこともなかったくせに、護憲派なんてよく言います。苦笑)、このブログの中では、出来ればよくある理想主義的な(つまりサヨク的な?)護憲論には与したくないと思っています。この問題が不可避的に陥る護憲派と改憲派の感情的な対立に巻き込まれたくないからです。私はそれよりもっとしたたかな大人の護憲論というのがあってもいいと思う。というのも、現在の自民党が推し進めようとしている改憲の動きには、戦略も打算も無い非常にナイーブな子供っぽい心情が透けて見えるからです。靖国神社に参拝する小泉首相は、そこで不戦の誓いを新たにしているのだと言います。自分の気持ちにこだわり、周りの人の気持ちを考えられないのは、まさに子供の心のあり方です。これはもしかしたら自民党が、言ってみれば酸いも甘いも噛み分けた大人の党から、世間知らずのガキ大将の党に変質してしまったことの表れかも知れません。これはまた二世三世議員が増えて、戦争の苦労はもちろん、生活の苦労さえしたことがないエリート達が政治を牛耳ることになった時代の自然な流れなのかも知れません。

 前にもこのブログの記事で、平和憲法を持ち続けることの現実的な利得については書きました。よく戦後の日本は、平和憲法を盾にとる一方で、米国の軍事的な庇護のもとに、ただ乗りで平和を謳歌して来ただけだと言われます。たとえそれが事実だったとしても、いいじゃないですか、こんなただ乗りなら今後もずっと続けて行けばいい。現在の憲法は半ば米国に強制されたものだという一般の認識もあります(私自身は全然そうは思っていませんが)。どこからも文句の出ようのない、僥倖とでも言うしかないような状況に日本は置かれており、今後も私たちが望めばそれを継続して行けるのです。しかも、この間まったくの太平楽を決め込んでいた訳ではなく、ちゃんと世界第三位の軍事費を注ぎ込み、自衛隊の整備にも怠るところがなかった。五十数年間、たったひとりの民間人をも殺さなかった、世界にも例の無い奇跡の軍隊です。交戦権は持っていなくても、自衛権は持っている、そして既に前例が出来ている今では、世界のどこにでも出掛けて行って、災害救助や難民救助に積極的に当たることの出来る軍隊なのです。平和国家で行くということは、世界に向けてのイメージ戦略でもその路線を貫くことでなければならない。平和国家日本をアピールするのに、こんなにすぐれた立役者と、恵まれた環境が他にあるでしょうか。

 以上のような考え方から、私は憲法改正に反対する以前に、憲法改正議案を国会に提出すること自体に反対します。仮に国民投票にまで行き着いてしまえば、その結果はどちらに転んでもこの国のためにならないと思うからです。もしも改憲派が勝てば、それは文字通り平和日本の仮面をかなぐり捨て、「ふつうの」軍事大国になることを意味します。近隣諸国との緊張が高まっているこの時期に、そんな選択をするのが賢明なことではないのは、永田町の先生たちにも分かりそうなものです。またもしも護憲派が勝利するにしても、その差は僅差の筈ですから、日本人の半数近くは改憲論者であることを世界に証明してみせることになるだけです。それはいつ軍事国家に変身するかも分からない経済大国日本というイメージを世界に広める結果になるでしょう。せっかく戦後六十年をかけて作り上げて来た、国際政治での駆け引きには少しうといけれども、経済的にはお大尽のように気前のいい、軍国主義の頃と比べてすっかり角のとれた日本人、という安心のブランドは、そこで終りを告げる。これこそが、現在の紛糾する世界情勢の中で、日本人がやっと手に入れた処世術であったのに。

 憲法改正について私たち国民が真面目に議論すること、それは悪いことではないでしょう。改正議案を出せば、国民のあいだで憲法問題が討議されるきっかけになる、その点を評価するという人もいるかも知れません。しかし、これは話がさかさまです。憲法改正か非改正かということは、議論の出発点ではなく到達点であるべきものだからです。結論を出すのに急いではならない。日本国憲法を読んで思いました。確かに六十年前のあの日、日本は小さいけれども確かな理想の火を見付けたのだと。それが現憲法の中に息づいているのを今も私たちは感じることが出来る。精神医学の臨床家は、人は鬱状態やノイローゼの時に、人生の重大な決断をすべきではないと教えます。少なくとも日本人が、将来への希望と理想を見失っている今のような時代に、さかしらな頭でこれを一字一句改定すべきものではない、そう私は考えます。

|

« HAPPY NEWS | トップページ | スピリチュアリズムについて »

コメント

 元々民主党の「基本理念」は改憲です。自民党もそうです。どうしてだと思いますか?ヒントは「経団連からの要請」です。

>米国の軍事的な庇護のもとに、ただ乗り
 沖縄返還協定密約がようやくアメリカ公文書公開で明らかになりました。当時のレートで980億円です。

 現在も思いやり予算がありますし、今話題になっている基地移転費用の概算費用は根拠がないと言われています。

 さらに基地提供している地域の負担は無視できないと思います。

>五十数年間、たったひとりの民間人をも殺さなかった、世界にも例の無い奇跡の軍隊
 自衛隊は殺害していませんが、日本政府はしています。吹田事件を参照してみてください。

投稿: | 2006年3月 7日 (火) 15時15分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/138790/8040427

この記事へのトラックバック一覧です: 憲法改正『不決議』案:

» 改憲か護憲か? [日本国憲法2.0開発部 − 改憲か護憲か?]
 こんにちは。私どもは天皇制と自衛隊を廃止するタイプの人権明記憲法「日本国憲法2.0」を試作・公開しております。  さて、もし私どもの憲法草案でなく、自民党の憲法草案のとおりに改正されたら日本はどうなるか考えてみましょう。 ●改正された瞬間、陸海空の日本軍ができあがります。れっきとした軍隊です。 ●軍事費と皇室費が増えて、皆さんの払う所得税率や消費税率は高いものになります。今でも自衛隊費は年間5兆円(国家予算の6%)、... [続きを読む]

受信: 2006年3月26日 (日) 02時17分

« HAPPY NEWS | トップページ | スピリチュアリズムについて »