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2005年12月 8日 (木)

ブッシュ大統領と大審問官

 『不合理ゆえに我信ず』の中でmori夫さんが、アメリカにおける宗教と科学の問題について書いていらっしゃるのを読んで、思うところがありました。新聞の報じるところによれば、アメリカ国民の55パーセントの人が、人類の誕生は生命の進化によるものではなく、神の創造であることを文字どおり信じているのだそうです。アメリカ合衆国のいくつかの州では、いまもダーウィンの進化論を学校で教えることを禁じているところがあるというのは、知識としては知っていました。何となく不思議な話だくらいにしか思っていなかったのですが、考えてみればこれは恐ろしいことかも知れない、そんな気がして来ました。というのも、この55パーセントの中には、今日、世界の実質上の最高権力者であると思われるブッシュ大統領その人も含まれているからです。

 ブッシュさんとその側近たちが信奉しているらしいキリスト教原理主義というのは、ちょっと日本人には理解出来ないくらい、頑固で排他的な教理を持つ宗派のようです。旧約聖書の言葉をそのまま信じ、この世界は六千年前に神によって六日間で創造されたとする。彼らによれば、「見てきたような進化論こそ、科学者の宗教にすぎない」のだそうです。いったいアメリカのような進んだ科学技術を持ち、開かれた民主主義を謳っている国で、どうしたらこんな不寛容な教義を一国の指導者が持てるのだろう、それが私が感じた怖さの正体です。イラクに米軍が侵攻した際に、ブッシュ大統領はそれを十字軍にたとえ、イスラム世界から大きな反撥を食らいました。すぐに失言として撤回したようですが、大統領のメンタリティの中では、きっとそれは八百年前の十字軍と重なっているのだろうと思います。

 哲学者のバートランド・ラッセルが考案した有名な命題があります、この世界がたった五分前に神によって創造されたものだとしても、誰もそれを否定することは出来ないというものです。つまり、我々ひとりひとりの記憶も、歴史上の遺跡や史料も、地層の中に隠された化石も、すべて今あるようにいっぺんに創られたと仮定すれば、そこには何も矛盾はありえないというのです。こういう思考実験は、私も大好きなのですが、だからと言ってそれを本当に信じる気持ちには全然なれない。ラッセルだって、まさかそれを信じていた訳じゃない、人間の持てる知性の限界をはっきり自覚するための思考実験だったのだろうと思います。私は、進化論にしろ、遺伝子理論にしろ、最新の科学的な知識を身につけることが、無神論やニヒリズムにそのままつながるものだとは思っていません。そこから敬虔な信仰に至る道だってあると思っています。それこそが、これからの時代の新しい信仰のあり方として、世界のあらゆる宗教や宗派が目指すべき方向ではないかとさえ思っています。(この問題については、まだ考えている途中で、自信を持って言えませんが…)

 ブッシュ大統領の、どう考えても道理の通らないイラク侵攻のうらには、中東石油の利権確保であるとか、身内の企業を富ませるためであるとか、世俗的な理由がいろいろ指摘されています。しかし、アメリカ合衆国の大統領という歴史的な使命を負った人物が、それだけの理由で侵略戦争に踏み込める筈がない。mori夫さんの記事に触発されて、この問題を考え始めた私は、ごく自然に『カラマーゾフの兄弟』に出て来る「大審問官」のことを連想しました。有名な話なので、ご存知の方も多いと思います。無神論者イヴァン・カラマーゾフが考え出した大審問官は、キリストの教えを世俗的な欲望を持った民衆に広めるために、キリストが一度は退けた悪魔と結託した秘密結社の統領として描かれています。もしもブッシュが、すべてを自覚し、周到な計画の上で、いまの戦略をめぐらしているのだとしたら? もしも彼自身はキリスト教原理主義などつゆほども信じておらず、しかもそれが自分達の確固たるルーツを持たず、回帰すべき場所を持たない愛する米国民にとって、どうしても必要な教義であると信じていたとすれば? これはブッシュ政権が内部で腐敗しているという仮説よりも、はるかに恐ろしい仮説であるような気がします。

 このブログで前にもご紹介した、私の愛読している永井俊哉さんのブログや、宇佐美保さんのホームページに、9.11の同時多発テロに関する重大な疑惑が提起されています。あの事件は、ブッシュ政権の自作自演ではなかったかというのです。むろんそれはひとつの可能性として示されているだけで、我々にはそれを信じる何の証拠もありません。私は、いくらなんでもそんなことはあり得まいと思っていたのですが、もしもブッシュ大統領が悪魔と結託した、ひとつの理想を信じた宗教家でもあるなら、この疑惑が突如現実味を帯びて立ち上がって来るように思えるのです。街にクリスマスソングが流れるなか、ふと思いついた一睡の悪夢に過ぎないでしょうか…

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