2016年12月24日 (土)

「絆クーポン」よくある質問と答え

1.クーポン券の受け取りについて

【Q】クーポン券を受け取るために、毎月市役所の窓口に行くのが面倒です。土休日は役所は休みですし、もっと簡単に受け取れる方法はありませんか?

【A】方法はいろいろあると思います。例えば自治体が運営しているさまざまな施設にも窓口を設置するアイデアはどうでしょう。専用の窓口でなくても構いません。インターネットにつながったパソコンと、受給者証のバーコードを読み取るバーコードリーダーがあれば、どこでもクーポン券の発行はできます。市役所やその支所には常設の窓口を置くことにして、その他にも公民館、公会堂、図書館といった施設にも臨時の窓口を置くのです。施設によっては土休日も営業していますから、市民にとっての利便性は高まるはずです。
あとはクーポンの配布を民間に委託してしまう方法もあります。給与支払を企業に委託する案は本文にも書きましたが、その他にも市内のショッピングセンターや金融機関などに委託する方法も考えられます。店内に窓口を設置すれば、客寄せにもなりますから、手を挙げる事業者は多いのではないでしょうか。
さらに、これは感謝給付の受給者限定になりますが、クーポン券を郵送で送るサービスがあってもいいですね。

2.窓口業務に必要な人件費は?

【Q】毎月、たくさんの人がクーポンを受け取りに窓口を訪れることになりますが、窓口業務にかかる人件費も相当なものになるのではないですか?

【A】簡単に試算してみましょう。人口10万人ほどの標準的な規模の市で「絆クーポン」を導入しました。個人のクーポン利用者が3万人、店舗を含む法人の利用者が1千社くらいになったと想定します。すると毎月3万1千人が窓口を訪れることになります。個人利用者の方は、受給者証をバーコードで読み取って、表示された金額のクーポンを渡すだけですから、対応にそれほど時間はかかりません。ひとり当たりの対応時間を2分とすれば、延べ6万分、つまり1000時間になります。これは6人/月くらいの工数に相当します。法人利用者の方は、クーポン券の半券を数える作業がありますから、それなりに時間がかかりそうです。1社当たり30分とすれば、延べ3万分、つまり500時間、3人/月くらいの工数になります。それ以外にも、期限切れのクーポン券の交換に来る利用者もいますから、窓口業務の月間工数は合計10人/月くらいと見積もっていいと思います。要するに人口10万人当たり、10人の専任職員を用意する必要があるということです。
 しかし、実際にはそれほどの工数はかからないでしょう。最初のQ&Aにもあったように、窓口業務の一部は民間に委託する選択肢がありますし、市の施設で(追加の人員配置は無しに)窓口業務の一部を担ってもらうこともできるからです。ここでは仮に6人の臨時職員を追加で配置するとして、年間ひとり500万円、合計3000万円の人件費を見ておきましょう。

3.市の財政負担はどのくらい?

【Q】かかる費用は人件費だけではないと思います。この政策を採用することで、市の財政負担はどのくらいの規模になるのでしょう?

【A】人件費以外の費用で金額が大きいものは、クーポン券の印刷費とシステムの構築運用費です。クーポン券の印刷費は、3万人の利用者に毎月平均2万円ずつのクーポンを配るとして、6億円分で5000円のクーポン冊子が12万冊。1冊当たりの印刷費を50円とすれば月に600万円、年間で7200万円になります。システムの構築費は大雑把に5000万円、運用費は年間1000万円程度と見ておきましょう。システムは一度構築すれば5年間くらいは使えるので、年間費用としては2000万円くらいを見ておけばいいだろうと思います。
 それ以外にも広報費や郵送費、ポスターやノボリの制作費などさまざまな費用がかかることが予想されます。さきほどの人件費と合わせて、ざっと1億5千万円くらいの予算を見ておけばいいのではないでしょうか。

4.実行予算は誰が負担するのか?

【Q】市の財政は赤字なのに、年間1億5千万円もの追加予算がどこから出るのですか?

【A】それは心配いりません。市の予算のなかには「絆クーポン」政策によって削減できるものもあるからです。まずは公務員の人件費。日本の地方公務員の数は約273万人ですから、日本の総人口1億2700万人で割れば、国民の2%以上が地方公務員ということになります。つまり10万人規模の自治体では、2千人程度の公務員を抱えている訳です。この人たちの平均年収を500万円として、その5%がクーポンに置き換われば、500万円×5%×2千人=5億円の人件費削減効果が見込まれます。さらに市の調達費も一律10%がクーポンに置き換わりますから、ここでも予算を削減できます。年間50億円の調達をしている市は、5億円の削減が可能だということです。(ただし、入札金額が多少上振れするので、実際の削減額はそれより小さくなるでしょう。)
 かかるコストを差し引いても、十分おつりが来ます。要するに「絆クーポン」政策によって自治体は儲かるのです。これは「絆クーポン」が政府通貨の一種であることを思い出していただければ、当然のこととして納得いただけるだろうと思います。ただ、儲かると言っても、議員さんや公務員の方たちにその儲けが行く訳ではありません。単に財政赤字が改善されるだけだと考えてください。行政クーポン政策で経済的な恩恵に与れるのは、あくまで社会保障分野で働いている人や子育て中の家庭などだけです。それが感謝通貨というものの基本コンセプトなのです。

5.国政との関係について

【Q】地方自治体が独自のクーポン券を発行して行政支出の一部に使うことを、国が認めてくれるでしょうか?

【A】正直なところ、そこは分かりません。取引額や給与の一部が「絆クーポン」に置き換わってしまうと、消費税や所得税の収入が減ることになりますから、財務省や国税庁は面白くないと思うかも知れません。例えばこの政策を「経済特区」として認めてもらい、国のお墨付きを得た上で実行できれば一番いいのですが、それは難易度が高そうです。
 ただ、クーポン形式の地域通貨を法的な根拠を以て禁止することは難しいだろうと思います。日本には明治時代にできた「紙幣類似証券取締法」というたいへん古い法律があって、今もこれが生きています。政府以外の機関が独自に紙幣を発行することを禁止する法律ですが、地域通貨に適用された事例は無いようです。
 Wikipediaの記述によれば、「2003年2月に財務省は「複数回流通は登録事業者間に限る」「換金は登録事業者が指定金融機関で行う」などの条件を満たせば「紙幣類似証券取締法」に違反しない、との方針を示した」とのことですから、事前の登録事業者制で、そもそも日本円との換金を認めていない「絆クーポン」は、取り締まりの対象にもならないだろうと思います。

6.通貨の流通ルールについて

【Q】個々の商品にクーポンの限度額を設定するのは面倒です。いっそ「絆クーポン」は日本円と同等に使えるようにして、売り手は受け取りを拒否できないルールとしてしまってはどうですか?

【A】確かに「絆クーポン」が日本円とまったく同じように使えれば、利用者にとっても便利ですし、お店にとっても値付けに余計な手間がかからないのでよいかも知れません。預かったクーポンは、次の仕入にも無条件で使える訳ですから、業者間の交渉も必要ありません。一見するといいことづくめのようです。
ところが、これは現実には不可能なことなのです。「絆クーポン」を日本円と同等に扱うと言っても、それは市内のクーポン扱い業者の間だけでのことです。市外の業者から仕入れる場合にはクーポンは使えません。すべての商品が原材料に至るまで市内で生産されているなら話は別ですが、そうでなければクーポン券の流通はどこかで行き止まりになってしまいます。そして最後にクーポンをつかまされた業者が一社で損をかぶることになってしまう。これは「絆クーポン」の主旨に反します。感謝通貨は、あくまでその主旨に賛同する人や企業が無理のない範囲で受け取るべきものなのです。

7.電子マネー方式の採用

【Q】紙のクーポンではなくて、電子マネーにしてしまえば、行政窓口やお店のレジの負担も減るのではないですか?

【A】その通りです。実は「絆クーポン」の最終的なあるべき姿は、私たちがふだん使っているようなICカード型の電子マネーにチャージできるお金にすることなのです。書籍版の『約束するお金と感謝するお金』では、感謝通貨は最初から電子マネーとして設計する前提にしています。「絆クーポン」を紙のクーポン券にする理由は、単に初期コストを落としたいからです。市には予算がありませんからね。もちろん予算が潤沢にあるなら、最初から電子マネーとして導入することもありです。可能であるならその方が望ましいと思います。人件費や印刷費のことを考えると、長い目で見れば電子マネーを採用した方が全体のコストは安上がりかも知れません。
電子マネー版の「絆クーポン」を導入するに当たっては、紙のクーポンとは異なるいろいろな工夫が必要になります。例えば、減価するお金というコンセプトをどのように実現するか? あるいは個人間でお金を授受するための方法はどうするか? これについて興味のある方は、ぜひ書籍版の『約束するお金と感謝するお金』をお読みください。

8.不正使用の防止について

【Q】偽造したクーポン券や使用期限切れの券を使われても、お店ではなかなか気付きにくいと思います。不正防止のためにはどんな対策がありますか?

【A】偽造しにくい紙幣を作る技術にはいろいろなものがあると思います。コピーしにくい特殊なインキを使ったり、ホログラムや透かしを入れたりといった方法が思い付きます。が、それが採用できるかどうかはコストとの兼ね合いで検討しなければなりません。最長2か月で使い捨てられてしまう「絆クーポン」の印刷には、あまりコストをかけたくないのが正直なところです。
使用期限切れの紙幣をひと目で見分けるためには簡単な方法があります。発行月によって紙幣の台紙の色や文字の色を変えればいいのです。今月使えるクーポン券はこの色ということが周知されていれば、顧客が使用期限切れの紙幣を間違えて使ってしまっても、お店はすぐにチェックすることができます。

9.事業者のクーポン券使用

【Q】企業や店舗が受け取った紙のクーポン券を、そのまま次の仕入や給与支払に回せば、減価損が回避できると思います。それは問題ありませんか?

【A】当然そう考える事業者は出て来るでしょう。でもそれは認められません。事業者が「絆クーポン」での支払や給与支給を行なう場合には、必ず自社の口座を通さなければなりません。これは「絆クーポン」を扱う上で守らなければならない基本ルールです。「絆クーポン」の基本的なコンセプトは、クーポンを扱うすべての個人や法人が平等に減価損を負担するということで、そのためにこのルールが必要なのです。
とは言っても、仕組みの上でこのルールを確実に守らせることは難しいと思います。個人事業者などが顧客から受け取ったクーポン券を、減価する前に他の個人事業者への支払に使ったり、家族の生活費の一部として使ったりしてしまうなんてことはありそうです。ただこれに対しては、あまり厳しく取り締まらなくてもいいのではないかと思っています。「絆クーポン」は、個人間で取引をする場合には同月内に何回流通させても構いませんし、むしろそれが奨励されます。個人商店や個人事業主によるプライベートなクーポン使用もそれに準じるものと考えるのです。法人格を持たない個人事業者では、口座を通さない簿外のクーポン取引を合法化してしまってもいいかも知れません。ただし、たとえ個人事業者であっても従業員の給与の一部に現物のクーポン券を混ぜるのは厳禁です。これは罰則の対象となります。

10.クーポン券と日本円との交換

【Q】クーポン券を金券ショップのようなところで売り買いすることは可能ですか?

【A】感謝通貨は日本円とは交換できない地域通貨というコンセプトで開発されました。ただ、これは通貨の発行元が交換には応じないということであって、市場での自由な交換を禁じるということではありません。もしも扱えるものなら、金券ショップで扱ってもらっても構いません。地域限定の減価するクーポン券になど値段がつくだろうかという疑問が出ると思いますが、ニーズはあるはずです。もしも使用期限切れ間近のクーポン券1000円分を日本円700円で買えるとしましょう。1万円の買い物に1000円のクーポンが使えることが分かっているなら、金券ショップでクーポン券を買うことにも意味があります。
これは感謝給付や給与の一部として、使い切れないほどのクーポンを受け取った人にとって、うれしいサービスかも知れません。クーポン券が使われないまま期限切れを迎えてしまうことは、クーポンの所有者のみならず、地域経済にとっても損失になりますから、むしろ推奨されるべきサービスとも言えそうです。ただ、金券ショップにとっては、クーポン券を買い取ることにはリスクがありますから、常にクーポン券を買い取ってもらえるとは限りません。むしろ使い切れないクーポン券は、個人間で無償で贈与される機会が増えるような気がします。その方が感謝通貨の本来の主旨にも叶っています。

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2016年11月13日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(5)

9.「絆クーポン」政策のまとめ

 ここまでの説明で、「絆クーポン」の概要についてはご理解いただけたかと思います。本稿は自治体に向けた政策提案という目的で書いているものですから、これを実施するに当たって自治体が行なうべきことをもう一度まとめておきましょう。まず、市役所を始めとする市の行政窓口に「絆クーポン」の担当を置きます。ここで行なう月間の業務を時系列的に並べてみると、月の前半には小売店の担当者が使用期限切れになったクーポンの半券をたくさん窓口に持ち込んで来るでしょう。それを数えてその業者の口座に入金します。入金する金額は額面額の8掛けです。また月の前半には業者から振込依頼データが集まって来ます。その受付とチェックはコンピュータシステムが自動で行ないますが、エラーが起こった場合などの業者からの問い合わせに対応するのは窓口の仕事です。15日の深夜に業者間の振込処理が一斉に実行されます。これもシステムによって自動で行なわれます。残高不足が起こった場合に不足分の督促状を出すのもシステムですが、それを発送するのは人手の作業になるでしょう。

 月の後半になると、クーポン取り扱い業者や社会保障分野の業者などから、従業員の給与情報や感謝給付のもとになる勤務情報が集まって来ます。データチェックはシステムが行ないますが、トラブルや問い合わせへの対応は担当者が行ないます。その後、月末にかけては、窓口にクーポン券を取りに来る個人への対応で忙しくなります。利用者の利便性を考えると、平日だけでなく土休日にも開いている窓口を設けておく必要があるかも知れません。(従業員の多い企業などには、クーポンの新札を預けておいて、配布業務を委託してしまうのが現実的だろうと思います。) 窓口には時期を問わず期限切れのクーポン券を交換しに来る個人もいるはずです。その対応も窓口業務のひとつです。交換比率が8掛けであるのはすでに説明しました。クーポン券の新札は毎月20日頃に発行されます。クーポン券は月ごとに台紙の色を変えるなどして、ひと目で最新のクーポンが見分けられるようにしましょう。そうすることで行政窓口やお店での負担を減らせるはずです。

 もうひとつ市が行なうべき重要な仕事があります。「絆クーポン」に関する申請を受理し、審査をして認定を行なうという仕事です。お店や企業からは「絆クーポン」を取り扱いたいという申請が来ますし、社会保障関係の事業者からは感謝給付の対象事業者として認定して欲しいという申請が来ます。また子育てや介護をしている家庭からは、個人として感謝給付の受給申請が来るでしょう。これらの申請はインターネットで受け付けますが(紙での申請もできます)、審査と認定を行なうのは人間です。もっと正確に言うと、議会が作成した審査基準に従って、市の担当部門が認定を行なうということです。感謝給付というのは、市が私たち市民を代表して、社会の持続性を支える仕事をしている人たちを応援しようという主旨で実行されるものですから、審査は厳正である必要がありますし、審査基準は市民感情を反映したものである必要があります。

 さらに「絆クーポン」の担当部門が行なわなければならない業務として、クーポン流通の監視と分析ということがあります。市中に「絆クーポン」がどれだけ流通しているかということは、毎月の発行額と減価率で理論的に計算できる訳ですが、実際の市中残高は計算どおりにはなりません。発行されたクーポン券のなかには、交換期限が過ぎても交換されずに、消失してしまうものもあるからです。ただ、使用期限が過ぎたクーポン券の交換状況も市は把握している訳ですから、どれだけのクーポン券が交換されずに消失したかということも分かります。もうひとつ計画どおりに行かない要素として、業者間取引においてクーポン残高が不足した場合の市による補填ということもあります。こういった要素をすべて勘案して、クーポン流通の全体像を正確に把握するのです。これによって例えばどのような業種で「絆クーポン」があまり使われていないかといったことをチェックして、次に行なうべき対策につなげるのです。

 最後にコンピュータシステムが備えておくべき機能についても簡単にまとめておきましょう。行政クーポンシステムはふたつのサブシステムから構成されます。ひとつはメインとなる通貨流通システムで、そのなかには企業の口座管理や振込処理、個人の給与支給や感謝給付を行なう機能などが含まれます。もうひとつはインターネット上のポータルシステムで、そのなかには各種申請の受付やお知らせ機能、「絆クーポン」取り扱い業者の紹介ページなどが含まれます。コンピュータシステムとしては、それほど大規模なものではありませんし、技術的にも特に難易度の高いものではありませんから、構築費用もそれほど高額にはならないだろうと思います。(業者に見積を依頼すれば数千万円の見積書が送られて来るでしょうが、業務要件定義と基本設計までを発注者側でやってしまえば、もっとずっと安上がりにできるはずです。) 参考までに、このシステムの主要な機能の一覧を挙げておきます。

【通貨流通システム】

機能モジュール名 主要なシステム機能
口座管理 口座残高管理機能、入出金履歴管理機能、月次繰越時の減価機能
口座間振込管理 振込依頼受付機能、出金・入金データ集計機能、残高不足時の立替機能
感謝給付管理 感謝給付対象者管理機能、感謝給付データ受付機能、クーポン券配布機能
給与支払管理 給与対象者管理機能、給与データ受付機能、クーポン券配布機能
債権管理 残高不足時の立替機能、督促状出力機能、入金確認機能、未納金額管理機能
通貨流通分析 流通残高計算機能、産業別流通状況分析機能、税収との相関分析機能

【ポータルシステム】

機能モジュール名 主要なシステム機能
ポータルページ 「絆クーポン」の紹介、各種お知らせ・イベントの告知、よくある質問
企業・店舗向け機能 ログイン管理機能、クーポン取扱申請機能、通貨流通システムへのリンク
社会保障関連業者向け機能 ログイン管理機能、感謝給付認定申請機能(法人)、通貨流通システムへのリンク
個人利用者向け機能 ログイン管理機能、感謝給付認定申請機能(個人)、未発行クーポン残高参照機能
ショッピングモール 「絆クーポン」取扱店紹介、店舗サイトへのリンク、(ネット通販機能)

10.縦糸の経済と横糸の経済

 「絆クーポン」政策の主旨をひと言で言えば、企業と消費者のためのお金である日本円(銀行通貨)に対置させて、新たに生活人のためのお金(感謝通貨)を創り出そうという試みだと言えます。いま「対置させて」と書きましたが、このふたつのお金は、決して互いを排除するものでも互いに競合するものでもなくて、補完し合うものだという点を最後に強調しておこうと思います。現在の資本主義経済の最大の問題点は、経済的価値を創造する機会を営利企業が一手に独占してしまっているところにあります。行政クーポン政策(あるいはもっと広く政府通貨政策と言ってもいいのですが)を導入する目的は、企業に属さない個人の活動にも経済的価値の裏付けを与えて、特に営利企業が手を付けない分野での価値創造を促進しようというところにあります。

 ここでちょっとあなた自身のことを振り返ってみてください。あなたは最近誰かとのあいだで、個人的にお金のやり取りをしたことがありますか? 会社から給料を支払われたり、お店に代金を支払ったりすることは私たちの生活の一部ですが、個人間でお金の授受をする機会というのは思いのほか少ないのではないでしょうか? 例えばインターネットオークションやフリーマーケットのような場所では、個人間でのお金のやり取りも発生しますが、その割合は経済全体から見ればとても小さなものです。またそういうところで売り買いされているものの多くは、企業が製造した製品の中古品だったりする訳で、純粋に個人が産み出した価値が売り買いされている訳ではありません。少し乱暴に言えば、現在の通貨制度のなかでは、企業に属さない個人が独自の価値を産み出すことは、まったく評価されないし、また歓迎もされない仕組みになっていると言えるでしょう。

 別に個人間の金銭授受が法律で禁止されている訳ではないのですから、もっと気軽にお金を使えばいいのではないかとも思います。例えば、子供が熱を出したので保育園に預けられないといった時に、近所の家で預かってもらうといった状況を考えてみましょう。あるいは足腰が弱くなったお年寄りのために、クルマでショッピングセンターに行ったついでに買い物を頼まれるといった状況でもいい。そんな場合に、日本円でいくらくらいの謝礼を渡せば妥当だと思いますか? これは人によって感じ方が違うかも知れませんが、そういった近所付き合いのなかでの親切に対しては、金額の多寡にかかわらず、日本円をやり取りすることに心理的な抵抗を感じるのがふつうではないでしょうか。子供を1日預かるのに1000円、買い物1回につき100円、そんなふうに取り決めたとしても、近所付き合いのなかでのお金の授受はやはり気が引ける。お金を媒介させてしまうと、親切が親切ではなくなってしまうような気がする。

 これはどうしてかと言えば、現在のお金というものが私たちの感謝を表すために作られたものではないからです。私たちが毎日使っている銀行通貨は、銀行が事業を興す企業に貸し出すことで生まれるものです。(このことを銀行の信用創造機能と言います。) 企業は事業を成功させて、借りたお金に利子を付けて返さなければならない。銀行は銀行で、企業の事業計画を査定して、それがうまく行かなかった時の貸し倒れリスクを自ら背負わなければならない。そんな冷厳な通貨ルールのなかに、人の感謝なんて感情が入り込む余地はありません。私たちは、そのことを肌身で感じているからこそ、企業活動に関わらない部分に日本円が使われることに違和感を感じるのではないかと思います。日本円のような銀行通貨は、別名「信用通貨」とも言いますが、銀行通貨にふさわしいのはまさに「信用」であって「感謝」ではないのです。

 このことを裏返せば、私たちが個人間で価値を交換し合うためには、信用通貨ではない別のお金、つまり感謝を表すためのお金である「感謝通貨」が必要だということでもあります。「絆クーポン」はまさにこの目的のために創られたお金だと言えます。最初に行政が発行する時には、社会保障分野で働いている人たちや、無報酬で社会の持続性のために働いている人たちに対する感謝という名目で発行されるのですが、いったん世の中に出回ってしまえば、それをどう使うかは私たちの自由です。財布のなかに使い切れないクーポン券が余っていても、あわてる必要はありません。日本円はお店や企業に支払うお金と割り切って、近所付き合いや地域のちょっとしたボランティア活動などには「絆クーポン」を積極的に使えばいいのです。「絆クーポン」の使い手である私たちは、これまでのお金に対する考え方を大きく転換しなければならなくなるでしょう。

 日本円の経済が「縦糸」だとすれば、「絆クーポン」の経済は「横糸」に喩えられるかも知れません。縦糸だけでも、横糸だけでも、丈夫な布は織れません。価値の交換手段を銀行通貨だけに頼っている社会は、実は非常に破れやすく脆いものなのではないかと私は思っています。地球温暖化や環境問題がこれだけ深刻になっているのに、いまだに経済政策と言えば成長戦略しか打ち出すことのできない現政権のことを考えてみてください。驚くことに、銀行通貨の経済には「成長」という唯一の目標しかないのです。誰がどう考えても、有限な地球環境のなかで永遠の経済成長などあり得ないにもかかわらず、そこから持続可能な経済に移行するための道が私たちには見えていない。自治体による「絆クーポン」政策の試みは、ほんの小さな最初の一歩に過ぎませんが、持続可能な経済への転換に向けた壮大な社会実験でもあるのです。

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2016年10月31日 (月)

「絆クーポン」を始めませんか?(4)

7.感謝給付のルールと手続きについて

 企業給与について説明したついでに、社会保障分野で働く人への「絆クーポン」の給付についても、もう少し具体的に説明しておきましょう。この給付のことを「感謝給付」と呼ぶのですが、これを営利企業のクーポンによる給与支給と区別して理解しておく必要があります。というのは、どちらもクーポンを受け取る側の人から見れば、役所の窓口に行って受給者証を提示し、クーポン券を受け取るという手続きに変わりはないからです。企業の給与はその企業のクーポン口座から支払われるのに対し、感謝給付の方は行政が直接給付金として支払うという点が違います。

 保育園や高齢者施設などを運営する企業にも、感謝給付の対象法人として登録してもらう必要があります。対象となるのは、保育や介護の分野で事業を行なっている事業者だけではありません、障害者福祉、教育、医療などの分野の事業者も登録することができます。さらには環境保護や清掃・美化活動などを行なっているボランティア団体なども(審査は必要ですが)感謝給付の対象となり得ます。簡単に言えば、現代の資本主義経済のなかで、営利を求めるよりも社会の持続性を陰で支えるような活動をしている法人や団体などが対象になるということです。

 こう言えば、介護や医療などの分野でも営利を追求している企業はたくさんあるし、また実際大きな利益を出している事業者も多いのではないかという反論が来るかも知れません。そのことは別に構わないのです。というのも、感謝給付対象企業として登録しても、その企業にとって何も経済的なメリットが無いからです。「感謝給付対象企業」は、すでに説明した「感謝通貨取り扱い企業」とは違って、従業員給与の一部をクーポンで支払うこともできませんし、顧客(利用者)からクーポンを受け取ることもできないからです。

 何もメリットが無いなら、感謝給付対象企業として登録しようという事業者も現れないのではないか? 当然そういう疑問が湧くと思いますが、そうではありません。メリットは別のところにあります。感謝給付対象企業として登録されると、直接の恩恵はそこで働く人たちに行きます。もともと「絆クーポン」導入の主旨は、社会保障分野で働く人たちの安過ぎる給与を行政が補償しようというものでした。そのために事業者ではなく、自治体がクーポンを発行するのです。では事業者にとってのメリットはどこにあるのか? 感謝給付対象の事業者であることをアピールすれば、職員の募集がしやすくなりますし、職員のひんぱんな離職を予防する効果もあるという点です。同じように最低賃金に近い待遇で働くなら、コンビニのレジ打ちよりも感謝給付のある介護職の方が条件がいい訳ですから、これは当然のことです。

 具体的な感謝給付の方法はこうです。まず感謝給付によって補償すべき時給の水準を決めます。ここでは仮に時給1,500円としましょう。これは1か月フルタイムで働いて、約25万円くらいの支給総額になる給与レベルです(8時間×21日×1,500円=252,000円)。社会保障の現場で働いている人の実際の月の支給総額を、残業まで含めた総労働時間で割れば、その人の実質的な時給が計算できます。もしもその額が基準の1,500円を下回っていたとすれば、その差額を行政が「絆クーポン」で補うというのが感謝給付の考え方です。例を挙げます。月間の総労働時間が200時間で、残業代まで含めた給与総額が275,000円の人がいたとしましょう。するとこの人の時給は、275,000円÷200時間=1,375円となります。基準の1,500円に足りませんから感謝給付の対象になります。感謝給付の額は(1,500円-1,375円)×200時間=25,000円となります。公式で表せばこうです。

感謝給付額=(1,500円-実際の時給)×総労働時間

 感謝給付対象法人として登録された企業は、従業員の毎月の給与総額と総労働時間を自治体に報告する義務を負います。対象となる従業員は、介護士さんや保育士さんに限りません、事務職員なども含めてその事業所で働くすべての人が対象になります。営利企業が従業員にクーポン建てで給与を支給する場合には、「絆クーポン」のホームページから個人ごとの支給額を入力しました。感謝給付の場合は、それとは少し違って、従業員の月間労働時間と給与総支給額を報告するのです。この時、感謝給付の対象とはならないと思われる時給の高い従業員についても報告してもらうこととしましょう。感謝給付の支給額を決定するのは、あくまで行政側だからです。全従業員の給与データを報告してもらうことで、不当なサービス残業などが行なわれていないかチェックすることもできます。

 また社会保障分野で職業として働いている人以外でも、家庭内で育児や介護をしている人も感謝給付の対象としましょう。最近、待機児童や介護離職というコトバがマスコミを賑わすことが多いですが、家庭内で育児や介護をしている人たちこそ、日本円の経済から最も見返りを得ることなく、社会の持続可能性に貢献している人たちであるとも言えますから。これら家庭内の労働に対する感謝給付の査定方法は、労働時間に応じたものではなく、個別の基準に沿ったものとなります。例えば、小学生以下の子供ひとりにつき月に2万円、18歳以下の子供ひとりにつき1万円といった具合です。介護の場合なら、要介護度に応じて感謝給付の額をスライドさせればいいでしょう。

8.公務員給与と自治体の支出

 ここまで「絆クーポン」の流通ルートについて説明して来ましたが、最後に行政自身がどのようにこの新通貨の流通に関わるかということを説明しなければなりません。具体的に言うと、公務員給与と自治体予算の話です。市内の民間企業の多くで、従業員給与の一部が行政クーポンに置き換わっているのに、公務員給与だけが従来どおり満額日本円で支給されていたのでは、市民から不満の声が湧き起こるに違いありません。行政クーポンを導入するなら、まず魁より始めなければならない。そこで公務員給与の一部もクーポンに置き換えます。その割合は、行政が定めた最高比率(本稿では1割と仮定しています)に合わせます。市の職員や市議会議員、もちろん市長さんの給与も一律1割がクーポンになります。ここでも最低賃金に合わせた基礎控除がありますから、実質的な比率は1割より低くなるでしょう。給与水準の低い人ほどクーポン比率は小さくなります。それでも市全体として見れば、かなりの人件費削減になるはずです。

 それと同時に、人件費以外の市の支出にもクーポンを使うことにします。例えば公共事業や市による物品の購入といった調達費の一部も「絆クーポン」に置き換えるということです。ここでもクーポン比率は1割で固定としましょう。例えば、市の発注に対して1億円で応札して受注した業者に対しては、日本円で9千万円とクーポンで1千万円が支払われるということです。これは無謀な政策だと思われるかも知れませんが、決してそんなことはありません。調達の条件はあらかじめ公開される訳ですし、もしも日本円で1億円の売上が必要なら1億1千111万円で入札すればいいだけだからです。競合が1億円で入札して来たら負けますが、これは競争入札なのだから仕方ありません。それでは地元のクーポン取り扱い業者ばかりが有利になってしまう? いや、そうとも限りません。受注した企業は、たとえ市外の企業だったとしても、クーポン取り扱い業者として認定され、クーポン口座を与えられます。振り込まれたクーポンを有効に活用する手段は、市外の業者であってもいろいろ考えられるだろうと思います。

 繰り返しますが、市が公務員給与や調達費の一部として支払うクーポンには、まったく財源が要りません。「絆クーポン」は政府通貨(行政通貨)の一種であり、行政の判断で自由に発行できるものなのです。こう言うと、財政規律を無視した非常識な政策のように思われるかも知れませんが、そうではないというのが本稿の主張です。行政クーポンを導入することによって、得をするのは誰でしょう? 公務員の皆さん、市会議員さん、市長さんといった人たちはまったく何も得をしません。給料の一部がクーポンに置き換わってしまうのですから、むしろ損をします。この点は民間企業(営利企業)の社員と同じです。「絆クーポン」政策で得をするのは、感謝給付を受けている人たちだけです。つまり社会保障分野で働く人やボランティア活動をしている人、子育て中の人などです。これが「絆クーポン」を感謝通貨と呼ぶゆえんであり、行政通貨の財政規律もこれによって担保されているというのが本稿の考え方です。

 自治体の支出に関連して、いくつか細かいルール決めをしておく必要があります。例えば生活保護費を支給する際にも、一部をクーポン建てにするのか? 国民年金や児童手当のようなものはどうするのか? 筆者が書いた本のなかでは、これらの社会保障費も一律1割を感謝通貨に置き換える構想でした。感謝通貨の発行元が国であるならばそれも可能なのですが、自治体クーポンの場合はそうは行きません。社会保障費の支給基準は、たいていは国が決めているものだからです。しかし、予算の内訳を見れば自治体の負担になっているものもあります。例えば生活保護費は、国の負担が75パーセント、自治体の負担が25パーセントとなっているようです。その25パーセントのさらに1割をクーポン建てにすることは可能なのではないか。ここは国との調整が必要ですが、「絆クーポン」を実施する自治体としては、なるべく多くの市民にクーポンが行き渡る方向で考えるべきです。「絆クーポン」は、社会の持続可能性を陰で支えている人たちを私たちみんなで支えようという理念に基づいたものであり、そのためには(生活保護受給者も含めて)なるべく多くの人に利用者になってもらうことが望ましいのです。

 行政支出の一部が元手の要らないクーポンに置き換わることで、自治体予算は当然削減できることになります。10パーセントとは言いませんが、数パーセントの削減効果は見込めるでしょう。公務員給与や政府調達費の一部を行政クーポンで支払おうというのですから、これは当然のことです。慢性的な赤字体質に悩んでいる自治体にとっては魅力的な政策かも知れません。しかし、話はそううまく行くとは限りません。というのも、市内の取引の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ消費税が減ることを意味しますし、市内で働く人の給与の一部がクーポンで置き換わるということは、その分だけ所得税や住民税が減ることを意味するからです。(「絆クーポン」は非課税のお金だということを思い出してください。) つまり市の財政にとってマイナスの面もあるということです。市内経済が活性化することで、税収が増えるというプラスの効果も期待できる一方、行政通貨の発行益がそのまま市の財政赤字削減に充てられる訳ではない点は注意してください。

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2016年10月23日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(3)

5.減価するお金というアイデア

 この項では財政面から見た「絆クーポン」について考察します。ここが行政クーポンというものの最大のセールスポイントになるのですが、クーポン発行には財源が必要ないということをまず理解していただく必要があります。もともと「絆クーポン」は日本円とは交換できないものですから、払い戻しのための引当金も要らないのです。もちろんクーポン券の印刷代やシステム費用、窓口業務の人件費などはかかる訳ですが、クーポン券自体は財源の裏付けなしに、あたかも打出の小槌を振ったように何もないところから産み出すことができます。そんなものを市中に供給し続ければ、すぐにインフレが起こって、クーポン券の価値も暴落してしまうのではないか、当然そういう疑問が湧いて来ると思います。

 そのためにクーポン券には使用期限を設けています。クーポン券が発行月の翌月いっぱいで使えなくなってしまうとすれば、毎月同じ額のクーポンを発行したとしても、市中で流通するクーポン総額は増えも減りもしません。つまりインフレともデフレとも無縁になるのです。ただし、ある日を境に突然クーポン券が紙くずになってしまうのでは、利用者に無用な心理的圧力をかけることになりますし、期限日の直前には手持ちのクーポンを使ってしまおうとする人でお店が混乱するかも知れません。そこでクーポン券の期限を2段階で設定します。それが使用期限と交換期限というふたつの期限になります。

 「絆クーポン」は毎月20日頃に新札が発行されます。発行された月内には、まだそのクーポン券はお店では使えません。使えるのは発行月の翌月の1日から末日までの1か月間で、これはクーポン券の表面に「使用期限」として明記されています。使用期限を過ぎたクーポン券は、お店では使えなくなりますが、市の窓口に持って行けばその時点で一番新しい新札と替えてもらえます。これができるのが交換期限で、使用期限の翌月1日から末日までの1か月間になります。これも「交換期限」としてクーポン券に明記されています。つまり使用期限切れが近づいているクーポンを持っていても、それほどあせる必要はないのです。交換期限も過ぎてしまったクーポン券は、ただの紙くずになってしまいます。

 交換にデメリットがないかというと、そうではありません。新札との交換は等価交換ではないのです。交換手数料として2割が引かれます。500円分のクーポン券を交換に出しても、400円分の新札しか受け取れないのです(端数は切り捨てとします)。これはどういうことかと言うと、「絆クーポン」は月をまたぐ時点で必ず20パーセント分だけ目減りしてしまうということです。先ほど業者が口座にクーポン券を入金する時のルールを説明しました。この場合も預け入れは交換期限内に限定されて、しかも入金額は額面の2割引きになってしまうのでした。つまり、「絆クーポン」は、紙幣であっても銀行預金であっても、必ず月に20パーセントずつ減価するということなのです。

 地域通貨を論じる書物をひもどくと、よく「減価通貨」というアイデアが出て来ます。時の経過とともに額面額が減って行ってしまうお金のことで、「マイナス利子のお金」などと呼ばれることもあります。「絆クーポン」はこの「減価通貨」の一種なのです。マイナス利子のお金は、私たちがふだん使っているプラス利子のお金(つまり銀行通貨)とは正反対の性質を持つものになります。銀行通貨は銀行に預けておけば(多少は)プラスの利子が付きますが、減価通貨は口座に預けていても紙幣で持っていても、時の経過とともに目減りして行ってしまいます。当然、貯蓄のためには向かないお金なので、これを導入すると経済の流れがよくなります。経済格差を是正するという効果も期待できます。

 さらに減価通貨が持つ最大のメリットは、これを政府通貨として発行した場合、市中に流通する通貨量を行政が完全にコントロールできるという点にあります。簡単なグラフを描いてみましょう。ある自治体が毎月2割ずつ減価する行政クーポンを、毎月1億円分発行したとします。すると市中に流通するクーポン残高はどうなるか? それを示したのが次のグラフです。

Genka_sim1

 これを見れば分かるとおり、減価通貨は毎月一定額ずつを発行したとしても、その流通量はある上限額で頭打ちになります。この例で言えば、市中の流通総額は5億円で一定になっていますね。これは当たり前の話で、流通している5億円の2割に当たる1億円がひと月ごとに目減りしてしまうのだから、毎月1億円の新札を発行しても流通総額は増えも減りもしないのです。計算式に表せば次のようになります。

[減価通貨の流通額]=[一定期間に発行する通貨額]÷[同じ期間の減価率]

 通貨の発行額や減価率は、行政が政策として決定できるものですから、減価通貨は行政によってコントロール可能なお金であることがお分かりいただけたと思います。しかも財源が全く要らないのですから、これは完全に持続可能性な政策だとも言えます。単に持続可能なだけではありません、減価通貨政策にはちょっとやそっとではインフレやデフレに振れないという柔軟性もあります。例えば毎月1億円ずつの行政クーポンを発行して、流通残高を5億円にコントロールしていた自治体が、地震などの震災対策としてある月だけ臨時に10億円分のクーポンを発行したとしましょう。この場合でも市中の流通額は、ほどなく5億円に戻ることがグラフを見れば分かります。つまり、減価通貨は災害支援のためのお金としても優れているのです。

Genka_sim2

6.「絆クーポン」による給与支払

 ここまでの説明では、「絆クーポン」を利用する個人は、社会保障分野で働く人たちに限定されていました。それではこの新しい行政通貨が流通する範囲も限られてしまいます。そこでもうひとつ、個人にクーポンを配る別のルートを追加します。「絆クーポン」を取り扱う事業者は、そこで働く従業員の給与の一部をクーポンで支払えるようにするのです。クーポンの発行元である自治体が、そのようにルール決めをするということです。これで「絆クーポン」を使う人の層が一挙に拡大します。民間企業で働くサラリーマンもクーポンとは無縁でいられなくなるのです。

 どのように給与の一部をクーポンに置き換えるかは、「絆クーポン」の基本ルールに従います。つまり売り手側が販売額のいくらまでクーポンで受け取ってもいいかを宣言し、買い手側がその範囲でクーポンを混ぜて支払をするということです。企業で働く人は、労働を売った代金として給与を受け取っているのですから、この場合、売り手は従業員になります。例えば、30万円の月額給与を受け取っている人が、1割までクーポンで受け取ってもいいと宣言すれば、企業は日本円で27万円とクーポンで3万円を支払うことができるということです。

 とは言っても企業と個人の雇用関係では、雇い主の方が立場が強いのが一般的ですから、いくらクーポン受容率を決めるのは従業員の方だと言っても、それを企業に守らせるのは難しそうです。会社からの圧力で給与の2分の1をクーポンにされてしまうといった事態があちこちで起こるかも知れません。これを防ぐために、給与に対するクーポンの比率には行政が上限を設けることにします。例えば、給与総額の10パーセントを限度額としてクーポンでの給与支払を認めるといった具合にです。しかも、そこに基礎控除のルールも設けます。都道府県が定める最低賃金まではクーポン支払の対象外とするのです。このルールが無いと、実質的に最低賃金に満たない給与で働かされる人が出て来てしまいますから。例えば最低賃金が800円の地域で、時給1200円で働いている人は、差額400円の10パーセント、つまり時給当たり40円分までがクーポンになる可能性があるということです。

 企業は自らが持つクーポン口座から、従業員に対するクーポン給与の支払をします。と言っても、個人は「絆クーポン」の口座を持っていませんから、口座振込で支払うことはできません。(将来的には個人にもクーポン口座を持たせ、紙のクーポン券は廃止して電子マネーに統一したいと思いますが、今回の提案ではまだそこまでは行きません。) では、どうするか。業者間支払の場合と同様に、企業は「絆クーポン」のポータルサイトから従業員別の支払依頼を入力するのです。(もちろんcsvファイルによる一括処理もできます。) 従業員の方は、市の窓口に行って受給証を見せれば、その時点で最新のクーポン券を受け取れるという仕組みです。(クーポン券は給与支給月の20日以降、翌月いっぱいまで受け取れます。) クーポン扱い業者として登録した企業に対しては、行政が従業員の個人番号を記載した受給証を発行します。

 当然のことながら、企業が従業員給与の一部を「絆クーポン」で支払うようになれば、市場でのクーポン流通が活発になります。より多くの人がクーポンを使うようになるからだけではありません、給与支払にクーポンを使えるようになった企業は、より戦略的にクーポンを取り込んだ販売戦略を立てられるようになるからです。ふつうに考えればクーポンを扱いにくい輸入企業でさえ、従業員に支払う金額分までは顧客からの支払をクーポンで受け取れるようになります。クーポンを扱っている企業の従業員のなかには、その自治体の外から通勤している人もいるでしょう。そういう人は家にクーポン券を持ち帰っても使い途がありません。会社の近くで買い物をして帰るか、飲食をして帰るしかない。すなわちここでも市内経済が活性化するのです。

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2016年10月16日 (日)

「絆クーポン」を始めませんか?(2)

3.お店がクーポンを扱う理由

 ここまでの議論にもいろいろ反論や疑問はあるかも知れませんが、とりあえず話を先に進めます。感謝通貨のコンセプトはとても新しいものなので、まずは全体像をおおまかにつかんでもらう必要があるのです。想定される質問には後ほどお答えしますのでご了解ください。――さて、紙のクーポン券を行政が刷って、社会保障分野で働く人たちに対して無料で配るところまで説明しました。しかし、そんなものをもらっても全然うれしくありませんよね、もしもこれを使えるお店が1軒も無かったとすれば。そこで今度はあなたがお店の店主になったつもりで想像してください。市が発行する行政クーポンという制度が始まって、一部のお客さんはそれを使いたがっている。もしもライバル店に先んじてそれを扱うようにすれば、これは客寄せのチャンスになるのではないか?

 「絆クーポン」の取り扱い業者になるためには、市役所に申請書を出すだけです。審査もそれほど厳しくありませんし、登録料もかかりません。申請が通れば、「絆クーポン取り扱い店」と書かれたノボリやポスターがもらえます。あとは店のどの商品にどれだけクーポンが使えるかを決めて、それを値札などで表示すればいいのです。(ここは民間のクーポンと同じで、使用条件はきちんと明示しておかなくてはなりません。) 行政クーポンはどの店でも扱えるのだから差別化要因にならない、むしろ自店だけのオリジナルクーポンの方が客寄せのためにはいいのではないか、そういう意見があるかも知れません。でも、たぶんそうではないと思います。そのことは例えばグルーポンに代表される外資系のクーポン専門企業が業績を伸ばしているのを見れば分かります。

 何故国内の小さなお店が、グルーポンのような外国企業に高い手数料を支払って、クーポンの発行を委託するのでしょう? それはもともとの知名度が違うからです。いま街には(またはインターネット上には)無料のクーポン券が大量にばら撒かれています。そのなかから自店のクーポン券を手にしてもらうだけでも大変なことです。お店のホームページを作って、そこにクーポンを掲載したとしても、誰もそんなものには見向きもしません。(それで評判になるくらいのお店なら、そもそもクーポンなんて必要ないはずです。) クーポンを発行したいお店や企業は、最初から知名度があり、人が多く集まるポータルを持っている企業に頼るしかないのです。

 そこで「絆クーポン」の出番です。「絆クーポン」は市が新しい政策として発行するものですから、最初から知名度は抜群です。それどころか市が自ら一部の市民に配ってくれるのですから、配布コストもかかりません。インターネット上には「絆クーポンの使えるお店」というページも用意されていて、そこに広告を出すのも無料です。これだけの条件が揃えば、市内の店舗や企業からの引き合いは少なくないだろうと思います。最初は乗り気でなかったお店も、ライバル店に追随するためにクーポンを扱わざるを得なくなる、そんなシーンも現れて来そうです。こうして「絆クーポン」を扱うお店はどんどん増えて行く(はずです)。

 お店のレジでの対応についても簡単に説明しておきます。レジでは商品の値段を日本円部分とクーポン部分に分けて集計しなければなりません。もしも個々の商品にそれぞれクーポンを使える割合を設定するとすると、店の負担はかなり大変なものになると想像されます。商品ひとつひとつにクーポンの受容率を表示した値札表示をしたり、それをレジシステムに登録しなければならないからです。(レジシステムの改修も必要になるかも知れません。) それが難しいようなら、商品を限定せずにクーポン受け取り条件を設定することもできます。例えば「お買い上げ千円ごとに百円のクーポン券が使えます」とアナウンスしておけば、レジでの集計も必要ありません。(しかもこの方法なら客単価が上がることも期待できます。) 個人商店などはこの方法がいいかも知れません。

4.仕入にも使える行政クーポン

 さらに注目していただきたいのは、「絆クーポン」はお店のレジで1回使われて、そのまま捨てられてしまうものではないということです。市役所に持って行けば日本円に交換できる…というのではありません。そうではなくて、これを使って次の商品の仕入を行なうことができるということです。ここが企業や店舗が発行するふつうのクーポンと最も異なる点になります。どういうことかというと、簡単な話です。「絆クーポン」は自治体が発行するクーポンですから、その流通ルールは自治体が決めます。自治体が「このクーポンは小売店だけでなく、業者間でも使えます」と宣言すれば、流通業者や生産業者もこれを扱うようになるということです。

 そんなにうまくいくだろうかと疑問に思う方もいるかと思いますが、うまくいくんです。うまくいく理由があるからです。その理由というのは小売店の場合と同じです 。流通業者や生産業者も市場で競争している訳ですから、クーポンを受け取ることのできる業者は有利な立場に立ちます。クーポンを取り扱っている小売店には、使い途のないクーポンがたまっているはずですから、仕入の一部にそれを使えるとなれば、その業者から仕入れようというインセンティブが働きます。つまり、「市場原理」によって、クーポンがサプライチェーン全体で流通し始めるだろうと期待されるのです。

 もちろん全ての業者が「絆クーポン」を取り扱える訳ではありません。これは地域限定のクーポンですから、遠くの地域から仕入れている商品には使えません。例えば、地元の農家が作った野菜には、2割までクーポンが使えるけれども、遠くの県から仕入れて来た野菜にはクーポンは使えない、そういったことが起こるはずです。これが何を意味するかと言えば、自治体の発行するクーポンには「地産地消」を促進する効果があるということです。農産物だけではありません、地域内で生産された商品、または地域内で人件費をかけて付加価値を付けられた商品は、自治体クーポンと相性がいいので、地域外から来る商品に対して優位性を持つことができるのです。(クーポンと人件費の関係は、後ほどまた説明します。)

 実務面での効率性を考えると、業者間のクーポン割引に紙のクーポン券を使うのは現実的ではありません。そこで市は、インターネット上に業者間でクーポンの支払を行なえる仕組みを作って、登録業者にクーポン口座をひとつずつ提供することとします。クーポンでの支払をしたい業者は、ちょうど銀行振込をするように、クーポン口座間で振込手続きをします。銀行振込と同じようにパソコンからの一括振込もできますし、銀行振込と違って振込手数料は一切かからないという点がアピールポイントです。(ちなみに業者間で紙のクーポン券をやり取りすることは禁止とします。) 取引にクーポンを使った業者は、請求書や支払書に日本円の金額とは別にクーポンの金額も表示するようにします。その部分はコンピュータシステムを一部修正しなければなりませんが、そのこと以外に現在の財務会計システムをいじる必要はありません。クーポンというのは単なる値引きのツールですから、課税の対象にもなりませんし、企業の財務諸表にも載せる必要のないものだからです。

 顧客から紙のクーポン券を受け取った小売店は、それを市の窓口に持ち込んで、自社・自店のクーポン口座に入金してもらいます。前回掲載したクーポン券のイメージをごらんいただくと分かるとおり、クーポン券には「使用期限」と「交換期限」という2つの期限が設定されています。使用期限が終わると、次の1か月は交換期限になるのですが、クーポンは交換期間中なら(つまり使用期間が過ぎた翌月1か月の間なら)いつでも口座に預け入れられます。ただ、預け入れにはひとつ条件があります。クーポン券を口座に入金する場合は、入金額は額面の2割引きになってしまうのです。これは「絆クーポン」の基本思想にかかわる重要なポイントなので、後ほど詳しく説明します。

 もうひとつ業者間のクーポン支払で重要なことは、口座間の振込処理がすべての業者で一斉に行なわれるということです。銀行振込のように振込日を指定することはできません。月末と月初は企業の経理部門の繁忙期に当たることが多いと思いますので、月の半ば、毎月15日を振込処理日としましょう(土休日に当たった場合は翌日)。「絆クーポン」を扱う業者の内、顧客から紙のクーポン券を受け取る小売業者は、預かったクーポン券を翌月の14日までに市の窓口に持ち込み、15日の支払に備えます。直接個人の顧客と接点がない流通業者や生産業者にとって、基本的に口座に入金されるのは他の業者からの振込だけですから、前月分までに口座に入金された分で今月の支払をすることになります。

 クーポン口座を管理するシステムが企業間の支払をする時のルールについても説明しておかなければなりません。システムはすべての「絆クーポン」取り扱い業者から送られて来た振込依頼データを集計し、まず業者の口座から出金額の合計を引き落とします。続いて振込先ごとの入金額を集計し、口座に入金するのです。重要なのは、システムの処理が必ずこの順序で行なわれるということで、そのために15日の支払日には、入金額を当てにせずに、前月の段階で口座残高を準備しておく必要があるのです。もしも口座残高が振込額に足りなかった場合には、市がクーポンを立て替えてくれるので、支払の不履行は発生しません。その代わり、立て替えた分の金額は、その月内に「日本円で」市に返済しなければならないルールとします。厳しいルールですが、企業が「絆クーポン」に真剣に向き合うようにするために、こういったルールを設けています。

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2016年10月 8日 (土)

「絆クーポン」を始めませんか?(1)

 昨年本を出してから、ずっとブログ更新をサボっていました。ただ、この間何もしていなかった訳ではないんです。本のなかで提唱した「感謝通貨」のアイデアをあちこちに売り込んでいました。市民講座のようなところで話をしてみたり、自治体向けの企画提案書を作って自分の住む市の政策担当課に持って行ってみたり、知り合いのツテを通して紹介された市会議員さんに相談したり。本に書いた「日本国政府による第二通貨の発行政策」というのは、あまりに気宇壮大な構想で、どこに話を持って行けばいいのか分からない。そこで市町村レベルで始められる規模にプランを縮小して、自治体に持って行くことを思い付いた訳です。

 今回の記事では、私が自治体に提案している新しい政策について説明してみようと思います。この記事に目を留めてくださった方のなかには、私の本を読んでくださった方もいるかも知れません。でも、そういう方は少数でしょうから、初めての方にも分かりやすく説明してみるつもりです。政策のタイトルは「絆クーポン」構想と言います。自治体が独自の行政クーポンを発行して、これによって社会保障制度の拡充を行なったり、財政負担の軽減を行なったりする政策です。社会保障費の増大による財政の悪化は、どこの自治体にとっても切実な問題でしょうから、多くの人に興味を持ってもらえるタイムリーな話題ではないかと期待しているのです。

1.「行政クーポン」というアイデア

 まずは話を具体的にするために、「絆クーポン」というものがどういうものか見ていただきましょう。「絆クーポン」は、例えば次に示すようなデザインのものになります。(これは武蔵野市の市民講座で話した時のサンプルです。挿絵の部分には、それぞれの地域のマスコットキャラクターが入ります。) 100円のクーポン券が5枚綴りになっていて、切り取り線で1枚ずつ切り離せるようになっています。それが10枚束になって、5千円で1冊の冊子になるというイメージです。(クリックで拡大します。)

Kizuna_coupon

 ごらんのとおり、これは市が発行するクーポン券になります。いや、市には限定されません、町村でも都道府県でも構わない。要するに自治体が発行する行政クーポンということです。「行政クーポン」というコトバはおそらく初耳だと思いますが(インターネットで検索しても用例はありません)、自治体が発行する一種の地域通貨のようなものだと考えてください。ふつうの地域通貨と違うのは、これが単独では使えないお金だという点です。クーポン券ですから、それだけでは何も買えません。割引券として日本円と一緒に使います。実はここが重要なところで、行政クーポンというものには私たちの財布から日本円を連れ出す機能があるのです。

 これまでの地域振興券やプレミアム付き商品券のようなものは、単独で日本円の代わりとして使えるものでした。ですからいくら行政が消費拡大を狙ってこれを発行しても、その効果には限界がありました。使用期限のある地域振興券を優先的に使えば、その分財布に入っていたお金(日本円)を温存できます。行政の目論見どおりに国民は消費を増やしてはくれません。むしろ付加されたプレミアム分だけ国民の貯蓄が増える可能性の方が高い。ところが、これが行政クーポンとなると話は違います。クーポンにも使用期限がありますから、期限間近のクーポン券を持っている人は早くそれを使ってしまおうとします。この時クーポンと一緒に日本銀行券も財布から出て行きますから、日本円の流通も促進されると期待できるのです。

2.「感謝通貨」とは何か?

 次にこの行政クーポンをどのように流通させるかという点について説明します。もともとクーポン券というものは、日本円とは交換ができないものです。100円のクーポン券は100円硬貨と同じ価値を持っていると言えますが、それはそのクーポンが使えるお店で、そのクーポンが使える条件の買い物をした場合に限定されます。クーポン券を100円玉に両替してくださいと言っても、応じてくれるお店はありません。当たり前ですね。クーポンというのはそういうものなのだから。行政が発行したクーポンを世の中に流通させるために、たとえプレミアムを付けたとしても、これを買おうという人はそうはいないでしょう。ではどうするか? ただで配るのです。では誰に配るのか?

 ここからは一般名詞としての行政クーポンではなく、「絆クーポン」の説明になります。絆クーポンは、自治体が発行して、社会保障分野で働いている人たちに無料で配ります。例えば高齢者施設で働く介護士さん、保育施設で働く保育士さん、障害者施設で働く福祉士さんといった人たちです。いま介護や保育などの分野では深刻な人手不足が起こっています。そしてその理由のひとつが賃金の安さにあることは、広く認識されているところです。誰が考えても重要な仕事であるにもかかわらず、そこで働く人たちの多くがワーキングプアと言われるような状況に陥っています。これは何か手を打たなければならない。

 政府は待機児童の問題がマスコミを賑わせている状況のなか、保育士の給与を上乗せする案を出しています。場当たり的な対策だと思います。そんなことをしても保育士を目指す人が増える訳はない。何故って、そんな政策が長続きするはずがないことは誰もが知っているからです。保育士に補助金を出すなら、これからもっと人手不足が懸念される介護士はどうするんですか? それでなくても政府は1千兆円を超す債務を抱えているというのに、どこからそんな財源を持って来るんです? この問題にはもっと抜本的な対策が必要なんです。で、私の提案する対策は、社会保障分野の就労者を支援するために、財源不要な政府通貨を発行するというものです。それが「絆クーポン」構想の骨子です。

 「政府通貨」と言えば、それだけでどこか胡散臭いトンデモな主張に聞こえるかも知れませんが、胡散臭さという点では、現在私たちが使っている銀行通貨だって同じようなものです。日本円のような銀行通貨は、中央銀行が発行した現金通貨をタネ銭にして、民間銀行が信用創造機能によって創り出したものです。「信用創造」などと言えば聞こえはいいですが、要するに預かったお金の10倍ものお金を貸し出して利息を取るというほとんど詐欺まがいのやり方のことです。(これはつまり預金者のうち1割の人たちが預金を引き出そうとしただけで、銀行は払い戻すお金が不足して取り付け騒ぎになることを意味します。) その胡散臭い銀行通貨が、どうして国家通貨として通用しているのか? それは私たち自身が、この国の市場経済というものを信用しているからでしょう。日本円に通貨としての大義名分を与えているのは、市場経済に対する私たちの信用です。このことを称して銀行通貨のことを「信用通貨」と呼ぶ訳です。

 これに対して、私が提唱しているのは「感謝通貨」という新しい概念です。こちらも胡散臭い政府通貨の一種に過ぎないけれども、私たちの「感謝」の念によって、これに通貨としての大義名分を与えられるのではないかというのが今回の発想の原点です。誰に対する感謝かというと、安い給与にもかかわらず、介護や保育や福祉の現場で一生懸命働いている人たちに対する感謝です。私自身、高齢者施設に認知症の母親を預けている身の上なのですが、いつもそこで働く職員さんたちには心からの感謝を抱かずにはいられない。別に古い道徳を持ち出すつもりはありませんが、本来なら親の面倒は子供が看るべきもの、子供の世話は親がするべきものじゃないですか。低賃金にもかかわらず、私たちに代わって介護や保育の分野で身を粉にして働いている人たちに、社会全体で感謝の気持ちを表しましょうという主張は、多くの人に受け入れてもらえるのではないかと思うのです。

(次回に続きます。)

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2016年2月14日 (日)

書評「ベーシック・インカムのある暮らし」(2)

 現在私たちが使っているお金(銀行通貨)は、企業活動のために最適化されたお金です。何故かと言うと、お金は銀行が主に企業に貸し出し、それをもとに企業は事業で収益を上げ、利子を付けて銀行に返済するというかたちで循環しているものだからです。それ以外のお金の流れ、例えば労働者が企業から受け取った給料で生活をし、行政が税金として集めたお金で公共事業や福祉政策を行なうといったことは、銀行通貨の本来の目的からすれば枝葉末節なことなのです。銀行は、借り手が期日通りに指定した額のお金を返済してくれればそれ以上の注文はない訳で、そのお金で国民が幸せになったかどうかなんてことには関心がない。その証拠に、国内の人件費が高いと見るや企業は海外に投資先を移し、国内の雇用を切り捨てますが、銀行は企業の海外進出にも平気でお金を貸します。

 このことを称して、著者は現在の銀行通貨(日本円)のことを「生産本位制マネー」と呼ぶのです。ここで言う生産とは、企業による価値創造の活動全般を指しています。これはつまり、日本円は私たち個人が生活をするためのお金としては最適なものではないということです。これに対して著者が新しく提案するのが「生活本位制マネー」であるところのE円である訳です。そしてE円の正体は何かと言えば、減価する政府通貨である訳です。(これは私が銀行通貨を「約束するお金」と呼び、新しく導入する政府通貨を「感謝するお金」と呼んだのとまったく同じ発想です。) 問題は、新通貨であるE円をどのように国内経済のなかで流通させるかという「通貨ルール」の設計です。この点にこの本の最大のオリジナリティーがあり、また私たち読者はその実現性を吟味する立場にあるのだと思います。基本的なコンセプトは文句なく素晴らしいので、残る問題はそれが実現可能なアイデアであるかどうかというところにあります。

 ベーシックインカム(BI)を減価する政府通貨で国民全員に配るのはいいとして、この新通貨を日本円とどのように共存させるのでしょうか。私がこの本を読んで理解した限りでは、それは次の3つのルールに集約できるようです。

①E円は売り買いの場で日本円とまったく同等の価値(1E円=1日本円)として流通する。通貨ごとの二重価格は法律により禁止される。

②売り手はE円での支払を拒否できない。税金でさえE円で納めることができる。但し一部の取引(不動産や株式など)には使えない。そのことも法律に明記される。

③民間の銀行や金融業者が独自のレートを決めてE円と日本円を交換することが認められる(むしろ推奨される)。BI銀行が目安としての公式レートを設定するが、民間はそれに従う必要はない。

 私も新通貨の流通ルールについてはアタマを悩まして来た人なので、この部分のルール設計が実は新通貨理論のキモであると断言できます。ここでも私自身の本との対比で恐縮ですが、古山さんのE円と私の感謝通貨の共通点は、上記の①の部分だけで、②と③はまったく異なるルール設計であることが読み比べていただければ分かると思います。そしてまた、この②と③はセットにしないと機能しないものだということが重要なポイントになります。次にそのことを説明します。

 減価するお金というのは、簡単に言うと人に嫌われるお金です。これは当然ですね、持っているだけで目減りしてしまうお金を好む人はいないからです。たとえそれが政府発行のお金だったとしても、もしも日本円と同じ額面価格を受け取るなら、日本円で受け取った方がいいに決まっています。ところが古山理論では、売り買いの場でE円での支払を拒否することは原則としてできないのです。そのように法律で決められるということです。これは過激な制度設計です。まず私たちの給与の一定部分がE円で置き換わるでしょう。私たちが買い物をする時にも、まずはE円で支払うことが当たり前になるでしょう。すると社会に流通するお金は、日本円よりもE円が優勢になります。まるで悪貨が良貨を駆逐するように、日本円は駆逐されてしまうことになる。日本の経済に大混乱を引き起こす事態になると思います。

 そこで第二のルールが導入されます。日本円とE円を交換可能とするのです。これは日本銀行やBI銀行がいつでも両替に応じますというのではなくて、民間の金融機関にふたつの通貨を交換する自由を与えるということです。減価するお金と国際的な信用ある日本円を交換するなんて不可能じゃないかですって? いや、そんなことはないんです。想像してみてください、もしもあなたが1万円札(日本円)を持っていて、それが現在のレートで11000E円と交換できるとすれば、ちょっと魅力的ではないでしょうか。もしもそれが貯蓄のためのお金なら、1万円札の方が有利ですが、生活費として支出するなら、E円に両替した方がお得です。なにしろE円は日本円と同じ額面価格で使えて、お店はそれを拒否できないのですから。

 交換レートを何パーセントにするかは、それを取り扱う金融機関が自由に決められます。E円を持て余している人は、たとえ割引手数料を払ってでも日本円に替えようとするでしょうし、生活費が不足している人は、手持ちの日本円を売ってE円を手に入れようとするでしょう。つまり市場が成立するのです。もちろん金融機関は手数料を取りますから、自分のところでE円を余分に貯め込まない限りプラスの利益を見込めます。みんながハッピーになる。そういう構想である訳です。私自身は、最初から新通貨を日本円とは兌換性のない通貨として設計していましたから、この着想は斬新でした。いち利用者の視点から見ても、減価する通貨がいつでもふつうの日本円と交換できるという安心感があるので、受け入れやすいという利点がありそうです。

 一方で疑問もあります。受け取り拒否のできない新通貨ばかりが市場に流通するようになった場合、これまで以上に日本円が退蔵されて、貧富の差が拡大するのではないか? 日本円と交換できる「悪貨」の導入は、グローバル経済のなかでの日本円の信用を大きく毀損するのではないか? 税金までE円での納入を認めてしまって、今でさえ借金まみれの日本の財政が立ち行くのか? こうした問題を十分検討し、シミュレーションを繰り返した後でなければ、実験的な導入でさえ危険過ぎるように思います。ただ数式に弱い自分にはとても扱いかねるような難問ですが、これは解く価値のある仮説であることは間違いありません。本書は、格差問題やベーシックインカムに関心を持っている人にはもちろん、ひとつの面白いシミュレーション問題を提起した本として、経済学の専門家よりも理系の読者に読んでもらいたい一冊です。

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2016年2月 7日 (日)

書評「ベーシック・インカムのある暮らし」(1)

 昨年、本を一冊出したら、すっかり脱け殻のようになってしまいました。本を出したと言っても、自費出版ですから、あまり自慢出来る話ではありません。出版社のオプションサービスを利用して、書店向けにチラシをFAXで送ってみたり、マスコミや著名人に献本してみたりもしましたが、まったく反応は無し。本の「あとがき」ではこのブログの宣伝もしているのですが、アクセス数が増える兆候も一向にありません。まあ、当たり前ですね。本が売れていないのだから、本を読んでこのブログにたどり着いてくれる人もいなければ、もともとアクセス数の少ないブログなので、記事を読んで本に興味を持ってくれる人もほとんどいない。早い話が「リンク切れ」している訳です。そんなわけで、このブログに自著の宣伝を書く気持ちも失せてしまっていたのです。

 と、まあ今年最初の記事なのに愚痴で始まりましたが、ふとインターネットで自分の本を検索してみたら、私の本にレビューがふたつ付いていました。しかも☆が4つと5つという高評価で、レビュー内容もきちんと作者の意図を汲んでくれているものでした。嬉しいものですね。少なくとも2冊は本が売れて、ふたりの読者の方が読んでくださった訳です。このことに元気をもらって、なんとかブログに復帰しようと思い立ちました。とりあえず自著の宣伝をページの右側に入れてみました。(アマゾンの紹介ページにリンクを張ろうとしたのですが、うまくいきませんでした。とりあえずリンクはこちらから。) そして今回は、もう1冊おすすめの本を紹介します。昨年12月に出たばかりの古山明男著『ベーシック・インカムのある暮らし “生活本位制マネー”がもたらす新しい社会』という本です。

 著者の古山さんと私とは過去に接点があります。話は6年前にさかのぼります。「ベーシックインカム・実現を探る会」に掲載された古山さんの講演録について、このブログで記事を書いたところ、当の古山さんからお礼のコメントをいただいたのです。古山さんの講演のテーマは、「減価通貨」で「ベーシックインカム」をやるということで、そのころ私も同じアイデアについてこのブログに試論を書いていました。当時からベーシックインカムという考え方は、ちょっとしたブームになっていましたが、それをシルビオ・ゲゼルの減価通貨とカップリングするアイデアは、自分のオリジナルだと思っていたのです。その冗談のようなアイデアについて考えている人が他にもいると知って、驚くと同時に興味を持ったのでした。その時の私の記事には、「いまの日本で、このようなニッチなテーマについて大真面目に考えて論じているのは、たぶん古山さんと私のふたりだけしかいない」だろうと書いています。

 あれから6年。古山さんとの交流がその後も続いた訳ではありませんが、お互いに自らの思想を深化させていたことが判明したのが去年の暮れでした。「減価通貨によるベーシックインカム」の思想がひとつの完成に到達したと感じた私は、それを1冊の本にまとめることを思い付きました。書き上げて出版社に持ち込んだけれども、取り上げてもらえなかったことについてはすでに書きました。老後の蓄えを切り崩して(?)自費出版で出すことになったのですが、その本の感想を初めてこのブログに寄せてくださったのが古山さんだったのです。古山さんご自身、ちょうど同じテーマで本を書いていたところだということがコメントには書かれていました。それが今回取り上げる「ベーシック・インカムのある暮らし」(ライフサポート社)です。

 前置きが長くなってしまいました。本書の美点はたくさんあります。まず、これは経済学者の視点ではなく、生活者の視点でベーシックインカム(BI)導入の必要性と必然性を説いた入門書として読めること。最近はもう一時のBIブームは下火になってしまったかの感がありますが、それにともなってBIの良い入門書というのも見当たらなくなっている。いまでもゲッツ・ウェルナーさんの本や山森亮さんの本なら手に入りますが、前者は実業家の視点、後者は経済学者の視点で書かれているので、BIの理解のためにはとてもいい本なのですが、「BIを実感」するためには少し食い足りないところがあります。そういう不足感が現今のBI論壇にはあったように思うのですが、その間隙を埋める役目を本書は担っていると言えます。

 すぐれた入門書というのは、ウィキペディアのようにその分野の知識を簡潔にまとめただけのものではありません。その思想なりアイデアなりが生まれて来た地点にまで読者を連れて行って、その誕生の必然性を生き生きと追体験させてくれるような書物のことです。この本には自分で考え抜いた人に特有の心に響く言葉がたくさん散りばめられている。例えばいくつか引用してみます。

「どれだけの人が働いたらみんなが生活できるだけの生産が可能か、これは科学技術の問題です。倫理・道徳の問題ではありません。」(p.18)

「ここに重大な問題があります。科学技術の進歩によって人間が労働から解放されたら、その解放された人たちはどうやって食っていくんですか?」(p.39)

「(就職活動の)場では、学生たちはリクルートスーツを着ないわけにはいきません。なぜ着るかというと、私はよく訓練されております、規格品でございます、そうアピールする必要があるのです。」(p.47)

「人間を商品にしてはいけません。商品として作られたものだけを商品とすべきです。」(p.51)

「目指したい国は、企業が世界一活動しやすい国ではなく、働く人が安心して働き、生活する人が不安なく生活できる国です。」(p.111)

 私の趣味でいくつか格言ふうに並べてみました。これだけでも著者の肉声が聞こえて来そうでしょ。私もBIの持つ意義や将来性については書いて来ましたが、この本からはそれが倫理的・歴史的な必然性として感じられるようになっている。そんな本は他には無いと思います。BIと言えば、「アイデアとしては面白いけれども実現性は無いよね」というのが平均的な捉え方だと思いますが、本書を読めば、むしろBIのある社会の方がこれからの社会のあり方として自然なのではないかと思えて来ます。BIの入門書として、本書が優れた一冊である所以です。

 しかし、もちろん本書は単なるBIの入門書ではありません。この本の前半部分はBIの意義と理念を説いた教科書ですが、後半はとても教科書と呼べるお行儀のいい内容ではありません。極めて過激な思想を盛り込んだ「革命の書」に変貌するのです。『ベーシック・インカムのある暮らし』という穏健なタイトルに釣られて読み始めると、裏切られることになります。何がそんなに過激な内容なのかと言えば、著者が考えているBIは日本円ではなく、日本銀行とは別の中央銀行(それを本書ではBI銀行と呼んでいます)が発行する新しいお金(それを本書ではE円と呼んでいます)によって支払うというのです。このE円は(もちろん)減価する電子マネーです。つまり、本書の最大のテーマは、BIの実現といったことではなく、現代の通貨制度に革命を起こすことなのです。

 私のこのブログの過去記事を読んだことがある方なら、あるいは私の著書『約束するお金と感謝するお金』を読んでくださった方なら、この減価通貨によるBIという思想が両者に共通するものであることにすぐに気付かれるだろうと思います。これまで誰も書かなかった同じテーマを扱った2冊の本が、しかも同時期に刊行されたという奇遇に対して、著者としては感慨を感じない訳にはいきません。ところが、この2冊は同じテーマを扱った単なる同工異曲の書物という訳にはいかないのです。私の本では、新通貨(感謝通貨と命名しました)はあくまで日本円を補完する第二通貨という位置付けであるのに対し、古山さんのE円は従来の日本円と対等か、あるいはそれに取って代わろうとする野心を秘めたものであるように見えます。古山さんの思想がここまで過激に進化しているとは思わなかった。その内容については次回あらためて見て行くことにします。

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2015年10月24日 (土)

本を作る(6)

 本の発売日が決まりました。10月30日が初版の発行日になります。実はもう筆者のところにはダンボール箱ふたつ分の新著(つまり著者在庫分です)が届けられているのですが、出版社によれば、ISBNコードの登録に2週間程度かかり、書店注文ができるようになるのはそれからなのだそうです。おそらく10月30日頃には書店やインターネットで注文できるようになると思います。まずはいち早く確定した本の表紙を見ていただきましょう。左が宣伝用の帯(業界用語で腰巻きというそうです)を付けたところ、右が帯を取ったところのイメージになります(クリックで拡大します)。ここだけの話ですが、帯のコピー文もすべて著者の手になるものです。いけしゃあしゃあと大言壮語を並べてしまいました(笑)。

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 書店流通が始まると言っても、もちろんそれで全国津々浦々の書店に並ぶ訳ではありません。名もない書き手による自費出版本に、書店からの注文が入るわけもありません。それでも一部の書店には配本されるようです。この業界には「委託配本」というシステムがあるからです。慢性的な出版不況であるにもかかわらず、出版ラッシュが常態となっているこの業界では、書店が今月の新刊をすべてチェックして、仕入れる本を選ぶなんてことはできません。取り次ぎ(トーハンや日販のような流通企業)が、書店の規模や特徴に合わせて新刊をパッケージ化して一方的に送り付けて来るのです。それが委託配本という制度です。日本の書籍流通は、書店在庫や流通在庫を自由に出版社に返本できる仕組み(委託販売制度)になっていますから、書店では注文もしていない本が取り次ぎから送りつけられても、直接のリスクはないのです。売れそうもない本や一定期間棚に置いても売れなかった本は、返本してしまえばいいだけのことだからです。

 出版社や著者の側からすれば、どんなかたちであっても書店に流れることには意味があります。本は出版社の倉庫に寝かせておいても絶対に売れませんが、書店に配本されれば少しは売れるチャンスがあるからです。もしかしたら書店員が間違えて(?)棚に並べてくれるかも知れない。もしかしたらお客さんも間違えて(?)手に取ってくれるかも知れない。可能性は限りなく低いですが、ゼロではない訳です。しかし、ここでも自費出版本は旗色が悪い。実は自費出版の契約には有償で委託配本に乗せるオプションがあるのですが、委託先の書店は大型書店に限定されますし、陳列される棚はたいていは売り場の片隅にある「自費出版本コーナー」のようなところだからです。自費出版の広告では「あなたの本が書店に並びます」といったキャッチコピーを見かけますが、その実態はそんなもののようです。

 今回の出版に当たっては、本を売るためのオプションをいろいろ付けてみました。それもまあこのブログ記事のためのネタ作りという面もあるのですが、どのオプションが最も費用対効果が高いのかを試す意味もありました。(もちろんすべてが空振りに終わる可能性が一番高い訳ですが。) 委託配本や出版社による営業というオプションの他にも、書店に向けたFAXによる広告、マスコミや著名人に向けた献本というオプションも付けました。(もちろんすべて有料です。) 書店向けのFAXは、大都市圏の大型書店に向けてチラシをFAXで送るというもので、1店あたりいくらという料金設定になっています。こちらは全部で500店以上に送ることにしました。献本の方は新聞社や雑誌出版社などのマスコミ、それに当該分野で発言力を持っている著名人などに本を贈呈するもので、これは書評などで取り上げてもらうことを目的としています。こちらは出版社のアドバイスも参考にしながら、マスコミ向けと個人向けに約70冊ほどを送ることにしました。献本について助かったのは、個人では調べにくい著名人向けの送付先などを、出版社の方で調べてくれて、発送作業もすべてお任せできたことです。(と言っても、個人の住所に送る訳ではなく、所属する大学や著書の発行元に送るようですが。) ちなみに書店向けに作成したチラシのイメージも掲載しておきます。こちらの文章はすべて出版社の方で作成したものです。

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 さあ、これだけの仕掛けをして、結果はどうなることでしょうか。初版は2000部を刷ったのですが、何部くらいが売れるものなのでしょうか。またリアル書店とアマゾンのようなようなネット書店とでは、どちらが無名の新人作家にとって相性がいいのでしょうか。出版社からは、例えば週単位や月単位では売上状況の報告を受け取ることはできないようなので(その点が少し不満)、結果をリアルタイムにお伝えすることは難しそうです。何か大きな変化があった時には、またこのブログでお伝えします。ということで、とりあえず今回の連載はここまで。この記事をここまで読んでくださった方は、ぜひ書店で手に取ってみてください…と言いたいところですが、書店にはまず並びません。ぜひお近くの書店から注文してください。このブログに関心のある方なら、絶対に損をさせない内容になっていますので…

『約束するお金と感謝するお金』
著者:矢野洋二
出版社:ブイツーソリューション
定価:1200円+税
ISBNコード:978-4-434-20932-1

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2015年8月16日 (日)

本を作る(5)

■表紙のデザイン案が送られて来た

 原稿を書き上げて、出版社に売り込みを始めたのが、今年の3月でしたから、もう半年近く経ってしまいました。自費出版を決意してからもトントン拍子という訳にはいきませんでした。なるべく費用を抑えたかったので、原稿は自分で編集して、ページ設定や目次の作成もすべて自分でやりました。(おかげでMSワードの使い方には、だいぶ習熟しました。) 本文に挿入する図やグラフも、以前このブログに掲載したものをそのまま流用することにしました。ただ、表紙のデザインだけは、プロのデザイナーにお願いすることにしました。そういうオプションも出版社の方で用意してくれているのです。自費出版では、どこにお金をかけて、どこを節約するかも自分で考えて決めなくてはなりません。

 表紙をデザイナーさんに依頼したいと言うと、どんなイメージの表紙にしたいですかと編集者の方から聞かれました。何も考えていませんでした。せっかくお金を出してデザインを頼むのですから、インパクトがあってしかもセンスのいいものにしたい。いろいろ考えた挙げ句、本文のなかに挿入した図をそのまま表紙のデザインに使う案を思い付きました。――そう言えば、まだ本の内容については何も説明していませんでしたね。今回の本は、このブログでも過去にたくさんの記事を書いて来た、新しい地域通貨のアイデアに関するものです。ブログ記事は、その都度新しい思い付きで書いているので、互いに矛盾があったり、また重複した内容があったりしますが、今回はそれをもう一度整理して、全体として整合性を持たせたのです。これまでの地域通貨論の集大成と言ってもいい。で、私が出版社に送った表紙デザインの素案は次のようなものでした。
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 タイトルは「約束するお金と感謝するお金」というものです。約束するお金というのは、日本円のような銀行通貨のこと、感謝するお金というのは、私が提案する新しい地域通貨(「感謝通貨」と命名しました)のことを指しています。表紙に配したのは、現在のお金(銀行通貨)の流れを表した図です。そして裏表紙の図は、感謝通貨を導入したあとのお金の流れです。もしも表紙の図がうまくリライト出来たら、本文の挿し絵もそれに差し替えようと思っていました。(私が描いた絵はいかにも素人っぽいものですから。) また本を出すに当たって、ペンネームも新しく考えました。「矢野洋二」…なんの変哲もないありふれた名前ですが、これはブログのハンドル名「Like_an_Arrow」を読み替えたものです(矢のように。自分で考えた訳ではなく、名付けてくれた人がいたのです)。――さて、待つこと1か月、出版社からはこんなデザイン案が送られて来ました(クリックで拡大します)。

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 なるほど、やっぱりプロのデザイナーはセンスが違う! これを見た瞬間、自分で表紙のデザインをしなくて良かったとしみじみ思いました。餅は餅屋ですね。ただ、描いてもらったマネーフローの図で、本文の挿し絵も差し替えようと思っていた目論見は断念せざるを得ませんでした。デザインとしてはすぐれていますが、本文の説明とは不釣合いだったからです。これはあくまでイラストとしてのみ使わせてもらおう。そうすると、表紙のデザインも私の考えた案にこだわる必要はなくなります。出版社からはこれ1案だけでなく、他にもいくつかの案が送られて来ていました。

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 安いデザイン料でここまでやってもらえるとは思ってもいなかったので、正直恐縮してしまいました。(オプションのデザイン料金は3万円でした。) しかもデザインは表紙だけでなく、表紙に付ける帯(業界用語で「腰巻」っていうんでしたっけ?)も含まれているんです。帯に付けるキャッチコピーは自分で書きましたが、デザインはお任せしました。デザイン案をやり取りしているあいだにお盆休みに入ってしまいましたから、確定案をここでお見せすることは出来ません。それは本の発売日が決まった時点でお披露目します。

 著者が検討しなければならないオプションは、表紙のデザインだけではありません。それよりもっと重要な決定があります。本の売り方をどうするかということです。ISBNコードを取得して書店流通に乗せることは当然として、その他にも書店への委託配本をするかどうか、出版社の営業担当者に書店への営業をお願いするかどうか、書店への注文チラシのFAXはどうするか、プレスリリース(マスコミへのチラシ配布)をどうするか、電子書籍としても流通させるか、そういったことがそれぞれオプションで選択出来るようになっているのです。(著名人への献本を代行してくれるオプションまであります。) それらのオプションを使わなければ、せいぜいこのブログで宣伝して、あとは読者からの注文を待つだけになる訳です。

 すでにインターネット上でたくさんの読者を持っている人なら、そんなオプションなんて付けなくても、一定数の販売は見込めるでしょう。いや、ネット著名人なら、費用をかけて紙の書籍を作らなくても、電子書籍だけにした方が営業効率はいいかも知れない。が、名もない書き手にとって、紙の書籍はそれ自体が商品である以上に販売ツールにもなるのです。形ある本でなければ、委託配本も出来なければ、プレスリリースや著名人への献本も出来ませんから。もちろん自費出版専門の出版社から委託配本の依頼が来ても、書店は中身も見ずに返本してしまうだけかも知れません(きっとほとんどがそうでしょう)。それでも出版社の倉庫に寝かせて客注が入るのを待つだけよりは、多少は人目にふれるチャンスがあるはずです。

 とりあえず出版社との最初の契約では、委託配本と営業のオプションだけをお願いすることにしました、電子書籍化のオプションについては迷いましたが、とりあえず費用もかかるし、やめておきました。紙の本が売れないのに、電子書籍だけが売れるなんてことは考えにくいですから。プレスリリースや献本については、本が出来てから考えましょう。これらの営業戦略が効を奏するかどうか、あるいはすべてが空振りに終わるかどうか、それは現時点では分かりません。ここからは何か状況が進展した時点で、リアルタイムでお伝えしたいと思います。ですからこの連載も不定期になります。ここまで読んでいただいた皆さん、ぜひ「約束するお金と感謝するお金」を応援してくださいね。

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